タコ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/29 03:03 UTC 版)
分類
現生種はヒゲダコ亜目、マダコ亜目の2亜目に大別される[30]。300種類を超えるタコが見つかっているが、約半数は分類が確定しておらず[31]、DNAを用いた分子系統分類が待たれる。
ヒゲダコ亜目
ヒゲダコ亜目(有触毛亜目) Cirrina Grimpe, 1916 sensu Felley et al., 2001
- Cirroctopodidae - 1属4種
- ヒゲダコ科 Cirroteuthidae - 3属6種
- ジュウモンジダコ属 Grimpoteuthididae - ジュウモンジダコ等3属20種
- メンダコ科 Opisthoteuthidae - メンダコ等1属20種
マダコ亜目
マダコ亜目(無触毛亜目) Incirrina Grimpe, 1916 sensu Felley et al., 2001
- マダコ上科 Octopodoidea
- クラゲダコ科 Amphitretidae - クラゲダコ属クラゲダコ、スカシダコ属スカシダコ等5属7種
- マダコ科 Octopodidae - マダコ、ミズダコ、イイダコ、メジロダコ、ヒョウモンダコ、ゼブラオクトパス、等。
- アオイガイ上科 Argonautoidea
- カンテンダコ科 Alloposidae - 1属1種 カンテンダコ
- アオイガイ科 Argonautidae - 現生種はアオイガイ(カイダコ)等1属4種
- アミダコ科 Ocythoidae - 1属1種 アミダコ
- ムラサキダコ科 Tremoctopodidae - 1属4種 ムラサキダコ属
食文化におけるタコ
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タコは手近で美味なタンパク質の供給源として、世界各地の沿岸地方で食用されている。ユダヤ教では食の規定カシュルートによって、タコは食べてはいけないとされる「鱗の無い魚」に該当する。イスラム教やキリスト教の一部の教派でも類似の規定によって、タコを食べることが禁忌に触れると考えられている。 ヒョウモンダコなど小型で毒を持つ種も知られているが、これらは人間の生活に深く関わることはない。
アジア
日本
タコは日本の食生活に深く根付いている。2000年前後の時代には北アフリカのモロッコからの輸入が増加し、全体の6割を超えていたが、乱獲による生物量の減少を受けてたびたび禁漁が行われ(2003年9月からの8ヶ月間、等)、他産地からの輸入が増加している[32]。 タコ類は多様な種が知られているが、日本では一般的に「タコ」と言えば、食用などで馴染み深いマダコを指す場合が多い。日本人とタコの関係は古く、池上・曽根遺跡などの大阪府下の弥生時代の遺跡からは、蛸壺形の土器が複数出土している[33]。
加熱調理されることが多く、多くの種は茹でると鮮紅色を呈する。料理では刺身、寿司、煮だこ、酢蛸、酢味噌あえ、おでんの具材などに用いられる。たこ焼きやその原形とされる明石焼きの具材としても親しまれている。また、瀬戸内海周辺地域などでは蛸飯に供される。なお、下処理として表面のぬめりを取るために塩もみされることも多い。低カロリーで、タンパク質、特にタウリンが豊富である。また、亜鉛も多く含む。夏場のものが特に美味とされる。関西地方には、半夏[注釈 1]にタコを食べる習慣があるが、これはタウリンを補給して夏バテを防ぐと言われる。秋口にメスの体内にある卵は象牙色の袋に包まれており、タコの袋児(ふくろご)と呼ばれ、煮付けて食べる。また、産卵後の卵はその形状から海藤花(かいとうげ)と呼ばれ、塩漬けにする。なお、イカの吸盤が環状に並んだ微細で鋭利な歯を持つのに対してタコの吸盤にはそれが無く、大きく肉付きも良いため、それ自体の食感が喜ばれる。この他、青森県の下北半島ではタコの内臓を茹でたものを「道具」の愛称で呼び、刺身や鍋の具などにして食べている[34]。
タコの繊維は切れやすく、茹でる前にダイコンで叩いたり日本酒に漬けておくと茹でた後も柔らかいままとなる。また、茹でる際茶葉をひとつまみ入れると臭みがとれるとされている[35]。
日本以外の東アジア、東南アジア
韓国、タイでは日常的な食材である。特に、テナガダコ(Octopus minor)を生きたままぶつ切りにし、塩と胡麻油および胡麻と和えて踊り食いにするサンナクチ(朝: 산낙지(語義:活きたテナガダコ)、英: sannakji)は有名である。台湾や中国で消費されるタコは、大部分が現地の日本料理店や朝鮮料理店の食材であり、中華料理の伝統食に蛸料理は無い。
なお、中国やベトナムは、乱獲によって漁獲量を減らしたモロッコに替わって日本向けの漁獲量を増やしている[32]。
インド、中東

インドではタコを食べる文化は無い。ユダヤ教ではタコなど軟体動物を食べることが禁じられているため、イスラエルではタコは食べない。イスラム圏ではモルディブ、チュニジア、トルコなどでタコが食べられている。
ヨーロッパ

南欧・地中海沿岸地域(スペイン、イタリア、ポルトガル、ギリシア、プロヴァンス地方などフランス南部の一部)ではタコを伝統的な食品としている。ギリシア等の正教徒の多い地域の場合、東方正教会では斎の間は肉を、大斎の際には魚をも食べるのを禁じてきたが、タコやイカ、貝類などは問題が無いとされてきたため、これらを使った伝統料理が多い。東地中海ではメゼとしてグリルしたタコの足が出される。
一方、アルプス以北のヨーロッパ諸国では、漁業が盛んな局所をのぞいて、伝統的には食用にはされてこなかった。例えばドイツやスイス、フランスの大部分では、伝統料理にタコを見ることはまずない。また、イギリスでは「悪魔の魚 devilfish」などと呼ばれ、避けられていたことは良く知られている。しかし、これらの地域でも、現代では南欧料理やアジアの料理(日本の寿司など)が入ってきており、タコを食べる機会は増えてきている。
アフリカ

(日本、北海道稚内市宗谷漁港[宗谷岬])
北アフリカ西部のモロッコでは1980年代後半から日本向け輸出産物としてマダコ漁が盛んである。しかし、乱獲による漁獲量の減少が問題視されている[36]。 また、モーリタニアでは1990年代半ばに日本企業の経済援助等によって港湾が整備され、以後、日本向け輸出用のマダコ漁が行われるようになった[37]。日本のタコ壺漁の技法が導入されているものの、現地の一般消費者にはタコを食べる習慣が無く、タコについて問い合わせても通じないことが多い。現地の漁業関係者の間でタコは「プルプル」と呼ばれている[38]。モーリタニア産のタコはもっぱら日本で消費されている。2009年(平成21年)時点で、日本にて消費されるタコの約7割がアフリカ産であり、そのうちの5割がモーリタニア産となっている[37]。財務省が公表した2015年の貿易統計によれば、日本のタコ輸入先第1位はモーリタニアの36%、第2位はモロッコの34%、第3位は中国の16%となっている。
漁業
漁法
狭い岩の隙間に潜り込む習性を利用した蛸壺、蛸箱漁業[39]は、タコ漁業独特のものである。
- 日本のタコ漁
日本には餌をつけない針金で引っ掛ける「から釣り漁法」[40]も存在する。空の蛸壺が浜辺に積まれている光景は、一部の地域では漁村景観の一つともなっている。また、イイダコは白色を好む傾向が強く、ラッキョウ、豚肉の白身等の白色の物体に釣り針をつけ、それに抱きつくイイダコを釣る変形のルアー釣りも有名である。
日本の陸揚げ漁港
第1種共同漁業権の対象魚種である。
- 第1位 - 松川浦漁港(福島県相馬市)
- 第2位 - 宗谷漁港(北海道稚内市宗谷岬)
- 第3位 - 落石漁港(北海道根室市落石)
- 第4位 - 八戸漁港(青森県八戸市)
- 第5位 - 庶野漁港(北海道幌泉郡えりも町庶野)
養殖
日本、オーストラリア、スペイン、メキシコ、イタリア、中国など、世界中で養殖の研究が行われているが、商業用の養殖には成功していない[41][42]。稚ダコの成長には生き餌が必要であり、養殖には場所も人手もかかる[43]。
メキシコではオクトパス・マヤという種類のタコの養殖が試みられており一定の成果が上がっている[44]。日本では日本水産がマダコの完全養殖に成功している[45][46][47]。しかし、いずれも商業ベースには到達していない。
注釈
出典
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- ^ 日本水産 マダコの完全養殖成功 事業化目指す
- ^ 日本水産、世界で類を見ない「マダコの完全養殖」に成功
- ^ 北條令子「海と山の妖怪話」『香川の民俗』通巻44号、香川民俗学会、1985年、4頁。
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- ^ 初めまして!工藤由愛 - Juice=Juiceオフィシャルブログ(サイバーエージェント) 2019年7月12日
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