海底二万里とは? わかりやすく解説

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海底二万里

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/23 18:32 UTC 版)

海底二万里
Vingt mille lieues sous les mers
原書の扉絵[注 1]
著者 ジュール・ヴェルヌ
イラスト エドゥアール・リュー
A・D・ヌヴィル
発行日 1870年
発行元 P-J・エッツェル
ジャンル 海洋冒険小説
フランス
言語 フランス語
形態 上製本(2冊)
前作 グラント船長の子供たち
次作 月世界へ行く
Autour de la Lune
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海底二万里』(かいていにまんり、Vingt mille lieues sous les mers)は、ジュール・ヴェルヌ1870年に発表した冒険小説である。日本語タイトル表記は表題のほか多数ある(後述)。初版の挿絵はエドゥアール・リウーアルフォンス・ド・ヌヴィル

ストーリー

ビーゴ湾の沈没船[注 2]
※以下の日本語表記は『海底二万里』江口清集英社版に従う。

この物語は、ネモ船長と名乗る人物により極秘裏に建造された新鋭潜水艦ノーチラス号の海洋冒険譚である。

船舶が巨大な角のようなもので喫水線下に大穴をあけられるという海難事故が多発していた。フランスの海洋生物学者アロナックスは、イッカクのような巨大なクジラ類の仕業という仮説を立て、助手のコンセイユや打ちの名手ネッド・ランドとともにアメリカ合衆国の軍艦「エイブラハム・リンカン号」で調査に向かうが、艦は謎の怪物の襲撃を受け、3人は海に投げ出される。

3人は、幸運にもその怪物こと潜水艦ノーチラス号の甲板に打ち上げられ、ネモと自称する男に救助される。彼らは捕虜としての扱いを受けるが、ネモとその仲間とともに海中の旅に出発し、紅海の本物のサンゴ礁ビーゴ湾の海戦の残骸、沈んだアトランティス大陸の遺跡などを目にする。

しかし、ネモには謎めいた言動があり、アロナックスは不審に思う。どうやらネモはどこかの国でひどい迫害を受け、その復讐のために海中に潜んでいるらしかった。ある日ノーチラス号は国籍不明の軍艦から攻撃を受けるが、反撃しその軍艦を撃沈する。これを機に、以前からネモに不信感を抱いていたネッドは2人にノーチラス号からの脱出を持ちかけ、彼らは艦がスカンディナヴィア半島沖の「魔の大渦(メイルストローム)」に巻き込まれた隙に逃亡する。

登場人物

アロナックス(右)とネモ[注 2]
ピエール・アロナックス
本作の語り手である海洋生物学者。40歳。パリ博物館の博物学教授で、「深海底の謎」の著者。作中では「アロナックス教授」、コンセイユからは「先生」と呼ばれている。謎の巨大生物の探査のため「エイブラハム・リンカン号」での調査活動に招請された。気難しいネッド・ランドと早々に仲良くなったり、ネモとも会話の機会が多く社交的である。
コンセイユ
アロナックスの忠実すぎる助手。フランドルの出身、30歳(コンセイユとはフランス語で「助言」の意味がある[注 3])。頭は良く、分類学の知識はずば抜けているものの、その種が何であるかという同定の能力はからっきしである。ネッドとは気が合い、行動を共にする場面が多い。その一方、ネモとの接触の機会は少ないが、本人はそれほど悪い印象を持っていない。
ネッド・ランド
エイブラハム・リンカン号に雇われた腕利きの使いで、酒と肉が好きなケベック出身のカナダ人。40歳ぐらい。「ネッド親方」と呼ばれているが、アロナックスの回想では「銛打ち」や「カナダ人」とされている。分類学は不得手だが観察力と記憶力に優れ、フランス語も話す。頑固で気が短く、艦内ではクルーとあまり口をきかずに怒りを募らせている場面が多い。
ネモ船長
ノーチラス号の艦長。艦の甲板に打ち上げられたアロナックスたちを捕虜として収容する。年齢不詳。謎めいた人物で、部下たちも同様である。海中世界をことのほか好み、地上世界を極度に嫌う。知的だが複雑な性格で、残酷さを表に出す一方、人道的な一面もある。

解説

海上の一点鎖線はノーチラス号の航路
パリ万国博の水族館[注 4]
フルトン設計「ノーチラス」復元模型

本作で読者が誘われるさまざまな海洋の場面の描写は、ヴェルヌ自身の見聞と創作とを組み合わせたものである。

ヴェルヌが海底の物語を書くことになったきっかけは、ジョルジュ・サンドがヴェルヌの『気球に乗って五週間』や『地底旅行』を読んで感心し、作家に潜水艦が活躍する物語を需める書簡を書き送ったことが始まりとされており[1]1867年のパリ万国博覧会に設置された水族館や電気に関する展示にも触発されている。なお、主人公のアロナックスの風貌は25歳時のヴェルヌ自身がモデルとなっている[1]

ノーチラス号は本作が書かれる60年以上前にフランスで建造(技師はアメリカ人)された同名の潜水艦が存在する[注 5]。このロバート・フルトンによって建造されたノーチラスはナポレオンの要請によって造られた水雷装備の軍艦で、動力は水中では人力、水上では帆船としても移動でき、外洋でも使用できるように錨が付いていた。フルトンは1801年にセーヌ川でテストを行ったものの、結局試作にとどまっている[2]

ヴェルヌのノーチラス号のような電機駆動の潜水艦は本書の出版の20年後、1888年9月8日に、スペイン海軍に所属していた科学者イサアク・ペラルによって設計され、2,995,000ペセタの開発費がかけられて実現した。こちらは電機潜水艦で、ペラル魚雷潜水艦と命名された[注 6]

ヴェルヌの他作品との関係

本作品に登場するネモは『神秘の島』(1874年)にも登場し、アロナックスについても言及している。『神秘の島』には『グラント船長の子供たち』(1868年)のエアトンや、「グラントとネモの双方の物語にまたがって登場するすべての人たち」が登場する場面もあり、前記三つの物語を三部作とすることがある[3]

ただし、『神秘の島』本編(1865年-1869年[注 7])内で述べられているほか、2作内のエピソードの年代の記述は下記のように異なる。

事例 本来の作品中の年代 『神秘の島』での年代
エアトンがタボル島に追放 1866年3月7日[4] 1855年3月18日[5]
アロナックス教授がノーチラス号に収容 1867年11月7日[6] 1852年頃[7] or1866年11月6日[8]

脚注で各作品の日付について「やがてなぜ正確な日付が記されなかったか、おわかりいただけると思う。」「ここでも(中略)日付の食い違いが見られるが」と説明があるが[9]、最後までこのずれについては説明されずに終わっている。

日本語訳

本作の原題は“Vingt Mille Lieues Sous Les Mers”(海底二万リュー)である。英語での題名もその直訳“Twenty Thousand Leagues Under the Sea”(海底二万リーグ)である。日本では、リューやリーグという単位になじみが薄いことから、当初は『海底六万哩(マイル)』と単位を換算して訳されたが、これと原題の「二万」とが混同されて『海底二万マイル』という題名が広まった。『海底二万里』という訳題は、日本のとリューがほぼ同じ距離であり、語感も似ているために採られたものである[10]。そのほか、『海底二万海里』、『海底二万哩』、『海底二万リュー』、『海底二万リーグ』、『海底二万マイル』などの題名も用いられる。

主な日本語訳版

関連作品

本作は過去何度か映画化されており、なかでもディズニーによる『海底二万哩(マイル)』(1954年)が有名である。

脚注

注釈

  1. ^ エドゥアール・リウーによる挿絵。
  2. ^ a b アルフォンス・ド・ヌヴィルによる挿絵。
  3. ^ ヴェルヌは1860年代に知り合った潜水艦の開発者、ジャック=フランソワ・コンセイユ(仏:Jacques-François Conseil)から命名している。
  4. ^ デュドネ・ランスロによる版画。『ル・モンド・イリュストレ』誌に掲載された。
  5. ^ 「ノーチラス」という名称は本作を問わず、軍艦・特に潜水艦によく使用される名前である。詳細はノーティラスを参照。
  6. ^ 詳細はIsaac PeralSubmarino Peralを参照。
  7. ^ 「1865年」は冒頭部で明記(南北戦争のリッチモンド陥落直前であることとも一致)、「1869年」は第18章でこの年に突入の説明あり、20章ラストに同年3月24日で島を去って物語が終わる。

出典

  1. ^ a b 大友徳明『海底二万里』偕成社文庫版解説より。
  2. ^ 『超発明博覧会 幻想メカニックガイド』司史生・原聖 著、ビー・エヌ・エヌ エクシード・プレス、1999年、ISBN 4-89369-719-6、p.26-29「皇帝陛下の潜航艇 フルトンのノーチラス」。
  3. ^ 『ミステリアス・アイランド -神秘の島(下)』手塚伸一訳、集英社文庫〈ジュール・ヴェルヌ・コレクション〉、1996年、ISBN 4-08-760296-6。p.423訳者あとがき
  4. ^ 『グラント船長の子供たち(下)』大久保和郎 訳、ブッキング、2004年、ISBN 4-8354-4113-3
    物語では年月日が言及されないが、第3部第14章(p.31)で1866年に突入し、同22章(p.339)で3月18日を「(エアトンを置いて)タボル島を去ってから11日後」と明記。
  5. ^ 『ミステリアス・アイランド -神秘の島(下)』手塚伸一訳、集英社文庫〈ジュール・ヴェルヌ・コレクション〉、1996年、ISBN 4-08-760296-6
    第17章のエアトン本人の説明より。(p.112)
  6. ^ 『海底二万里(上)』朝比奈美知子 訳、岩波書店〈岩波文庫〉、2007年、ISBN 4-00-325694-8
    本文内で年月日が直接言われるところはないが、第1部第1章で「1867年4月13日」(p.17)に客船の衝突事故発生、しばらくしてアナロックス教授たちがこれの調査に向かい、同年11月6日(第6章、p.88)に海に転落し、日付をまたいでノーチラス号に収容されている。
  7. ^ 『ミステリアス・アイランド -神秘の島(下)』手塚伸一訳、集英社文庫〈ジュール・ヴェルヌ・コレクション〉、1996年、ISBN 4-08-760296-6
    ネモが『海底二万里』の事件を1868年時点の場面(p.287)で「16年前」としている。(p.356)
  8. ^ 『ミステリアス・アイランド -神秘の島(下)』手塚伸一訳、集英社文庫〈ジュール・ヴェルヌ・コレクション〉、1996年、ISBN 4-08-760296-6
    ネモの回想より。(p.362)、この後ネモはしばらく活動を続け「6年前に引退」としている。(p.363)
  9. ^ 『ミステリアス・アイランド -神秘の島(下)』手塚伸一訳、集英社文庫〈ジュール・ヴェルヌ・コレクション〉、1996年、ISBN 4-08-760296-6。p.115・357原注
  10. ^ 岩波少年文庫『海底二万里』巻末「あとがき」による。

外部リンク


海底二万里

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/25 05:40 UTC 版)

アレクトン」の記事における「海底二万里」の解説

詳細は「海底二万里」を参照 アリクトンの遭遇事実元にジュール・ヴェルヌ潜水艦襲撃する巨大イカ『海底二万里』1870年)に活躍させた。現在のダイオウイカ権威クライド・ローパー(英語版)に取材した大衆サイエンス誌の記事によれば、この小説イカには自然界ダイオウイカより過剰な攻撃性与えられており、"身体的特徴もまるで間違っている"とされる

※この「海底二万里」の解説は、「アレクトン」の解説の一部です。
「海底二万里」を含む「アレクトン」の記事については、「アレクトン」の概要を参照ください。

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