自切とは? わかりやすく解説

じ‐せつ【自切/自×截】

読み方:じせつ

動物が、外敵襲われるなどの強い刺激を受けると、体の一部を自ら切り捨てて生命を守る現象トカゲの尾、カニの脚などにみられる自割


自切

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/15 16:10 UTC 版)

自切されたイシガキトカゲのしっぽ
尾の先端を失ったサキシマカナヘビ
一部のヤマネ科の尾は、切断しやすい構造となっており敵に襲われたときに自切する[1]

自切(じせつ)は、節足動物トカゲなどに見られる足や尾を自ら切り捨てる行動ないし反応。

なぜ自ら体の器官を切り捨てるかは状況やタクソンにより異なると思われるが、主に外敵から身を守るために行われる例が多い。すなわち外敵に捕捉された際に肢や尾等の生命活動において主要ではない器官を切り離すことで逃避できる可能性を作り、個体そのものが捕食される確率を下げるための適応であると考えられている。そのため自切する器官はあらかじめ切り離しやすい構造になっていたり、喪失した器官を再生させる等の機能を持つ種が多い。

脊椎動物の自切

トカゲ類の自切

身近な例ではニホントカゲニホンカナヘビ等が自切を行う。自切した尾は、しばらく動き回ることで外敵の注意を引きその隙に逃げることができる。切断面は筋肉が収縮し出血も抑えられる。再生した尾(再生尾)は外観から見ても体色が異なっていたり、元の尾よりも長さが短くなることが多い。また再生尾は中に骨はなく、代わりに軟骨により支えられている。これら自切を行うトカゲ類の尾は、脊椎に自切面という節目があり切れやすい構造になっている。そのため人為的に尾を切断しても、同様の反応は見られない。

自然界では自切により外敵から逃避できる可能性もあるが、尾に栄養分を貯めることの多いトカゲ類は飼育下ではメンテナンス中の不注意や物に尾が挟まった際等に自切し結果として体調を崩してしまうことも多い。トカゲ類全てが自切を行うわけではなく、また同じ科でも自切後に再生尾が生えない種もいる。

魚類の自切

深海魚のリュウグウノツカイは体長の中程から自切する事が示唆されている[2]。天敵に襲われた際に逃げる目的が主であるが、食糧難の際の生命維持に体を減少させるため、との説もある。再生はできない。

無脊椎動物の自切

  • 節足動物では、昆虫類クモ類・多足類甲殻類などでは)を自切するものが多い。これらの仲間では、体の成長には脱皮が必要なので、何回かの脱皮によって再生する。脱皮回数が制限されている動物の場合、完全には再生できない場合もある。また、成虫が脱皮しないもので、成虫が自切した場合では、当然ながら再生できない。カニ[3]などの魚介類に含まれる節足動物では、自切することで経済価値が大きく変動してしまうものもいる。
  • 環形動物では、ミミズゴカイに簡単に体が切れるものがある。ミミズの場合、後体部から前半身が再生しないものが自切とみなされるが、ミズミミズ科の一部のように、連鎖体が分裂して増殖するものは自切とは言わない。同じ環形動物でも、ヒルはまず体が切れない。ユムシ類には、を自切するものがある。
  • 軟体動物では、腹足綱のミミガイやヒメアワビ、ショクコウラなど、分類群にかかわらずに比べて軟体が大きい巻貝類に腹足後端を自切して逃げるものがある。ウミウシ類にも突起や体の一部、あるいは胴体のほとんどを切り捨てるものがあり、ヒメメリベ Melibe papillosa の背側突起は自切脱落し易く、チギレフシエラガイ Berhella martensi は背面が4区画に分割されていて、区画ごと自切することからその和名が付けられている[4]。同じくウミウシの一種であるゴクラクミドリガイ属 Elysia のコノハミドリガイ E. atroviridis とクロミドリガイ E. marginata は、心臓や消化器系を胴体に残したまま頭部のみを切り離し、頭部から胴体を再生することができる。切り離された胴体も3-4ヵ月間は生きているが頭部は再生されずに死ぬ。この属の種は摂取した藻類から葉緑体を細胞内に取り込んでおり、その光合成によってエネルギーを得ることができるため、一時的に消化器系を失っても生き残ることができると考えられている。この大胆な自切の理由として、体内に寄生したカイアシ類を胴体ごと捨て去る防御機構として進化した可能性が推定されている[5][6][7][8]
陸生種では、石垣島西表島に生息するカタツムリの一種イッシキマイマイが、天敵イワサキセダカヘビから逃れるために尾(腹足の後端部分)を切断することが知られている[9]。実験でイワサキセダカヘビにイッシキマイマイを与えたところ、45%の個体が自切によりイワサキセダカヘビの捕食から逃れたとされる[10]。自切を行うカタツムリは確認されている限りイッシキマイマイのみで、他のカタツムリで実験を行ったところ捕食されてしまった[11]。また自切によって自分を守る行動は子供のイッシキマイマイに多く見られたという[12]
二枚貝ではマテガイ科などが水管を簡単に自切して穴深く逃げ込むが、水管には最初から切れ目となる横筋が見られる。頭足類では、通常の自切とは異なるが、アミダコなどタコの一部に交接の際にオス交接腕の先端が自切してメスの体内に残存し、のような役割を持つものがある。

比喩表現

トカゲのしっぽ切り』という比喩は、企業などの組織が立場の弱い構成員や下請けに全責任を押し付け、それと引き換えに組織本体が生き延びようとすることを指す。

出典

  1. ^ Claude Baudoin 「ヤマネ」柴内俊次訳『動物大百科5 小型草食獣』今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年、92 - 94頁。
  2. ^ Coverfishes2013”. www.kochi-u.ac.jp. 高知大学。著:遠藤広光. 2023年4月26日閲覧。
  3. ^ 国立国会図書館. “カニの自切と再生について、詳しい仕組みや様子が知りたい”. レファレンス協同データベース. 2022年3月28日閲覧。
  4. ^ 濱谷巌(I. Hamatani) (30 Jan 2017). 裸側目 Order Nudipleura (p.403-427 [pls.359-383], 1068-1085) in 奥谷喬司(編著)『日本近海産貝類図鑑 第二版』. 東海大学出版部. pp. 1375. ISBN 978-4486019848 
  5. ^ Sayaka Mitoh; Yoichi Yusa (2021-03-08). “Extreme autotomy and whole-body regeneration in photosynthetic sea slugs”. Current Biology 31 (5): R233-R234. doi:10.1016/j.cub.2021.01.014. 
  6. ^ ウミウシの仲間、首元で自ら体切り落とし再生…女子大院生ら発見し米科学誌に論文”. 読売新聞iオンライン (2021年4月14日). 2022年1月9日閲覧。
  7. ^ Nast, Condé (2021年3月11日). “頭部を自ら切断して体が再生!? 日本人研究者が発見したウミウシの不思議な生態(動画あり)”. WIRED.jp. 2023年4月26日閲覧。
  8. ^ This sea slug cut off its own head—and lived to tell the tale” (英語). www.science.org. 2023年4月26日閲覧。
  9. ^ Hoso, M. (2012-10-03). “Cost of autotomy drives ontogenetic switching of anti-predator mechanisms under developmental constraints in a land snail”. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 279 (1748): 4811-4816. doi:10.1098/rspb.2012.1943. PMID 23034702. ; (著者による解説/細 将貴website
  10. ^ カタツムリもしっぽ切った 天敵ヘビに襲われ 八重山諸島、世界初確認 MSN産経ニュース 2012年10月3日
  11. ^ しっぽを切ってヘビから逃げるカタツムリ、沖縄で世界で初めて確認 AFPBB News 2012年10月4日
  12. ^ カタツムリもしっぽ切り 八重山固有種で防御行動を発見 東京新聞 2012年10月3日

関連項目

  • 捨て駒
  • キュビエ器官 - ナマコが外敵に襲われた際に、体外に放出する粘性・毒性のある器官。放出後、数か月で器官は再生する。
  • トゲマウス - 皮膚が剥落しやすく、敵に捕らわれにくくなっている。

「自切」の例文・使い方・用例・文例

  • 体の一部が自切を行うようにする
Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「自切」の関連用語

自切のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



自切のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの自切 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2024 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2024 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2024 GRAS Group, Inc.RSS