ラートシカムイ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/30 18:34 UTC 版)
ラートシカムイ(ラードシカムイ[1])は、アイヌ民話に伝わる巨大な蛸。
語釈
ラートシカムイは「尾がたくさんある神」の意[1][2][注 1]。
伝承
石狩にまつわる地名伝説として、ラートシカムイと巨鳥フリカムイ(原文では「フリー」)の力比べの説話が伝承される。
説話によれば、海で一番力の強いのはラードシカムイ〔ママ〕、そして"陸での力もちは片翼が七里もあるという巨鳥フリー"とされていた[注 2]。互いに怪力を自負して対立していたが、あるとき石狩川の河口[注 3]で二頭(一羽と一杯?)が遭遇した。蛸は墨を吐き、口を尖らせ、目を怒らせると、フリーは鋼鉄のような翼を広げて身構えると、水面上に出ていた触手をついばみ攻撃を開始し、ずるずると蛸を引き揚げにかかったが、頭までは水面現れなかった。こんどは蛸が押収して、触手を折り曲げて引っ張ったが、鳥はふんばって耐えた(詳細は、「石狩」地名由来とまとめて後述)[7]。けっきょく力は両者とも互角で、決着がつくことはなかったという[9]。
フリカムイが海中に引き込まれた際、尾羽(アイヌ語でイシ)を左右に動かして(アイヌ語でカリ)ふんばったため、その付近の海を石狩(いしかり)と呼ぶようになったと言い伝わる[7][2][10]。
脚注
注釈
- ^ アイヌ語でタコはアトイナウ[3](アッ[ト]ゥイナ[ウ][4])やアッコログルと呼ばれ、at「紐」という語根を含む[4]。ラートシカムイのアイヌ語のローマ字表記は確認できていないが、参考語にra 「下」、at「紐」、usi 「多数、群集、群生」を挙げる。
- ^ 現在の日本の1里は、公式には3.929キロメートル (2.441 mi)であるが、古代には(また中国においても)その6分の1程度だったと指摘される[5]。
- ^ 石狩川は日本海側に注ぐ。松谷再話ではラードシカムイは日本海に棲む蛸だとしている[6]。ちなみに別の巨大ダコ伝説ではアッコロカムイが噴火湾(内浦湾)の主(ぬし)とされるが、これは太平洋側になる。
出典
- ^ a b 更科 (1971), p. 172.
- ^ a b 朝里 (2021), p. 72.
- ^ 奥田統己(編)「福島琴蔵(編)『アイヌ語の訳解』」『国立歴史民俗博物館研究報告』第236巻、2022年10月31日、82頁。
- ^ a b 吉田巖「アイヌの動植物名について」『人類学雑誌』第30巻第3号、Kadokawa、1915年3月、101頁。「蛸(アツコログル(At-koro-guru)。紐条(アツ)、有る(コロ)、物(グル)。章魚(アツウイナ Atui-na)。海(アツウイ)の木幣(イナオ)の意か。」 (snippet@google)
- ^ 佐々木利和『アイヌ語地名資料集成 』草風館、1988年2月、192頁 。
- ^ a b (再話)松谷みよ子「巨鳥退治」『松谷みよ子の本 第9巻 伝説・神話』講談社、1995年10月25日、500–506頁。ISBN 978-4-06-251209-1。
- ^ a b 更科 (1971)『アイヌ伝説集』、172–173頁(旭川市近文砂沢市太郎老伝)
- ^ 吉田巖「アイヌの鳥類説話(五)」『郷土研究』第2巻第5号、郷土研究社、1914年7月1日、36–37頁。 再掲:『アイヌ史資料集』 3ノ1、北海道出版企画センター、1984年6月。NDLJP:12141972 。
- ^ 松谷みよ子「巨鳥退治」[6]は再話であり、<穏やかだったフリーの水飲み場を娘が穢して怒らせた>設定は、もとは十勝(芽室町)ケネアイヌ村落の童話で[8]、怒った「フリーカムイ」の騒音がタコを眠りから目覚めさせたという導入部は、原話と異なる。
- ^ 松谷 (1995), p. 502.
参考文献
- 朝里樹『日本怪異妖怪事典 北海道』笠間書院、2021年6月25日。 ISBN 978-4305709417。
- 更科源蔵『アイヌ伝説集』北書房、1971年。ASIN B000J94POY。NDLJP:12572425 。
関連項目
固有名詞の分類
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