ティラピア【(ラテン)Tilapia】
ティラピア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/07/02 00:25 UTC 版)
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ナイルティラピア
Oreochromis niloticus |
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ティラピア(tilapia、別名:テラピア)は、カワスズメ科に属する約100種の魚類の総称である。特定の1種を指す名称ではなく、主にオレオクロミス属(Oreochromis)やサロテロドン属(Sarotherodon)など複数のグループを含み、分類学上のティラピア属(Tilapia)単体とは範囲が異なる。原産はアフリカおよび中東の淡水魚であるが、現在は食用として世界各地の温帯・熱帯域に広く導入されている。
日本には外来種として、ナイルティラピア(Oreochromis niloticus)、カワスズメ(Oreochromis mossambicus)、ジルティラピア(Coptodon zillii)の3種が導入されている。
概要
ティラピアという名称は、日本に導入された3種がいずれも当時 Tilapia 属に分類されていたことに由来する。現在ではその分類が再編されたため、先述の通り「総称としてのティラピア」と「分類学上のティラピア属」の範囲は異なっている。
原産地はアフリカと中近東であるが、食用として世界各地の河川に導入されたため、分布域が著しく拡大している。淡水、汽水の様々な環境に適応するが、水温が10℃以下になる地域での生息は確認されていない。
雑食性。貪欲で、口に入る動植物を生死問わず食べる。性質の荒い種が多く、縄張りに侵入してくる他魚をしばしば執拗に攻撃する。釣りでもブラックバスやブルーギル等の外道として掛かることがある。
環境耐性
ティラピアはアンモニア、低溶存酸素、pH変動および塩分変動に対して高い耐性を示す一方、熱帯性魚類であるため低水温への耐性は低く、一定以下の水温では成長停止や死亡が生じることがある。
利用
ティラピアの導入は、アジアから南北アメリカまで世界全域に及ぶ。
食用
ティラピアの肉質は臭みもなく非常に美味で、各国で食用として使用されている。野生個体が漁獲される他、養殖も盛んである。川魚だが皮も臭みがなく美味である。
ただ内臓は、よほどの清流でない限り、非常に臭みが有るので、三枚におろさず、内臓を開かないよう、背と尾の可食部のみを切り取るさばき方をするとよい。
ニジマスやブラウントラウトのような淡水魚やイワシ、サバ、鮭、タラ、マグロ、鯛、スズキなどの海水魚などと同様に一般的な食材として流通している国々もある。
世界各国で、金魚のように選別された赤色の個体(ナイルティラピア)が養殖されている。
ナイルティラピア (Nile tilapia) x ブルーティラピア (Blue tilapia) のハイブリッド個体なども養殖される。
日本
日本に導入されたティラピアと呼称される魚は、シクリッド科(カワスズメ科)のナイルティラピア(Nile tilapia、Oreochromis niloticus)、カワスズメ(モザンビークティラピア、Mozambique tilapia、Oreochromis mossambicus)、ジルティラピア(Tilapia zillii)の3種である[1]。これらは1950年代から1960年代にかけて、高級魚(マダイ)の代用としての商業養殖魚として注目され、導入された。ナイルティラピアは1962年にエジプトから食用として移入された記録がある[2]。
このうち食用として広く普及したのはナイルティラピアであり、流通段階では「イズミダイ(いずみ鯛)」又は「チカダイ」と呼ばれて養殖された[3][4]。これらの名称は高級感を持たせるなどの理由で付けられた商品名(流通名)であるが、分類上はタイ科の魚類とは全くの別種であり、生息環境(主に淡水域)も異なる。農林水産省の『魚介類の名称のガイドライン』においては、現在もナイルティラピアの一般的名称例として「チカダイ」「イズミダイ」がリストアップされており、法的な使用制限はない[3]。
外観や白身の質感・食感がマダイやクロダイに似ており、安価な代用魚として重宝された時期もあった[5]。特に鹿児島県など温泉資源を活用した地域で養殖が拡大し、1991年頃に生産のピークを迎えた[6]。しかしその後、国内でのマダイの大規模海水養殖技術確立による価格安定、外国産廉価冷凍フィレーの輸入増加、人件費や温泉水・温排水利用コストの上昇などにより、国産ティラピアの生産優位性が失われ、商業的養殖は急激に衰退した[6]。
現在では、食材としての品質を評価する一部の小売店や飲食店での取り扱い[7]や観光資源としての小規模養殖を除き、日本の一般的な小売店の店頭で生鮮魚として見かける機会はほぼなくなっている。ただし、台湾や中国などから輸入された冷凍フィレーは、加工食品や外食産業の業務用食材として現在も流通している[8]。
ナイルティラピアは、環境省および農林水産省が作成した「生態系被害防止外来種リスト」においてその他の総合対策外来種に選定されており[9][10]、一部地域(鹿児島県池田湖など)で温排水や温泉水の流入環境を中心に定着が確認されている。在来魚類との競合や生態系への影響が指摘されている[2]。
イスラエル
イエス・キリストゆかりの場所として知られるガリラヤ湖に多く生息しており、地元の名物料理である。切れ込みを入れ丸揚げにしたものにレモンをかけて食べるのが一般的。イエスの弟子である聖ペトロが銀貨を咥えたティラピアを釣り上げた逸話から(『貢の銭』)、「セント・ピーターズ・フィッシュ」と呼ばれる[11][12]。
タイ
1960年代、タイ王国の食糧事情が難しいと知った魚類学者でもある皇太子明仁親王(現・上皇)は、タイ国王にティラピア(ナイルティラピア)を50尾贈り、「ティラピアの養殖」を提案。タイ政府はそれを受け、現在、タイでは広くティラピアが食されている。このエピソードにちなみ、タイでは華僑により「仁魚」という漢字名がつけられ、タイ語でもプラー・ニン(ปลานิล)と呼ばれている。1973年のバングラデシュでの食糧危機に際しては、タイがバングラデシュに自国で養殖したティラピアの親魚50万尾を贈呈した。
台湾
1946年にカワスズメがシンガポールから導入され、導入者である呉振輝と郭啓彰の姓を取った呉郭魚の名で養殖され、食材として重要となっている。1969年には、ナイルティラピアとの交配が行われて、福寿魚(台湾鯛)と名付けられた。現在は養殖場内で交雑が進んでいる。日本やヨーロッパに輸出も行われている。
中国
1970年代に湖北省でナイルティラピアが導入され、ナイル(尼羅)とアフリカ(非洲)から羅非魚と命名された。その後、華南を中心に養殖が盛んに行われるようになり、現在は一般的な食材として流通している。唐揚げ、蒸し魚、煮魚、スープなどに広く利用されている。
チャド
チャド南部ではオクラなどの潰した野菜とともにピーナッツバターで煮込んだ「ダラバ」という料理に入れられることがある。NHKドラマ「夢食堂の料理人〜1964東京オリンピック選手村物語〜」では、チャド出身の選手のために、当時の日本ではティラピアが手に入らず、代わりにマダイを入れたダラバ作りに奮闘する料理人が描かれた。
カンボジア
日系企業が養殖加工販売をしている。
ティラピアのブランド名は南国鯛(商標登録済)。
フィレ加工以外に、ふりかけ、ペットフード、パウダー、鱗からコラーゲン製造等も行っている。
観賞魚
比較的大型美麗で見栄えのする種の多いティラピア類は、他のシクリッドと同様、観賞用として輸入され流通している。
丈夫で餌の嗜好の気むずかしさも無いため、飼育自体は容易である。また、日本の場合北海道、東北地域以外の室内では、加温設備が無くとも成魚が越冬できる場合がある。
ただし、成長すると非常に大きくなるので、飼育設備は相応のサイズのものを用意する必要がある。また攻撃性が高いため、1つの水槽での飼育個体数は1匹のみとするか、互いに攻撃対象の優先順位付けができなくなるほどの多個体同居飼育にする必要がある。
縄張り
モザンビークティラピア(学名: Oreochromis mossambicus、旧称 Tilapia mossambica)の雄は繁殖期に浅いすり鉢状の産卵床(繁殖ピット)を掘り、縄張りを形成する。高密度条件下では隣接個体との間で砂を吐き出して境界(パラペット)を形成することが知られており、ジョージ・W・バーロウの観察実験で詳しく報告された[13]。その後、長谷川政美・種村正美らは、この縄張り配置がボロノイ分割の数理モデルによってよく説明できることを示し、自然界における空間分割の例として紹介した[14]。
生態系被害防止外来種
ティラピア類の優秀な適応力は、漁業目的では喜ばしいものだったが、在来魚を駆逐する淘汰圧を発揮し、移植導入先の世界各地の生態系にとって脅威となった。
日本国内でもティラピア類は琉球列島や温泉地域などで帰化・定着していることが確認されている。とりわけ沖縄諸島の河川や湖沼、愛知県名古屋市中川区・港区の荒子川、尾張温泉周辺では、大量繁殖したナイルティラピア等が極端な優占種と化し、生態系に深刻な圧迫をもたらしている。
このため、生態学的な問題を招く可能性があるとしてナイルティラピアとカワスズメが外来生物法により要注意外来生物に指定された[15][16]。2015年3月26日をもって「生態系被害防止外来種」に変更された[17]。
病害
ティラピアレイクウイルス(TiLV)は、主にティラピア類に感染して高い死亡率を伴う流行が報告されているウイルスである[18]。TiLVは、10分節ゲノムをもつマイナス鎖一本鎖RNAウイルスで、Amnoonviridae科のTilapinevirus属に分類される[19]。
脚注
- ↑ 中野 繁・中島 恬 (1989年3月31日). “岐阜県の温泉地におけるナイルテラピアの自然繁殖”. 岐阜県博物館調査研究報告 第10号. 岐阜県博物館. 2022年10月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年6月23日閲覧。
- 1 2 “ナイルティラピア / 国立環境研究所 侵入生物DB”. 国立環境研究所 侵入生物データベース. 2025年12月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年6月23日閲覧。
- 1 2 “魚介類の名称のガイドラインについて”. 農林水産省. 2025年12月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年6月23日閲覧。
- ↑ “ナイルティラピア”. 市場魚貝類図鑑 ぼうずコンニャク. 2025年9月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年6月23日閲覧。
- ↑ “【釣行記】冬の癒やしターゲット「ティラピア」 温排水を狙い撃ち”. TSURINEWS (2020年3月7日). 2026年3月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年6月23日閲覧。
- 1 2 “鹿児島県水産技術開発センター『水産技術のあゆみ』第5節 テラピア養殖”. 鹿児島県水産技術開発センター. 2025年12月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年6月23日閲覧。
- ↑ “トップバリュ 泉鯛(いずみだい)”. トップバリュ (TOPVALU). 2026年6月23日閲覧。
- ↑ “日本 ティラピア(HS-03)輸入統計 2023年12月まで”. ササボ・コミュニケーションズ (2024年2月14日). 2026年3月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年6月23日閲覧。
- ↑ “ナイルテラピア | 淡水魚図鑑(外来種)”. 大阪府立環境農林水産総合研究所. 2025年11月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年6月25日閲覧。
- ↑ “生態系被害防止外来種リスト(掲載種一覧:魚類)”. 日本の外来種対策(環境省 自然環境局). 環境省・農林水産省. 2017年5月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年6月25日閲覧。
- ↑ 読売新聞2010年4月9日夕刊 「うまい!エルサレム 『聖なる魚』の素揚げ」
- ↑ 地中海にすむ魚<サン・ピエトロ> イエス・キリストの使徒の名を冠している理由とは? サカナト
- ↑ Barlow, G. W. (1974). “Hexagonal territories”. Animal Behaviour 22 (4): 876–878.
- ↑ Hasegawa, Masami; Tanemura, Masaharu (1976). “On the pattern of space division by territories”. Annals of the Institute of Statistical Mathematics 28 (3): 509–519. doi:10.1007/BF02504781.
- ↑ http://www.env.go.jp/nature/intro/1outline/caution/detail_gyo.html#17 環境省 外来生物法 要注意外来生物リスト:魚類(詳細)ナイルティラピアの項
- ↑ http://www.env.go.jp/nature/intro/1outline/caution/detail_gyo.html#18 環境省 外来生物法 要注意外来生物リスト:魚類(詳細)カワスズメの項
- ↑ 生態系被害防止外来種リスト 環境省、農林水産省
- ↑ “Infection with tilapia lake virus (TiLV) – Technical Disease Card” (PDF) (英語). World Organisation for Animal Health (WOAH). 2026年1月1日閲覧。
- ↑ “Amnoonviridae” (英語). International Committee on Taxonomy of Viruses (ICTV). 2026年1月1日閲覧。
関連項目
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