内閣総理大臣 就任・退任

内閣総理大臣

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/02 06:09 UTC 版)

就任・退任

内閣総理大臣指名選挙にて投票する菅義偉(2020年9月16日、衆議院本会議場にて)
内閣総理大臣の指名を受け一礼する鳩山由紀夫(2009年9月16日、衆議院本会議場にて)

指名と任命

指名

内閣総理大臣は、日本の国会議員の中から国会の議決(内閣総理大臣指名選挙。首班指名とも呼ばれる)でこれを指名する(憲法67条1項)。指名の資格要件は国会議員であることと文民であることである。

指名選挙は衆議院参議院の両院で行われ、両院の指名が食い違った場合は両院協議会が開催されるが、両院協議会で成案が得られない場合は衆議院による指名が国会議決となる(衆議院の優越)。過去に両院協議会が開かれた例はあるが、成案が得られた例はない。また、実例はないが、衆議院の指名後10日を経ても参議院が指名を行わない場合は衆議院による指名が国会の議決となる(同上)。

従って、事実上は衆議院の多数勢力の意向の通りに、首班指名がなされる仕組みとなっている。

要件

  1. 国会議員
    内閣総理大臣は、国会議員の中から指名する(憲法67条1項)。
    日本国憲法では議院内閣制を採用しており、内閣は衆議院の信任を常に確保する必要がある。したがって、内閣総理大臣は衆議院において最大勢力を占める政党党首、または連立を組む政党の党首のいずれかが任ぜられている。首班指名時における内閣総理大臣の要件は「国会議員」とのみ規定されているため、衆議院・参議院いずれの議員でもよいが、日本国憲法の施行後に就任した内閣総理大臣は全て衆議院議員から選出されている。法律上、明記はされていないが、国会議員であることは選任要件であると同時に在職要件でもあるとされる[28]。ただし衆議院解散や議員任期満了に伴って衆議院議員を失職しても、衆議院議員総選挙後の国会召集まで職に留まる。現職の内閣総理大臣が衆議院議員選挙で落選した例はない[注釈 4]。内閣総理大臣は、仮に現職のまま衆院選で落選した場合でも選挙後の最初の国会の召集時に総辞職するまでは内閣総理大臣の職に留まることとなる。
  2. 文民
    内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない(憲法66条2項[注釈 5][注釈 6]
    帝國陸海軍将校の経験者が内閣総理大臣や国務大臣を務めた例はあり、また自衛隊出身者が内閣総理大臣となった例はないものの、国務大臣を幹部自衛官退職者が務めた例はある。

任命

天皇明仁から内閣総理大臣に任命される安倍晋三2012年12月26日皇居にて)
竹下登の内閣総理大臣任命辞令。中央には皇太子明仁による御名御璽天皇裕仁の病気療養による国事行為臨時代行)、左には前任の内閣総理大臣中曽根康弘の署名がある

指名の結果は、ただちに衆議院議長職務執行内閣を経由して天皇に奏上する[29]。先例では別途、衆議院議長が皇居で指名の経過を天皇に直接報告する。天皇は、国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命する(憲法6条1項)。

内閣総理大臣の任命は天皇の国事行為の一つであり、すでに内閣総辞職した内閣が、憲法71条に基づく職務執行内閣として、これに「助言と承認」を与える。

内閣総理大臣任命式(親任式)には天皇、衆参両院議長、現任の総理(職務執行内閣)または国務大臣(職務執行内閣)、総理大臣就任予定者(新総理)が参列する。天皇が口頭で新総理を任命した後に、総理が交代する場合は前総理が新総理に官記を手渡す。総理が再任される場合は職務執行内閣の国務大臣が官記を手渡す[30]

任期

日本国憲法(昭和憲法)において、内閣総理大臣の任期について直接的に規定した条文はない。

憲法では衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったときは、内閣は総辞職をしなければならないとされているため、このことから内閣総理大臣の1回の任期は次の衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集が行われるときまでとなり、最長でも4年を超えないことになる[注釈 7]憲法70条)。公職選挙法第57条が規定する繰延投票が行われた場合であっても憲法の規定による日数制限には影響しないので、これによる影響は想定できない。基本的に繰延投票は、特定の投票所における繰延に対する規定[注釈 8]であるからである。

衆議院議員総選挙で投票が遅れることによって国会の召集の時期が遅れることがあれば、もちろん、この規定は新たに召集された国会において再選されることを禁じるものではなく、制度上は国会議員として首班指名を受け続ける限り内閣総理大臣を続けることができる。

ただ、通常、内閣総理大臣は与党党首の地位を前提として与党議員からの信任を得ているが、その政党の内規で党首職に再選制限が設けられている場合、その年限が事実上の任期の上限となることがある。

なお、明治憲法下では貴族院議員あるいは帝國陸海軍の元帥大将首班指名を受けた場合、その任期は原則終身、元帥に進級しない陸海軍大将は65歳が定年であったことから、内閣総理大臣が発展途上国に多くみられる終身指導者のような長期政権を敷くことも、理論上は可能であった。しかし、実際には天皇に建前上すべての権力が集中する明治憲法の根幹たる外見的立憲君主制こそが、大日本帝國に長期独裁を敷く宰相を誕生させないという意味で最後の歯止めとなっていた。

退任と代理

退任

「衆議院で内閣不信任決議が可決、又は内閣信任決議を否決した場合、10日以内に衆議院を解散[注釈 9]しないとき」(憲法69条)、また、「内閣総理大臣が欠けたとき」あるいは「衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があった時」(憲法70条)は内閣総辞職をしなければならない。
以上は義務であり、これ以外でも任意に首相退任(内閣総辞職)ができる。首相が欠けるか退任した際には、内閣はただちにその旨を両議院に通知しなければならない[31]
また「内閣総理大臣に事故のあるとき」「内閣総理大臣が欠けたとき」は、あらかじめ指定する国務大臣が、内閣総理大臣臨時代理として職務を行う(内閣法第9条)。詳細は後述する。

なお日本国憲法下の事例においては、内閣総理大臣を退任すると同時に自党の党首職も辞任するか任期満了を迎え退任する事例がほとんどととなっている[注釈 10]

職務執行内閣

内閣総辞職後、新首相が任命されるまでの間は総辞職前の内閣が引き続き職務を執行する(憲法71条)ため、内閣総辞職後の首相も引き続き職務を執行する。
よって同様に、首相臨時代理に率いられる内閣が総辞職した場合も、首相臨時代理が、新首相が任命されるまで引き続き職務を執行する。したがって、正確には内閣総理大臣の退任日は、総辞職をした日(内閣総辞職を閣議決定した日)ではなく、新内閣総理大臣が任命された日である。

注釈

  1. ^ 日本国憲法に直接の規定はないが、日本国憲法第70条に「(省略)衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない」とあり、内閣総理大臣の任期は衆議院議員の任期である1期4年を超えることはない。ただし、通常、内閣総理大臣は与党党首の地位を兼務して与党議員からの信任を得ているため、その政党の内規で党首職に再選制限が設けられている場合、その年限が事実上の任期の上限となる。
  2. ^ 例えば、伊東巳代治による大日本帝国憲法の英訳[11]
  3. ^ 実例としては2005年(平成17年)の『郵政解散』の際に小泉純一郎内閣総理大臣が、署名を拒否した島村宜伸農林水産大臣を罷免した例がある。
  4. ^ ただし、大平正芳は、1980年の衆院選で立候補したものの開票前に死去した。事の顛末は第2次大平内閣も参照されたい。
  5. ^ 政府見解(後述)によれば、憲法66条2項の「文民」とは、次に掲げる者以外の者をいう。
    一 旧陸海軍の職業軍人の経歴を有する者であって、軍国主義的思想に深く染まっていると考えられるもの
    二 自衛官の職に在る者
  6. ^ 1973年(昭和48年)12月19日(72回国会)の衆議院建設委員会において、政府委員として答弁に立った内閣官房副長官大村襄治は「政府といたしましては、憲法第六十六条第二項の文民につきましては、「旧陸海軍の職業軍人の経歴を有する者であって、軍国主義的思想に深く染まっていると考えられるもの」、それから「自衛官の職に在る者」、この二つを判断の基準にいたしている訳でございます」と答弁している。
  7. ^ なお、投票日が任期満了の日以後になり、更に特別国会の召集が憲法の定める最大限度まで遅れた場合首相の在任期間が4年を超えることも制度上はあり得なくはない。
  8. ^ 「天災その他避けることのできない事故により、投票所において、投票を行うことができないとき、又は更に投票を行う必要があるときは、都道府県の選挙管理委員会(市町村の議会の議員又は長の選挙については、市町村の選挙管理委員会)は、更に期日を定めて投票を行わせなければならない。」との規定である。
  9. ^ 衆議院を解散すれば内閣総辞職をしなくてもいいが、衆議院議員総選挙が行われ、その後に初めて国会の召集があった時には結局、総辞職をすることになる。衆議院議員総選挙によって首相支持勢力が衆議院議席の過半数を獲得したならば、内閣総理大臣指名選挙で再指名されることにより引き続き内閣総理大臣の職にとどまることができるが、首相支持勢力が過半数を割り内閣総理大臣指名選挙で再指名されない場合は内閣総理大臣を続けることができない。
  10. ^ 芦田均細川護熙羽田孜村山富市の4名に関しては首相辞任後もしばらく出身党(およびその後継政党)の党首職に留まったものの、いずれも首相辞任から1年未満の短期間で退任している。日本国憲法下において首相辞任後も一定期間党首職を務めた唯一の例は片山哲で、首相辞任後も日本社会党委員長に1年10か月ほど留まった(なお、自民党総裁に関する特殊事例は自由民主党総裁#総理・総裁分離論も参照のこと)。
  11. ^ 2016年時点では、2005年郵政解散の際に小泉純一郎首相が島村宜伸農水相を罷免したのが唯一の例。
  12. ^ なお、このとき内閣総理大臣臨時代理であった伊東正義内閣官房長官は1位で当選している。また、大平の立候補していた旧香川2区には、娘婿の森田一補充立候補し、これも1位で当選している。
  13. ^ 後に中央工学校を卒業しているが、当時の中央工学校は学制上の学校ではなかった。
  14. ^ 羽田はこの他にも太陽党党首・民政党党首も歴任している。
  15. ^ 内閣総理大臣を退任した者が総裁を除く自由民主党執行部(いわゆる党四役)に就任した事例は2021年現在ないが、谷垣禎一は自民党総裁を退任した後に自民党幹事長に就任している。
  16. ^ 最も若い任命時点の年号を示す。
  17. ^ 退陣理由 の()内の数字は歴代数を示す。
  18. ^ なお、陸軍次官当時、陸軍大臣宇垣一成の病気療養に伴い陸軍大臣代行を務めた。この時は班列として閣員に列しているが、班列は正式な国務大臣ではない。

出典

  1. ^ a b 内閣官房組織等英文名称一覧”. 内閣官房. 2022年7月11日閲覧。
  2. ^ 大辞林 第三版
  3. ^ 百科事典マイペディア『内閣総理大臣』 - コトバンク
  4. ^ 田中嘉彦 2015, p. 57.
  5. ^ a b c 田中嘉彦 2015, p. 58.
  6. ^ a b c d e 世界大百科事典 第2版『内閣総理大臣』 - コトバンク
  7. ^ a b c 日本大百科全書(ニッポニカ)『元首』 - コトバンク
  8. ^ a b ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典『元首』 - コトバンク
  9. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ)「宰相」の解説『宰相』 - コトバンク
  10. ^ Prime Minister of Japan and His Cabinet”. 内閣官房内閣広報室. 2022年7月11日閲覧。
  11. ^ The Constitution of the Empire of Japan National Diet Library 2021年10月1日閲覧。
  12. ^ 渡邉譽『日本国憲法』p.198(北樹出版
  13. ^ 伊藤真. “第328回 言葉と民主主義”. 伊藤塾. 2023年8月12日閲覧。
  14. ^ a b 解散権』 - コトバンク
  15. ^ 樋口陽一・中村睦男・佐藤幸治・浦部法穂著 『注解法律学全集3 憲法Ⅲ(第41条~第75条)』 青林書院、1998年、218頁
  16. ^ ところで日本の首相は「弾劾」できるのか 坂東太郎 十文字学園女子大学非常勤講師 Yahoo!ニュース、2019年12月19日。
  17. ^ a b 七条解散』 - コトバンク
  18. ^ a b 解散[議会]』 - コトバンク
  19. ^ 法令用語研究会編「有斐閣 法律用語辞典(第3版) 2006, p. 374.
  20. ^ 長野和夫 2006, p. 170.
  21. ^ 渡邉譽『日本国憲法』p.36(北樹出版
  22. ^ 芦部信喜 2016, p. 47.
  23. ^ 衆議院憲法調査会『衆議院憲法調査会報告書』衆議院事務局、2005年4月15日、293頁。 
  24. ^ 衆議院内閣委員会『第71回国会 衆議院内閣委員会議録』 第16号、衆議院事務局、1973年4月17日、40-41頁https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=107104889X01619730417&current=11 
  25. ^ 参議院予算委員会 平成12年(2000年)4月25日における津野 修内閣法制局長官の答弁。第147回国会 参議院 予算委員会 第14号 平成12年4月25日
  26. ^ 佐藤功著 『新版 憲法(下)』 有斐閣、1984年、859-860頁
  27. ^ 樋口陽一・中村睦男・佐藤幸治・浦部法穂著 『注解法律学全集3 憲法III(第41条~第75条)』 青林書院、1998年、216-217頁、219頁
  28. ^ 佐藤功著 『新版 憲法(下)』 有斐閣、1984年、826-827頁
  29. ^ 国会法第65条2
  30. ^ s:親任式及び認証官任命式の次第
  31. ^ 国会法第64条
  32. ^ 『尾崎三良自叙略伝』
  33. ^ 安倍前首相 辞任後も私邸に警察官…異例の2億円警備続くワケ”. 琉球新報社. 2022年7月11日閲覧。
  34. ^ “野田元首相 SPゼロにぼやき「ドア開閉の人いない」”. 毎日新聞. (2018年1月18日). https://mainichi.jp/articles/20180118/k00/00e/010/162000c 2022年7月11日閲覧。 
  35. ^ 宮武外骨『明治奇聞』河出文庫、1997年、241頁。ISBN 4-309-47316-4






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