ちあん‐しゅつどう【治安出動】
【治安出動】(ちあんしゅつどう)
自衛隊法で定められた、自衛隊の行動に関する規定の一つ。
警察力での対応が不可能な規模の暴動・騒乱・クーデターなどに際し、治安を回復する目的で自衛隊を展開させる事。
都道府県知事の要請および内閣府での検討に応じ、内閣総理大臣の権限によって発令される。
また、発令に際して必要であれば海上保安庁も防衛大臣の統制下に置かれる。
治安出動が命令される程の事態を引き起こしうるのは、(致死性の極めて高い)感染症の大規模流行や自然災害による国家機能のマヒ、武装ゲリラや暴徒化した市民が参加する大規模な武力闘争などが挙げられる。
出動部隊所属の自衛官・海上保安官には警察官職務執行法が準用され、必要に応じた武器の使用が認められる。
無論、正当防衛および緊急避難を除いては部隊指揮官の命令に従わなければならない。
しかし、部隊指揮官は暴徒の殺害を決断するものと推定され、流血はまず避けられない。
法令としての運用実態
自衛隊法の制定から2012年現在に至るまで、自衛隊に治安出動が発令された事はない。
1960年代、日本国内で共産主義者の扇動による市民団体・学生・労働組合の暴動が多発。
これに対して国内のテロリスト排除を目的とした治安出動が検討されたが、棄却された。
1995年、地下鉄サリン事件への対応として治安出動に備えた警戒態勢が敷かれた。
オウム真理教への強制捜査に対し、信徒による報復テロの発生を警戒してのものである。
報復テロが発生する事はなかったため、実際に発令されるには至らなかった。
治安出動の発令は、日本国内の治安が崩壊した事を公的に宣言するも同然である。
諸外国は当然この事態に対応し、各国で「渡航の安全に関する情報」が発表される事になる。
日本へ渡航しようとした外国人の多くは引き返して母国に戻り、滞在中の外国人も国外に退避する。
こうした措置は貿易や通信を大きく制限し、国家経済に甚大なダメージを与えるだろう。
また、治安出動は国民の人権を事実上剥奪し、これを「暴徒」として殺害する行為に他ならない。
これを行えば人道的見地から激しい批判を避けられず、国の内外を問わず国家の威信を大きく傷つける。
さらに、暴力による人間の排除は、それに数倍する遺族・関係者に怨恨を植え付ける行為でもある。
そうした被害者が報復を望み、反政府テロに傾倒する事はまずもって疑いない。
「自衛隊に射殺された暴徒の家族」が事件後に正常な社会生活を営めるとは考えにくい。
多くは有形無形の社会的差別を受ける事となり、被害者同士での相互互助を必要とするようになる。
結果、怨恨で結ばれた市民団体が一つ誕生する事となり、これがテロリズムの温床となる。
そして「テロリズムの温床として弾圧される」「弾圧に耐えるために相互互助する」という悪循環が形成される。
このように、治安出動には国家経営上とても無視できないリスクがつきまとう。
あらゆる近代軍隊がそうであるのと同様、自衛隊が実戦に投入されるのは既に最悪の事態である。
治安出動は治安維持における「伝家の宝刀」であり、それを鞘から引き抜く事は誰にも望まれていない。
治安出動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/30 01:52 UTC 版)
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治安出動(ちあんしゅつどう)とは、日本において一般の警察力をもっては治安を維持することができないと認められる場合に、内閣総理大臣の命令により行われる自衛隊の行動。自衛隊法78条または81条に基づく。
概要
治安出動には2種類あり、内閣総理大臣の命令による治安出動を「命令による治安出動」(自衛隊法78条)といい、都道府県知事の要請による治安出動を「要請による治安出動」(同法81条)という。「要請による治安出動」の場合も、自衛隊に出動を命じるのは内閣総理大臣である。
いずれの治安出動においても、警察官職務執行法を準用し、必要な「武器の使用」が認められる。ただし、出動自衛官による「武器の使用」に当たっては、正当防衛または緊急避難に該当する場合を除き、部隊指揮官の命令によらなければならない。
これまで、安保闘争、1960年代の学生運動、労働争議、新宿騒乱、あさま山荘事件等への対応やオウム真理教事件における教団への強制捜査において治安出動が検討されたことはあり、治安出動の請願が地方議会で可決されたこともある。しかし、“軍隊”の実力を騒動鎮圧や治安維持に用いるのと同じなので、実際に治安出動が発令されたことは一度もない。破壊活動防止法と並んで、治安維持における「伝家の宝刀」と呼ばれる。発令された場合は、諸外国の外務主管庁から“渡航の安全に関する情報”(渡航自粛・退避・出国勧告)が自国民に出される大規模な暴動や内乱が国内で起きている事になる。
1954年9月30日、木村篤太郎防衛庁長官と小坂善太郎国家公安委員会委員長との間で9項目からなる「治安出動の際における治安の維持に関する協定」が締結された。2000年12月4日に協定は改正され、2002年には各都道府県警察と陸上自衛隊師団等との間で治安出動に関する現地協定が締結された。従来の協定は暴動鎮圧を想定していたが、現行の協定は武装工作員によるテロ、ゲリラへの対処を重視している。出動時には自衛隊単独でなく警察と共同行動をとることが想定されているため、2000年代に入り都道府県警察と陸上自衛隊との共同訓練が実施されている[1]。
命令による治安出動
内閣総理大臣は、「間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもっては、治安を維持することができないと認められる場合」には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる(自衛隊法78条1項)。同条に基づく治安出動を「命令による治安出動」という。
国会の承認
命令による治安出動では、内閣総理大臣は、出動を命じた日から20日以内に国会に付議して、その承認を求めなければならない(同条2項)。ただし、国会が閉会中の場合又は衆議院が解散されている場合には、その後最初に召集される国会において、すみやかに、その承認を求めなければならない(同条項ただし書き)。国会により、不承認の議決があったとき、又は出動の必要がなくなったときは、内閣総理大臣は、すみやかに、自衛隊の撤収を命じなければならない(同条3項)。
武器の使用
治安出動により出動した自衛官は、警察官職務執行法を準用して、必要な「武器の使用」が認められる。この場合に、出動した全自衛官が武器を使用するには、正当防衛または緊急避難に該当する場合を除き、当該部隊指揮官の命令によらなければならない(89条)。
治安出動により出動した自衛官は、警察官職務執行法を準用した「武器の使用」のほか、次の場合に該当すると認める相当の理由があるときは、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる(90条)。
- 職務上警護する人、施設又は物件が暴行又は侵害を受け、又は受けようとする明白な危険があり、武器を使用するほか、他にこれを排除する適当な手段がない場合
- 多衆集合して暴行若しくは脅迫をし、又は暴行若しくは脅迫をしようとする明白な危険があり、武器を使用するほか、他にこれを鎮圧し、又は防止する適当な手段がない場合
- 前号に掲げる場合のほか、小銃、機関銃(機関けん銃を含む。)、砲、化学兵器、生物兵器その他その殺傷力がこれらに類する武器を所持し、又は所持していると疑うに足りる相当の理由のある者が暴行又は脅迫をし又はする高い蓋然性があり、武器を使用するほか、他にこれを鎮圧し、又は防止する適当な手段がない場合
これらは治安出動に対して警察比例の原則を適用する内容となっている[2] 。
治安出動待機命令
防衛大臣は、事態が緊迫し、命令による治安出動命令が発せられることが予測される場合において、これに対処するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の全部又は一部に対し出動待機命令を発することができる(79条1項)。この場合においては、防衛大臣は、国家公安委員会と緊密な連絡を保つものとする(同条2項)。
治安出動下令前に行う情報収集
防衛大臣は、事態が緊迫し命令による治安出動命令が発せられること及び小銃、機関銃、砲、化学兵器、生物兵器その他その殺傷力がこれらに類する武器を所持した者による不法行為が行われることが予測される場合において、当該事態の状況の把握に資する情報の収集を行うため特別の必要があると認めるときは、国家公安委員会と協議の上、内閣総理大臣の承認を得て、武器を携行する自衛隊の部隊に当該者が所在すると見込まれる場所及びその近傍において当該情報の収集を行うことを命ずることができる(79条の2)。これを「治安出動下令前に行う情報収集」という。
「治安出動下令前に行う情報収集」の職務に従事する自衛官は、当該職務を行うに際し、自己又は自己と共に当該職務に従事する隊員の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる(92条の5)。ただし、正当防衛または緊急避難に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない(同条ただし書き)。
海上保安庁の統制
内閣総理大臣は、治安出動の命令があった場合において、特別の必要があると認めるときは、海上保安庁の全部又は一部をその統制下に入れることができる(91条)。この場合において、統制下に入った海上保安庁は、防衛大臣にこれを指揮させるものとする。内閣総理大臣は、その必要がなくなったと認める場合には、すみやかに、この海上保安庁の統制を解除しなければならない。
要請による治安出動
都道府県知事は、「治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認める場合」には、当該都道府県の都道府県公安委員会と協議の上、内閣総理大臣に対し、部隊等の出動を要請することができる(81条1項)。内閣総理大臣は、都道府県知事による要請があり、「事態やむを得ないと認める場合」には、部隊等の出動を命ずることができる(同条2項)。
都道府県知事は、事態が収まり、部隊等の出動の必要がなくなったと認める場合には、内閣総理大臣に対し、すみやかに、部隊等の撤収を要請しなければならない(同条3項)。内閣総理大臣は、撤収の要請があった場合又は部隊等の出動の必要がなくなったと認める場合には、すみやかに、部隊等の撤収を命じなければならない(同条3項)。都道府県知事は、治安出動の要請をした場合には、事態が収った後、すみやかに、その旨を当該都道府県の議会に報告しなければならない(同条4項)。
「要請による治安出動」に際しての出動自衛官による「武器の使用」の権限については、「命令による治安出動」と変わらない。
脚注
- ^ 一例として、『読売新聞』朝刊2018年1月38日(都内版)記事、「治安出動」を想定 共同訓練*警視庁と陸自から160人
- ^ “武器使用規定 防衛省”. 2023年1月5日閲覧。
関連項目
- 治安
- 警察比例の原則
- 海上警備行動
- 警護出動
- 防衛出動
- 憲法学会 - 日本学術会議協力学術研究団体
- 戒厳/非常事態宣言
- 暴動/暴動鎮圧
- 三矢研究 - 戦前の戒厳令をモデルにした治安出動における自衛隊の対応や、有事における治安維持のための法整備も研究された。
- ジャパッシュ - 作品中に登場する。
- 機動警察パトレイバー 2 the Movie - 劇中中盤で警察に不信を抱いた政府によって「首都圏の治安を維持し、予測される最悪の事態に対処するため」という理由で発動され、「信頼のおける部隊」という名目で第1師団・富士教導団などの部隊が東京に展開する。なお、劇中では「治安出動」という用語は出てこない。
- 三島由紀夫 - 治安出動を利用すればクーデターを起こせると主張していた。
治安出動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 17:33 UTC 版)
詳細は「治安出動」を参照 自衛隊の治安出動は自衛隊法第78条および第81条によって定められており、第78条では命令による治安維持を定めている。内乱や騒擾状態など何らかの理由により警察力のみでの治安維持が不可能となった場合に内閣総理大臣の命令により出動する。国会の承認は命令出動後20日以内に付議される。 第81条では都道府県知事からの要請を受けた場合の治安維持を定めており、国会の承認は必要なく内閣総理大臣の命令によって出動を行う。基本的に治安維持活動の場合警察官職務執行法を準用する。この治安出動は、1960年代の安保闘争の際に発動が検討されたが、実際には出動しなかった。これまでに治安出動が命じられたことはない。
※この「治安出動」の解説は、「自衛隊」の解説の一部です。
「治安出動」を含む「自衛隊」の記事については、「自衛隊」の概要を参照ください。
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