皇室 概要

皇室

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 16:15 UTC 版)

概要

剣璽等承継の儀
1989年(昭和64年)1月7日

皇室の身位には日本国憲法及び皇室典範(昭和22年法律第3号)に定める天皇、皇室典範第5条に定める、天皇(男性)の配偶者である皇后、先代の天皇の未亡人である皇太后、先々代の天皇の未亡人である太皇太后、また、皇太子(皇太孫)及び皇太子妃(皇太孫妃)(皇嗣及び皇嗣妃)、皇族男子たる親王、さらには生まれながらの皇族女子である内親王女王がある。親王妃王妃は親王、王の配偶者となることをもって、皇族とされる。

戦前(大日本帝国憲法旧皇室典範施行下)においては、帝室(ていしつ)とも呼ばれていた。

一般人(皇室に嫁ぐのに国籍条項はない。外国籍の女性と結婚した場合日本国籍を有しない皇族が誕生する可能性あり)の女性は、皇族男子との婚姻により皇族になることができる。また、15歳以上の内親王、王、女王はその意思により、皇太子、皇太孫を除く親王、内親王、王、女王は、その意思によるほかにやむをえない特別の事由があるとき、皇室会議の議決を経て皇族の身分を離脱できる(皇籍離脱)。なお、皇族女子は天皇、皇族以外の男性と婚姻したとき皇族の身分を離れる(皇籍離脱のうち、いわゆる臣籍降嫁)。

東洋史学岡田英弘によると、712年に完成した日本最古の史書『古事記』及び、720年に完成した日本最古の官撰書『日本書紀』では、「高天原」より日向高千穂山に下った(天孫降臨)太陽の女神天照大御神の孫邇邇芸命(天孫)の曾孫の神武天皇を初代とする一つの皇統が、一貫して日本列島を統治し続けてきたとされている[3]。『百科事典マイペディア』によると、神武天皇は「もとより史実ではない」としているが[4]、『国史大辞典』では神武天皇の「史的実在は、これを確認することも困難であるが、これを否認することも、より以上に困難なのである」としており[5]、天照大御神や初期天皇の実在性については古くより議論がある。また、皇統が分裂して、二系統が交互に皇位に就いた「両統迭立[6]、皇統が分裂抗争した「南北朝時代」という語が存在している[7]。『ブリタニカ国際大百科事典』によれば、文献に「天皇」の文字が現れたのは7世紀である[8]

一般国民との相違面

皇室の構成員である天皇及び皇族も、憲法第10条に規定された日本国籍を有する「日本国民」である[9]。天皇については、「日本国籍を有している」という前提で、天皇が「主権者としての国民」であるか否かが論じられ、憲法論の皇統譜についての箇所に「日本国籍を有する者でも戸籍に記載されない唯一の例外に天皇および皇族がある」と記載されている[10]。皇族については、皇室典範その他の法律により若干の制限はあるものの一般の国民との差異は本来大きいものではない。皇族の参政権は、皇族が戸籍を有しない為(詳細後述)、公職選挙法付則により当分の間停止されているだけである。しかし、実態として皇族の権利や自由は大きく制約されている。これは、「『皇族という特別な地位にあり、天皇と同じように制限されるべきだ』という考え方が市民の間で根強かったため」であるとされる[11]

このようなことから、皇族には一般国民に保障されている人権が存在しない[12]とされることもある。奴隷的拘束や苦役からの自由(憲法第18条)、居住移転の自由、職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由(憲法第22条)等が事実上ない皇室の在籍者は、安全のため24時間体制で公私に関係なく行動を監視され、外出時も必ず皇宮警察皇宮護衛官あるいは訪問する都道府県警察警視庁および各道府県警察本部)所属の警察官による警護の下で行動しなければならない。従って、一般国民が利用する実店舗に赴くことは出来ず、物品の購入方法は外出が不要な百貨店のカタログ持参による外商Amazonのような通信販売を利用することが大抵である。Amazonなどの通信販売サービスの利用については宮内庁職員や私的使用人の名前で注文し、商品受取時に皇族が対応することは一切ない。皇室在籍者は、親密な交際相手であっても一般国民であれば、電話インターネットを介した連絡までは頻繁に行うが、対面で会話することは殆どない[13]

宗教面では、事実上信教の自由(憲法第20条)がない天皇は日本神話により天照大神の子孫とされ、宮中祭祀などの神儀祭事は神道に則って行う必要がある[14]

生活面で、日常の食事は宮内庁大膳課の料理長が皇室専属の医師と相談しながら、1日の摂取カロリーの上限を1800kcalとし、栄養価を計算した献立で作るため、品数が少なく質素であるとされている[15]。献立は「和食」と「洋食」を採用している。「中華料理」が食卓に上ることは殆どないと言う[16]

経済面において、皇室は皇室経済法の規定により国庫から支払われる「皇室費」を収入として生活しており、公的な活動に掛かる費用は「宮廷費」で賄い、私的な費用は、天皇・皇后と皇太子一家の場合は「内廷費」で、その他の宮家は「皇族費」で賄っている。例えば、秋篠宮家には、年間6710万円の皇族費国庫から支払われている(平成時代の場合)。警備上の理由により、皇室の在籍者はアルバイトをすることができない[17]

皇室構成員は、一般国民が登録される戸籍ではなく「皇籍を有する者」であり、「皇統譜(こうとうふ)」にその名が記される。皇統譜の人名は「称号+名+身位」で構成され、氏(苗字)を持たない。例えば、第126代天皇徳仁と皇后雅子の皇女子の敬宮愛子内親王の「敬宮」(としのみや)は、あくまで「称号」であり「苗字」ではなく、内親王は身位である(詳細後述)。皇族が結婚等により皇室を離れる場合、皇統譜に皇籍離脱の登録を行い、代わりに戸籍を作成して一般国民になり、名前についても氏(苗字)を与えられ、敬称も尊敬を意味する敬称の「さま」から対等を意味する敬称の「さん」に変わる。つまり、公人から私人となり、様々な法的措置を講じる事が出来るようになるため、報道における制限も厳しくなる。

議論

皇室は「家」であるのか?

皇室の構成員は、天皇およびその男系血脈による近親者で構成されており、「皇家」「天皇家」と通称されるなど、一種の「家」とみなされる。

学説では、皇室とは総皇族の一団による家であり、その家長が天皇である、という説がある。これに対して、例えば宮内官僚の酒巻芳男は、皇室は民法に定めたような私的な生活単位としての「家」ではなくて、統治権の総攬者としての天皇と、その近親者によって構成される国家の一組織である、と述べている。すなわち、皇室は「家」であることには変わりないが、民法に定められた「家」とは異なる、公的な立場を持った特殊な「家」である、といえる[18]

皇室は法人か?

皇室が法人性を有するかについては、学界でも議論が分かれる。主な学者では、美濃部達吉は法人説、佐々木惣一は非法人説を主張した。ただし、法制面および行政面においては、皇室は法人格を有していない[19]


注釈

  1. ^ 延べ面積。
  2. ^ 兆域の重複を勘案。
  3. ^ 内閣紋章は七五桐。

出典

  1. ^ NHK特設サイト『平成から令和へ 新時代の幕開け』 「新しい皇室の姿」
  2. ^ 「上皇の身分に関する事項の登録、喪儀及び陵墓については、天皇の例による。」(天皇の退位等に関する皇室典範特例法第3条第3項)
  3. ^ 岡田英弘「第五章 最初の王朝」(『倭国』中央公論社,1977, pp.147-183)、「神話が作った大和朝廷」(『日本史の誕生』筑摩書房,2008)pp.245-267。
  4. ^ 平凡社, “神武天皇”, 『百科事典マイペディア』, VOYAGE GROUP・朝日新聞社, https://kotobank.jp/word/%E7%A5%9E%E6%AD%A6%E5%A4%A9%E7%9A%87-82633#E7.99.BE.E7.A7.91.E4.BA.8B.E5.85.B8.E3.83.9E.E3.82.A4.E3.83.9A.E3.83.87.E3.82.A3.E3.82.A2 2018年3月6日閲覧。 
  5. ^ 国史大辞典吉川弘文館
  6. ^ 新田英治, “両統迭立”, 『日本大百科全書(ニッポニカ)』, VOYAGE GROUP・朝日新聞社, https://kotobank.jp/word/%E4%B8%A1%E7%B5%B1%E8%BF%AD%E7%AB%8B-150055#E6.97.A5.E6.9C.AC.E5.A4.A7.E7.99.BE.E7.A7.91.E5.85.A8.E6.9B.B8.28.E3.83.8B.E3.83.83.E3.83.9D.E3.83.8B.E3.82.AB.29 2018年8月18日閲覧。 
  7. ^ VOYAGE GROUP朝日新聞社, “南北朝時代”, 『コトバンク』, VOYAGE GROUP・朝日新聞社, https://kotobank.jp/word/%E5%8D%97%E5%8C%97%E6%9C%9D%E6%99%82%E4%BB%A3-108982 2015年5月24日閲覧。 
  8. ^ フランク・B・ギブニー編『ブリタニカ国際大百科事典』14巻、ティビーエス・ブリタニカ、1993年、第2版改訂版、9頁。全国書誌番号:74006385
  9. ^ 芦部信喜『憲法』p86
  10. ^ 憲法(1) 第3版(有斐閣)野中俊彦 中村睦男 高橋和之 高見勝利 216頁 / 憲法 新版補訂版(岩波書店)芦部信喜 86頁 / 憲法学(2)人権総論(有斐閣)芦部信喜 106頁 115頁 / 憲法 第3版(弘文堂)伊藤正己 199頁 / 憲法 第3版(青林書院)佐藤幸治 415頁 / 体系・戸籍用語辞典(日本加除出版)114頁
  11. ^ “皇族の「人権」どこまで? 目につく「不自由さ」”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2020年1月20日). https://www.asahi.com/articles/ASN196K0KN19UPQJ00R.html 2020年12月7日閲覧。 
  12. ^ 倉山満 (2019年4月1日). “皇族に人権はない。当たり前の事実を、日本人は忘れてしまったのか?”. 日刊SPA! (扶桑社). https://nikkan-spa.jp/1562553 2019年5月4日閲覧。 
  13. ^ “Kさん 「皇室のしきたり」を破り記者は顔色を変えた”. NEWSポストセブン (小学館). (2018年8月10日). https://www.news-postseven.com/archives/20180810_737674.html?DETAIL 2020年12月7日閲覧。 
  14. ^ “佳子さまICU志望”で考えた 皇室とキリスト教はどんな関係? 〈週刊朝日〉”. AERA dot.. 朝日新聞出版 (2014年10月30日). 2019年5月5日閲覧。
  15. ^ 元「天皇の料理番」に聞いてみた!天皇陛下は普段のお食事で何を召し上がっているの?”. テレビドガッチ. プレゼントキャスト (2019年2月10日). 2020年12月7日閲覧。
  16. ^ 皇族のプライベート 私生活や食事はどうなっているのか?禁止事項や買い物・テレビについて”. 皇室の話題 (2015年3月5日). 2015年3月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年12月7日閲覧。
  17. ^ “皇族の買い物事情 百貨店の外商が主流、Amazonもご利用”. NEWSポストセブン (小学館). (2017年5月27日). https://www.news-postseven.com/archives/20170527_558842.html/2 2019年5月5日閲覧。 
  18. ^ 里見, pp. 499–501.
  19. ^ 里見, p. 501.
  20. ^ 天皇皇后両陛下 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  21. ^ a b 天皇の退位等に関する皇室典範特例法に基づく身位。
  22. ^ 上皇上皇后両陛下 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  23. ^ 秋篠宮家 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  24. ^ 常陸宮家 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  25. ^ “寛仁親王家廃止、5宮家に=1年前にさかのぼり-ご一家、三笠宮家でお世話・宮内庁”. 時事ドットコム (時事通信社). (2013年6月10日). オリジナルの2020年5月20日時点におけるアーカイブ。. https://archive.ph/tHfDM 2013年6月10日閲覧。 
  26. ^ “寛仁親王家廃し三笠宮家に合流 逝去1年、当主決まらず”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2013年6月10日). オリジナルの2020年5月20日時点におけるアーカイブ。. https://archive.ph/46Ae7 2013年6月10日閲覧。 
  27. ^ 三笠宮家 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
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  29. ^ 皇室の構成図 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  30. ^ 東久邇成子(昭和天皇第1子、照宮成子内親王)、久宮祐子内親王(同第2子)、鷹司和子(同第3子、孝宮和子内親王)、池田厚子(同第4子、順宮厚子内親王)、島津貴子(同第7子/末子、清宮貴子内親王)
  31. ^ 近衞甯子(三笠宮崇仁親王第1子、やす子内親王)、千容子(同第4子、容子内親王)
  32. ^ 主要祭儀一覧 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  33. ^ 山本淳, 小幡純子 & 橋本博之 2003, p. 23-24.
  34. ^ 予算 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  35. ^ 『週刊ダイアモンド 2016 9/17 36号』 ダイヤモンド社
  36. ^ 皇室の経済”. 宮内庁 (2019年9月6日). 2019年9月15日閲覧。
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  38. ^ 陵墓地形図集成 縮小版 & 2014年, pp. 5–6.
  39. ^ a b c d 吉田孝 『日本の誕生』 岩波書店<岩波新書>、1997、ISBN 4004305101
  40. ^ 吉村武彦 「倭の五王の時代」 『古代史の基礎知識』 角川書店<角川選書>、2005、ISBN 4047033731
  41. ^ 熊谷公男 『日本の歴史03 大王から天皇へ』 講談社 2001年 ISBN 4-06-268903-0 p.237.
  42. ^ 岸俊男 『日本の古代6 王権をめぐる戦い』 中央公論社 1986年 ISBN 4-12-402539-4 p.53.
  43. ^ 『新視点 日本の歴史2 古代編Ⅰ』 p.314.
  44. ^ 同『日本の歴史03 大王から天皇へ』 p.237.
  45. ^ 森田悌 『推古朝と聖徳太子』 岩田書院 2005年 ISBN 4-87294-391-0 p.145.
  46. ^ 同『推古朝と聖徳太子』 p.145.
  47. ^ 同『推古朝と聖徳太子』 p.146.
  48. ^ 王仲殊 西嶋定生監訳 桐本東太訳 『中国からみた古代日本』 学生社 1992年 ISBN 4-311-20181-8 p.145.
  49. ^ 皇室会議議員名簿 - 宮内庁”. 宮内庁. 2019年5月3日閲覧。
  50. ^ a b 警察法 第29条
  51. ^ 皇宮警察本部
  52. ^ 皇宮警察本部とは
  53. ^ 平成25年警察白書 P201「皇宮警察本部の活動」





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