木 木の利用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/15 09:17 UTC 版)

木の利用

素材

再び木材の良さが見直され始めた

人類にとって木は最も身近にある存在の一つであり、木をそのまま、あるいは素材として、有史以前からさまざまな用途に使用してきた。

木の利用として最も一般的なものは、木を切り倒して木材とすることである。木材は建築材や家具楽器やスポーツ用品、各種日用品などさまざまな道具の材料として利用される。材木の供給を求めての人工林も作られる。内装に無垢材を使用した家はシックハウス症候群対策に再び見直されはじめた。また、フィトンチッドと総称される木の発する香りはリラックス効果が認められている[20]沈香白檀などの芳香を持つ木は香木として古来より珍重され、これらのを楽しむ香道と呼ばれる芸道も日本には存在する。中世に入り蒸留法が一般化すると、こうした香り成分を蒸留して精油(エッセンシャルオイル)と呼ばれる芳香成分を抽出することが広く行われるようになり、食品や化粧品、そしてアロマテラピーなどで盛んに使用されるようになった[20]

また、人類の歴史のはじめから、燃料としても利用されてきた。木をそのまま切ったのち乾燥させたものはと呼ばれ、人類の最も基本的な燃料の一つとなった。さらにこの木を蒸し焼きにして炭化することで、燃料としての有用性を高めたのが(木炭)である[21]。木炭は石炭が燃料の主役となるまで世界で広く使用され、現代においても一部で使用されることがある。先進国においては電気ガスが完全に燃料の主体となり、木を燃料とすることは特殊な状況を除きそれほど行われなくなっているが、こうしたインフラの整っていない発展途上国においては木はいまだに燃料の主役となっている。しかしこうした薪炭用の木材使用は途上国における森林破壊の主因の一つとなっている[22]。また、先進国においても2000年代以降、地球温暖化原油価格の高騰などによって再生可能エネルギーが注目されるようになり、木もその一部として木質ペレットのように固形化したり、セルロースを分解してバイオマスエタノールの原料にするなどの方法で再び燃料としての注目度が高まっている[23]。なお、木を直接燃やすほかに、ハゼノキシロダモ、ウルシの実からを取って木蝋とし、ろうそくの原料とすることもかつては広く行われ、現代においても使用されることがある[24]

樹皮もまた、古来より様々な用途に用いられた。樹皮からは長い繊維が取れるため、オヒョウの樹皮から作られるアイヌ人アットゥシや、カジノキから作られる南太平洋タパのように、樹皮からを作ることも行われた。カジノキの樹皮はの原料として中国で使用され、日本においてもカジノキの近縁であるコウゾ和紙の主原料として使用された[25]。樹皮ではなく木全体の繊維からパルプを作り使用するようになったものの、木はいまだに紙の主原料であることには変わりなく、木材の消費において大きな部分を占めている[26]。木を基盤とした製材業・木材工業製紙業はいずれも現代工業の中である程度の割合を占めている。また、木を焼くと初期の化学工業に重要であったを生産することができ、これが近代化以前のヨーロッパにおいてガラス工業が森林に立地する理由となった。木はこのほかにも、加熱処理を行うことで様々な化学物質を生産することができる。この処理は木炭生産に付随して行うことができ、19世紀にいたるまでは、木炭生産の副産物として酢酸メタノールアセトンテレピン油クレオソートピッチなどが生産されていた。こうして木材の利用から初期の化学工業が成立したが、やがてコークス生産時に出るコールタール石油に原料の座を取って代わられることとなった[27]

このほか、木を傷つけてそこから流れだす樹脂を使用することも広く行われている。こうした利用のうち最も重要なものはゴムの採取であり、電気機械や輸送機械の発展に非常に重要な役割を果たした。合成ゴムが開発されると天然ゴムの重要性は低下したが、現代においても採取は行われている[28]。樹液の利用としては、ウルシの木から採取される塗料として漆器などに使用され[29]松脂およびそれからできるテレピン油ロジンも各種用途に使用される。コルクガシは樹皮をコルクとして使用する。

食用・薬用

上記のような素材としての利用のほか、木をそのまま食料源とすることも広く行われる。木質化している部分は人間の食糧として使用することはできないが、若葉や果実、塊茎などさまざまな部分が人類の食糧として使用されてきた。なかでも木の食糧利用として最も重要なものは、果実を果物として使用することである。果物が収穫できる木(果樹)はしばしばのように一定の区画に一つの樹種を集めて栽培され、その区画は果樹園と呼ばれる。果物を収穫するためにブドウリンゴ柑橘類など様々な果実が栽培されている。このほか、アーモンドピスタチオなどのように種子をナッツとして食用とすることも行われる。ナッツにはアーモンドやクルミのように油脂を主成分とするものと、クリトチのようにデンプンを主成分とするものがあり、特に後者は非農耕社会や山村においては主食として大きな役割を果たしてきた[30]

直接食用のほか、アカシアなどの木はミツバチが集める蜂蜜蜜源としても使用される。サトウカエデサトウヤシのように、樹液から砂糖メープルシロップといった甘味料を採取できる木もある[31]セイロンニッケイ(シナモン)の樹皮やコショウの種子のように、香辛料として使用される木もある。アブラヤシの木からパーム油ココヤシからココナッツオイルといった油脂を採取できる木もあれば、カカオコーヒーノキといった嗜好品生産になくてはならない木もある。

2018年には木に酵素酵母を加えて発酵させ、木の香りのあるを作る技術が森林総合研究所で開発された[32]

特殊な利用法として、サゴヤシの木からは木質化した樹幹に蓄えられているデンプンを採取して主食とする[33]。またアク抜きしたの微細な木粉を食物繊維として食品に添加する製品も販売されている[34]

目印・標識

所有する畑の境界がわかるように木を植えたりなどが見られる。

森林においては、林業を行うが伐採をする樹木を選別するのにReißhakenドイツ語版というナイフでX印などに傷を付けたり、動物の縄張りを示すためにクマハギ(熊剥ぎ)を行なったりする。こういった木を傷つける行為は木が枯れる原因となるため、樵はテープ(選木テープ)や着色マーカーを使うようになった(これらのマークは、樵によって異なり統一するルールはない)[35]

また、登山者や山岳会などが、道に迷わないようコースサインとしてテープや着色マーカーを使うケースがある[36]

その他にも、行政が土地を買うため[37]、水源管理や電力会社、山菜取りなどで、森林の木にテープを巻き付ける場合があり、これによって登山者が迷う例もみられる[38]

盆栽

生きた木は木陰を作り、日除け、風除けの防風林、高潮を防ぐ防潮林といった保安林として利用できる[39]他、果実や葉、樹液や幹が食糧となる種もあり、人家周辺に木を植える事は世界に広く行われている。

潤いと木陰を求めて樹木を栽培することもよく行なわれる。市街地の道路に沿って植栽されたものを街路樹、道路の他、河川や単に並んで生えているものは並木、庭の仕切りとするものを生垣、家を覆うように作られるのが屋敷林といったふうに、様々な呼び名がある。また、屋敷林とは別に、住居に付属する庭園庭木を植栽し、美観を整えることは広く行われている[40]。こうした用途に使用するための樹木の栽培は、園芸農業の重要な一部分を占めている。世界の各地には開発や災害などから逃れ長い時間生き延びた巨樹(巨木)や老木が多く存在しており、一部は保護対象や観光名所、天然記念物となっている。

また、地球温暖化の危険性が近年叫ばれる中で、森林の効用が注目されるようになってきている。樹木は光合成によって地球の大気に含まれる温暖化ガスである二酸化炭素を吸収して自身を成長させているため、樹木を増やすことは有効な温暖化対策の一つである[41]。ただし、成熟した樹木になると二酸化炭素の吸収量に対する呼吸量(排出量)が段々と多くなるため、二酸化炭素の吸収を維持するためには定期的に森林の手入れをする必要があるとされている[42]


  1. ^ a b c d e f g 平凡社『世界大百科事典』vol.6:「き 木」岩槻邦男執筆箇所(p.528)
  2. ^ a b c 「き【木・樹】」『広辞苑』第五版 p.620
  3. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.52
  4. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.57
  5. ^ 尾池和夫 (2007年4月6日). “京都大学-大学の紹介/総長室 2007年4月6日 大学院入学式 式辞”. 2008年4月9日閲覧。
  6. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)p.38
  7. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.53
  8. ^ 関岡東生監修『図解 知識ゼロからの林業入門』(家の光協会 2016年11月1日第1版発行)p.56
  9. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)p.27
  10. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)p.28
  11. ^ 堀大才『絵でわかる樹木の知識』(講談社 2012年6月20日第1刷発行)p.55
  12. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)pp.28-29
  13. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)pp.34-35
  14. ^ 堀大才『絵でわかる樹木の知識』(講談社 2012年6月20日第1刷発行)p.6
  15. ^ 堀大才『絵でわかる樹木の知識』(講談社 2012年6月20日第1刷発行)p.42
  16. ^ Heijden, Marcel G. A. van der (2016-04-15). “Underground networking” (英語). Science 352 (6283): 290–291. doi:10.1126/science.aaf4694. ISSN 0036-8075. PMID 27081054. http://science.sciencemag.org/content/352/6283/290. 
  17. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 平凡社『世界大百科事典』vol.6:【き 木】の飯島吉晴および濱谷稔夫執筆箇所(pp.528-529)
  18. ^ 浅井治海『森と樹木と人間の物語: ヨーロッパなどに伝わる民話・神話を集めて』(フロンティア出版、2006年)p.42
  19. ^ 「登山の誕生」p80 中公新書 小泉武栄 2001年6月25日発行
  20. ^ a b NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.77
  21. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.26
  22. ^ 「世界の森林を守るために 3」環境省(2017年5月27日閲覧)
  23. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)pp.79-80 
  24. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)pp.29-30
  25. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.45
  26. ^ 前田秀一『トコトンやさしい紙と印刷の本』(今日からモノ知りシリーズ・日刊工業新聞社 2018年12月19日初版1刷発行)pp.10-15
  27. ^ ルイス・ダートネル著 東郷えりか訳『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』(河出書房新社 2015年6月30日初版発行)pp.128-131
  28. ^ ヘレン&ウィリアム・バイナム著 栗山節子訳『ビジュアル版 世界有用植物誌 人類の暮らしを変えた驚異の植物』(柊風舎 2015年9月22日第1刷)pp.156-159
  29. ^ 漆とは 香川県漆芸研究所(2020年12月10日)2022年7月20日閲覧
  30. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)pp.16-17
  31. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.78
  32. ^ 世界初の「木のお酒」?香りと味わいは 森林総研が開発 朝日新聞
  33. ^ 石毛直道『世界の食べもの 食の文化地理』(講談社学術文庫 2013年5月9日第1刷)pp.114-115
  34. ^ 「木粉混ぜ込んだパウンドケーキ」産経新聞』朝刊2022年9月4日(生活面)2022年9月10日閲覧
  35. ^ [1]
  36. ^ 登山者の「過剰」な目印?ピンクの塗料が樹木や岩に…「憤り感じた」”. 朝日新聞デジタル. 2022年2月28日閲覧。
  37. ^ ど~なの?DJ”. www.tbc-sendai.co.jp. 東北放送. 2022年2月28日閲覧。
  38. ^ 『PEAKS』2021年2月号 No.135 p.57
  39. ^ 福岡義隆 編『植物気候学』(古今書院 2010年3月10日初版第1刷発行)p.23
  40. ^ 「斉藤一雄・田端貞寿編著『緑の環境デザイン 庭から国立公園まで』(日本放送出版協会 昭和60年4月20日第1刷発行)pp.38-42
  41. ^ 地球温暖化防止に向けて 林野庁(2017年7月15日閲覧)
  42. ^ よくある質問 林野庁(2020年4月13日閲覧)



木曜日

( から転送)

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木曜日(もくようび)または木曜(もくよう)は、水曜日金曜日の間にあるの1日。








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