神秘主義とは? わかりやすく解説

しんぴ‐しゅぎ【神秘主義】


しんぴしゅぎ 【神秘主義】

超越的実在(神・絶対者)を、日常的感覚世界脱した内的直観によって直接体験しようとする宗教・哲学立場をいう。東洋では、インドヨーガ中国の道教密教イスラム教スーフィズム西洋ではプロティノス始まり新プラトン学派、エックハルト・ベーメらのドイツ神秘主義現代ではハイデッガーなどが代表的。英語のミスティシズムmysticism)などを神秘主義と訳すが、語源は〈目や口を閉じる〉という意味のギリシア語myeinにあり、通常的でないことが示されている。神との神秘的交流を扱うカトリック神学一部門を神秘神学呼び内的直観により神や宇宙根源表現しようとする文学神秘主義文学という。

神秘主義

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/01 15:32 UTC 版)

Hildegard of Bingenの作品

神秘主義(しんぴしゅぎ、: mysticism)とは、絶対者、最高実在、宇宙の究極的根拠などとされる存在)を、その絶対性のままに人間が自己の内面で直接に体験しようとする思想的立場やその実践のことである[1][2][3]。またそこでの哲学を神秘哲学と呼ぶ。対立的思潮・理論として理性主義などがあげられる。英語: mysticism などが「神秘主義」と訳されている[1]が、この mysticism語源をたどると ギリシア語: myein(眼や口を閉じる)に由来するとされており[1]、こうした表現が選ばれたことは、通常の表現に収まらない経験を示唆している[1]

概要

神秘主義の根本的な特質は、unio mystica (ウニオ・ミスティカ神秘的合一)と呼ばれる、絶対者と自己との合一体験にある[1]。行うことが人間を超えた絶対者との合一であり、通常の自己からすれば絶対的に他なる者との合一であるから、それは必然的に自己からの脱却、あるいは自己という枠を突破することを意味する[1]。つまり絶対者との合一は、脱自を行うということになり、神秘家というのは、いわゆる脱我(=エクスタシー)を体験している者である[1]。その体験において、我々が普段“自己”と信じているものは、絶対者の前に吸収されつくして無になり、同時に絶対者は対象ではなくなり、それが真の自己の根拠になる[1]。このような、“自己”の徹底的な死と復活と言える脱我的合一が神秘体験の宗教的な核心となっている[1]

神秘的合一

神秘主義における神秘的合一は、あくまで自己自身の内面を通して体験される、自己の最内奥におけるできごとである[1]。だからこそ、神秘主義では《》や《》が強調される[1]。(その点で、神秘主義というのは絶対者が世界にあるとする汎神論からは区別される[1]。)

自己の最内奥において、“自己”が破られる体験であり、そこにおいて無限の深さが開かれることである。魂の内奥が“自己”という枠を超えて神の秘奥であるような内面性を体験する[1]

合一体験はその最初期においては絶対的受動性とともにある[1]。自己が破られるという体験だからである[1]。自己からは突破できない自我性の最後の壁が彼方から破られる[2]。だが次に、それまで“自己”という枠によってふさがれてしまっていた《の無限の泉》から新しい生命が湧き出てきて、それが自分の生命となる[1]。逆説的なことに、絶対的受動性を経ることによって生の活発な高揚や無限感が与えられる[1]

こうした合一体験は、(日常的な感覚、当人以外の第三者が外面的・表層的に見ると)短い時間起きたように見え、長期間続いているようには見えない[1]。だが、それを体験した主体としては、自己理解や世界理解が根本的に入れ替わるほどに決定的なことが起きている[1]

歴史

西洋の最初期の神秘主義として挙げられるものに、古代ギリシャエレウシスの秘教オルペウス教ピタゴラス主義などがある。やや時代を下り、ネオプラトニズムキリスト教神秘主義なども西洋神秘主義思想の例である。

ユダヤ教に付随する神秘主義思想としてはカバラが、イスラーム教に由来する代表的な神秘主義としてはスーフィズムがある。

南アジアにおいては、バラモン教ウパニシャッドに見られるアートマン思想を基としてタントリズムなどの神秘主義思想が派生し、後に仏教密教にも影響を与えたとされる。また南インドバクティ思想も神秘主義的な色彩があるとされている。これらのインドの神秘主義思想群は、20世紀後半のニューエイジ運動に多大な影響を与えている。

東アジアでの神秘主義の歴史は前漢讖緯学に始まり、道教及びそれに付随する神仙思想、チベットの密教や日本の修験道などがそれに続く神秘主義思想とされている。禅宗は欧米人の一部の学者から神秘主義だと解釈されているが、日本人の禅宗学者と実践者は概してそれを否定している。

近世の神秘主義は、信仰的かつ共同体的な性格を持っていたが、一方、近代以降の神秘主義は、信仰のあるなしに関わらず個人的体験を中心とする[4]。近世ヨーロッパでは、人々が超常的な体験が起こりうると確信していたという信仰的現実があり、当時の神秘主義を理解する際には、そうした歴史性を考慮に入れる必要がある[4]

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 上田 1988.
  2. ^ a b 上田 1973.
  3. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説『神秘主義』 - コトバンク
  4. ^ a b 金子 2017, p. 12.

参考文献

関連項目

外部リンク


神秘主義

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/28 01:27 UTC 版)

クエーカー」の記事における「神秘主義」の解説

クエーカー信仰はよく神秘主義といわれるが、2つ理由から他の神秘主義とは異なっている。 まずクエーカー神秘論は、主として個人より集団対象にしている。プログラムなしのクエーカー集会は、集団神秘主義が現れる場所、すなわち参加者全員が共に聖霊の声に耳を傾ける場であると考えられている。 次にクエーカーの神秘主義は、直接外部現れることを強調するこの世から逃避するではなくクエーカー神秘論は、個人の神秘主義をこの世における現実行動転化する行動次々と更に大きな精神的な理解に(全体として個人集会で)導いていく。クエーカー導きとして特別な行動を取る聖霊呼びかけ言及する。ジョン・ウールマンは(この場合奴隷制度廃止運動個人集団どのように世界遍く良い方向変えてゆけるかの一例である。この過程聖霊新しい方法自身表し集団の神秘主義を示している。

※この「神秘主義」の解説は、「クエーカー」の解説の一部です。
「神秘主義」を含む「クエーカー」の記事については、「クエーカー」の概要を参照ください。

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