木材
(用材 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/24 08:15 UTC 版)
木材(もくざい)とは、様々な材料・原料として用いるために伐採された樹木[1]の幹の部分を指す呼称。
その用途は、切削など物理的加工(木工)された木製品に限らず、紙の原料(木材パルプ)また、薪炭材(しんたんざい。薪や木炭)に留まらない化学反応を伴うガス化・液化を経たエネルギー利用[2]や化学工業の原料使用、飼料化などもある[3]。樹皮を剥いだだけの木材は丸太(まるた)と呼ばれる。材木(ざいもく)も同義[1]だが、これは建材や道具類の材料などに限定する場合もある[4]。
日本でもヨーロッパでも一般的には木材名は樹木名と同一であるが、木材業界や木工関係者・工芸家などの間では、生産地、樹齢、生育環境、製材方法、その他の処理によって特定の木材に特定の呼び名を用いることがある(ブラウン・オークやボグ・オークなど)[5]。
構造と特徴
構成

一般的に、木材とは山で伐採した木を使いやすくある大きさにした物である。木材として使われる部分である木部は「材」(ざい)と呼ばれている。樹木は、芽や成長点を由来とする中心部にあるごく細く軟らかい「髄」(ずい)または「樹心」(じゅしん)、主要部分を占める「材」、外皮に当たる樹皮の3つの部分に分かれる。木も代謝を繰り返し細胞分裂によって成長するが、幹や枝の先端(成長点)を除く「材」の部分では樹皮のすぐ下に当たる部分(厳密には師部と隣接する数層、維管束形成層と呼ばれる)だけに限られ、しかも幹側になる細胞は分裂機能を失い、数週間で原形質を無くして細胞壁だけとなる。これが積み重なって木の「材」となる。樹皮には葉での光合成で作られた炭水化物を木全体に送る「師部」(しぶ)がある[6]。
さらに「材」は内側の「心材」(しんざい)と外側の「辺材」(へんざい)に分けられる[6]。心材は「赤身」(あかみ)、辺材は「白太」(しらた)とも呼ばれているが、これは一般に中心部が赤っぽく、外辺部が白っぽい色をしているからである[7]。ただし、エゾマツやトドマツまたはベイツガなど木の種類によっては中心部と外辺部で色の違いが見られず、心材と辺材の区別がほとんど出来ないものもある[6]。
辺材には根から吸い上げた水分を樹木全体に送る仮道管(針葉樹)または道管(広葉樹)、またでんぷんなど同化物質を貯蔵・分配するために原形質を保持した柔細胞があり、木の生命活動を担う。道管・仮道管はその形成の段階で非常に細長く、かつ厚壁になったもので、それらはほとんどが幹の縦方向に平衡して並んでいる。また内部が空洞化することによって作られるため、木材は、強度を決定づける繊維が縦方向に強く並び、軽量ながら適度な強度と断熱性を持ち、方向による異方性を示す材料となる[8][9]。
木材の主成分は多糖類であるセルロース分子が作るミクロフィブリル[6](約50%)やヘミセルロース(含キシラン・グルコマンナン、約20%)、リグニン(広葉樹約20%、針葉樹約30%)を主成分とし[10]、副成分としてテルペン、タンニン、リグナン等を含む[11]細胞組織からなり、複雑で緻密かつ強靭な構造を成している[12]。骨格となる長鎖状のセルロースは木材に強さやしなやかさをもたらし、網目状のリグニンは細胞を接着させながら硬さ・曲げ強さを与える。分岐状のヘミセルロースはセルロースとリグニンを結びつける機能を受け持っている[13]。これらは自然界では化学分解の難しい成分として知られるが、実際には菌類やシロアリなど一部の動物がこれを強力に攻撃する。特に辺材は水の通り道となるために含水率が心材と比べて高く、また栄養素を含むことから腐りやすく害虫にも弱い[6]。これらの成分は可燃性であり、火は火事の元であり木材にとってもっとも危険なものである。
この柔細胞は分裂から数年 - 数十年経つと周囲の細胞を心材化させ、自らも原形質を失って膨張し、チロース[14]となって樹脂道や道管を充填する。こうして形成された心材は木の構造を支え、フェノール類などの抽出成分を含んで腐食や害虫の侵入を阻止する役目を持つ。また、セルロースは伐採後200-300年という期間を経て結晶化が進み、木材の強度を高める効果がある[15]。
個性
木は生物であり、樹種だけでなく育成環境や伐採の季節、また一本の木の中でも部位によって性格が異なり、それに応じて扱いを都度変える必要がある。
樹種の分類では、大きく針葉樹と広葉樹に分けられる。主に寒冷地から温帯にかけて生育する針葉樹は一般に直線的な幹と小さめな樹幹を持ち、気候の影響から明瞭な年輪を形成する[16]。ただし世界中に分布する広葉樹のうち熱帯に生育するものには年輪が作られないものもある[16]。構成にも差があり、チロースとなる柔細胞の比率も針葉樹で約5%に止まるのに対し広葉樹は10 - 30%と多い[6]。
木の成長は季節によって変化する。木は春から初秋にかけて細胞分裂を起こして幹を太くするが、この期間の前半と後半では細胞の形状や大きさ、木種によっては細胞の種類が変わる。前期に形成される部分を「早材」または「春材」(俗に夏目)[注 1]。と呼び、針葉樹の場合は細胞壁が薄く細胞の直径は大きくなり、材の色は薄くなる。後期の形成箇所は「晩材」または「秋材」(俗に冬目)と言い、特徴は逆になる[17]。広葉樹では、ケヤキやミズナラなどでは早材部分に大きい道管が形成されるために区別がつくが、ホウノキやカツラなどでは季節による道管に差ができないためにこの早材/晩材の差が生じない[6]。

季節では、夏雨性の温帯気候に属する日本においては木の新陳代謝の低下する秋から冬にかけての時期が伐採の最適期とされており、特に広葉樹のブナなどはこの時期に伐採したものは腐れや害虫に強い木材になる。しかし例えば磨き丸太に使う木材では樹皮と材を剥離しやすい幹形成期の春が伐採に適すなど、目的によって最適時期は変わる[18]。
樹木を縦割りにした際、枝があった部分には「節」(ふし)が残る。これには、材の木目から断裂が無く繋がっている「生節」(いきぶし)と、枯れた枝が幹の成長に伴って包み込まれた「死節」(しにぶし)がある。なお、枝が枯れ落ちたり切り払う(枝打ち)作業によって節が無い材は特に「枝下材」と呼ばれ価値が高い。ただし節の存在が強度不足を招くことはなく、逆に美的評価の要素として格付けされる場合がある[6]。
乾燥
目的
木材は、伐採直後のものを使うには数々の問題がある。木材が含む水分量のめやすとなる含水率(細胞壁の重さに対する水の重さの比率)
原木から板を切り出す場合、年輪の目に対してどのような角度で切り出すかによって、板表面の木目が異なってくる。また、切り出しの角度は木目のみならず、板の強度などにも影響を与える。
- 柾目(まさめ)
- 「正目」とも表記される。
- 年輪の目を断ち切るように年輪に対し直角に近い角度で切り出した板の表面に現れる木目を柾目と呼ぶ。冬目と夏目が交互にほぼ平行に現れ、きれいに揃った縞模様となる[26]。収縮や変形が少ないが、水分を透過させやすい。柾目の板は原木から20 - 30%程度しかとれず歩留まりが悪いので高価である。なお例外的にカシ材だけは慣習として柾目材を板目、板目材を柾目と逆によぶ。特有の放射状組織(いわゆる樫目)を年輪に見立てるため[27]。
- 板目(いため)
- 年輪の目に沿うように接線方向に切り出した板の表面に現れる木目を板目と呼ぶ。木目は柾目のように整った縞模様とはならず、不規則な曲線模様となる。板目の板には裏表があり、切り出しの際に外辺部側に面していた方が表面(木表)、中心部側に面していた方が裏面(木裏)となる[28]。木材の切断面を指す意味の「木口」の年輪の模様を見るとカタカナの「ハ」の字状に目が走っているが、ハの字の狭い方が表、広い方が裏となる。板目の板では水分の吸い込み易さの指標である吸水率が表側と裏側で異なり、長い年月を経ると必ず収縮・変形し易い性質があり、木材には反りが生じる。年輪の目が詰まった冬目が板の厚さ方向に複数重なっているため水を透過させづらい性質を持つ。この性質を利用して液体を貯蔵する樽などには必ず板目の板が利用される。
- 杢(もく)
- 原木の瘤の部分など異常成長で生じた局部的なねじれや湾曲を起こした箇所を切り出したときに、稀に現れる柾目とも板目とも異なる複雑な模様の木目。希少価値があり珍重される。
木質材料の面材
合板

木材を薄くスライスした単板を繊維方向が互い違いに直交するように複数枚を重ね、接着剤で貼り合わせ一枚の板に加工したもの[29]。ベニヤ板とも呼ばれる。 おもに普及しているものはコア材に対して正対照になるよう繊維方向にストレートとクロスを組み合わせた奇数枚のベニアから成る。
大面積の板材を製材品として得るためには巨木が必要となるのに対して、合板は製材品に比べて安価に大面積が得られる点、工場加工ゆえに品質が安定している点から、様々な用途に広範に利用されている。
かつて合板の多くは、ホルムアルデヒド系接着剤が使用されており、気化した成分が人体に悪影響を与えることがあった。そのため、1980-1990年代頃よりシックハウス症候群の原因として問題視されるようになってきた。また、湿気に弱いため、屋外や水回りで使用するものには、耐水性の高い接着剤を使用するなどの工夫が必要とされる。
規格
日本農林規格のJASによって、接着の程度(特類、1類、類)や板面の品質(1等、2等、A、B、C、D)といった等級がある。さらに、上記のホルムアルデヒド放散量によっても区分があり、F☆ - F☆☆☆☆という表記がされている[30]。F☆☆☆☆以外は、住宅で使用する際に使用量が制限されるため、ほとんどの製品がF☆☆☆☆に対応するようになった。樹木の種類による分類には以下のようなものがある[31]。
- ラワン合板
- ラワン(lauan) は東南アジアなどに分布する樹種で高さ40m、胸高で直径が2m程度に成長する広葉樹高木であるフタバガキ科の木材を加工したものである。ラワン合板はこの広葉樹材を張り合わせた合板。表面がざらざらしており木目はハッキリしないのが特徴である。一般にベニヤ板という場合はラワン合板をさす。本来のラワン材は乱伐によってかなり減ってしまったため、現在は南洋系の広葉樹材を使用する合板をラワン合板と称している。
- シナ合板
- ラワン合板の表面部分にシナ材を貼り付けたもの。シナ材そのものは柔軟すぎる。外観が美しく、また平滑な仕上がりとなる[32]。
- 針葉樹合板
- 主に松類から作られる合板で、ラワン合板と比べると節や年輪があり、部分によって含水率が異なるなども問題があったが、生産技術や接着剤の改良によって十分使用に耐える性能を持った合板が開発され、構造用などで広く用いられている[33]。
- ランバーコアボード
- 小さな棒材を複数並べたものを芯材とし、表面に薄い板を張って一枚の板に加工したもの。木質ボードというよりはむしろ表面に化粧板を貼った集成材に近いものであり、釘の保持力が強いという特長を持つ。
- OSB
- Oriented Strand Board(配向性ストランドボード)の略で、接着前に木片の向きをそろえることで一定方向への強度を高めたものである。北米産の木造住宅の輸入に伴って日本でも使われるようになった。かつてはJASの規定がなかったため、構造用に用いるには個別に大臣認定の取得が必要であったが、現在は規格化されており、近年はホームセンター等でも購入できるほど普及が進んでいる。日本では、合板が構造用パネルとして広く使用されてきたが、ここ数年の価格高騰がOSBへの転化を後押しする結果となった。
木質ボード
木質ボードとは、砕いた木材の小片や繊維を結合材料で固めた板状の製品である[34][35]。以下に挙げる種類がある。パーティクルボード、MDFでは、エレメントのその大きさや形は確率的なものであり、製造工程において分級(ふるい分け)などによって品質管理される。
- パーティクルボード
- 木材の砕片に接着剤を混ぜ加熱圧縮成形したボード[36]。断熱性、遮音性に優れる、耐水性には欠けるので主に家具、内装下地として使用される。学習机やホームセンターなどで販売されているカラー合板の芯材として多く用いられている。国内のメーカーでは建築廃材などで材料を100%まかなうメーカーもある。表面はざらざらしているが、内側には長め広めのエレメントを使って強度を確保し、一方、表層には細かいものを使って滑らかにするという製品もある。
- ファイバーボード
- 木材繊維を集め、そのまま乾燥または加熱圧縮成形した木質ボード。繊維板とも呼ばれる。比重によってハードボード (HB)、MDF(Medium Density Fiberboard、中密度繊維板)、インシュレーションボード (IFB) の3種がある[37]。用途はパーティクルボードとほぼ同様だが、表面がなめらかで化粧板を貼っても凹凸が出ずきれいな仕上がりとなる。パーティクルボード以上に耐水性は無く、MDF単体で用いられることはあまり無い。扉や家具のコア材、スピーカーやギターアンプ等のエンクロージャー、変わったところではトラックのドアの芯材にも用いられている。
木質材料の軸材
- 集成材
- 集成材の縦方向の接合法には、大きく分けてスカーフジョイント・フィンガージョイント・パットジョイントの3種類があり、接着強度の高さからフィンガージョイントによる接合が多い。構造用集成材の種類としては米松(ダグラスファー)・欧州赤松(レッドウッド)・SPF(スプルース・パイン(松類)・ファー(樅))・米ヒバ・米栂・スギ・カラマツなどがある。
- 単板積層材 (LVL)
- 単板積層材 (LVL) は、合板とよく似ているが、おもに柱など棒状の形で使われることを前提として、長さ方向に強度を持たせることを優先して作られるものである。合板とは異なり各層の繊維の向きを直交させるのではなく原則として同じ向きにそろえて作られる。強くて長い木質の棒を作ることができるので、比較的大きな建物を木造で作るときなどによく利用される。
- PSL(パラレルストランドランバー(パララム))
- OSBと同様な手法で作られるが、OSBよりもエレメントが長めであり、配向方向については層ごとに直交させるのではなく、軸材としての強度を得るため長手方向に一方向に揃えている。
物性
含水率
前述の含水率は、木材を加工・保存する上で最重要の項目となる。JISに定められた木材測定法では木材を絶乾状態(全乾材)にして水分量を計測するよう規定されており、最も正確に測定できる。しかし、より簡易な方法もある。繊維飽和点以下であれば電気を流し抵抗値を計測して推計(電気抵抗法)できるが、温度や木材中のイオンが与える影響を除く必要がある。誘電率や誘電損率から導く(電気容量法)際には、木材の比重で補正しなければならない。この他にも、X線やガンマ線を照射し、水によって吸収された放射線量から計測する(吸収係数法)がある。また、平衡含水率はヒステリシスを示すため、放湿・吸湿のいずれ方向から計測する状態になったのかも勘案しなければならない[19]。
繊維飽和点は、木材中の自由水が無くなり結合水のみが残っている状態を指す。これは、伐採した生木をゆっくり自然乾燥させる方法か、もしくは乾燥させた木材を湿度100%の環境下で吸湿させて含水率が一定となった状態を、容積膨張や縦圧縮強さのグラフの傾きが変化した(折れ曲がった)部分から得る[19]。
密度
金属・ガラス・合成樹脂などの密度[注 3]は温度が一定ならばおのおのの固定値を取り、木材も細胞壁だけを計測した密度は「実密度」と呼ばれ、これは樹木の種類などに関わらず約1.5という値となる。しかし実際の木材密度には水分も影響を及ぼすため、含水率の状態毎に密度は定義される。質量を
微生物の作用以外にも、木材を変色させる要因は多い。ただしそれはアンティーク調の効果をもたらす場合もあり、必ずしも一律に防がなければならないものではない。この変色は、木材中に含まれるフェノール性物質が作用して起こる。光による変色は、フェノール類が有色物質へ変化するために起こるため、紫外線吸収塗料を塗布することで防げる[39]。
金属との接触では、鉄や銅によってフェノール類が黒色に変化することで起こる。この対策は、シュウ酸など強酸を塗布し水洗する、予防は木材表面を弱酸性にする無機物を塗る、またはカラーネイルなどを用いて金属と木材が接触しないようにするなどがある[39]。
この他にも、コンクリートのアルカリや一部の酸を含む接着剤、また酸化酵素もフェノール類との反応を起こして変色の原因となる[39]。
用途
木材はその入手の容易さから、旧石器時代から住居や道具の材料および燃料として利用されてきた。また、製紙原料としても古くから用いられている。文明の滅亡には、これら木材資源の枯渇が一因となったものもある[42]。

- 人類は古くから木材薪や木炭などとしたエネルギー資源として利用し、50万年前の北京原人居住跡からも消し炭が見つかっている[43]。青銅など金属精錬、暖房・調理でも広く用いられた木材は、しかし12世紀頃のヨーロッパで始まった人口増加を支えるには不足し石炭へ、そして近世以後さらに石油への転換が本格化した[44]。戦時中のモノ不足時には木炭バスなど移動用エネルギーにも用いられたが、石化資源や電力などへの転換は止まず、木材の燃料需要は減少の一途を辿っている[43]。近年、地球環境問題の観点から木材のエネルギー利用が再評価されている[2]。木材を加工した際に出た削りカスなどを固めて、木質ペレットのような燃料にすることもある。ガス化は炉内で分子を分解し、水素ガス、一酸化炭素ガス、メタンガス、炭化水素を得る[3]。液化は酸素が無い状態で熱分解を施し、1トンの木材から5500キロカロリー相当の油が得られる[3]。
- 家屋・家具
- 木材の性質である吸湿性、吸音性、断熱性、加工の容易さから使われる。メソポタミアやエジプトなど木材資源が少ないところでは日干し煉瓦や石材建築物が主流だったが、家具用途では木材が使われた[45]。日本でも桐材がよく箪笥などに用いられた。これもやはり桐が燃えにくく、吸湿性に優れているという性質を持っているからである[46]。桐箪笥の外側のみ焼け、中側は無事だった例すらある[46][47]。
- 店舗や住宅の内部を見渡した時に、木材やそれに類似した部分が全体に占める割合を木視率と呼ぶ。建築・飲食などの業界では「木視率が4割を超えると、人は安らぎや落ち着きを感じる」という経験則がある[48]。これを意識して、天井や柱、壁、床、扉、家具等に木材あるいは木目調をあしらった他の内装材・壁紙を使うことも多い。
- 道具
- 手触り、肌触りがよく、暖かみがある点から、積み木・独楽・こけしなどの玩具では幼児向けのものに多い。日常の道具では杵や臼、鍬その他種々の道具の柄に使われ、日本では堅い樫が好んで使われた。そのほかにブラシの柄、筆・ペンなどの軸等がある。

-
木目方向において木材の比ヤング率は高く内部摩擦は低く、音の早い立ち上がりと安定した振動を得ることができる[49]。また木材は、適度な粘性を持っており、かつ表面反発係数は金属よりも低いため、瞬間的な外力による加振、及び継続的な外力による励振のいずれによって振動させた場合にも、発生した音はいわゆる金属音とは異なる高周波成分の少ない“柔らかな”音になる。加えて木材は力学的な異方性を有する。また、樹種・生育環境等により力学的特性にばらつきがある。そのため、同一の形状であっても、木取り(板取り)の仕方や材の選定によって固有振動数及び音の減衰率が様々に変えることができ、多様な音色の楽器を作ることができる。このように他の材料に類を見ないこれらの特徴を持つため、現在も広く楽器用材として利用されている。
- ヴァイオリン属、ギター - 胴体部分の表板(弦が張ってある側)にはスプルースが、ヴァイオリンの裏側には特にメイプルが好んで用いられる[49]。なお、弓も木製である。
- 木管楽器 - オーボエ及びクラリネットにはグラナディラが好んで用いられる。ファゴットには、メイプルが好んで用いられる[50]。現代のフルート及びピッコロには、洋銀、銀、金などが多く用いられているが、木製のものもあり、その多くには、グラナディラが好んで用いられる[51]。
- ピアノ - 音域の拡大に伴い、木材では強度が足りず、弦を張るフレームには鋳鉄が用いられるようになった。しかし、共鳴板部分にはスプルースが好んで用いられ[49]、他にも多くの部分に木材が用いられている。なお、チェンバロなど、俗にピアノの先祖とも言われる楽器にも、木材が多く用いられる。これに似た楽器としてオルガンがある。
- 大正琴 - 詳しくは、大正琴に使用される木材を参照のこと。
- 打楽器 - 詳しくは項目を参照。
- 彫刻・木版素材
- 彫刻では木彫りやチェーンソーアートを施す素材など。木版では浮世絵や版画の版木や文書の印刷に使われてきた活字、印鑑なども作られている。
- 宗教における儀式の道具
- 神道の神棚、仏教の仏壇・仏具などに木材が多く用いられる。
- 表示板の類
- 店などに掲げる看板や住居の入口に貼り付ける表札、行き先を示す道標などがある。
- 民衆の閲覧に供する高札や落書等、古くは板書で掲示されたものもあった。
- 船舶
- 古代エジプトのピラミッドから木造船が発見されるなど、船舶材料としての歴史は古い。黒船は鉄甲木造艦。日清戦争でも木造艦は多かった。この用途では、吸水して膨張する性質が水漏れを防ぐ木材の特性が重視され、チーク他が使われた。マスト、キールは長大であるため、良材を選ぶ必要がある。
- 小型のものとして、ヨットやボート、カヌー等もある。
- 航空機

- 木製の高性能軍用機としては第二次世界大戦で活躍したデハビランド・モスキートが有名である。また、現在でも世界最大の飛行艇として知られるスプルース・グースも主構造に木材が使用されている[52]。軍用機以外にもグライダーにも木材は使用されており、木製モノコック構造のKa6シリーズが有名である。鋼管羽布張りの機体でも主翼の構造部は木材である。最近ではFRPモノコックの機体が主流になったが、機体の主翼桁は木材が使用されている。
- 橋
- 川や池・湖にかける橋梁として、丸木橋のような短いものから、乗船に供する桟橋、部材を組み合わせて造られる長大な橋まで様々である。今日では鉄道や自動車の移動が頻繁になったことで鉄筋コンクリートの橋や鉄橋に取って代わられたこともあり、木造の橋は公園や山道、観光地などで見かける程度である。
- 飼料
- 牛や羊などの家畜は、木材に含まれるリグニンを消化する酵素を持たない。そこでチップ状木材を高温の水蒸気で蒸し、リグニンを放出させることで繊維化を促し、飼料として利用できるように加工する研究が進んでいる[3]。
- 染料
- 木材の色素を抽出して染料として用いることは昔から行われている。赤系統のスオウ・ブラジルウッドなど、黄色のジオウ・ハリグワなど、黒染め用ログウッドなどが知られる[19]。
- 紙・化学工業
- 紙の原料としての木材利用は、1719年にフランスのルネ・レオミュールがスズメバチの巣づくりからヒントを得て、木材を原料とする製紙の概念を発案したことに始まる。1844年にドイツで砕木機が開発され、木材からパルプが製造される技術が広がった[53]。木材の工業利用は、セルロースを中心に木材化学分野にて進められている。
- 武器
- 武器として弓矢、槍の柄、棍棒など。1960年代から1970年代に盛んになった学生運動では角材を武器として、または周囲を威圧するための道具として使用された[54]。
ウッドショック
2020年5月から、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けたアメリカでの新築戸建住宅の増加に対して、製材所の休業、米国西海岸などでの大規模な山火事などの要因が重なり、建築用木材の供給が追い付かなくなったことで発生した。これが世界中に波及し、材木先物相場で投機的な思惑から材木価格が最大で4倍に高騰したが、2022年末には終息[55][56][57]。ウッドショックに乗じ、出荷体制を強化した兵庫県の北はりま森林組合では山から切り出した木材が滞留する事態に陥るなどした[58]。
脚注
注釈
- ^ 慣習的には夏目という呼び方のほうが一般的。なお春目や秋目などとは言わない。
- ^ 岡野 p.14では11-17%
- ^ 文献『木材のおはなし』では比重と記されている。筆者の岡部は、木材の体積を示す単位が立米(立方メートル)、石、玉(ぎょく)、BM(ボードメジャー)、cf(立方フィート)などまちまちであるため、あえて比重と表示し単位 (kg/m3) を併記して本書を執筆した。しかし1994年の「JIS Z2101 木材の試験法」[38]改訂にて、表示がすべて「比重」から「密度」に書き改められたことを機に、同書にて「読者諸氏には“比重”を“密度” (g/cm3) に読み替えていただきたい」(p.170) と注釈を加えている。本項表記もそれに倣う。
出典
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脚注2
本脚注は、出典書籍内で提示されている「出典」を示しています。
参考文献
- 岡野健『木材のおはなし』(第一版第七刷)日本規格協会、1997年(初刷1988年)。 ISBN 4-542-90107-6。
関連項目
- 木の一覧
- 木材・合板博物館
- 外材(北洋材、南洋材)
- 木質材料
- 木目調
- 合板
- 法隆寺 - 現存する世界最古の木造建築群
- 高級木材(エーデルホルツ)
- 透明木材 - 木材に含まれるリグニンを除去するなどで透明にした木材。
- Forêt de guerre - 第一次世界大戦などで戦争の影響を受けた森。銃弾が埋まっている可能性があるため金属探知機が使われ、化学兵器の影響などがあり、商品的にも価値が低くなる。
- 木製おもちゃの一覧
- ライフェンドレーン - 木製のおもちゃを切り出す技術。
- バール (木のこぶ)
- 木材残渣(wood residues)・廃木材の利用:シダーオイル、ウッドチップ、木質ペレット、乾留液(タール)、ナノセルロース、バイオ燃料、木炭、練炭、おがくず、キノコ栽培
外部リンク
用材
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/16 01:04 UTC 版)
節の斜めになった部分が握りやすく、乾燥材は折れにくいため、釣り竿として使われる。かつて、ホテイチク製の釣り竿が外貨獲得の花形だった時期がある。 モウソウチクなどと同じ様に加工して、杖、小さい器や柄杓などを作ることもできる。 稈は他に若竹の幹を破って、薄い内膜を鳴らす子供の玩具とし、その音からググ竹と呼ばれた。
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「用材」の例文・使い方・用例・文例
- 建築用材
- 鉛筆用材に適した数種のビャクシンの総称
- ツルサイカチ属の堅い木質の木のいずれか、シタン材を産出する−−縞が入って、黒色の斑点のある濃い赤または紫がかった色の価値の高い家具用材
- 材木や用材の材料として価値のある木のどれか
- 用材とならない木
- 材木を切って建築などの用材をとること
- 建築用材料
- 用材として役に立たない木
- 鉄筋コンクリート用材としての主筋
- かね尺を使って建築用材に墨付けをする技術
- 石膏プラスターという塗装用材料
- 用材や薪炭に利用するのでなく果実や樹皮などを利用する樹木
- 海苔粗朶という,海苔の養殖用材
- 平縁という種類の建築用材
- 漆を塗った用材
- リノリウムという床はり用材
- 大型トラックの大きさがあるこの円筒形モジュールには,実験ラック,実験用材料を保存するための冷蔵庫,食料などさまざまな物が入っていた。
用材と同じ種類の言葉
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