木 木と文化

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木と文化

木は古代から豊穣なイメージを提供している主題であり、現代でもそうあり続けている。特に大きな樹木を神聖視して、神木として祭り崇めることを巨木信仰という。世界樹のように天に届く木や、世界を支える木に関する神話伝説が世界各地にみられる(北欧神話ユグドラシルなど)。単独の樹木ではなく、森林あるいはそれを置く山を信仰の対象とする場合もある(日本の神社にある鎮守の森や社叢など)。

木は、自然の事物のうちで最も豊富にして広範囲にわたる象徴を持つ主題の一つだ、と飯島吉晴や濱谷稔夫らは指摘している[17]。人類のあらゆる時代・地方の文化で木は主題として現れるが、それを大まかに要約すると、中心軸、生命豊穣、元祖のイメージ、に大別することも可能であると飯島らは指摘した[17]。分類のしかたは他にもいくつもあるが、ここでは便宜的にそれを採用して説明を進めてみる。

中心軸
樹木は、多くの民族の文化において、地と天空をつなぐ宇宙軸、世界軸と考えられた[17]ミルチア・エリアーデはこれを《中心のシンボリズム》と定義した[17]。こうした宇宙軸の観念は、紀元前4000-3000年頃には既にあり、樹木に限らずなどは、みな同様のシンボリズムを共有していたのである[17]。樹木というのも根が地下に張り枝は天空に伸びるためにそのシンボリズムを共有していたのである[17]
ユグドラシル
代表的なものとして扱われているものに、スカンジナビアに伝わる《エッダ》で詠われたイグドラシルがある[17]
ガリアケルト人オークゲルマン人菩提樹イスラム教徒オリーブインド人は「バニヤン」と呼ばれるイチジクシベリアの原住民族はカラマツを、それぞれ聖なる木として崇拝していた[17]。これらの木は、世界の軸、つまり天と地が結ばれる場で神性の通り道とされたのである[17]
生命力と豊穣のシンボル
カバラに記されている生命の樹
木は豊穣な生命力、生産力の象徴となってきた[17]
ペルシア神話ゾロアスター教では、ガオケレナ、サーエナの木はあらゆる種類の薬草の種子を持ち[18]、食すと癒しが得られ、その木の実からは不老不死の霊薬ハオマが作られる。
インドでは、樹液地母神とされ、全ての木を流れ果実をみのらせるソーマあるいはアムリタである[17]。古代西アジアでは大地の女神イシュタルの恋人は植物神の木であり、イシュタルと木が聖婚を行うことによって大地は春の再生と冬の種子ごもりを繰り返す[17]
聖書では、エデンの園の中心に生命の樹知恵の樹が並んでいたが、これらはしばしば一本の木や並び立つ木として表現され、人間の生と死を象徴する[17]。またキリスト教では、十字架はしばしば永遠の生命を表す一本の木として表現されている[17]
元祖のイメージ
イザヤ書』の11章に描かれる「エッサイの木」はユダヤ人の歴史を象徴している[17]。そしてこのエッサイの木は中世ヨーロッパのキリスト教で数多く表現されたイメージであり、エッサイの腰から生えた木には、マリアキリストが実っている[17]。ここから、ひとりの男の体から育つ木のイメージによって元祖や祖型およびそこから分岐・発展してゆく様を図示する伝統が生じた[17]
現代の想像力への寄与
2000年の博覧会での建築物
木は近・現代でも人間の想像力を常に掻き立ててきた[17]
シュルレアリストマックス・エルンストは森の連作を描いたが、これはロマン派中世神秘主義を継承したもので、文明に侵されない人間精神の根源を象徴するという[17]ピエト・モンドリアンも、木の連作により宇宙的シンボリズムを抽象化した[17]パウル・クレーワシリー・カンディンスキーは木を芸術的創造のプロセスにたとえた[17]
大江健三郎は木を主題とする一連の作品の中で宇宙樹のシンボリズムに再び力を与えた[17]
日本
日本の神社には付随して神域を取り囲むように樹木が残されていることが多く、これを鎮守の森と呼ぶ。さらに巨木などをそのまま神体とし、神木として祀ることもある[19]
日本語の植物名は、サカキエノキヒノキケヤキツバキイブキミズキサツキアオキエゴノキマサキカキウツギヤナギヤドリギスギクヌギなど、「キ」または「ギ」で終わるものが少なくない。

  1. ^ a b c d e f g 平凡社『世界大百科事典』vol.6:「き 木」岩槻邦男執筆箇所(p.528)
  2. ^ a b c 「き【木・樹】」『広辞苑』第五版 p.620
  3. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.52
  4. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.57
  5. ^ 尾池和夫 (2007年4月6日). “京都大学-大学の紹介/総長室 2007年4月6日 大学院入学式 式辞”. 2008年4月9日閲覧。
  6. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)p.38
  7. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.53
  8. ^ 関岡東生監修『図解 知識ゼロからの林業入門』(家の光協会 2016年11月1日第1版発行)p.56
  9. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)p.27
  10. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)p.28
  11. ^ 堀大才『絵でわかる樹木の知識』(講談社 2012年6月20日第1刷発行)p.55
  12. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)pp.28-29
  13. ^ ピーター・トーマス『樹木学』(築地書館 2001年7月30日初版発行)pp.34-35
  14. ^ 堀大才『絵でわかる樹木の知識』(講談社 2012年6月20日第1刷発行)p.6
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  17. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 平凡社『世界大百科事典』vol.6:【き 木】の飯島吉晴および濱谷稔夫執筆箇所(pp.528-529)
  18. ^ 浅井治海『森と樹木と人間の物語: ヨーロッパなどに伝わる民話・神話を集めて』(フロンティア出版、2006年)p.42
  19. ^ 「登山の誕生」p80 中公新書 小泉武栄 2001年6月25日発行
  20. ^ a b NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.77
  21. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)p.26
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  24. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)pp.29-30
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  30. ^ NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著『基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし』(農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷)pp.16-17
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  41. ^ 地球温暖化防止に向けて 林野庁(2017年7月15日閲覧)
  42. ^ よくある質問 林野庁(2020年4月13日閲覧)



木曜日

( から転送)

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木曜日(もくようび)または木曜(もくよう)は、水曜日金曜日の間にあるの1日。








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