自殺 自殺の歴史

自殺

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/20 18:01 UTC 版)

自殺の歴史

古代

サッポー
切腹

自殺の歴史は古く、紀元前の壁画などにもその絵や記述が残されている。古代ギリシャの詩人サッポーは入水して死亡したという説がある。 アリストテレスは、自殺は社会に対する不正行為であり、国家は自殺者の名誉を貶める埋葬を行うことで自殺者を処罰する権利を持つと主張した[217]。一方、不自由に生きることを悪とするセネカなどストア派の哲学者たちは、熟慮の結果十分な理由を持って行われる自殺は人間の自由であるとして自殺の権利を主張した[217]

賜死

重大な犯罪を起こして死刑を免れない状況に陥った貴人が、公衆の前で処刑されるという屈辱を免じてその名誉を重んじさせる意味で、賜死として自殺を強要されることがあった。律令制国家における皇族や高位者が死刑判決を受けた場合に、自宅での自殺をもって代替にするのを許したことや、戦国時代から江戸時代初期にかけての日本における武士階級に対する切腹処分などがこれにあたる。洋の東西を問わずみられる現象であり、セネカなどが知られる。諸説あるが、荀彧も主君曹操に死を強要されたとの説がある。

キリスト教

キリスト教においては基本的に、自殺は重大な罪だとされるが、キリスト教で自殺に対する否定的道徳評価が始まったのは、4世紀の聖アウグスティヌスの時代とされる。当時は殉教者が多数にのぼり、信者の死を止めるために何らかの手を打たねばならなくなっていた。また10人に1人死ぬ者を定めるという「デシメーション」と呼ばれる習慣のあったことをアウグスティヌスは問題にした。アウグスティヌスは『神の国』第1巻第16-28章において、自殺を肯定しない見解、自殺をと見なす見解を示した。神に身を捧げた女性が捕虜となって囚われの間に恥辱を被ったとしても、この恥辱を理由に自殺してはいけない、とした。またキリスト教徒には自殺の権利は認められていない、と述べた。「自らの命を奪う自殺者というのは、一人の人間を殺したことになる」とし、また旧約聖書のモーゼの十戒に「汝、殺すなかれ」と書かれている、と指摘し[218]、自殺という行為は結局、神に背く罪だ、とした。アウグスティヌスは「真に気高い心はあらゆる苦しみに耐えるものである。苦しみからの逃避は弱さを認めること」「自殺者は極悪人として死ぬ。なぜなら自殺者は、誘惑の恐怖ばかりか、罪の赦しの可能性からも逃げてしまうからだ」と理由を述べた。

693年には第十六回トレド会議英語版において自殺者を破門するという宣言がなされ、のちに聖トマス・アクィナスが自殺を生と死を司る神の権限を侵す罪であると述べるに至って、すでに広まっていた罪の観念はほぼ動かしがたいものになり[219]、自殺者の遺族が処罰されていた時代[220][221]や、自殺者は教会の墓地に埋葬することも許されなかった時代もある。

ダンテ叙事詩神曲』においては、自殺は「自己に対する暴力」とされており、地獄篇の第13歌には醜悪な樹木と化した自殺者が怪鳥ハルピュイアに葉を啄ばまれ苦しむという記述がある。

啓蒙主義の時代になるとアウグスティヌスのテーゼは聖書からの直接の引用ではなく、神が直接自殺を断罪した記述もないことから、彼独自の解釈であるという批判や、殺される人の意志に反しない殺害である自殺を許容できない道徳の下で、死刑や戦争など他のあらゆる殺害を正当化することは説得力に欠けるという批判が加えられた[217]モンテーニュヒュームは批判を警戒しつつ自殺を許容するエッセイを記しており、その後も自殺許容論は先鋭化していった[217]。 ドイツの哲学者ショーペンハウエルは『自殺について』のなかで、キリスト教の聖書の中に自殺を禁止している文言はなく、原理主義的にいえば、自殺を禁じているわけではないため、「不当に貶められた自殺者の名誉を回復するべきだ」とした。

日本における歴史

日本で最も古い自殺に関する伝承は、『古事記』のヤマトタケルの妃弟橘比売命(オトタチバナヒメノミコト)の伝承である。

中世には、弘安7年(1284年)あるいは延慶2年(1309年)、文保元年(1317年)が没年とされる足利尊氏の祖父足利家時八幡大菩薩に三代後の子孫に天下を取らせよと祈願した置文を残して自害したという伝説が残るが(『難太平記』)、自害した事実を含め定かではない。戦国期には天文22年(1553年)に織田信長の傳役平手政秀が死をもって信長の行動をいさめたとされる事例などもある。

足利義輝など最後は戦闘の末、敵兵に討ち取られた人物が、義輝と付き合いのあった山科言継の日記「言継卿記」には、その最後が自殺となっているなど、改変されて記録されている者もいる。これも雑兵に討ち取られるよりは、自害の方が名誉ある死と考えられていたためである。これらは現在でも国語の教科書に掲載され、日本の武家文化の一つとして継承されている。

キリシタン

カトリック洗礼を受けていた細川ガラシャは、武士の妻としては自害すべきだったが、キリスト教徒としては自殺できず、家臣に胸を槍で突かせた。なお日本におけるキリシタンに対する迫害が強まった時代において、キリシタンに対して棄教するよう強烈な圧力がかけられていた際に、クリストヴァン・フェレイラのように幕府による拷問に耐えかねて棄教した者もいれば、最後の最後までキリスト教に対する信仰を放棄しないで殉教したキリシタンもいる。日本におけるカトリック教会は、ペトロ岐部など殉教したキリシタン187名を祝福し、2008年には長崎県営野球場において列福式が実施された。

江戸時代

鎌倉以来武士は江戸時代初期までは主君に死罪を自ら行う切腹を命じられても、従容として死につくのではなく、ある程度の抵抗を示した後に主君側に討ち取られる以外に選択肢がなくなってから自害することが「武士の意気地」とされた。ところが、江戸時代中期になると、従容として腹を切ることが「潔い」とされるようになる。これは家門の存続が個人の武名以上に重要な価値をもつようになったなってきたことが大きな要因となっているが、徳川の文治政治の進展とともに連座が緩和されたため、制裁が決まる前に単独で一命をもって責任を取れば、多くの場合において家門もしくは家族の存続は許されたからでもある。なお、女性の場合は切腹ではなく喉を短刀で突くのが武家における自害の作法とされた。

また、江戸時代には大坂や江戸を中心に心中が庶民の間に流行した。これは近松門左衛門の『曾根崎心中』を代表とする「心中もの」の芝居や浄瑠璃が評判を呼んだことによる影響と考えられている。この世を憂き世として忌避し、あの世で結ばれるとして男女が自殺に及んだ。これに対し、幕府は心中禁止令を出すとともに、心中死体や心中未遂者を3日間さらし者にした上で、未遂者は被差別階級に落とすという厳罰を実施している[222]

近代
乃木希典

近代においては明治天皇崩御のおりに殉死した乃木希典静子夫妻が世論の称賛を浴びた。明治以降は日本の自殺率は1936年まで20人前後と緩やかな上昇傾向にあったが、戦争の影響で減少し戦前戦後を通じ最低レベルとなった。国家総動員法(1938年制定)下の時代情勢によるとされ、また詳細な統計を取っていられる状況ではなかったと考えられる。

戦後

その後、戦後の価値観の大きな転換や社会保障が整備されていなかったこともあり、高度成長が本格化するまでのあいだ(1950年代)日本の自殺率は1958年には10万人あたり25.7人と世界一となり、2007年の25.8人を記録するまで、過去最高の数値を記録していた。高度経済成長の時期は減少に転じた。1973年のオイルショックのころから再び増加したが、1980年代後半からのバブル経済期には減少した。バブル崩壊後の1990年代後半にスウェーデンドイツより低かった自殺率は急激に上昇し[223]、OECDはその原因についてアジア通貨危機を挙げている。

戦争と自殺

中国

中国では、紀元前1100年ごろ王朝最後のである帝辛(紂王)が武王に敗れ、焼身自殺したと伝えられている。古代中国の軍人においては「自刎(ミズカラクビハネル)」と称される、刀剣などの刃物をもって頸動脈を切断する自殺手法があり、伍子胥項羽白起など名だたる軍人が用いており、現代でも中国人の自殺に用いられることがある[224]

エジプト

エジプトプトレマイオス朝最後の女王であるクレオパトラ7世アクティウムの海戦に敗北した際に、オクタウィアヌスに屈することを拒み、コブラに自分の体を咬(か)ませて自殺したと伝えられている。

インドネシア

インドネシアではププタンとよばれる集団自決の風習があり、19世紀にオランダバリ島に侵攻した際に、いくつかの王国で実施された。

日本

阿南惟幾
神風特別攻撃隊

平安鎌倉戦国時代に至るまで、日本の武士には敵に討ち取られるよりは自害することをよしとする風潮があった。『平家物語』の登場人物には自殺で終わる者が多い。これらには、自らが討ち取られその武名が誰かによって落とされること、ことに格下の兵に功名の手柄とされることをとしたからである。江戸時代中期の武士道の著書『葉隠』では「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」という一文がある。

第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて軍国化した日本では、「生きて虜囚の辱めを受けず」の一文で有名な戦陣訓に象徴される、軍人捕虜になることより潔い自決を名誉と考えられた。そのため、太平洋戦争では、前線の指揮官が無断撤退の責任を取るために自決を強いられることもあった。自決であれば、軍人軍属の場合は戦死扱いになり、不名誉でないとされた。名誉の自決をした軍人は新聞報道やラジオ放送、ニュース映画大本営発表を通し市民の目や耳に入り、立派な最期を遂げた尊敬すべき偉人とされ賞賛された。また、海軍を問わず日本軍の航空部隊は、操縦者や機体が被弾し、帰還が不可能となった場合は「敵機・敵施設・敵地上軍・敵艦に突入し自爆」「背面宙返りで地上や海上に自爆」が常態であった[注 8]。日本の戦線が後退する1943年以降は、撤退できないで孤立した部隊が自らの戦いを終わらせるため、しばしば「バンザイ突撃」と米兵が名付けたような決死的な肉弾攻撃を実行した。神風特別攻撃隊や対戦車肉弾攻撃のように作戦そのものが未帰還や自爆を前提としていたものもあり、これらを米軍は「自殺攻撃(Suicide Attack)」と名付けた。また、激戦地となった沖縄県や、満洲などの外地では、軍人のみならず多くの市民が集団自決に追い込まれた。

敗戦時や大戦最末期には、軍の上層部の人間から、この責任を取るため自決を選んだ人間が多く出た。「一死以テ大罪ヲ謝シ奉ル」との遺書を残し介錯なしで割腹自決した陸軍大臣阿南惟幾陸軍大将や、「沖縄県民斯ク戦ヘリ 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ」と打電し拳銃自決した大田実海軍中将らが後世に名を残す一方、本来なら責任(自決)を取るべきところ、自決せずに自分だけ生きながらえた花谷正牟田口廉也福留繁などが部下や世間からの批判にさらされた。東條英機は自決に失敗し、また安達二十三陸軍中将や今村均陸軍大将は戦後戦犯収容所服役中に自決、自決未遂した。開戦時の海軍大臣だった嶋田繁太郎は「ポツダム宣言を忠実に履行せよとの聖旨に沿うため」という理由で自決を見合わせた。

フランスのモーリス・パンゲは、日本の武士道などにみられる自死を名誉とする考えについて『自死の日本史』(筑摩書房)において論じた。評論家西部邁はこのパンゲの本について、「生きることには、何かしら裏切り堕落、汚辱とかそういう本来拒否すべきものが濃厚に伴う。それが限界までくると、にもにも頼らずに、自分の命を抹殺してしまうことで、汚いと自分の思っていることをしないですむ」「形而上学、この場合は宗教に頼らずに自分の生に伴う虚無感価値あるものは何もありはしないという虚無感を吹き払うために、死んでみせることを選び、選んだことを一つの文化に仕立てたのは、世界広しといえども、世界史長しといえども、日本人だけである。そういう日本礼賛なのである」と説明した[225]

アメリカ

アメリカでは、第二次世界大戦で、重巡洋艦インディアナポリスの艦長チャールズ・B・マクベイ3世が、日本伊58潜水艦にインディアナポリスを撃沈された責任を追及され、自殺に追い込まれている。

また、第47代海軍長官ジェームズ・フォレスタルは、第二次世界大戦の後に設立されたアメリカ空軍と、空母の運用をめぐって激化した対立により、神経が衰弱して辞職に追い込まれ、最終的に自殺している。

アフガニスタン紛争イラク戦争を始め、海外の戦争に派兵されたアメリカ軍兵士の中には、自殺する者が出ている。アフガニスタンとイラクからの帰還兵だけでも自殺者は数千人にも上り、その数は戦闘中の死者数を上回るとの見方がある[226]

ドイツ

アドルフ・ヒトラー暗殺の一つ、7月20日事件では、失敗したクーデター側は、ヘニング・フォン・トレスコウ少将ギュンター・フォン・クルーゲ元帥ルートヴィヒ・ベック上級大将など、クーデターに加担した多くの者が自殺を遂げている。また、実際に関与したかは未だに不明だが、エルヴィン・ロンメル元帥は、関与が疑われた結果、「反逆罪で裁判を受けるか名誉を守って自殺するか」の選択を迫られ、自殺を選んでいる。

第二次世界大戦におけるドイツの降伏は、アドルフ・ヒトラー自殺がきっかけとなっている。同時期に、ヴィルヘルム・ブルクドルフハンス・クレープスヨーゼフ・ゲッベルスなどが自殺している。

ヴァルター・モーデル連合軍に包囲された時、「ドイツ元帥は降伏しないものだ」と降伏を潔しとせず、自殺している。

宗教と自殺

ユダヤ教キリスト教イスラームなどのアブラハムの宗教は、自殺は宗教的に禁止されている。欧米やイスラーム諸国では自殺は犯罪と考えられ、自殺者には葬式が行われないなどの社会的な制約が課せられていた。

  • キリスト教においては伝統的に、自殺は基本的にと受け取られており、現在でもそうした見方が基本にある。
  • イスラームでは、自殺した者は地獄へ行くとされている。クルアーン『婦人章』第29・30節では「あなたがた自身を、殺し(たり害し)てはならない」と明確な禁止の啓示が下されており、さらに「もし敵意や悪意でこれをする者あれば、やがてわれは、かれらを業火に投げ込むであろう」と続けて、自殺が地獄へと通じる道であることを示している。現代のイスラム原理主義者による自爆テロについて多数派のイスラムの教義解釈では、敵の戦闘員に対しての自爆はジハードとして天国に行けるが、民間人に対しての自爆テロは自殺として永遠の滅びの刑罰が与えられるとされている。

バリ島ではププタンという集団自決の風習があり、オランダの侵攻に抗議して実施された。マヤ文明では、一般にをつかさどるア・プチ」のほかに絞首台の女神イシュタム」がいて、自殺者のを死後の楽園へ導くとされた。

聖書
使徒行伝の中では、自殺を図った牢番をパウロが大声で制止し、後に改宗させる場面がある。
獄吏は目をさまし、獄の戸が開いてしまっているのを見て、囚人たちが逃げ出したものと思い、つるぎを抜いて自殺しかけた。そこでパウロは大声をあげて言った、「自害してはいけない。われわれは皆ひとり残らず、ここにいる」。すると、獄吏は、あかりを手に入れた上、獄に駆け込んできて、おののきながらパウロとシラスの前にひれ伏した。それから、ふたりを外に連れ出して言った、「先生がた、わたしは救われるために、何をすべきでしょうか」。 — 使徒行伝16章27節から30節(口語訳)

文学・芸術における自殺

『若きウェルテルの悩み』初版

自殺は、文学における重要なテーマの一つであり、主人公の自殺に至る心理など、物語の終焉や筋の展開のなかで描かれることが少なくない。

ドイツの作家ゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』が、自殺を主題とした作品として特に有名である。恋人との失恋絶望し自殺した主人公を描き、その影響で模倣自殺する人が相次いだため、発禁処分に処するところも出た事例がある。このような模倣自殺の現象をウェルテル効果という。

日本文学では、夏目漱石の『こゝろ』、井上靖『しろばんば』、渡辺淳一失楽園』などで自殺が描かれた。

自殺した作家

また、動機はさまざまであるが、多くの著名な作家文学者が自殺を決行している。海外で有名なのはフセーヴォロド・ガルシンジャック・ロンドンヴァージニア・ウルフシュテファン・ツヴァイクアーネスト・ヘミングウェイリチャード・ブローティガン老舎など。

日本では北村透谷川上眉山有島武郎芥川龍之介金子みすゞ牧野信一太宰治田中英光木村荘太原民喜久坂葉子火野葦平三島由紀夫川端康成田宮虎彦佐藤泰志江藤淳鷺沢萠野沢尚見沢知廉などがいる。

自殺の研究

エミール・デュルケーム

自殺に関する文献は古くから数多く伝存しているが、19世紀中葉より西欧で当時増大をみせていた自殺に対して統計学的手法が適用された。

1879年イタリアのモルセッリ著『自殺』では

  1. ゲルマン型(変種としてドイツ人、スカンディナヴィア人、アングロサクソン人、フラマン人を含む)
  2. ケルト-ローマ型(ベルギー人、フランス人、イタリア人、スペイン人)
  3. スラヴ型
  4. ウラル-アルタイ型(ハンガリー人、フィンランド人、ロシアの若干の地方)

といった人種的類型が設定され、性別や年齢、職業、信仰、居住特性、経済状況などの要因が自殺に影響していることが認められている。とはいえ、自殺を身体的、精神的病理の現れとする見方が支配的であった。

これに対してエミール・デュルケームは、1897年の『自殺論』において、モルセッリやワーグナーの研究成果を参照しながらも、精神病理や人種・遺伝、気候、模倣によっては自殺の現象が完全には説明できないことを統計的に明らかにし、「それぞれの社会は、ある一定数の自殺をひきおこす傾向をそなえている」として、社会ないし集団の条件と結びついて生じる自殺傾向を社会学の研究対象として位置づけた。つまり、一定範囲内の自殺の発生は「正常な」社会現象だというのである。デュルケームは、近代社会における(社会的紐帯の弱化による)「自己本位的自殺」、(欲望の際限なき拡大がもたらす苦痛による)「アノミー的自殺」の2タイプを定式化するとともに、伝統的社会における「集団本位的自殺」、極限状況における「宿命的自殺」を析出し、計4類型を設定した。

フロイトは長らく人間の心理の底にある生命衝動としては「生の欲動(リビドーまたはエロス)」によって快を受け苦痛を避ける快感原則で説明しようとしたが、晩年近くになりPTSDで苦痛なはずの体験を反復強迫している症例などから、それでは説明できない破壊衝動を見出し、後にそれを「死の欲動(デストルドーまたはタナトス)」と名付け、生を「生の欲動」と「死の欲動」との闘争、さらには愛憎混じった感情の転移であるなどの思索をした。これらの考えに批判も多いが、自殺者の心理剖検に対し一定の貢献があったと臨床の現場では受け止められることもある[227]

1960年代から1970年代にかけ、アメリカ合衆国のエドウィン・シュナイドマン、臨床心理学、精神分析、社会学の仲間たちと、本格的な自殺の臨床研究を重ね、1968年アメリカ自殺学会を設立。アメリカ国立衛生研究所(NIH)でベセスダ自殺予防センター所長を勤めた。




注釈

  1. ^ 文化的に推奨される場合には、社会的圧力によって自殺が強要される場合もある。チェコヤン・パラフや、フランスにおけるイラン人焼身自殺などである。また「抗議の意思を伝える政治的主張のため」とする自殺が行われる場合がある。これは後述の「焼身自殺」の項でも述べる。
  2. ^ (厚生労働省大臣官房統計情報部 2007). 「ICDとは、我が国が加盟する WHO において定められた分類であり、正式には「疾病及び関連保健問題の国際統計分類:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems」といい、異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの記録、分析、比較を行うために国際的に統一した基準で設けられた分類です。データを集める上で重要なことは、一定のルールと基準が示されていることです。実際に、ICD は多くの原則とルールが定められ、時系列の比較や国際比較が可能となり、一般疫学全般や健康管理のための標準的な国際分類となっています。」
  3. ^ (Krug 2002). p.10. "Nearly half of these 1.6 million violence-related deaths were suicides, almost one-third were homicides and about one-fifth were war-related."
  4. ^ (Eberwine 2003). "The panorama of global violence presented in the report is at odds with some commonly held assumptions. Of all violent deaths in 2000, nearly half were suicides, just under a third were homicides and only a fifth were directly related to war. 'This is quite different from the picture we get from the media, where the focus is on organized forms of violence,' says Krug. 'Suicides and homicides represent a much bigger proportion of fatal violence around the world.'"
  5. ^ "It is estimated that as many as 90% of indivisuals who have ended their lives by commiting suecide had a mental disorder, 60% of which were depressed at the time" (WHO 2006, p. 10)。
    本図は、世界保健機関(WHO)が精神科入院歴の無い自殺既遂者 8,205例について調査したもので、複数診断の総数(12,292)に対する割合を示している[68]
  6. ^ 日本では薬物乱用、依存が少ないが、欧米ではこれが高く、特にアメリカ、オーストラリアでは日本の数十倍の有症率を示している(国立精神・神経医療研究センター 2005)。
  7. ^ このような精神的危機の背景には、激しい競争社会や、低い自己評価に起因するさまざまな否定的感情、家庭、職場での生活が困難など複数の要因がある。膨大な数の統計学的・疫学的研究は、文化(宗教・教育)と生活様式(都会暮らしか田舎暮らしか)と家族の状態(独身か既婚か)、社会的状況(失業者や囚人など)が自殺行為に重要な意味をもつことを明らかにしている(「脳と性と能力」カトリーヌ・ヴィダル、ドロテ・ブノワ=ブロウエズ(集英社新書)[要ページ番号])。
  8. ^ 前者としては、真珠湾攻撃時に被弾した海軍戦闘機操縦者(飯田房太海軍大尉)が米軍格納庫に突入しており、後者としてはビルマ航空戦のベンガル湾上空において、爆撃機迎撃時に被弾し海上に自爆し、戦死後は生前の功績も含め、軍神としてあがめられた加藤建夫陸軍少将(死後昇進)が有名な事例として挙げられる(両人とも被弾後に不時着ないし落下傘にて脱出することは可能だった)
  9. ^ 2006年(平成18年)2月16日 小田急小田原線小田急相模原駅を通過中の箱根湯本行「はこね43号」に20代の男性が飛び込み自殺。その際に男性の体が車両前面の展望室に激突して窓ガラスが飛散。車内の乗客9人が重軽傷を負った。
  10. ^ 彼は支援者たちが拝跪する中、燃え上がる炎の中でも蓮華坐を続け、絶命するまでその姿を崩さなかった。その衝撃的な姿がカメラを通じて世界中に放映され、ベトナム国内だけでなく国際世論に大きな影響を与えることとなった。左翼思想をもつロックバンドレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの初アルバムには炎に包まれるティック・クアン・ドックの写真が載せられている。

出典

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