じしょう‐こうい〔ジシヤウカウヰ〕【自傷行為】
自傷行為
『新豊折臂翁』(白居易『新楽府』) 天宝10年(751)に大規模な徴兵があった時、24歳の青年が兵役を逃れるため、深夜、ひそかに自らの腕を大石でたたき折った。以来60余年、片腕はだめになったが彼は長寿をまっとうし、痛みで眠れぬ夜はあるが後悔はしていない。
『何者』(江戸川乱歩) 結城弘一は徴兵検査に合格し、入営間近だった。軍隊恐怖病の彼は、書斎で自らの足首を銃撃して骨を砕き、ピストルを庭の池に投げ入れる。何者かに命をねらわれて不具者になった、と見せかけ、兵役を逃れようとたくらんだのだった→〔一人三役〕2。
『ペール・ギュント』(イプセン)第5幕第3場 村役場で徴兵検査が行なわれる。真っ青な顔色の若者が、右手を布にくるんでやって来る。彼は「山で鎌がすべり落ち、指を1本、切り落としてしまった」と言う。徴兵係官の大尉は「出て行け!」と怒鳴る。4本指になった若者は、その後結婚し、子供も3人できて、天寿を全うした〔*この男の葬式の場に、ペール・ギュントが通りかかる〕。
★2.殺人犯が、自分も被害者であるように見せかけるため、死なない程度に自らの身体を傷つけたり、毒を飲んだりする。
『グリーン家殺人事件』(ヴァン・ダイン) グリーン家で連続殺人事件が起こり、一家の人間は1人また1人と殺されていく。犯人のアダ・グリーンは、銃を自身の左肩甲骨に斜めに当てがって撃って傷を負い、彼女も犯人に命を狙われた被害者である、と皆に信じさせることに成功する。
『Yの悲劇』(クイーン) 少年ジャッキーが、伯母ルイザの毎日飲む卵酒に毒を入れる。そしてルイザが飲む直前に、いたずらをよそおって、致死量に達しないだけの分量を盗み飲みして倒れる。ジャッキーは、ルイザの身代わりになって毒殺されかかった、と見なされる。
★3.死なない程度に自らの身体を傷つけるつもりが、手元が狂って死んでしまう。
『銭形平次捕物控』(野村胡堂)「小唄お政」 小唄の師匠お政は、同業のお寿を憎み、罪に陥れようとたくらむ。夜道でお政は、自分の左喉を剃刀で少し掻き切って傷を負い、「お寿に襲われたが、あやうく助かった」と世間に見せかけようとする。ところが、小唄の師匠ゆえ喉笛を避けたのがあだとなり、手が滑って頸動脈を深く切ってしまう。お政は力をふりしぼって剃刀を遠くへ投げ、そのまま絶命した。
★4.死なない程度の毒を飲むつもりが、飲みすぎて死んでしまう。
『熊座の淡き星影』(ヴィスコンティ) ジャンニは少年時代、睡眠薬を飲んで自殺の真似事をし、自分の要求を母に認めさせたことがあった。彼は姉サンドラを愛し、性的結合を願って強引にサンドラと関係を結ぼうとするが、拒まれる。「姉さんに捨てられたら、死んでやる」とジャンニは言い、姉の気を引くために、ふたたび狂言自殺を試みる。しかし薬物の量を間違えて、本当に死んでしまう。
★5.当たり屋。走っている自動車にわざと接触して、軽い怪我をする。「示談にしよう」と持ちかけ、自動車の運転者から金を得る。
『狩猟で暮したわれらの先祖』(大江健三郎) リヤカーを引いて流浪する一家6人(老女・男・男の妻・男の愛人・息子・幼女)が、「僕」の住む町で居酒屋を営み、定住をこころざす。しかしトラブルを起こして町を追われ、その時のいざこざで息子が死ぬ。残りの5人は、幼女に当たり屋をさせて、東北・北海道地方をさすらう。幼女は数ヵ月で5度、自動車にはねられ、数々の打撲傷を負った。股関節は、早急に手術しないと、とりかえしのつかないことになると診断された。
『少年』(大島渚) 父・母・10歳の少年・3歳の幼児の一家4人が、四国から北海道まで旅をする。父は持病があるので働かず、母と少年が当たり屋をして金を稼ぐ。冬の北海道で、路上にいる一家4人を避けようとして乗用車が電柱に衝突し、乗っていた少女が死ぬ。その後、一家は大阪で警察に逮捕される。少年は「車に当たったことなどない」と言い張るが、死んだ少女を思い出して、「北海道には行ったよ」と言う。
『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「ピノコ還る!」 ピノコが、こそ泥の源(げん)さんと知り合いになる。源さんは夜逃げする時、ピノコを連れて行く。金がなくなったので、源さんは当たり屋をする。しかし車がすばやくブレーキをかけたため、源さんは車に当たらず、路傍の立ち木にぶつかって重傷を負う。車を運転していたのはブラック・ジャックであり、彼はピノコの頼みを聞き入れて、源さんの怪我を治療し、いくらかの金を与えて追い払う。
★6.貴族社会から逃れて法師になるために、身体を醜く傷つけようと思う。
『明惠上人伝記』 明惠上人は、幼い頃から「法師になりたい」と願っていた。4歳の時、父が「この子は美しいから、元服後は御所へ勤めさせよう」と言った。明惠上人は「醜い片輪者になれば、元服などせずに、法師になることができるだろう」と考え、縁先から落ちた。しかしそれを見た人が抱きかかえてくれたので、目的を果たせなかった。
『聊斎志異』巻12-477「果報」 ある男が「跡継ぎになるから」と言って伯父をだまし、財産だけ自分のものにして跡を継がず、伯父の家を絶やしてしまった。同様の手口で、男は3軒の家の財産を得た。突如、男は乱心して、自分で自分に「お前は人の財産を奪って、それでも生きるつもりか」と言い、刀で身体の肉を切り取って地面に投げつけた。また「お前は人の家を絶やしたのに、自分の後は絶やすまいと思うのか」と言い、腹を切り腸を引き出して、死んでしまった。
『黄金伝説』104「聖ペテロ鎖の記念」 ある代官が悪霊にさいなまれ、自分の歯で、われとわが身の肉をずたずたに噛みちぎった。教皇ヨハネスが、聖ペテロの鎖(*かつて聖ペテロを牢につないだ鎖)を、暴れ回る代官の首にかける。鎖の持つ聖なる力により、悪霊は悲鳴をあげて代官の身体から退散した。
★9.治世の期間を終えた王が、自分の鼻・耳・唇などをナイフで切り落とす。
『金枝篇』(初版)第3章第1節 インド南部のクウィラケア地方では、12年ごとに祝祭が行なわれ、王の治世は、祝祭と祝祭の間の12年間と定められている。12年が終わると、王は万民が見守る中、ナイフを取り出し、まず自分の鼻、次に耳、次に唇・・・・というように、身体のあらゆる部位を、自分の手でできる限度まで切り落とす。そして最後に、自らの喉を掻き切るのである→〔王〕5。
自傷行為
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/21 00:39 UTC 版)
自傷行為(じしょうこうい、英: Self-harm)は、意図的に自らの身体を傷つけたり、毒物を摂取したりすること[2]。致死性が低い点で自殺とは異なる。リストカット、ライターやタバコで肌を焼く(根性焼き)、髪の毛を抜く、怪我をするまで壁を殴るなどの行為がある。また、OD(オーバードーズ)など薬を過剰に摂取するなどもある。虐待のトラウマや心理的虐待及び摂食障害、低い自尊心や完璧主義と正の相関関係があると考えられている。また抗うつ薬や、他の薬物などが自傷行為を引き起こすことが知られている。
- 1 自傷行為とは
- 2 自傷行為の概要
自傷行為
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/04 01:11 UTC 版)
詳細は「自傷行為」を参照 気持ちは害悪側にも作用しうる。人生において猛烈なストレスや問題を抱えている時、当人が自傷行為に及んでしまうことがある。気持ちが晴れ晴れとしている時、人々は絶対にそれを終わらせたくないと思う。逆に気持ちが憂鬱だったり落ち込んでいる場合、人々はその気持ちを消し去りたいと思う。自分自身に危害や痛みを加えることは多くの人にたまに見られる反応で、なぜなら人々は現実問題を一旦忘れるための何かを望んでしまうからである。こうした人達は、その痛みが自身の現実問題ほど悪いものではないと考えているので、現在自分が感じているものとは別の何かを感じるために、自分自身を切ったり、刺したり、食事をとらずにいる。多くの人が自傷行為を選択するのは、気持ちを紛らわすことだけが理由ではない。一部の人々は自身を罰するために自傷行為に至る(軽微な例だと、初歩的なミスに恥じ入って自分で頭を小突いたりする)。
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