薬物治療
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薬物治療(やくぶつちりょう、英語: pharmacotherapy)とは、薬を使用して行う医学的な治療のことである。
概要
医学的に行われる治療には、手術や心理療法などの様々な治療があるが、そのなかで薬物を患者に投与する治療を総称して薬物治療とよぶ。薬物を患者に投与することで、病気の治癒、または患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の改善を目指す治療である。殺細胞作用を持つ物質を使用する、主として癌に対して行う薬物治療を特に化学療法(chemotherapy)と呼ぶ。
プロトコルに基づく薬物治療管理
2010年、医師以外の医療スタッフが実施可能な業務内容が整理された、厚生労働省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について(医政発0430第1号)」[1]により発出された概念で、英語のProtocol-Based Pharmacotherapy Managementを略してPBPMと呼ばれる。
日本におけるPBPMの開始以前に、欧米でCollaborative Drug Therapy Management; CDTMという呼称での取り組みが実践され、米国では医療過疎地域での医療提供を、英国では医師不足解消を目指したが、日本では薬剤師による薬の処方や検査のオーダーなどが認められないため、欧米の制度をそのまま導入するのは極めて困難である[2]。
日本病院薬剤師会の推奨するPBPMは、2016年に
- 医師・薬剤師等が事前に作成・合意したプロトコールに基づき
- 薬剤師が薬学的知識・技能の活用により
- 医師等と協働して薬物治療を遂行すること
と定義している[2]。
「疑義照会簡素化プロトコール」が、一対一の医療機関と薬局、地域の基幹病院と複数の薬局、地域の複数基幹病院と地域薬剤師会など、さまざまな組み合わせで生まれ、運用が開始された[3]。「疑義照会の効率化プロトコル」と呼ばれる場合もある[4]。
薬物治療管理の一環として、調剤上の形式的な変更に伴う疑義照会を簡素化し、患者への薬学的ケアの充実と処方医や保険薬局での業務負担を軽減を図る目的で運用されている。参画を希望する場合は合意書を交わすことを必須条件としている例もある[5][6]。
実施例
- 2016年4月、京都桂病院は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の吸入療法に導入。薬剤師がCOPD患者一人ひとりに最適な吸入デバイスを、プロトコルに沿って選択・決定する[7]。
- 大阪市の基幹病院5施設と、天王寺区薬剤師会は、成分名が同一の銘柄変更、剤形の変更、別規格がある場合の規格変更―など7項目について疑義照会を省略可能としていて、このうち、成分名が同一の銘柄変更は、併売品の変更に対応したもので、多くの地域が省略可能な項目にしている[3]。
- 併売品とは、異なる製薬会社が同一成分の薬剤を異なる商品名で販売したり、同じ商品名を異なる製薬会社が並行して販売すること[3]。
- 例:DPP-4阻害剤シタグリプチンリン酸塩水和物の「ジャヌビア」と「グラクティブ」[3]。
脚注
- ^ 医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について(医政発0430第1号) 厚生労働省医政局長通知(平成22年4月30日) (PDF)
- ^ a b プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)の円滑な進め方と具体的実践事例(Ver.1.0) 日本病院薬剤師会(平成28年3月31日) (PDF)
- ^ a b c d “連載〈5〉薬局で併売品変更、製薬企業の戦略に影響も 疑義照会の簡素化で”. 日刊薬業 (2019年12月16日). 2019年12月19日閲覧。
- ^ 平成30年度患者のための薬局ビジョン推進事業 大阪府健康医療部薬務課、大阪府薬剤師会 (PDF)
- ^ 「院外処方における疑義照会簡素化プロトコール」の運用について IMS三芳総合病院
- ^ 「院外処方せんにおける疑義照会簡素化プロトコル」の運用について 京都大学医学部附属病院(2015年6月25日)
- ^ COPDの吸入療法にPBPMを導入 最適な吸入デバイスを薬剤師が選択する新たな試み ベーリンガープラス(2018年12月)
関連項目
薬物療法(降圧薬)
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近年は大規模臨床試験がいくつも出そろい、高血圧治療指針(ガイドライン)では科学的根拠に基づいた降圧薬の選択を推奨している。 日本では依然として主治医の裁量ではある。 Ca受容体拮抗薬は副作用が少なく血圧を大きく下げるため、多くの場合で有用である。エビデンスが豊富で、危険因子として特に比重の高い脳出血は、同剤の開発前後で明らかに減少している。虚血性心疾患においても、日本人では冠攣縮型狭心症の関与が大きく、Ca受容体拮抗薬が有効である。 降圧利尿薬は廉価であるが、耐糖能の悪化や尿酸値上昇、低カリウム血症といった副作用により、敬遠する医師が多かった。しかし多くの臨床試験によってACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬などの最近の高価な降圧薬と同等か、それ以上の脳卒中、心筋梗塞予防、心不全改善、腎保護効果が明らかになっており、最近見直され処方する医師が増えている(例:インダパミドの項参照)。 日本の医療は国民皆保険でありコストを考える必要はあまりないため、たとえリスクの低い患者であっても最初から高価で切れ味の良いACE阻害薬やAII拮抗薬から始めても良いが、降圧利尿薬の選択をいつも考慮する。 詳細は「高血圧治療薬」を参照 なにもリスクがない患者では、コストが安い利尿薬やカルシウム拮抗薬を第一選択とする。60歳未満ではACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬なども用いられる。 降圧利尿薬は古典的な降圧薬であるが、低カリウム血症、耐糖能悪化、尿酸値上昇などの副作用にもかかわらず、最近の大規模臨床試験の結果では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、Ca拮抗薬などの新しい世代の降圧薬に劣らない脳卒中、心筋梗塞予防効果が証明されており、米国では第一選択薬として強く推奨されている。降圧利尿薬は痛風の患者には使用するべきではない。また緑内障の発症を著しく促すことも最近明らかになっている。 糖尿病や腎障害の患者では、ACE阻害薬またはAII拮抗薬を第一選択とするが、これらの合併症がある場合には、130/80mmHg未満の一層厳格な降圧が必要とされるために長時間作用型Ca拮抗薬の併用も不可欠である。腎障害が高度な場合にはACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬は用いることができない。 心不全の患者では、ループ利尿薬に加えて、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬の併用が有効である。最近βブロッカーの少量追加、K+保持性利尿薬も有効であるとのエビデンスも蓄積されている。 虚血性心疾患の患者では、従来はβブロッカーが第一選択であったが、最近はACE阻害薬またはAII拮抗薬や長時間作用型Ca受容体拮抗薬の有用性も証明されている。特に、冠動脈のれん縮による狭心症合併例では長時間作用型Ca拮抗薬が有効である。 高齢者高血圧に関して、以前は根拠がないままに積極的な降圧は必要がないとされていたために、2000年版の日本の高血圧治療ガイドラインでも高齢者では高めの降圧目標値が設定されてきた。しかし最近の大規模臨床試験では、年齢に関わりなく積極的な降圧が必要であることを明らかにしており(HYVET studyなど)、欧米の高血圧治療ガイドラインでは年齢による降圧目標値の設定は行っていない。また日本の高血圧治療ガイドラインも、2004年版では高齢者高血圧も140/90mmHg未満までの降圧が必要であるというように変更された。 慢性腎臓病を合併した高血圧の治療については、2008年に日本腎臓学会・日本高血圧学会から共同でガイドラインが発表された。第1選択はレニン-アンジオテンシン系抑制薬とされ、第2選択は利尿薬またはCa拮抗薬、第3選択はCa拮抗薬または利尿薬とされている。 妊婦に対しては、多くの降圧薬に催奇形性があるか、ある恐れがあり、ヒドララジン、αメチルドーパのみを使用する。 αブロッカーは、基本的に推奨されないが、前立腺肥大症を合併している患者などでは有用かもしれない。しかし、αブロッカーは最近の大規模臨床試験では最も古典的な降圧薬である降圧利尿薬よりも脳卒中や心不全予防効果が劣ることが明らかになり、最近の欧米の治療ガイドラインでは第一選択薬から外されている。
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