薬物療法を行うために必要な検査
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/06/14 15:25 UTC 版)
「化学療法 (細菌)」の記事における「薬物療法を行うために必要な検査」の解説
グラム染色 グラム染色は感染症学で最も基本となる検査である。喀痰などをグラム染色し、細菌が存在しないかを調べる検査である。グラム染色と顕微鏡でわかることは菌培養に比べて少ないが組み合わせることで非常に見通しがよくなる。まず第一にグラム染色は培養検査に比べて検査にかかる時間が短い。通常培養には2日から1週間がかかってしまう。多くの感染症の場合は培養結果を見る前に治療を開始しなければならない。グラム染色はその日のうちに結果がわかるのでリアルタイム性という点では培養に勝る。グラム染色でわかることはグラム陽性菌かグラム陰性菌か、あるいは球菌か桿菌かということである。すなわちおおまかに4つに分類ができるだけである(らせん菌などもわかるので厳密には正しくないが)。但しこれだけで大まかな抗菌薬選択の基準にはできる。また培養検査の欠点を補うこともできる。例えば培養検査では嫌気性菌は培養しにくいという欠点があるが、グラム染色では関係ない。また、培養で数を増やすという作業を行っていないのでコンタミネーションがすぐにわかる。多くのグラム陰性桿菌の中にグラム陽性球菌が数個見られたら、グラム陰性桿菌の感染と考えればよい。また白血球の様子などもわかり、病勢のフォローの指標となる。喀痰グラム染色で細菌を認め、抗菌薬を投与したあと、また喀痰グラム染色を行い菌が見えなくなり、呼吸数が安定し、痰の量が減ればそれは発熱、CRPの改善がなくても改善傾向ととらえてよい。 培養検査 培養検査は原因菌同定を行うことができる。培養検査は時間はかかるが菌種名まで教えてくれ、薬剤感受性も調べてくれる。グラム染色を手がかりに行った治療が正解であったか答えも教えてくれる。仮に抗菌薬の選択が正解であったとしても培養の結果を知ることで、さらに抗菌薬のスペクトルを狭めることもできるし、菌種によっては合併症のモニタリングも可能になるので必ず参照することが大切である。また培養検査の限界も把握しておかないとミスリードをしてしまう。嫌気性菌は培養しにくいので、嫌気性菌による感染症の場合、コンタミの常在菌がコロニーを作ってしまい、判断を誤ることがある。そういった意味でもグラム染色を併用し培養結果と矛盾しないかを調べておくのが重要である。また抗菌薬投与後の培養でも病原菌がすでに死滅しており常在菌を拾ってしまう可能性がある。また検体の種類によっても培養検査の有効性は変わってくる。例えば入院患者の下痢の便培養は有効な菌種を同定できる可能性は低い。 重篤な感染症ならば血液培養を行う。重篤とはどういう状態かの定義は難しい。体温、白血球数は高いときも低いときもあるSIRSの診断基準などを参照にするとわかりやすい。原因不明の意識障害、神経症状、心不全、腎機能障害、代謝性アシドーシス、呼吸性アルカローシスをみたら敗血症を疑う。敗血症の徴候であるshaking chill(悪寒戦慄)、呼吸数>30回/分、酸素飽和度の低下、ABGでの代謝性アシドーシス、乏尿、意識レベルの変化(大抵は低下)を危険な熱の特徴(severe high fever)という。severe high feverの他、体温38.5度以上で悪寒戦慄を伴う場合、白血球数が12000/μl以上、または4000/μl未満の場合、静脈注射で抗生物質を使うときは血液培養の適応があるという専門家の意見がある。血液培養の適応は敗血症を疑った時であり、他に適応はない。血液培養は2セット(合計4本、2本に好気性ボトルと2本の嫌気性ボトルである)である。これは部位を変えて採血をする。好気性菌ボトルと嫌気性菌ボトルがあるがこのときは針をかえない。アルコールランプも使わない。これら一連の行為はコンタミかどうかの判断をするためである。 培養検査を扱うには次の経験則を知っていると判断しやすい。例外を除いて感染症は悪化か改善のどちらかの経過しかなく、抗菌薬を投与しても変化なしということはありえない、培養で出てきた菌を全て治療対象とする必要はないである。 遺伝子検査 遺伝子検査は菌種同定を培養よりも迅速に行える画期的な検査である。20世紀のころから広域スペクトルな薬は正常細菌叢まで殺してしまうこと、耐性菌を生みやすいということがわかっていたが、培養できるまで菌種を同定できなかったため、またグラム染色の普及率の低さもあり広域スペクトルな抗菌薬を使用せざるを得なかった。遺伝子検査による迅速検査キットは感染症マネジメントを大きく変えた。この技術によって初期診療から病原菌にフォーカスを絞った治療が行えるようになったといっても過言ではない。フォーカスを絞った治療を行うために臨床薬理学の重要性も著しく高まった。
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