自尊心
自尊心とは、自尊心の意味
自尊心とは、自分で自分のことを誇らしく思う心を意味する。簡単にいうと、自分への高評価ということである。英語で自尊心は self‐respect、あるいは self‐esteem と表現できる。自尊心とよく似た意味の言葉に「自己肯定感」や「プライド」がある。自己肯定感は厳密な定義だと、自尊心に含まれている感覚だといえる。自己肯定感は、あくまで自分に評価されることで、自分を大切だと思える心の動きである。それに対し、自尊心は自己肯定感と、自己有用感が合わさって生まれる。自己有用感とは、他人に評価されて自分を大事に思える感情である。すなわち、人は自己肯定感の先に、自尊心を抱けるという仕組みである。プライドも正確な定義では、自尊心と同じ概念ではない。自尊心は多くの場合、自分で自分を正しく評価した結果として抱ける感情である。そこには、実績や能力といった裏付けがともなう。しかし、プライドは自我が肥大した末の、ネガティブになりかねない感情である。自尊心はほとんどの場合、歓迎されるものであるのに対し、プライドは人生において邪魔となることもある。
なお、自尊心を育んで一人前の人間へと近づく行為を「自尊心を高める」という。逆に、自尊心の低い人は、他人といて卑屈な態度を取ったり、危険行為への抵抗がなくなったりする。自尊心を高められるかどうかは、育ってきた環境によるところも大きい。ある程度成長してからでも、学校や職場などでめざましい成果を上げられれば、自尊心は高まっていく。
自尊心の類義語、対義語
自尊心の類義語として、「自信」「自我」「自負心」などが挙げられる。自信は「自分を信じる感情」を意味し、細かい点で自尊心と意味が異なる。自尊心が成果や実績によって育まれていく一方、自信は根拠を伴わないことも多い。また、「自信過剰」といった表現があるように、否定的な文脈で使われるケースもある。次に、自我とは、「自分で意識している自分自身のあり方」である。自分が抱く、すべての感情、感覚、思考、すべてが自我の一部である。そのため、あくまでも自己評価の部分だけに関連している、自尊心とは違う。そして、自負心は、実績や技能によって自分を誇らしく思うという部分が自尊心と似ている。しかし、自負心とは「自分の能力に責任を持つ」というニュアンスを含む。自負心は、「自分を大切に思う」という文脈で使われる自尊心と、使い分けるべきである。
自尊心には対義語もある。「劣等感」「自虐」「卑屈」などは、自尊心と逆の意味を持つ。劣等感とは要するに、コンプレックスである。自分に自信を持てず、低評価をつけてしまう心である。次に、自虐は、自分で自分を悪く触れ回る行為、あるいは、そうした思考を意味する。そして、「卑屈」は過剰に自分を低く見せる状態である。卑屈な人は、自分を攻撃しながら、他人にも嫌味な態度をとっていることが多い。卑屈の原因には、自尊心の低さが潜んでいる。それゆえ、自尊心が高まれば、卑屈な態度も直っていく可能性はある。
自尊心が高い人、低い人
自尊心が高い人物は、自分の能力や現状をありのまま受け止めている。そのため、不平不満を口にする機会が少ない。また、他人に対してもおおむね寛容である。自分の価値を把握しているので、他人の言葉を素直に解釈できる。言葉尻をとらえて怒ったり、不要な批判をしたりすることが少ない。その結果、人間的な余裕にもつながっていく。自尊心の高い人間はリーダー職、教育係に向いている。他人から信頼されやすく、年少者からの良き手本にもなれるからである。こうした立場について、自尊心の高い人は謙虚になることはあっても、卑屈にはならない。適切な責任を感じながら、与えられたタスクを果たしていく。また、自分を肯定できているので、ミスを犯しても必要以上に落ち込まない。切り替えの早さも、自尊心の高い人の特徴である。
一方、自尊心の低い人は他人にも自分にも、攻撃的な面を見せる。自尊心の低い人はプライドが肥大しやすく、それでいて能力に自信がないので、他人の言動に敏感である。相手が無意識に発した言葉にも、ネガティブな意味を見出してしまう。また、自分が自分を評価できないように、他人もそう思っているのだと信じ込みがちである。そうした心理状態が続くため、自尊心の低い人は相手の態度を素直に受け取れない。感謝や思いやりを示す頻度が低いので、決して人当たりがよくない人間へと育っていく。総じて、自尊心の低い人はいつでも不満を感じており、人間関係でトラブルを起こしやすい。
自尊心の例文、使い方
自尊心を使った文では「自尊心を傷つけられる」という表現が有名である。すなわち、誰かに自己評価を否定される状態である。多くの場合、他人からの批判が理不尽であったり、的外れであったりする。ただし、正当性のない批判であっても、日常的に続けば当人の自尊心はどんどん低くなっていく。幼児期に虐待を受けた人間が、成長してから人間関係を上手く築けなくなる現象は、自尊心を傷つけられているからだといえる。「自尊心を持つ」という言葉は「自尊心を高める」に似ているものの、「もともとなかったものを意識的に抱く」というニュアンスを含む。精神的な領域において、「持つ」とは「強く意識する」ということである。つまり、自分で自分を高く評価できるよう、考え方を変える行為を指す。
「自尊心を高める」という表現を「自尊心を育てる」と言い換える場合もある。意味として、両者はほとんど同じである。「育てる」とは地道に続けていくとのイメージを持つ言葉である。「自尊心を育てる」とは、自尊心が低い状態から継続的に努力して少しずつ高めていくことを意味する。
「自尊心を満たす」は、他人の自尊心を意図的に刺激し、自己肯定感を高めてあげることである。そのため、自尊心を満たすための言葉、行為は本心からのものとは限らない。相手の心を都合よく掌握しようと、でまかせを繰り出しているだけの場合もある。
自尊心
自尊心とは、自己を尊重し、自分自身の価値を認識する心の状態を指す。自尊心が高い人は、自己肯定感が強く、自分自身の能力や存在を肯定的に評価する傾向がある。一方、自尊心が低い人は、自己否定感が強く、自分自身の能力や存在を否定的に評価する傾向がある。 自尊心は、心理学の領域で広く研究されており、自己認識や自己評価、自己効力感などと密接に関連している。 自尊心は、生涯を通じて形成され、変化するものであり、育児や教育、職場環境などの社会的環境が大きく影響する。自尊心を高めるための方法としては、自己肯定的な思考の習慣化、適切な目標設定と達成、自己理解と自己受容、他人との良好な関係の構築などがある。
自尊心
「自尊心」とは、自分が価値のある存在であると評価することを意味する表現である。
「自尊心」とは・「自尊心」の意味
「自尊心」とは、自分に価値がある、優れていると評価するという意味で用いられているが、使うシーンによってニュアンスが異なることもある。自己肯定感が高くポジティブという良いニュアンスで用いられることもあれば、プライドが高いというネガティブなニュアンスで用いられることもある。そのため、褒め言葉として用いる時は注意が必要だ。元々は心理学用語であったが、現代においては一般的に使われる表現である。・「自尊心」と「プライド」の違い
「自尊心」と「プライド」は同じ意味として捉えても間違いではないが、厳密にいうと意味が少し違う。「自尊心」が自分で自分のことを価値があると評価する絶対評価であるのに対し、「プライド」は自分に価値があると認めるために相手を打ち負かそうとする相対評価である。「自尊心」は、誰かの評価や何かの結果などに関わらず、ありのままの自分に価値を見出しているという意味となる。
・「自尊心」をテーマとした小説
「自尊心」が上手く描かれている小説としては、中島敦の短編小説の「山月記」が代表的である。「人虎伝」という中国の逸話をもとに作られたストーリーで、自尊心の強い青年が人食い虎に変貌するというものである。青年は高級官僚として採用されるほど優秀であったものの、自尊心が高く役人という仕事を見下していた。仕事を辞め詩人になるために詩作にふけるものの、才能のなさに追い詰められ虎に変貌するという結末である。「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」が大きなテーマとなっているストーリーである。
・「自尊心」の重要性
「自尊心」は自分自身に価値があると認めることであり、人間が生きるために重要性が高い要素である。小さな成功体験を積み重ねていくことは、「自尊心」を高めるのに役立つとされている。
「自尊心」の熟語・言い回し
自尊心を傷つけるとは
「自尊心を傷つける」とは、恥ずかしい思いをするという意味の表現である。誰かに言われた言葉などで、自分を評価する気持ちが傷つけられた時に用いる。
自尊心が高いとは
「自尊心が高い」とは、自分を評価する気持ちが高いことである。一般的には自信に溢れている人のことを指す。「自尊心が高い」のは育ってきた環境によるものも大きいとされており、小さい頃からダメと言われることが少なくのびのび育てられた人は「自尊心が高い」傾向がある。「自尊心が高い」人の方が人間関係を構築するのも上手く、ビジネスでも成功しやすいと言われている。
自尊心が低いとは
「自尊心が低い」とは、自分を評価する気持ちが低い自信がない人という意味で用いられている。物事をネガティブに捉えたり、やる前から諦めてしまったりする傾向がある。小さい頃から親に色々なことを制限・否定されたり、失敗体験があったりする人は「自尊心が低い」という。「自尊心が低い」というのは、能力の有無に関わらず自分を肯定する気持ちが低いということである。
「自尊心」の使い方・例文
・心無い言葉に彼の自尊心は深く傷つけられた。・彼女は自尊心をくすぐるのが上手く、人を上手く操り最終的には彼女の思い通りに事が進む。
・自尊心の高さが態度に透けて見えるので、彼はあまり友だちがいない。
・時々、彼女の自尊心の高さがうらやましくなる。
・自尊心を傷つけられるので、彼女はSNSをやめた。
・温かい人たちに囲まれ、自尊心を満足させることができた。
・彼はあれほど能力があるのに自尊心が低い。
・彼の自尊心を傷つけるために、わざと嫌なことを言ってやった。
・グローバルに活躍するには、語学力だけでなく自尊心を高めることも大事だ。
・自尊心は少しずつ培われていくものである。
・日本人は世界的に見て自尊心が低い民族に分類されるだろう。
自尊心
自尊心とは、自らの価値を認める自己評価であり、自身を優れた存在・価値ある存在・意義ある存在であると位置づける気持ちのことである。または、自己の品格を貶めるような振る舞いを嫌悪する気持ちのことである。
自尊心という言葉は「自ら(を)尊ぶ心」とも読める。ちなみに英語では self‐esteem もしくは self‐respect という。あるいは pride も訳語として対応する。
一般的な文章表現の中では、自尊心は「自尊心が高い」「自尊心が許さない」といった言い回しで用いられることは多い。この両例における「自尊心」は「プライド」の語に置き換えられて用いられる場合も多々ある。
他人から貶されたり馬鹿にされたりした場合の「自分が否定された」という心理的動揺は「自尊心が傷つく」と表現できる。それによってまとわりついた自己否定の感情を払拭することをば「自尊心を取り戻す」と表現できる。
自尊心と似たような意味合いの表現として「自己肯定感」あるいは「プライド」などの語が挙げられる。自己肯定感もプライドも、おおむね自尊心と同義といえる。「自尊心」の語には「尊大である」という否定的ニュアンスが伴いがちであり、その否定的ニュアンスを避ける意味で「自己肯定感」や「プライド」などの表現が用いられる場合は少なくない。
自尊心の対義語にあたる言葉は、「自尊心」の対極に位置づけられるという意味では、「卑下」「卑屈」「劣等感」「自己否定」などが挙げられる。
直接的な「自尊心の対義語」と位置づけられる表現は見出しにくい。字の構成からいえば「自卑心」とか「自貶心」あるいは「自虐心」のような言い回しが考えられ得るが、そういった言い方があるわけではない、少なくとも一般的な国語表現とは認識されていない。同様に「他尊心」のような言い方もない。とはいえ「利己心」に対する語として「利他心」が用いられることがあるように、いずれ使われはじめ人口に膾炙するようになることも考えられなくはない。
じそん‐しん【自尊心】
自尊心、自己評価
自尊心
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自尊心(じそんしん)とは、心理学的には自己に対して一般化された肯定的な態度である[注 1]。英語のままセルフ・エスティーム(英: self-esteem)とも呼ばれる。
ここでは社会心理学における自己の概念に関して、育み維持される自己評価や、あるいは「ありのままの自己を尊重し受け入れる」態度とする。
自尊心とは
多くの研究者によって自己肯定感は人格形成や情緒の安定のために重要であると考えられており、自尊心はそのためには必要な感情であるとも言える。
自尊心とは、他人からの評価ではなく、自分が自分をどう思うか、感じるかである[1]。つまり、一時的に快感を与える、知識・技術・財産・容姿・結婚・慈善行為や性的な征服から生まれるものではなく、言い換えれば、外に求めることでも、人に与える印象でもない[1]。競争でも比較でもなく、自尊心の重要な原因は自分とも他人とも戦っていない状態である[1]。
その起源には、幼いころに大人から尊重され、価値を認められたか、励まされたかといったことがある[2]。しかし、最も重要な影響があるのは、自分自身で選択したということである[1]。言い換えれば、自分の可能性を実現したいという気持ちから、生き方を変えるということから自尊心が育まれていく[1]。
自尊心は、自分が有能であるといういわゆる自信と、自分に価値があるという自尊の2つの要素から成り立っている[3]。研究者によれば、自尊心の欠如は、不安・憂鬱・恐れ、アルコールなどの乱用、成績不振、暴力や虐待、自殺などにかかわっている[3]。
自尊心の利点
統計的なメタ分析によると、高い自尊心は仕事や学校での成績、精神的な健康、身体的な健康、そして人間関係に有益である[4]。自尊心の項目である自己効力感は、外向性と同様に創造性においても中程度のレベル(.13)で相関している[5]。数多くの二次的研究や原因比較実験研究によって、他人と比較することを控えることが自尊心に有益であることが示されている[6]。
自尊心が高いことによる利点は、2点が実証された[7]。1点目は自主性が高まり、自身の信念に基づき行動して新しい仕事のリスクを引き受ける強い意欲を持っていることである。2点目は成績などが悪くても全体的に満足を感じているので、機嫌良く過ごせることである。
自尊心の欠如および過剰
自尊心の欠如は、しばしばセルフコントロールを失い、依存症や摂食障害などの精神障害や自殺を引き起こすことがある。また、自尊心には、みずからが過ちを犯したり勝負において敗れたりすることへの恐怖を打ち消す効果もある。そのため自己愛性パーソナリティ障害や双極性障害における躁・軽躁状態のように自尊心が過剰になると、みずからが過ちを犯したり勝負において敗れたりしてもそれを認めることがなかなかできなかったり、この結果を相手方の不当性に求めたりする。
世界保健機関と自殺防止
世界保健機関は2000年に、青少年層に多発する自殺を防止するため教員や学校医、スクールカウンセラーを対象とした、「自殺の予防に向けた教職員のための資料」[8]を発表し、家庭内暴力、家族の頻繁な喧嘩、離婚などによる離別、頻繁な引っ越し、先住民族であること、性自認や性的指向の問題などの自殺を引き起こす要因を指摘し、不寛容からの解放によるいじめや校内暴力の防止と共に、就学者の自尊心の強化を挙げ、それが青少年を精神的苦悩や依存心から保護し、生活上の困難やストレスに対処できる力を与えることを明記している。
セルフヘルプ
何も心理療法を受けなくとも、自己イメージは自分で育てることが可能であり、『自信を育てる心理学 「自己評価」入門』のようなセルフヘルプのための本が出版されている[9]。自分の感情や望みや考えに気づくこと、自己受容すること、自己表現や自己主張を学ぶことは、自尊心のための最も重要な3つである[10]。
自分の行動や価値観や目標に気づこうとし、それに従って生きることは、自信と自尊の感情を生み出し、意識のはたらかせ方から生まれる[11]。
自己の受容は、変化のための条件であり、善悪といった判断をはなれ、事実を事実として受け入れ、恐れがあることを受容し、あまりにも受け入れられない時には受け入れられないことを受け入れるということである[12]。存在を認めていない恐れは、解決も克服もできないからである[13]。悲しみや喜びだけでなく、才能といった長所も、挑戦のための責任や他者からの敵意のために受け入れにくいことがある[14]。罪悪感については、怒りを自分のものとして認め、憤りを無視する、自己主張を恐れるといったもっと深い問題に直面する必要がある[15]。行ったことを認め、与えた危害を認め、償い、理由を探り、繰り返さないための決意を行う[16]。大人の自分と子供の自分の対立の解決も重要であり、同様に当時はそれが精いっぱいであったこと、同様に感情などを受け入れていく[17]。
念または英語でマインドフルネスとは、ただありのままに注意を向けるということであるが[18]、417人の質問回答の分析から、マインドフルネスが自尊心や不安や抑うつとの関係を示し、自尊心が不安と抑うつの軽減、抑止に対し、有益であるという役割を裏付けた[19]。
心理的支援
自尊心の形成をサポートする際に支援者は、本人の存在自体の価値をまるごと認め、本人に対して否定をせず根拠のある積極的な肯定をすることが大切であり、そのうえで、何かをすることができた際にそれがどのようなものでも一つ一つの達成を本人の心に届く形で肯定・称賛することが重要である[20]。
自尊心に関する批判
自尊心に関する初期の研究
自尊心研究の初期の第一人者の1人であるロイ・バウマイスターによると、バウマイスターが社会心理学者として研究を始めた1970年代には、自分の能力と価値観に自信がある人ほど幸福になって成功するという研究があったため、自尊心関連の研究は当時の主流であった[21]。
またその頃の研究では、いずれも相関関係は大きくなかったが統計的には有意なレベルで[22]、自尊心が高い生徒は学校の成績がよく、低い生徒は学校で苦労しているという調査結果や、未婚の母親や薬物依存症患者、犯罪者などは自尊心が低いことを示した研究があった。そのため、ナサニエル・ブランデンは自尊心に関して「心理的な問題のもとをたどればすべて、自尊心の低さにつながると思われる」と言及すること[23]や、カリフォルニア州で自尊心についての特別調査委員会委員長であるアンドリュー・メッカは「事実上すべての社会問題の根は、自分を好きになれないことに帰結すると考えられる」と言及すること[24]、報告書をまとめたカリフォルニア大学バークレー校の社会学者ニール・スメルサーは「ほとんどとは言わないまでも、社会に蔓延している問題の多くの根は、この社会を構成する人たちの自尊心の低さにある」と言及すること[25]があった。
自尊心の定説を覆した研究
なお、上記のカリフォルニア州での研究では確実な科学的根拠は見つからず、その点についてスメルサーは「残念だ」と述べている[25]。しかし、自尊心関連の研究については期待がなされており、もう一度研究がなされればもっと良い結果が出るものとされ、後に科学的な機関である心理科学協会で研究が行われた。この研究[7]では何千という研究の中から高い研究水準を満たすものを選び出して研究が行われ、自尊心のもつ様々な性質が明らかになった。その結果、自尊心に関する定説を覆すものになった。また、科学論文を審査した調査委員会の心理学者たちによると、少なくともアメリカ、カナダ、西ヨーロッパでは自尊心の低い人が満ちているという考えは間違いで、特に子どもたちは最初からとても自信を持っているものだと結論した[26]。
自尊心と学業成績との関係
自尊心と成績の相関関係はあり、確かに自尊心の高い生徒は成績が良かった[7]。だが、その因果関係は、10年生(日本の高校1年生)で成績がよかった生徒は12年生(日本の高校3年生)の時点で高い自尊心を持っていたが、逆に10年生の時に高い自尊心を持っていた生徒は、12年生で成績が良いということはなかったため、成績が先に高いことによって自尊心が高まるというものである。
自尊心と成績に関しては、別の研究も行われている。ドナルド・フォーサイスは、自身が担当する心理学のクラスで学生たちの自尊心を高めるため、成績がC以下の学生を2つに分け、毎週、自尊心を刺激するメッセージと事務的なメッセージを送る比較研究を行った[27]。その結果、自尊心を刺激するメッセージを受け取った学生は、対照群の学生たちよりも成績が悪く、さらに前回の試験のときよりも成績が下がってしまった。また、国際的な学力調査で8年生(日本の中学2年生)の数学の成績を比較した研究[28]によると、自分の能力に強い自信を持つアメリカ人の生徒は、日本や韓国といったアメリカに比べて自尊心の低い国の生徒よりもはるかに成績が悪かった。
自尊心と諸問題との関係
自尊心の高さは、飲酒・喫煙・薬物・未成年の性行為を防ぐことはなかった[7]。確かに自尊心の低さと薬物依存や10代での妊娠などの問題に相関関係はあるかもしれないが、低い自尊心がその問題を引き起こしているのではなく、逆因果の関係にあり、低年齢で薬物依存状態にあり妊娠をしていることで自尊心が低くなるという指摘がある。
自尊心の高さとナルシストとの関連
自尊心が高いことは、ナルシストと関連があることが指摘されている[29]。ナルシストが近年、特に若いアメリカ人の間で急増していて[30]、この30年で発表された歌の歌詞にまでその傾向が現れている[31]。ナルシストは集団内では最初の2、3回は好かれるものの、その種の人の評価は多くの場合最下位にまで転落して、周りの人にとっては付き合いづらい存在となる[32]。
自尊心に関するその後の研究
1970年代のアメリカでは前述通り自尊心の研究が栄えていたが、1980年代になるとマシュマロ実験に代表される自己調節(自己コントロール)に多くの心理学者が目を向けるようになった[33]。その後の研究で、自己コントロール能力が生む利益が総合的に評価され、「自己調節の失敗こそが、現代における主要な社会病理である」と結論付けられた[34]。この研究では、高い離婚率や家庭内暴力や犯罪、その他の問題の一因となった多くの例が挙げられている。
この研究に刺激され多くの研究がなされ、自己コントロール能力が学生の成績を予測する方法としてIQやSATのスコアよりも優れていることがわかった[35]。加えて、後の研究では職場では自己コントロール能力が高い上司は、部下からも同僚からも好意的に評価されていること、自己コントロール能力が高い人物は感情的にも安定していて、不安やうつ病や偏執病、精神病質傾向、強迫神経症、摂食障害、アルコール依存症その他の問題を抱える傾向が低く、また腹を立てることが少なく、腹を立てた場合にも暴言を吐いたり暴力をふるったりして攻撃的になることが少ないことが明らかになった[36]。
2010年にはニュージーランドで1000人の子供を誕生から32歳まで追跡するという大規模で徹底された調査が発表された[37]。その結果は上記の内容を裏付けるものであった。自己コントロール能力が高かった子供は、成人してからの肥満率が低く、性感染症を持つ者も少なく、歯の状態もよいという身体的に健康な状態であることが明らかになった。また、大人になってからも安定した結婚生活を営み、両親が揃った家庭で子供を育てる傾向があった。一方、自己コントロール能力が低かった子供は、アルコールや薬物の問題を抱えやすく、大人になってから経済的に貧しくなる傾向にあり、子供を1人親家庭で育てる割合が高く、刑務所に入る割合が高かった。この研究の内容は、評価方法は観察、両親・教師・子供本人からの問題点の報告によるもので信頼性の高い尺度であり、知能・社会階級・人種の要素を考慮してもなお、全てに有意の差が見られた。
この様に自己調節(自己コントロール)の大きな有用性が示されるにつれて、自尊心に関する研究はかつての勢いを失った[38]。
注釈
- ^ より一般的な意味では、自分自身の名誉や品格を維持しようとする心理の全般を指すが、ここでの定義はT. M. Newcomb, R. H. Turner, P. E. Converseによる定義「自己に対して最も一般化された態度」に基づいている。
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- ^ Moffitt, T. E.; Arseneault, L.; Belsky, D.; Dickson, N.; Hancox, R. J.; Harrington, H.; Houts, R.; Poulton, R. et al. (2011-02-15). “A gradient of childhood self-control predicts health, wealth, and public safety” (英語). Proceedings of the National Academy of Sciences 108 (7): 2693–2698. doi:10.1073/pnas.1010076108. ISSN 0027-8424. PMC 3041102. PMID 21262822 .
- ^ “Google Books Ngram Viewer”. Google. 2019年2月23日閲覧。
参考文献
- ナサニエル・ブランデン 著、手塚郁恵 訳『自信を育てる心理学 「自己評価」入門』春秋社、1992年。ISBN 4-393-36621-2。 (新装版2013年 ISBN 978-4393366400) How to raise your self-esteem by Nathaniel Branden, 1992. 注 p.3. に自己評価の言葉にセルフエスティームのふりがながあるため、この自己評価を本項目では自尊心とする。
- ロイ・バウマイスター『意志力の科学』、渡会圭子訳、インターシフト、2013年 ISBN 978-4772695350
- 中間 玲子 (編著) 『自尊感情の心理学: 理解を深める「取扱説明書」』 金子書房 2016 ISBN 4760826564
関連項目
自尊心
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/29 14:32 UTC 版)
「ルパン三世 (架空の人物)」の記事における「自尊心」の解説
アルセーヌ・ルパンの孫として非常に高い誇りを持っているが、時にそれが仇となって自ら窮地に立たされることもあり、特に他者に命を狙われる場面ではそれが顕著に出ている。例えば『TV第2シリーズ』第66話「射殺命令!!」ではICPOのビューティーがルパンの射殺命令で現れ、次元と五ェ門から、彼が使うコルト・パイソンとルパンのワルサーでは銃の性能差が大きすぎて勝ち目がないから逃げるように再三忠告されたにも関わらず、「射殺命令が出たからと言っていちいち逃げているわけにはいかない」と結局プライドがそれを許さず耳を貸さなかった。結果、単身ビューティーに挑むも、銃の差から次第に追いつめられたルパンは、ビューティーが放ったダムダム弾によって射殺寸前の憂き目にあった。似た様なケースとして『TV第2シリーズ』第130話「ルパン対奇人二面相」では芸術家ムッシュ・ダレの芸術品が爆破され、この事件を担当するマグレ警部の「ルパンなど問題じゃない」という発言を自分への挑発と受け取り、峰不二子たちの協力を拒み単身マグレに変装してダレのアトリエに侵入したが、逆にマグレに睡眠薬をかがされ、ダレの工房に連れ去られて燻製にされ「人間風見鶏ルパン」なる芸術作品にされかけた。
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自尊心
出典:『Wiktionary』 (2021/06/19 12:44 UTC 版)
名詞
発音(?)
- じ↗そ↘んしん
類義語
翻訳
- アイルランド語: féinmheas (ga) 男性
- アルメニア語: ինքնագնահատական (hy)
- イタリア語: autostima (it)
- 英語: self-esteem (en), self-respect (en)
- オランダ語: zelfvertrouwen (nl) 中性
- カタルーニャ語: autoestima (ca) 女性
- スウェーデン語: självkänsla (sv)
- スペイン語: autoestima (es)
- タミル語: தற்பெருமை (ta) (taṟperumai)
- チェコ語: sebeůcta (cs) 女性, hrdost (cs) 女性
- デンマーク語: selvværd (da)
- ドイツ語: Selbstwertgefühl (de) 中性, Selbstachtung (de) 女性
- フィンランド語: itsetunto (fi)
- フランス語: amour-propre (fr), estime de soi (fr)
- ポーランド語: samoocena (pl) 女性
- ポルトガル語: autoestima (pt) 女性
- ロシア語: самооценка (ru) 女性, самоуважение (ru) 中性, чувство собственного достоинства (ru) (čúvstvo sóbstvennovo dostóinstva) 中性, самолюбие (ru) 中性
「自尊心」の例文・使い方・用例・文例
- 誤った自尊心
- 彼女のことばは彼の自尊心を傷つけた
- 私は貧しかったが,自尊心があったので助けを求めることはなかった
- 彼はなんとかして自尊心を抑えた
- 彼の皮肉なことばが彼女の自尊心を傷つけた
- ふくれ上がった自尊心
- 彼女は自尊心が高いので、まるで人のことを見下しているかのように話す。
- あなたは自尊心が高すぎる。
- 彼女を支えているのは自尊心です。
- 彼女の態度は私の自尊心を傷つけた。
- 彼は自尊心を犠牲にしてまでそれを得ようとした。
- 彼は自尊心が強すぎて、他人にものを尋ねることができない。
- 誰だって自尊心を傷つけられるのは嫌だ。
- 自尊心から彼にそのような侮辱は耐えられなかった。
- 自尊心があるから彼はそのお金を受け取らなかった。
- 私の言ったことは彼の自尊心を傷つけた。
- あの女性は見栄っ張りと言うよりもむしろ自尊心が強い。
- 自尊心から彼にはそのような侮辱は耐えられなかった.
- 自尊心と貧乏とは両立しない.
自尊心と同じ種類の言葉
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