司法解剖
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/20 14:13 UTC 版)
司法解剖(しほうかいぼう、英: internal examination, judicial autopsy)は、犯罪性のある死体またはその疑いのある死体の死因などを究明するために行われる解剖。
根拠法規
刑事訴訟法168条1項「鑑定人による死体の解剖」、同法229条「検視」に基づいて、刑事事件の処理を目的に行われる。 なお、死体解剖保存法は司法解剖の根拠となる法律ではないが、死体の取扱については同法の規定を遵守する必要がある。
多くのケースでは被解剖者の遺族への心情的配慮から、その了承を得た上で解剖が行われているが、法律上は裁判所から「鑑定処分許可状」の発行を受ければ、遺族の同意が得られなくても職権で強制的に行うことが可能である。
施行
司法解剖を行う者の資格について詳細な規定はなく、法的には、学識を有し、かつ捜査当局の嘱託を受けた者なら誰でも行えると解釈できるので、大学病院[1]から離れた地域においては、警察協力医などの臨床医によって行われるケースも存在する[2]。
しかし、法医学の分野における科学技術が格段に進歩した今日では、解剖によって得られた情報が刑事事件の真相解明や犯人特定などに重大な影響を与えることから、事件発生現場や死体発見現場に最寄の大学病院において、高度な専門知識を持つ法医学者の手で執行するのが原則である[2]。この場合、執刀者は前述の「鑑定処分許可状」のもと、捜査を担当する検察官や警察署長などの嘱託を受けて解剖を行う。
そもそも死体に対する解剖が医行為であるかどうかについても明確な判断が示されていなかったが、平成27年3月31日の参議院文教科学委員会における秋野公造参議院議員の質疑に対して、厚生労働省は死亡診断とそれに付随する死亡診断書および死体検案書の交付が医行為であることに触れて、医行為であることを明確にした[3]。
運用
犯罪被害死体の全てが司法解剖されるわけではなく、交通事故など受傷状況が明確で外表検査で死因も明らかにし得る場合は解剖せず、検視のみで終わる場合が多い。しかしいったん「解剖必要」との結論に至れば、死因や状況のいかんに関わらず解剖される運用となっており、遺族も事実上拒否できない。大規模事件・事故の際、この運用を指摘する新聞記事が掲載されることがある。
現状
![]() |
この節の加筆が望まれています。
|
現状として、予算や医師不足などの理由から、警察の死体取扱い件数のほとんどが司法解剖されていない[4]。また、同様の事情により変死と思われるような状況でも、自殺や事故、心不全で片付けられることもあるともいわれている[5]。打開策としてオートプシー・イメージングが提案されているが、運用のための法案等システムが未だ整っていない。
年次 | 死体取扱数 | 解剖率 |
---|---|---|
1998年 | 107,173 | 8.9% |
1999年 | 114,267 | 9.0% |
2000年 | 116,164 | 10.5% |
2001年 | 119,396 | 9.7% |
2002年 | 125,403 | 9.7% |
2003年 | 133,922 | 8.9% |
2004年 | 136,092 | 9.5% |
2005年 | 148,475 | 9.1% |
2006年 | 149,239 | 9.4% |
2007年 | 154,579 | 9.5% |
2008年 | 161,838 | 9.7% |
2009年 | 160,858 | 10.1% |
2010年 | 171,025 | 11.2% |
2011年 | 173,735 | 11.0% |
2012年 | 173,833 | 11.1% |
2013年 | 169,047 | 11.3% |
2014年 | 166,353 | 11.7% |
2015年 | 162,881 | 12.4% |
2016年 | 161,407 | 12.7% |
2017年 | 165,837 | 12.4% |
2018年 | 170,174 | 12.0% |
2019年 | 167,808 | 11.5% |
2020年 | 169,496 | 10.8% |
2021年 | 173,220 | 10.4% |
2022年 | 196,103 | 9.5% |
2023年 | 198,664 | 10.1% |
2024年 | 204,184 | 9.8% |
都道府県警察 | 死体取扱数 | 検視官臨場 | 死体解剖 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
臨場数 | 臨場率 | 司法解剖 | 調査法解剖 | その他 | 解剖総数 | 解剖率 | ||
北海道 | 9,522 | 8,854 | 93.0% | 925 | 54 | 5 | 984 | 10.3% |
青 森 | 2,345 | 2,232 | 95.2% | 258 | 3 | 0 | 261 | 11.1% |
岩 手 | 2,139 | 1,820 | 85.1% | 133 | 21 | 0 | 154 | 7.2% |
宮 城 | 3,674 | 3,360 | 91.5% | 360 | 77 | 0 | 437 | 11.9% |
秋 田 | 1,495 | 1,474 | 98.6% | 185 | 34 | 1 | 220 | 14.7% |
山 形 | 1,633 | 1,514 | 92.7% | 194 | 79 | 0 | 273 | 16.7% |
福 島 | 3,243 | 2,800 | 86.3% | 135 | 16 | 1 | 152 | 4.7% |
警視庁 | 25,667 | 15,987 | 62.3% | 205 | 660 | 3,171 | 4,036 | 15.7% |
茨 城 | 5,254 | 5,115 | 97.4% | 391 | 56 | 30 | 477 | 9.1% |
栃 木 | 3,594 | 3,369 | 93.7% | 185 | 47 | 3 | 235 | 6.5% |
群 馬 | 3,322 | 3,048 | 91.8% | 128 | 20 | 1 | 149 | 4.5% |
埼 玉 | 12,319 | 8,746 | 71.0% | 331 | 49 | 17 | 397 | 3.2% |
千 葉 | 11,389 | 11,255 | 98.8% | 507 | 134 | 0 | 641 | 5.6% |
神奈川 | 14,666 | 8,433 | 57.5% | 751 | 681 | 1,810 | 3,242 | 22.1% |
新 潟 | 3,402 | 2,320 | 68.2% | 197 | 10 | 2 | 209 | 6.1% |
山 梨 | 1,326 | 1,323 | 99.8% | 56 | 9 | 0 | 65 | 4.9% |
長 野 | 3,040 | 2,379 | 78.3% | 207 | 0 | 0 | 207 | 6.8% |
静 岡 | 4,896 | 4,426 | 90.4% | 191 | 28 | 2 | 221 | 4.5% |
富 山 | 1,609 | 1,553 | 96.5% | 148 | 14 | 0 | 162 | 10.1% |
石 川 | 1,737 | 1,679 | 96.7% | 126 | 16 | 0 | 142 | 8.2% |
福 井 | 1,297 | 1,232 | 95.0% | 82 | 26 | 0 | 108 | 8.3% |
岐 阜 | 2,451 | 2,096 | 85.5% | 149 | 13 | 0 | 162 | 6.6% |
愛 知 | 9,319 | 6,572 | 70.5% | 274 | 180 | 0 | 454 | 4.9% |
三 重 | 2,892 | 2,287 | 79.1% | 136 | 14 | 0 | 150 | 5.2% |
滋 賀 | 1,911 | 1,740 | 91.1% | 133 | 28 | 0 | 161 | 8.4% |
京 都 | 3,470 | 3,347 | 96.5% | 211 | 87 | 15 | 313 | 9.0% |
大 阪 | 17,449 | 13,630 | 78.1% | 781 | 145 | 320 | 1,246 | 7.1% |
兵 庫 | 7,753 | 7,319 | 94.4% | 268 | 440 | 1,226 | 1,934 | 24.9% |
奈 良 | 2,317 | 2,194 | 94.7% | 204 | 23 | 0 | 227 | 9.8% |
和歌山 | 1,713 | 1,610 | 94.0% | 140 | 37 | 0 | 177 | 10.3% |
鳥 取 | 1,041 | 1,041 | 100.0% | 58 | 35 | 0 | 93 | 8.9% |
島 根 | 1,034 | 978 | 94.6% | 74 | 8 | 0 | 82 | 7.9% |
岡 山 | 3,008 | 2,791 | 92.8% | 117 | 58 | 0 | 175 | 5.8% |
広 島 | 3,631 | 3,515 | 96.8% | 65 | 5 | 0 | 70 | 1.9% |
山 口 | 2,405 | 2,378 | 98.9% | 77 | 25 | 0 | 102 | 4.2% |
徳 島 | 1,144 | 1,129 | 98.7% | 72 | 5 | 0 | 77 | 6.7% |
香 川 | 1,784 | 1,206 | 67.6% | 102 | 15 | 0 | 117 | 6.6% |
愛 媛 | 2,282 | 2,248 | 98.5% | 123 | 14 | 0 | 137 | 6.0% |
高 知 | 1,277 | 1,272 | 99.6% | 82 | 12 | 0 | 94 | 7.4% |
福 岡 | 6,668 | 6,086 | 91.3% | 333 | 31 | 0 | 364 | 5.5% |
佐 賀 | 1,172 | 1,155 | 98.5% | 86 | 18 | 0 | 104 | 8.9% |
長 崎 | 1,848 | 1,550 | 83.9% | 134 | 15 | 4 | 153 | 8.3% |
熊 本 | 2,390 | 2,204 | 92.2% | 120 | 9 | 0 | 129 | 5.4% |
大 分 | 1,534 | 1,502 | 97.9% | 121 | 20 | 0 | 141 | 9.2% |
宮 崎 | 1,633 | 1,629 | 99.8% | 67 | 17 | 0 | 84 | 5.1% |
鹿児島 | 2,259 | 1,904 | 84.3% | 163 | 27 | 0 | 190 | 8.4% |
沖 縄 | 2,230 | 2,011 | 90.2% | 126 | 191 | 21 | 338 | 15.2% |
全国 計 | 204,184 | 168,313 | 82.4% | 9,911 | 3,506 | 6,629 | 20,046 | 9.8% |
都道府県警察 | 死体取扱数 | 臨場数 | 臨場率 | 司法解剖 | 調査法解剖 | その他 | 解剖総数 | 解剖率 |
検視官臨場 | 死体解剖 | |||||||
他、神奈川県に於いては、司法解剖などをはじめとする解剖を横浜市の開業医1人に事実上任せきりにし、この開業医が2012年度に1人で年3,835件の解剖を行っていたことが判明しており、解剖の質の低下と、それによる犯罪死の見逃しに繋がりかねないと懸念されている[9]。
脚注
- ^ 岩手県を除く全都道府県には国公立の大学病院を備える
- ^ a b 『司法解剖』 - コトバンク
- ^ 参議院会議録情報 第189回国会文教科学委員会第3号 https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=118915104X00320150331
- ^ 「病死」扱いの無念、犯罪被害者は2度殺される〜死因究明に不可欠な解剖が軽視される日本東洋経済オンライン2018年4月20日
- ^ Japan's police see no evil(Los Angeles Times/November 09, 2007)
- ^ 厚生労働省 (9 September 2022). 令和4年版死因究明等推進白書 第1 章 我が国における死因究明等の推進に向けた政府の取組 第1章図表のバックデータ 資1-1-1-2警察における死体取扱数等の推移 (Excel) (Report). 2022年9月11日閲覧.
- ^ a b 警察庁 (2024). 死体取扱状況 (PDF) (Report). 2025年7月20日閲覧.
- ^ デジタル大辞泉. “新法解剖”. コトバンク. 2021年3月20日閲覧。
- ^ 一條優太 (2014年4月3日). “横浜市の監察医:解剖、1人で年3835件…質確保に懸念”. 毎日新聞社. 2014年4月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年4月6日閲覧。
関連項目
外部リンク
- 司法解剖標準化指針 (PDF) 日本法医学会 司法解剖のあり方検討委員会 2009年(平成21年)4月
- 京都府立医科大学法医学教室
- 東京女子医科大学医学部法医学講座
司法解剖
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 09:11 UTC 版)
「ケネディ大統領暗殺事件」の記事における「司法解剖」の解説
詳細は「ケネディ大統領の検死」を参照 大統領の遺体が搬送されたベセスダ海軍病院 では、海軍医学校研究所所長ジェームズ・ヒュームズ、海軍病院病理主任ソントン・ボズウェルと射創専門の病理医ピエール・フィンクの3名の病理医によって検死が行なわれた。解剖検視台に遺体を載せて4時間にわたった検視 で、大統領の傷は2つで、致命傷は頭蓋後頭部から入り頭部右側の一部15cm位を吹き飛ばしていること、もう一つは頸部の付け根に入口があったが出口が分からなかった。この2つの傷はいずれも頭蓋内側の傷口が小さく、抜け出た側に現れるそれより大きいスリ鉢状の傷が頭蓋外部につくものでなかったので、この2ヵ所で被弾したと結論を出している。また、弾丸が当った時の熱で表皮が剥離して皮膚が焼け焦げたり裂けることから、後部からの狙撃であるとしている。また、遺体のX線写真を14枚、白黒写真25枚、カラー写真27枚を撮影している。検視報告書は、11月24日に作成されて、死因は頭部の射創で、2ヵ所にえぐられたような傷を受けて死亡した、銃弾は故人の後方の頭の位置より上の地点から撃ち込まれた、どちらの傷が最初かは不明である、頭蓋の傷は被害者が生存する可能性を全く排除するほど多大な損傷を脳に与えた、とされている。この検視報告書は24日夜にホワイトハウスでバークリー提督に手渡している。そして12月6日に補足説明書と合わせて解剖に関する一切の資料、写真や弾丸の破片などを全てバークリー提督に渡したとヒュームズは28年後に述べている。 この司法解剖について、大統領死亡後にダラスではなくワシントンで行ったことで、ベセスダ海軍病院に到着した時に大統領の着衣が無かったこと、頭蓋骨の欠片や脳の一部が遅れて運ばれて来たこともあって、担当したヒュームズとボズウェルはダラスで遺体解剖が行われていればその後の混乱はなかっただろうと述べている。この大統領の着衣も他の解剖資料とともに現在は国立公文書館に保存されている。
※この「司法解剖」の解説は、「ケネディ大統領暗殺事件」の解説の一部です。
「司法解剖」を含む「ケネディ大統領暗殺事件」の記事については、「ケネディ大統領暗殺事件」の概要を参照ください。
司法解剖と同じ種類の言葉
- 司法解剖のページへのリンク