日本酒 飲み方と料理への利用

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日本酒

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/24 17:40 UTC 版)

飲み方と料理への利用

日本酒は、シャーベット状に半ば凍らせた「みぞれ酒」から常温の「冷や」、約60℃程度までの「熱燗」と、幅広い温度帯で飲まれる。同種のアルコール飲料を同じ地域で、異なる温度により味わうのが常態である例は、他に中国紹興酒などがある程度であり、比較的珍しい(熱燗について「燗酒」も参照)。

悪酔いを防ぎ、心身の健康を保つため、食事や「和(やわ)らぎ水」と呼ばれる水[19]と一緒に飲むことを、日本酒関連団体などが推奨している。

いずれの温度帯でも日本酒をそのまま飲むことが多いが、熱燗では、火を通した魚を浸して味を付ける骨酒ひれ酒の伝統もある。さらに現代では、杯に氷を入れるオン・ザ・ロック、水割りやお湯割りと飲み方も多様化した。ハイボール[20]カクテルの素材にもなる。日欧文化比較によれば江戸時代頃には通年燗をつけて飲むのが普通であり、また水割り(正確に言えば水増し)の酒が多かったとされる。

日本酒は、魚介類の臭み消しのほか、煮物などを含めた味・香り付けなどの調味料として、調理に使用される。調理専用の料理酒も製造・販売される。日本酒の製造過程で生じる酒粕(さけかす)は酒粕焼酎の原料になる他、甘酒などにして飲用したり、粕漬け粕汁などの料理に用いたりされる。

歴史

製成・販売数量と製造業者数、産地

2018年度(平成30年度)における清酒の製成数量は40万6,064キロリットル、販売(消費)数量は48万8,696キロリットルである[21]。名産地・があり大手日本酒メーカーの集中する兵庫県(約26%)、同じく伏見のある京都府(約22%)が多い。これに、新潟県(約8%)、埼玉県(約4%)、秋田県(約4%)と続く[22]。成人一人当たりの日本酒販売(消費)数量は、新潟県が最も多く、東北北陸地方の各県がこれに続く[21]

2017年度(平成29年度)の清酒の製造業者数は1,371業者で、そのうち中小企業が99.6%を占めている[22]

蔵元が所在する地域の地方自治体にとって、日本酒は重要な地場産業の一つである。このため、東京などに出店したアンテナショップ地酒を販売したり、宴会などでまず地元産日本酒を飲むことを勧める乾杯条例を制定したりと、様々な振興策を展開している。

清酒の酒類製造免許を新たに取得できるのは、既存の清酒製造者が、企業合理化を図るため新たに製造場を設置して清酒を製造しようとする場合等に限られており[23]、新規参入は制限されている[24][25]。新規参入には、休廃業した酒造会社を買収し酒蔵の免許を移転する方法が使われる(北海道上川大雪酒造の例)[26]。2021年には海外への輸出を後押しするため、輸出用清酒製造免許が設定された[27][24]。第1号は福島県のねっかに交付された[28]

原料

日本酒の主な原料は、米と水と米麹)である。広義には、日本酒の醸造を支える酵母乳酸菌などの全てを「日本酒の原料」と呼ぶこともある。専門的には、香味の調整に使われる醸造アルコール、酸味料、調味料アミノ酸糖類などは副原料と呼んで区別する。

用途によって、麹米(こうじまい)用と掛け米(かけまい)用の2種類がある。

麹米には通常酒米(酒造好適米)が使われる。掛け米には全部または一部に一般米うるち米)が使われるが、特定名称酒の場合には酒米のみが使われることが多い。普通酒は麹米、掛け米ともにすべて一般米で造られるのがほとんどである。

原料米の選び方や使い方は、かつては特定名称酒などの高級酒ともなると代表的な酒米の山田錦一辺倒の傾向すらあったが、今日では一般米からも高い評価を得る酒が造られており、近年は新種の開発などにより変化が著しい。

米が豊作の年には、米の質の関係から、醸造に失敗しやすい事もある。これは豊作の年の米が比較的硬いため、酵母が充分繁殖するのに時間がかかり、その間に雑菌が繁殖してしまうのだという。大正4年(1915年)には、この現象(後に「大正の大腐造」とも呼ばれたという)により日本各地で醸造に失敗、酒造業全体に深刻なダメージを被ったとされている。

は日本酒の80%を占める成分で、品質を左右する大きな要因となる。このため灘の宮水など、地域によっては特別な名称で呼ばれる場合もある。水源はほとんどが伏流水地下水などの井戸水である。条件が良い所では、これらを水源とする水道水が使われることもあるが、醸造所によって専用の水源を確保することが多い。都市部の醸造所などでは、水質の悪化のために遠隔地から水を輸送したり、良質な水源を求めて移転したりすることもある。酒造りに使われる水は酒造用水と呼ばれ、仕込み水として、また瓶、製造設備などの洗浄用水として利用される。蔵元の一部は、仕込み水を商品として販売している。

東京都心に立地する東京港醸造は敢えて水道水を使っている。その理由としては、東京都水道局が取水する利根川荒川水系が中軟水で、酒造りに不適な一部ミネラル鉄分マンガン)が少ないのと、安全・衛生的で殺菌用塩素も製造工程で抜けるため支障がないことを挙げている[29]

硬度
水の硬度は、酒の味に影響する要素の一つである。おおざっぱに言えば、軟水で造れば醗酵の緩いソフトな酒、硬水で造れば醗酵の進んだハードな酒になる。理由は、醸造過程で硬水を使用するとミネラルが酵母の働きを活発にしてアルコール発酵すなわち糖の分解が速く進み、逆に軟水を使用するとミネラルが少ないため酵母の働きが低調になり発酵がなかなか進まないからである。
江戸時代以来、では宮水と呼ばれる硬水が使用されていたが、1897年明治30年)には広島県の三浦仙三郎により軟水醸造法が開発された。
硬度の測定には、日本の日常生活ではアメリカ硬度が用いられるが、醸造業界では長らくドイツ硬度が用いられている(アメリカ硬度も使用される)[30]
水質
酒造用水に課せられている水質基準は、水道水などと比べるとはるかに厳格である。酒蔵は、使用する水を事前にそれぞれの地域の保健所、食品試験所、酒造指導機関などに送って検査を受けなくてはならない。
検査は以下のような項目で行われる。
日本の水は、各地によって小差はあるもののほとんどが中硬水であり、香味を損ねる鉄分やマンガンの含有量が少ないので、醸造に適しているといえる。太平洋戦争前に満州へ渡り在留日本人のために清酒の現地生産を図るも、当地の水は硬水で醸造に適しておらず、安定して製造することは困難だった[33]
なお、発酵の助成促進または安全醸造のための必要最小限の塩類(酸性りん酸カリウム酸性りん酸カルシウム塩化マグネシウム等)については、仕込み水に添加することができる[34]
水の用途
酒造りに用いられる酒造用水は、以下のように分類される。
  • 醸造用水 - 醸造作業の最中に酒の中に成分として取りこまれる水。
    • 洗米浸漬用水 - 米を洗い、浸しておく水。仕込みの前に米の中に吸収される水でもある。
    • 仕込み用水 - 醸造時に主原料として加える水。
    • 雑用用水 - 洗浄やボイラーに用いられる水。これにも水質の項で述べられているような厳しい基準を通過した酒造用水が用いられる。
  • 瓶詰用水
    • 洗瓶用水 - 瓶を洗う水である。
    • 加水調整用水 - アルコール度数を調整するために加える水。醸造後に酒に取り込まれる。
    • 雑用用水 - タンクやバケツの清掃に用いる水。これにも水質の項で述べられているような厳しい基準を通過した酒造用水が用いられる。

麹(正字は「」)

日本酒に用いるは、一般的に蒸した米に麹菌(ニホンコウジカビ胞子)を振りかけて育てたものであり、その色からニホンコウジカビは黄麹ともいわれ、米麹(こめこうじ)ともいう。これが米のデンプンブドウ糖に変える糖化の働きをする。だだし21世紀からは日本酒の醸造においても、焼酎泡盛の醸造で使われていた白麹黒麹アワモリコウジカビ)が使われ始めており。白麹(黒麹のアルビノ突然変異体)を醸造に使用した酒は、2009年の新政酒造の「亜麻猫」の発売以来普及した。白麹は多くのクエン酸を生成するため、微生物の繁殖を防ぐ能力が高く、クエン酸由来の酸味が強い風味を持つ傾向に仕上がりやすい。酒母を作る伝統的な方法である生酛づくりや山廃づくりにおいても、より近代的な方法の速醸なみの速さででき、それらは速醸と違い人工的に作られた乳酸を添加しないため「無添加」の表示ができ、特に輸出する際のマーケティングの観点から有利である[35]

日本酒が原料とする米の主成分は多糖類であるデンプンだが、そのままでは酵母がエネルギー源として利用できない(デンプンから直接アルコール発酵を行えない)ので、まず麹の働きによって分子量の小さな糖へと分解する必要がある。つまり、酵母がブドウ糖からアルコールを生成できるように、下ごしらえとしてデンプンを糖化してブドウ糖を生成する役割を担うのが米麹である。米麹は、コウジカビが生成するデンプンの分解酵素であるα-アミラーゼグルコアミラーゼを含み、これらの働きによって糖化が行われる。ほかにタンパク質の分解酵素も含んでおり、タンパク質を分解して生じるアミノ酸ペプチドは、酵母の生育や完成した酒の風味に影響する(参照:#麹造り)。

洋酒を代表するワインでは、原料であるブドウ果汁の中に既にブドウ糖が含まれているので、こうした糖化の工程が要らない単発酵文化圏となった。東洋においては、日本酒だけでなく、他の酒類や味噌味醂醤油など多くの食品に麹が使われ、食文化的に複発酵文化圏、カビ文化圏などとも呼ばれる。これは東南アジアから東アジアにかけての中高温湿潤地帯という気候上の特性から可能であった、微生物としてのカビの効果を利用した醸造法である。東洋で使われる麹菌にはさまざまな種類があり、焼酎には白麹・黒麹(黒麹菌)・黄麹、泡盛には黒麹、紹興酒には赤麹が用いられるのが通常だが、日本酒の場合は味噌味醂醤油と同じく一般的に黄麹(きこうじ、黄麹菌黄色麹菌)が用いられる。ただし、「黄」と言っても実際の色は緑色や黄緑色に近い。

酒造会社が使う麹や酒蔵に以前から定着している微生物以外の納豆菌や雑菌などは、酒に悪影響を与える。特に納豆菌が麹米に繁殖すると、スベリ麹と呼ばれるヌルヌルした納豆のような麹になる。このため見学者らに来訪直前は納豆を食べないよう求める造り酒屋もあり[36]、また酒造期の蔵人が納豆を食さない所もある[37]

日本で用いられる麹は、肉眼で見る限り米粒そのままの形状をしており、散麹(ばらこうじ)と呼ばれる。それに対して、中国など他の東洋諸国で用いられる麹は餅麹(もちこうじ)と呼ばれ、原料となるなど穀物の粉に水を加えて練り固めたものに自然界に存在するクモノスカビケカビ胞子が付着・繁殖してできるものである。

酵母

麹の中の米のデンプンから生成されたブドウ糖は、酵母によって分解され、エタノールと二酸化炭素が生成される。酵母は真菌類に属する単細胞生物であって原料ではないが、これが行うアルコール発酵が日本酒造りの過程において大きな要素であるためここに記す(詳細は清酒酵母を参照)。多種多様な酵母の中で日本酒の醸造に用いられるものを清酒酵母といい、種は80%以上がSaccharomyces cerevisiae出芽酵母)である。何十万もの種類が自然界に広く存在しており、それぞれ異なった資質を持っている。酵母の多様性は酒の味や香りや質を決定付ける重要な鍵となる。

前近代には、麹と水を合わせる過程において空気中に自然に存在する酵母を取り込んだり、酒蔵に棲みついた「蔵つき酵母」(家つき酵母)に頼ったりするなど、その時々の運任せであった。このため、科学的再現性に欠けており、醸造される酒は品質が安定しなかった。

明治時代になると微生物学の導入によって有用な菌株の分離と養育が行われ、それが配布されることによって日本酒全体の品質の安定・向上が図られた。1911年(明治44年)第1回全国新酒鑑評会が開かれ、日本醸造協会が全国レベルで有用な酵母を収集するようになり、鑑評会で1位となるなど客観的に優秀と評価された酵母を純粋培養して頒布した。頒布された酵母(協会系酵母または協会酵母)には、日本醸造協会に因んで「協会n号」(nには番号が入る)という名が付けられている。アルコール発酵時に二酸化炭素の泡を出す泡あり酵母(協会1号から協会15号など)と、出さない泡なし酵母に大別される。泡なし酵母は突然変異により生まれた発酵時に泡を出さない酵母で、酒造りの過程において泡守り(あわもり)が不要であるなど利点も多いために研究が進み、従来の泡あり酵母のなかで優良な種株の泡なし版が多く作られていった。

元々、日本酒には米の持つ地味な香りだけがあり、ワインのようなフルーティーな香りは無かったが、鑑評会向けに優れた香りを持つ酒を醸造する工夫が重ねられて吟醸酒が誕生し、各地の蔵で吟醸造りが行われるようになった。これに大きな役割を果たしたのが協会系酵母の中の協会7号(真澄酵母)協会9号(香露酵母・熊本酵母)であった。1980年代に吟醸酒が一般層にも広く受け入れられて消費が伸びてくると、この他にも少酸性酵母、高エステル生成酵母、リンゴ酸高生産性多酸酵母といった高い香りを出す泡なし酵母が作られ、1990年代以降はそれぞれ開発地の地名を冠する静岡酵母山形酵母秋田酵母福島酵母などが登場し、吟醸造りに用いられる酵母も多様化していった。

最近では、アルプス酵母に代表されるカプロン酸エチル高生産性酵母や、東京農業大学なでしこベコニアツルバラの花から分離した花酵母など、強い吟醸香を引き出すものが注目を集めており、今も大手メーカーやバイオ研究所、大学などで様々な酵母が作られている。協会系酵母として現在頒布されているものの70%近くは泡なし酵母である。

一方、新たに開発された酵母によっては吟醸香が不自然に強すぎて酒の味を損なうなど、却って好まれない場合もあるため、一概に香りを強く鮮やかにすることが望ましいわけではない。

乳酸

乳酸は、他の雑菌が繁殖しないようにするために、特に仕込みの初期に重要である。また、乳酸を始めとする有機酸が、酒に“腰”を与える。酛立ての際に醸造用乳酸を加える場合と、乳酸菌に乳酸を作らせる場合があり、前者を速醸(そくじょう)系、後者を生酛(きもと)系と呼ぶ。

その他

正式には副原料に区分されるもの。

〈ラベルに表示される項目〉

  • 醸造アルコール - すっきりした味わいにするため、あるいは香りを残すためにもろみに加えられる。加えられたものは「アル添酒」と呼ばれる。
  • 糖類 - 酒に甘味を付け加える。精米の副産物である米糠のデンプンを糖化、精製したもの(米糠糖化液)を米の代替として加え、発酵させる場合もある[38]
  • アミノ酸 - 酒に旨みを付け加える。
  • 酸味料 - 酒に酸味を付け加える。

<ラベルに表示されない項目>

  • 酵素剤 - 麹菌が造る酵素を補うためなどに「酵素剤」を使用することがある。原料重量の 1,000分の1 以下の場合、原料として扱われない。
  • 活性炭 - 酒の雑味を取る。使いすぎると酒自体の味が薄くなる。
  • 清澄剤
  • ろ過助剤

注釈

  1. ^ 日本をニッポンと読んで、ニッポン酒の略。
  2. ^ 酒税法2条1項は「酒類」について、「アルコール分1度以上の飲料…をいう。」と定義している。
  3. ^ 酒税法施行令2条は「清酒の原料として定める物品」として、アルコール、焼酎ぶどう糖その他財務省で定める糖類、有機酸、アミノ酸塩、清酒を定める。
  4. ^ この政令で定める物品の重量の合計は、米と米こうじの重量の50%を超えないものに限られる(酒税法3条7号ロ)。
  5. ^ 酒税法上は「その他の醸造酒」(3条19号)、構造改革特別区域法では「酒税法第3条第19号に規定するその他の醸造酒(米…、米こうじ及び水又は米、水及び麦その他の財務省令で定める物品を原料として発酵させたもので、こさないものに限る。)」(28条1項2号)、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律施行規則では「濁酒」(11条の5、「米、米こうじ及び水を原料として発酵させたもので、こさないもの」)と定義される。
  6. ^ 削られた部分は米粉、あるいは飼料用に転用されて再利用されている。
  7. ^ しかし、これらの雑味の中には調理に有効な旨味成分も多く含まれていることから、料理酒用として醸造される日本酒の中にはあえて雑味を残す醸造方法をとっているものもある。どちらを使えばいい?「料理酒」と「清酒」の【5つの違い】家のコトで役立つ 東京ガスくらし情報サイト ウチコト 2019年7月31日閲覧
  8. ^ 中国ではパスツールより700年以上前の代の1117年政和7年)に序文が書かれた醸造技術書『北山酒経』の中に、「」という表現が見られ、加熱殺菌を意味する「煮酒」の技法が記載されている。しかし同書が室町時代頃までに日本にもたらされたか否かについては定かでないので、日本の火入れの技法が中国大陸から伝来したものか、日本が独自で辿り着いたのかについては、現在まだ分かっていない。

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