無形文化遺産とは? わかりやすく解説

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無形文化遺産

読み方:むけいぶんかいさん
英語:Intangible Cultural Heritage

各地域長い時間をかけて受け継がれてきた伝統慣習などの文化を、保護すべき遺産として認定する制度。および、その制度に基づき認定され文化のこと。

無形文化遺産は、世界遺産同様にUNESCOによって認定されている。社会的慣習や行事、芸能口承伝えられてきた表現など主な対象とされる

無形文化遺産は2006年に、無形文化遺産条約に基づき発効した2008年90種、2009年76種、2010年47種の伝統文化や行事などが無形文化遺産に登録されている。

日本からは、2008年2010年の間に、能楽歌舞伎雅楽祇園祭山鉾早池峰神楽チャッキラコ秋保の田植踊などが無形文化遺産に登録されている。

関連サイト
無形文化遺産について - 社団法人日本ユネスコ協会連盟
Nôgaku Theatre - UNESCO/Intangible Heritage Lists(英語)
Kabuki Theatre - UNESCO/Intangible Heritage Lists(英語)
Gagaku - UNESCO/Intangible Heritage Lists(英語)

むけい‐ぶんかいさん〔‐ブンクワヰサン〕【無形文化遺産】

読み方:むけいぶんかいさん

無形文化遺産保護条約基づいて登録された、世界各地芸能口承文学社会的な習慣儀式祭事自然に関す知識慣習伝統工芸技術などのさまざまな無形伝統文化遺産日本の文化では能楽結城紬などが取り上げられている。その他に馬頭琴伝統音楽モンゴル)、バヌアツの砂絵カラワヤ族アンデス宇宙観ボリビア)など。

[補説] 日本の無形文化遺産(かっこ内は記載年)
能楽平成20年
人形浄瑠璃文楽平成20年
歌舞伎平成20年
雅楽平成21年
小千谷縮・越後上布平成21年
石州半紙平成21年)※「和紙」に統合
日立風流物平成21年)※「山・鉾・屋台行事」に統合
京都祇園祭の山鉾行事平成21年)※「山・鉾・屋台行事」に統合
甑島(こしきしま)のトシドン平成21年)※「来訪神」に統合
奥能登のあえのこと平成21年
早池峰神楽平成21年
秋保(あきう)の田植踊平成21年
チャッキラコ平成21年)※「風流踊り」に統合
大日堂舞楽平成21年
題目立(だいもくたて)(平成21年
アイヌ古式舞踊平成21年
組踊平成22年
結城紬平成22年
壬生(みぶ)の花田植平成23年
佐陀(さだ)神能平成23年
那智(なち)の田楽平成24年
和食 日本人伝統的な食文化平成25年
和紙 日本の手漉(てすき)和紙技術平成26年
山・鉾・屋台行事平成28年
来訪神 仮面仮装神々平成30年
伝統建築工匠の技 木造建造物受け継ぐための伝統技術令和2年
風流踊り令和4年
伝統的酒造り令和6年


無形文化遺産

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/06/20 21:58 UTC 版)

ゲレデ英語版口承遺産
無形文化遺産のロゴ

無形文化遺産(むけいぶんかいさん、intangible cultural heritage)は、民俗文化財フォークロア口承伝統などの無形文化財を保護対象とした、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の事業の一つ。2006年に発効した無形文化遺産の保護に関する条約(以下、無形文化遺産条約)に基づく。無形文化遺産に対して、ユネスコの世界遺産は建築物など有形文化財を対象とする。関係して2001年から3回行われた傑作宣言による90件を引き継いて含まれる。

これまでに対象とされた無形文化遺産は、各国の音楽、舞踏、祭り、儀式のほか、インドのヨーガ(2016年)、日本和紙(2014年)、和食(2013年)など伝統習慣、工芸など多岐にわたる。

定義

無形文化遺産条約は、2003年の第32回ユネスコ総会で採択された。第2条で定義されており「無形文化遺産とは、慣習、描写、表現、知識及び技術並びにそれらに関連する器具、物品、加工品及び文化的空間であって、社会、集団及び場合によっては個人が自己の文化遺産の一部として認めるものをいう」。

同条約においては、無形文化遺産の重要性についての意識を向上させるために、ユネスコ内に設置された無形文化遺産保護に関する政府間委員会によって、「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」(Representative List of the Intangible Cultural Heritage of Humanity)を作成することとされている(第16条)。また、条約採択前に人類の口承及び無形遺産に関する傑作Masterpieces of the Oral and Intangible Heritage of Humanity)として宣言されたものは、一覧表に記載されることになっている(第31条)。

表記

一般に、この一覧表に掲載される無形文化遺産を、世界無形遺産世界無形文化遺産のように「世界」を冠した俗称もあるが、日本での条約承認手続きにおける表記は無形文化遺産であり[1]、条約本文においても「world」の語は含まれていない[2]

経緯

無形文化遺産は、芸能(民族音楽ダンスなど)、伝承、社会的慣習、儀式、祭礼、伝統工芸技術、文化空間などが対象である。有形の文化遺産については既に1972年に採択された世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)により、世界遺産を一覧にするなど保護の枠組みが整えられていたが、無形文化遺産についてはその枠組みで保護することが難しいため、新たな枠組みが作られた。無形文化遺産条約は、締約国が30か国に達した時点から3か月後に発効する規定となっており、採択されてから約3年後の2006年4月20日に発効した。

ユネスコでは、無形文化遺産条約の発効に先立ち、隔年で「人類の口承及び無形遺産の傑作の宣言」(傑作宣言)として発表していた。隔年で3回行われ(2001年、2003年、2005年)、計90件が傑作宣言された。これらは無形文化遺産条約の発効後に代表一覧表に統合され、その後の宣言は行われない。

2007年9月には、代表一覧表や「緊急に保護する必要のある無形文化遺産の一覧表(危機一覧表)」などの作成について協議する、ユネスコの第2回政府間委員会が日本で開催された。この委員会では、第1回の一覧表作成を、2009年9月に行うことで各国政府代表が合意した。2008年6月に開催されたユネスコ総会で正式に決定された[3]。なお、代表一覧表への各締約国の提案提出期限については、第1回は2008年9月末となっている。ちなみに、危機一覧表は2009年3月15日である。第2回目以降は、代表一覧表への提出期限は毎年8月末とされている。

分野

無形文化遺産の保護に関する条約第2条第2項では、下記の5つの分野(Domain)を挙げている。

  • 口承による伝統及び表現(無形文化遺産の伝達手段としての言語を含む)
  • 芸能
  • 社会的慣習、儀式及び祭礼行事
  • 自然及び万物に関する知識及び慣習
  • 伝統工芸技術

この分野は、各国がユネスコに推薦する際の推薦書のフォーム上に記載することとなっている。2009年代表一覧表の掲載案件について、日本からの推薦は1件につき該当分野を1つにしているが、複数分野に該当するものとして提案・登録される例も多く存在する。代表一覧表に記載されたものの中には、該当分野が記載されていないものもある。

選定方法

無形文化遺産条約を批准した国の中から選出される24の委員国(任期4年で2年毎に半数改選)によって構成される「無形文化遺産の保護に関する条約締約国政府間委員会(以下、政府間委員会)」[注 1]が年1回開催され、提案物件を審議する。委員国委員は各国のユネスコ大使や書記官などになる。

また、政府間委員会の中から6ヶ国を選任し補助委員会とし、政府間委員会から委任された各分野に携わるNGO6団体と専門の研究者6人を諮問会議と共同で提案された案件について現地調査などの事前審査を行い[注 2]、政府間委員会に勧告として報告を上げる。勧告は「登録(代表一覧表への掲載)」「情報照会」「不登録(不記載)」の三段階評価で下される[4]

なお、世界遺産はユネスコ(世界遺産センター)に対し「推薦」するが、無形文化遺産は政府間委員会に対し「提案」する形式となる。

政府間委員会

この他、2007年・2008年(2回)・2012年・2022年に臨時政府間委員会を開催している。政府間委員会は登録審査だけでなく、2019年の第14回政府間委員会では、風刺を込めた山車やパフォーマンスを披露するベルギーの「アールストカーニバル」における出し物の中にユダヤ人を侮蔑するものが含まれており、反ユダヤ主義的で人種差別だとして無形文化遺産としては初となる登録抹消を決定している[5]

無形文化遺産条約締約国総会

西暦偶数年に無形文化遺産条約締約国総会を開催し、委員国の入れ替え選任や運用規則の見直し、最新の学術的動向の確認とその採用の検討などが行われる[6]

委員国は地域区分ごとに割り当て数が決まっており、立候補し投票で選出された24ヶ国で構成され、2年毎に総会で2分の1が入れ替えられる。任期は6年間だが、4年で退任する慣例になっている。日本はアジア・太平洋ブロックに属し、2006年~2010年、2010年~2014年、2018年~2022年に委員国を務めており、2026年6月に開催された第11回総会で4度目の委員国に就任している[7]

特例措置

2022年の第17回政府間委員会は11月28日〜12月3日を予定していたが、そこへ申請していたウクライナ郷土料理であるボルシチを、ロシアのウクライナ侵攻をうけ、第5回臨時政府間委員会をユネスコがオンライン会議形式で招集して7月1日に急遽登録を決定した[8]

人類の口承及び無形遺産の傑作の宣言

人類の口承及び無形遺産の傑作の分布

無形文化遺産の保護に関する条約の発効以前は、法的に無形文化遺産として登録できないので、ユネスコとして、たぐいない価値を有する世界各地の口承伝統や無形遺産を讃えるとともに、政府NGO地方公共団体に対して口承及び無形遺産の継承と発展を図ることを奨励し、独自の文化的特性を保持することを目的として、基準を満たすものを、「人類の口承及び無形遺産の傑作の宣言」(傑作宣言)として公表した。第1回の宣言は2001年5月18日に、第2回の宣言は2003年11月7日に、第3回の宣言は2005年11月25日に行なわれ、それぞれ19件、28件、43件が傑作宣言されている。2006年に無形文化遺産条約が発効し、これらのものについては2009年に代表一覧表に正式登録され、統合された。

傑作宣言では、「選考基準」のいずれかの条件を満たすものについて、「考慮基準」を考慮のうえ選考された。

選考基準
  • たぐいない価値を有する無形文化遺産が集約されていること
  • 歴史芸術民族学社会学人類学言語学または文学の観点から、たぐいない価値を有する民衆の伝統的な文化の表現形式であること
考慮基準
  • 人類の創造的才能の傑作としての卓越した価値
  • 共同体の伝統的・歴史的ツール
  • 民族・共同体を体現する役割
  • 技巧の卓越性
  • 生活文化の伝統の独特の証明としての価値
  • 消滅の危険性

代表一覧表

2006年に無形文化遺産条約が発効した。これにより、条約発効前にユネスコにより実施していた「人類の口承及び無形遺産に関する傑作の宣言」(上掲)に登録されていたものは、2008年に本条約の代表一覧表に統合された[9]

2008年に開催された締約国総会で採択された運用指示書では、代表一覧表に記載される基準やタイムテーブルが示されている。それによれば、2009年9月に開催予定の政府間委員会で第1回の代表一覧表が作成され、その後毎年更新されていく予定である。代表一覧表は、各締約国から提出される個別提案案件を、政府間委員会に設けられる補助機関が審査し、その後、政府間委員会が最終的に評価・決定することによって作成され、世界遺産の評価体制とは異なる。

条約第16条、17条に基づいて作成される無形文化遺産の国際的保護を行うために作成される一覧表は、関係締約国からの提案または要請に基づき、締約国から選出される政府間委員会が作成する。一覧表は、

の2種類がある。

なお、世界遺産と同様に登録国に偏りがみられるほか、歴史的・民俗的共通性をもつ遺産であるにもかかわらず、複数国家が別々に登録申請を行い、さらにその過程で自国の固有性を主張しあう国際紛争に至るケースもある。例えば、2005年に登録された韓国の「江陵端午祭」について中国政府は抗議し、韓国の一地域での慣習であるとの定義を求めた[注 3]。のちに同国は、「端午節」の登録(2009年)を果たした。登録名称が、英語では[dragon boat]、中国語では[端午节]と異なるのは、[江陵端午祭]と対比して、文化間の対話と尊重を促進する地域的、国家的および国際的レベルでの含意を明確にしようと、中国政府が意図したためである[要出典]

積極的活用

ユネスコは新型コロナウイルス感染症の流行で混乱した社会の立て直しに、地域毎の伝統や受け継がれてきた知恵といった無形財文化的財)やリビングヘリテージにヒントがあるとし[10]、無形文化遺産の積極的活用やコロナ終息後に無形文化遺産を体感しにゆく“Dive into Intangible Cultural Heritage(無形遺産に飛び込もう)”プロジェクトを立ち上げ、レジリエント・ツーリズムとして推奨する[11]

日本国内の動向

「人類の口承及び無形遺産の傑作」として登録された能楽

2010年代より急激に提案・登録数が増えたことでユネスコは登録件数が多い国からの提案受理を保留するようになり、2011年に秩父祭の屋台行事と神楽と高山祭の屋台行事を提案したが、2009年登録の京都祇園祭の山鉾行事に類似しているとして登録が見送られた。その後、2014年に2009年登録の石州半紙に本美濃紙と細川紙を加えて「和紙」として拡張登録に成功したことをうけ、2016年に京都祇園祭の山鉾行事と日立風流物に前述の秩父祭の屋台行事と神楽と高山祭の屋台行事や他の類似した物件を加えて「山・鉾・屋台行事」として拡張登録し、登録数を抑制したいユネスコもこの手法を評価したこともあり[12]、2018年には2009年登録の甑島のトシドンに類似した物件を加えて「来訪神:仮面・仮装の神々の儀式的訪問」として拡張登録した。しかしながら引き続き登録数が多い日本は一年おきの提案を余儀なくされている。

2020年の第15回政府間委員会では、「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」(建造物修理、建造物木工檜皮葺杮葺茅葺、檜皮採取、屋根板製作、茅採取、建造物装飾、建造物彩色、建造物漆塗屋根瓦葺(本瓦葺)、左官(日本壁)、建具製作、製作、装潢修理技術、日本産生産・精製、縁付金箔製造)が登録された[13]。この登録に関しては、ユネスコが世界遺産における今後の登録指標の一つとして、「候補対象の保護に無形文化遺産が必要不可分に関わっているもの(文化資材と技術の保護・継承)」を挙げていることから、2021年1月21日に開催した文化審議会世界文化遺産部会では新たに推薦されるべき世界遺産候補には伝統建築工匠の技が受け継がれているものを優先することを確認[14]

次いで、兵庫県の「阿万の風流大踊小踊」、香川県の「綾子踊」、鹿児島県奄美地方の「諸鈍芝居」、沖縄県の「多良間の豊年祭」といった雨乞い・豊作祈願や盆踊りのような先祖供養の舞楽祭事を、2009年に登録された「チャッキラコ」の拡張登録として提案することを検討[15][16]。2020年2月19日に開催された文化審議会で民俗芸能の「風流踊」として一括申請することを決定した(「諸鈍芝居」や「多良間の豊年祭」は選定除外)[17][18]。さらに2021年1月15日に岐阜県郡上市の「寒水の掛踊」、長崎県対馬市の「対馬の盆踊」、熊本県荒尾市の「野原八幡宮風流」を重要無形民俗文化財に指定するよう答申があり、これに加え長野県の「新野の盆踊」も取り込み24都府県41件で臨むこととし[19]、2022年11月30日に登録決定。

酒造りの登録を祝う告知(伏見酒造組合)

さらに2013年に「和食」が登録されて以降、海外で和食への関心が高まり、訪日外国人旅行者による和食消費も増えていることと、政府による日本産食品・食材の輸出促進やブランド化とその権利保護政策もあり、日本酒の提案を検討。2021年1月18日に行われた菅義偉首相(当時)の施政方針演説で意思表明が行われ、2024年の登録を目指すとし[20]、2022年2月25日に文化審議会無形文化遺産部会が「穀物を原料としを用いる発酵技法」の焼酎泡盛も含めた「伝統的酒造り」として提案候補とし[21]、2023年3月8日に文化審議会が正式な提案候補に選定、2024年12月4日(日本時間5日)にパラグアイ・アスンシオンで開催された第19回政府間委員会において登録が決定した(日本酒の歴史も参照)[22]

そうした中、地方自治体や在野の民間団体から候補としての積極的な提案もなされるようになったことをうけ、文化庁は茶道華道鵜飼和装盆栽俳句といった日本の伝統的な生活文化について対象として検討することも決め[23]、2023年12月18日に文化審議会が「(仮名交じり文を含む日本独自の)書道」を提案することを決めユネスコに提案したが(中国の書道モンゴル書道アラビア書道が登録されており、特に中国では文房四宝の顕彰が後押しとなった)、1回あたりの審査件数の上限が60件と定められており、2024年の提案では定数を超える提案があったことから、登録数が多い日本からの提案は棄却(保留)され、2025年に改めて提案し、2026年の登録審査を目指すことになり、ユネスコ本部で書道の実演と講演会を開催して広報に努め、日本の書道は書き初めなど社会的習慣であること、フォントに筆書き体があり日常的に多様されている身近さがあること、近代以降は西洋美術の影響もうけるなど新しいもと融合させ発展してきたことを紹介した[24]。さらに、リニューアルされる皇居三の丸尚蔵館でも所蔵する書跡を公開する「日本の書の美1300年」を開催して登録を後押しする[25]

温泉の無形文化遺産を目指すための群馬県による広報イベント(2026年2月/東京駅)

2025年の参議院予算委員会の質疑で全国知事会から陳情があった温泉の登録推進を求める意見に対し、石破茂首相(当時)が地方創生やインバウンド振興の観点からも政府として精力的に動く確約を表明するなどもし[26]、2025年11月28日に文化審議会は2028年の審査登録目標物件に高千穂神楽など文化財指定済のもの40件を「神楽」として(既登録の早池峰神楽佐陀神能を包括)、2030年審査登録目標物件に「温泉文化」(入浴という所作・行為の社会的習慣が対象/温泉関連の文化財一覧も参照)を提案候補とすることを決めた(類似物件としてフィンランドサウナが登録されている)[27]

また、拡張登録の有効性を鑑み、「和紙」「山・鉾・屋台行事」「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」の拡張登録候補も選出し、2025年12月11日にすでに登録されている項目に、これまで入っていなかった行事や伝統技術6件[注 4]の登録が決定した[28]

日本ではまだトランスバウンダリー(国境をまたぐ物件/複数国との共同所有)の登録はないが、京都市の錦市場が「アーケードがある歴史的な商店街」として無形文化遺産の登録を目指し、同様の施設がある諸外国に呼びかけ10ヶ国13ヶ所が賛同しており、さらに参加を表明する意思がある場所もあり、2024年5月に連絡協議会を発足させるなど、民間主導で進められるプロジェクトも現れた。商店街という構造自体は有形の不動産構築物だが、「市場という空間での買物」という昔ながらの生活習慣を残すことを目的としつつ、観光地にある商店街での観光公害対策を世界視線で共同で解決する方策も模索するが、提案の前提となる法的保護根拠をどう確保するかの問題も残る[29]

保護体制

無形文化遺産も世界遺産同様に、提案に際しては法的保護根拠が必要で、文化財保護法での重要無形民俗文化財に指定されているものを中心に選出してきたが、無形文化遺産の多様化が広がったこともあり、2021年4月16日に改正された文化財保護法では国による「指定」ではなく所有者側から提案して「登録」してもらう登録無形文化財登録無形民俗文化財を制定し、無形文化遺産推薦時の法的保護根拠とする体制を整えた[30]。これにより2021年に「書道」と「酒造り」、2022年に「和食」を代表して京料理和菓子、2023年に華道が登録無形文化財に、登録無形民俗文化財にも醤油造り香川県)や鰹節造り高知県)などが登録されている。

また、伝統的な生活文化に携わる職種(和食料理人杜氏)の人間国宝認定も視野にいれるなど既登録物件のフォローアップや[31]内閣府総合特別区域法に基づき地域活性化総合特区として特定伝統料理(京料理)海外普及事業を認定し、なんちゃって日本食ではなく「和食」の正しい遺産の解釈英語版を世界に向けて発信すべく、京都における外国人料理人の就労規制を緩和し、在留資格の特例を設けることを実施することになり(単に技術習得のみでなく多言語発信も担う)今後他の分野においても類似した対応を検討しているほか[32]、文化庁も新たに「食の至宝」顕彰制度を制定し料理人や給仕職の叙勲褒章や他の栄典の授与を目指す[33]。さらに、第2次高市内閣発足時の所信表明演説で「地域未来戦略」として食や伝統芸能の保存伝承と海外に向けた積極的な活用、「人材総活躍」として日本文化発信への登用を掲げたことをうけ、外務省労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(所管は厚生労働省)に基づき国際交流サービス協会を介して行ってきた在外公館派遣員制度に伝統芸能従事者や和食調理師日本酒ソムリエなども対象に加え(従来外務省公邸料理人による和食フェア開催やユネスコ親善大使の千玄室茶会などを実施してきたがそれを拡大)、その活動のために必要な技能承継にも協力する体制を整備するとした[34]

ユネスコへ提案するには文化審議会による答申→文化庁(長官)承認→無形文化遺産条約関係省庁連絡会議による最終決定合意の意思確認の手順で行われるが、例えば「酒造り」の提案に際しては連絡会議に参加していない国税庁酒税法の観点から助言を行い、登録後の在り方についても必要に応じて特例措置も検討するなど柔軟な姿勢を示し[35]内閣府内閣官房沖縄県の泡盛や愛知県碧南市人参を用いた焼酎など[注 5]地域の特産物を原料とした「単式蒸留焼酎」等の製造免許要件の緩和を認める国家戦略特区に、東京都福井県山梨県滋賀県大阪府徳島県福岡県鹿児島県・沖縄県を除く道府県に対し「どぶろく特区」の構造改革特別区域に認定することで小規模醸造事業者の酒造りを保護している[36]

やはり連絡会議に参加しない観光庁(連絡会議参加の国土交通省外局)も所管する地域伝統芸能等を活用した行事の実施による観光及び特定地域商工業の振興に関する法律により伝統芸能の伝承を支援し、特に祭事などと連動するものは特定の日時のみでしか見ることができないことから文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律に基づいて模擬上演や映像で体験できる施設設置を支援してトキ消費に伴う経済循環を提言するなどで連絡会議にオブザーバー参加し、2030年提案予定の温泉に関しては厚生労働省の参画も促すなど、政府をあげてのオールジャパン体制が構築されつつある。

この他、ユネスコ関連事業間の相互補完による顕彰を奨励していることから、福井県越前市越前和紙(無形文化遺産「和紙」を代表する)が創造都市ネットワークのクラフト&フォークアート分野に認定加盟している(越前打刃物と越前たんすも評価)。創造都市は国内法では文化芸術基本法により選定され、ユネスコへの推薦基準となっている[37]

既に無形文化遺産に認定されているアイヌ古式舞踊(重要無形民俗文化財・日本遺産)は伝承地が旭川市として指定されているが、アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律に基づき北海道全域に対象地が広まっており、本来アイヌが重視する自然の聖地内の文化的空間文化的環境が伴う場所での祭事(例えばイオマンテ)などアイヌ文化の顕彰も進められている[38]

脚注

注釈

  1. 世界遺産における世界遺産委員会も正式には「顕著な普遍的価値を有する文化遺産および自然遺産の保護のための政府間委員会」。
  2. 諮問会議は判断に困るような案件に関しては必要に応じて更なる専門分野のアドバイザーを招聘することも出来る。
  3. 韓国の端午祭は土着の巫術儀式が含まれ、は食さず、屈原を祀らない。
    • 「和紙」に含まれる「越前鳥の子紙」
    • 「山・鉾・屋台行事」に含まれる「常陸大津の御船祭」、「村上祭の屋台行事」、「放生津八幡宮祭の曳山・築山行事」、「大津祭の曳山行事」
    • 「伝統建築工匠の技」に含まれる「手織中継表製作」
  4. 元々碧南市は味醂白醤油などの醸造業が盛んでその施設を酒造に転用したもので、人参栽培は江戸時代から行われており、現在ブランド野菜となった冬人参の「へきなん美人」(品種改良で2004年に誕生)は野菜生産出荷安定法での指定産地特産品である。

出典

  1. 外務省-無形文化遺産の保護に関する条約
  2. CONVENTION FOR THE SAFEGUARDING OF THE INTANGIBLE CULTURAL HERITAGE、条約、(英語)ユネスコ、2003
  3. ユネスコ無形文化遺産、09年に初登録 能や歌舞伎も”. asahi.com. 朝日新聞社 (2007年9月7日). 2007年9月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年12月11日閲覧。
  4. 加藤幸治『文化遺産シェア時代 価値を深掘る"ずらし"の視覚』社会評論社、2018年、191頁。ISBN 978-4784517381
  5. ユネスコ、ベルギーのカーニバルの世界遺産登録を抹消 「反ユダヤ主義」”. AFPBB News (2019年12月14日). 2025年12月11日閲覧。
  6. Functions of the Intergovernmental Committee for the Safeguarding of Intangible Cultural Heritage Intangible heritage - Culture Sector - UNESCO
  7. 無形文化遺産条約 外務省
  8. ボルシチを消滅危機の無形文化遺産に指定 ユネスコ”. AFPBB News (2022年7月1日). 2025年12月11日閲覧。
  9. ユネスコ無形文化遺産リスト
  10. Living heritage experiences and the COVID-19 pandemic - intangible heritage - ユネスコ
  11. Recognizing importance of living heritage during pandemic Mirage News 2020年12月4日
  12. 山・鉾・屋台行事、無形文化遺産に登録決定 ユネスコ”. 朝日新聞デジタル (2016年12月1日). 2016年12月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年12月11日閲覧。
  13. ユネスコの無形文化遺産 日本の「伝統建築工匠の技」登録決定 NHK 2020年12月18日
  14. 文化審議会世界文化遺産部会(第5回)議事次第 文化庁文化審議会世界文化遺産部会
  15. 無形遺産、国内候補選定へ 22年登録の議論スタート 日本経済新聞 2019年6月11日
  16. 「阿万の風流大踊小踊」がユネスコ無形文化遺産の国内候補に 南あわじの伝統芸能/兵庫県 サンテレビ 2020年2月19日
  17. ユネスコ無形遺産候補に「風流踊」を選定 共同通信 2020年2月19日
  18. 令和元年度におけるユネスコ無形文化遺産への提案候補の選定について 文化庁
  19. 読売新聞 2021年1月16日
  20. 日本酒・焼酎 無形文化遺産めざす 輸出や消費拡大期待 施政方針で首相 日本農業新聞 2021年1月19日(Yahoo!ニュース配信)
  21. 令和3年度におけるユネスコ無形文化遺産への提案候補の選定について 文化庁
  22. 日本の「伝統的酒造り」、ユネスコの無形文化遺産に決定”. 日本経済新聞 (2024年12月5日). 2025年12月11日閲覧。
  23. ユネスコ無形遺産、茶道・盆栽も申請検討 候補対象を拡大 日本経済新聞 2017年2月22日
  24. 読売新聞 2026年3月25日
  25. 読売新聞 2026年4月17日
  26. 読売新聞 2025年3月22日
  27. 令和7年度におけるユネスコ無形文化遺産への提案を決定 文化庁 2025年11月28日
  28. ユネスコ無形文化遺産に6件追加 登録済みの「和紙」などに“拡張提案” 政府間委員会で決定”. TBS NEWS DIG (2025年12月11日). 2025年12月11日閲覧。
  29. 京の台所、ユネスコ無形文化遺産目指す…世界各地の屋根付き市場と連携 読売新聞 2024年4月27日(Yahoo!ニュース配信)
  30. 改正文化財保護法が成立 地域の祭りや郷土料理など幅広く保護 NHK 2021年4月16日
  31. 読売新聞 2020年1月25日夕刊
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  34. 読売新聞 2026年2月21日
  35. 「伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産代表一覧表登録に関する評価機関による勧告について 国税庁
  36. 地方創生>国家戦略特区>規制改革メニュー>農林水産業 内閣府
    特区で変わる地方創生 内閣官房
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  38. アイヌ政策の概要 内閣官房アイヌ総合政策室

参考文献

  • 古田陽久 古田真美監修『世界無形文化遺産データ・ブック』(シンクタンクせとうち総合研究機構)

関連項目

外部リンク


無形文化遺産

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/23 06:54 UTC 版)

パンテッレリーア」の記事における「無形文化遺産」の解説

パンテッレリーアにおける、伝統的なブドウ栽培方法とそれをめぐる農業文化地域社会あり方は、2014年国際連合教育科学文化機関ユネスコ)の無形文化遺産に登録されている(it:Vite ad alberello di Pantelleria)。登録名義は Traditional agricultural practice of cultivating the ‘vite ad alberello’ (head-trained bush vines) of the community of Pantelleria。 アルベレッロ(イタリア語版)は、ブドウ木の枝仕立て方Vine training)の一つで、南イタリア中心に行われている。ブドウ6つ放射状の形になるよう仕立てられ適切に管理されブドウ手作業収穫されるユネスコによればパンテッレリーアではおよそ5000人ほどの住人自己の所有地でこうしたブドウ栽培行っており、技術習慣を何世代受け継いできた。これは「持続可能な農業」のあり方であるとともに収穫期収穫後の儀礼祝祭通じて地域社会習慣共有しており、アルベレッロでブドウ育てることを受け継ぐことが村の人々アイデンティティとなっている、とされる

※この「無形文化遺産」の解説は、「パンテッレリーア」の解説の一部です。
「無形文化遺産」を含む「パンテッレリーア」の記事については、「パンテッレリーア」の概要を参照ください。

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