製法(上世屋)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/12 10:46 UTC 版)
春に藤蔓を採取するところから始まり、農作業と並行して各工程を行い、農作業のできない冬の間に手で糸を撚り、手機で織って藤布とした。 藤織りは女性の仕事だったが、藤蔓を採取する「藤伐り」だけは男性も行った。採集した藤蔓は根元(アタマと称した)がわかるように結んでおき、樹皮を剥ぐときは必ず根の方向から行い、後の工程もすべて方向を揃えるように結び目を作って目印とした。工程の途中で作業の方向が逆になると、繊維がけば立って機で織れなくなるためである。 藤織りの全工程でもっとも時間のかかる工程は、繊維を糸にする「藤積み」で、1反分の糸を積むのに、毎日3時間以上作業して20日以上を要した。積雪2、3メートルを超えることもある豪雪地帯の上世屋では、雪に閉ざされる12~3月の夜なべ仕事では、必ず藤積みに励んだとされる。また、高齢の者より、手に油気の多い若い娘のほうが藤積みに適しており、どこの家でも子どもたちは7~10歳になる頃には親から「(藤を)ウメウメ、ウメウメ」と言われて昼夜問わず藤積みをし、年頃の娘たちは昼間は1軒に集まり、囲炉裏を囲んで世間話に花を咲かせながら働いた。 藤織りは、こうした環境のなか見様見真似で伝承され、その製法は時代によって変容しており、今日伝わる「丹後の藤織り」の製法が、古代からの製法や他地域の製法と同一であるとはいえない。丹後地方は、江戸時代中期から独自の撚糸技術を用いる織物「丹後ちりめん」の一大産地でもあり、明治から昭和初期にかけての上世屋など山間部の女性は、未婚のうちは町場のちりめん機屋で奉公しながら、糸巻きや機織りを習得するのが一般的だった。奉公先で各自が習い覚えた丹後ちりめんの知識は、各々の藤織りに活かされ、畑仕事のない冬季の重要な収入源ともなった。1970年代前半に名古屋女子大学の豊田幸子が行った調査によれば、当時、世屋地区内においても、上世屋と下世屋では糸にするまでの製法が若干異なっている。 上世屋では、6月にフジを採集し、皮を剥いで乾燥させた後、灰と石灰を入れて4時間煮沸し、水洗い、乾燥の後は、糠を入れた50℃の湯に浸け、その後に乾燥させ、藤積みを行っている。 下世屋では、3~9月にフジを採集し、皮を剥いだ後は7日間乾燥させ、3日間水に浸す。木灰を入れて7~8時間煮沸させ、その後の水洗いの際は竹ばさみでしごく。乾燥の後は、糠を入れて4~5時間煮沸し、その後に乾燥させ、藤積みを行っている。 一方で、他地域では明治末期~昭和中期には藤織りは途絶えてしまったため、今日復活させようと試みる人々がその技法を学ぼうとしたとき、唯一途絶えることなく伝承されてきた丹後の藤織りを参考にするのも自然な流れであり、現代の藤織りの製法は、少なからず現代の「丹後の藤織り」の流れを汲んだものと考えられる。 以下、現代に伝わる「丹後の藤織り」の製法について述べる。 藤伐り(フジキリ) ……春と秋に行われる。春の藤は水気が多いためその場で皮を剥ぐことができ効率がよいが、秋は藤蔓が乾いているため一度水につけて柔らかくしてからでないと皮を剥ぐことができず、手間がかかる。2ヒロの長さを目安に藤を採取した。 藤剥ぎ(フジヘギ) ……刈り取った藤蔓が乾燥しないうちに木槌で叩き、手で芯から皮を剥ぐ。藤の皮は表皮(オニガワ)・中皮(アラソ)・木質部(ナカジン)の3層で成っており、藤織りには中皮(アラソ)のみ使用する。1本の藤蔓からとれる繊維は約5グラムと少ないため、藤織りの製作工程は、古代布のなかでも最も手間がかかるとされる。 灰汁炊き(アクダキ) ……中皮(アラソ)をpH14度の木灰で4時間ほど煮炊き、不純物を溶かして除去する。 藤扱き(フジコキ) ……川の流れの中で洗い、藤の繊維から灰の汚れや不純物を取り除く。 熨斗入れ(ノシイレ) ……米ぬかを混ぜた湯にくぐらせて、乾燥させる。米ぬかの油が、繊維から手触りの粗さを取り除き、あたりをやわらかくする。 藤積み(フジウミ) ……指で繊維を撚り合わせながらつなぎ、結び目を作ることなく長い1本の糸にする。 撚り掛け(ヨリカケ) ……糸撚り車で全体に撚りをかけて、強い糸をつくる。とくに強度を必要とする経糸は5回、緯糸は4回撚る。 枠取り(ワクドリ) ……撚りが戻らないよう、糸枠に巻いて乾燥させる。 整経(ヘバタ) ……経糸を織り幅によって決められた本数と長さに基づいて、整経台にかけ、織物のたて糸をつくる。規格があり、座布団であれば経糸12本×33回で396本(整経長2丈8尺=約10.6メートル)で、着物であれば経糸12本×25本で300本(整経長2丈6尺=約9.6メートル)となる。 機上げ(ハタニオワセル) ……たて糸を千切りに巻き、上下に開口してよこ糸を通すために綜絖の綜目に通し、筬(おさ)に通す。 機織り(ハタオリ) ……手順に沿って、織り上げる。このとき、そば粉とくず米の粉を混ぜて作った糊を、黒松の松葉を束ねた三味帚で、経糸に織り前から機先にむかって掃きつけることで、毛羽立ちを防ぎ、糸捌きをよくする。また、管に巻いた緯糸は水に浸けて柔らかくしておく。管の終わりは2~3センチメートル重ねながら織り進める。1反を織るのに、終日織り続けて2~3日を要した。 「丹後の藤織り」で用いられるコウバシ(扱き箸)。上は作りたての新品。下は使い込み、一部がすり減ったもの。 フジコキやフジウミの際に用いられるコウバシの握り方。 5.「丹後の藤織り」のフジコキの様子。掌に握ったコウバシに中皮を挟んでいる。 コウバシの材料であるシノベタケ。 シノベタケの節を繋ぐマダケの皮。 高機での機織り 松葉を束ねた三味箒
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「製法」の例文・使い方・用例・文例
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