熨斗
熨斗とは
熨斗(のし)とは、祝儀や贈答品などの進物に添えられる飾りのことである。熨斗紙(のし紙)と呼ばれる包装紙の右上側に配置されることが多い。水引(みずひき)と併用されることも多い。熨斗を印刷した包装紙を「熨斗紙」という。熨斗が印刷された袋を「熨斗袋」という。水引も印刷されている場合が多い。熨斗袋の水引は印刷でなく実際の紐が用いられることも多い。
熨斗の由来
熨斗は、もともとは包装紙の上に貼る「干しあわび」を指す言葉であり、「熨斗鮑(熨斗あわび)」とも呼ばれていた。あわびは祭事で用いられる貝であり、それを貼ることで「神仏にお供えする」という意味が強調されてきた。現在の熨斗は、その名残がである。熨斗の原型は熨斗鮑であるが、本物のあわびを調達するのは手間であり、紙によって代替されるようになった。紙を折って作られた熨斗は「折り熨斗」と呼ばれる。今日では簡略化が進み、熨斗(折り熨斗)を熨斗紙に印刷して代替する形式が主となっている。
現代における熨斗には「改まった気持ちで贈り物を進呈する」という思いが込められた記号といえる。 熨斗はさまざまな贈答品に使われる。季節や行事をほとんど選ばない。お中元や暑中見舞い、結婚や出世祝いにも熨斗は用いられる。
昨今の熨斗紙や熨斗袋は、状況によっては熨斗紙・熨斗袋の種類を選ぶ必要もある。たとえば、弔事や法事に際して贈る品には、薄墨(グレー)で水引が印刷された熨斗紙を選ぶのがよいとされる。現代風にアレンジされた熨斗は、目上の人に感心されない場合がある。盛大な祝いの場などでは、折り熨斗が当然とされて、熨斗紙で贈ったら失礼と見なされる可能性も出てくる。こうした判断に全国統一基準のようなものはなく、それぞれ判断する他ない。
熨斗の語源
熨斗とは、「熨す(のす)」という意味の漢字と「ひのし」とも読まれる「斗」を組み合わせてできた言葉である。熨斗の由来は、8世紀に発表された書物「日本書紀」にあるとされる。記述によると、倭姫命が志摩の国崎で、海女に差し出されたあわびに感動を覚えたという。倭姫命にあわびを献上するよう命じられた海女は、あわびを薄く切って乾燥させ、腐らないように加工してから献上した。この作業を「のす」と呼ぶ。そして、薄くなった物質を日光で干す作業が「ひのし」である。日本書紀のエピソードによって、薄く切ったあわびには儀礼的かつ、神聖なイメージがつきまとうようになった。これが熨斗の起源である。その後も2000年以上にあたり、三重県鳥羽の国崎町では熨斗あわびが生産されるようになる。そのほか、「肥前国風土記」や「吾妻鏡」といった歴史書にも熨斗あわびは登場してきた。慶事に欠かせない縁起物として、熨斗あわびはかなり昔から日本人に認識されていた。
やがて、室町時代ごろから熨斗と「水引(結び切り)」を贈答品に用い、結納の式をとり行う風習が生まれていく。当初は熨斗を使った結納は武家社会だけのものだったものの、時代とともに庶民へと広まった。少なくとも江戸時代末期には、熨斗の文化は大衆に根付いていたという。ただし、高価なあわびをのすのは庶民だと難しいため、簡略化された道具が必要とされるようになった。こうして、熨斗紙や熨斗袋が生まれ、新しい日本の習慣に加わっていく。
熨斗の種類、書き方
熨斗の種類はいろいろで、目的によって使い分けられる。熨斗と紅白や金色の水引を組み合わせたものを「祝い熨斗」と呼び、お祝い事に関する贈答品に用いられる。なお、婚礼関係の熨斗紙では、帯紐を「結び切り」と呼ばれる方法で結ぶ。この方式だと通常より固く結べるので、「縁が切れない」という意味になり、夫婦に贈る場合ではふさわしいとされる。なお、婚礼関係の結び切りは10本の場合が多く、それ以外では5本か7本となる。あえて熨斗を省略するケースも少なくない。たとえば、おくやみに関する贈答品はそもそもお祝い事に該当しないため、熨斗があると失礼になる。そのうえで、水引も黒白のものにする。
正しい熨斗紙を選んだ後で、目的に合った「表書き」を加えなくてはならない。表書きとは、熨斗紙の上部に記載される、目的を表す言葉のことである。熨斗の表書きの書き方としては、毛筆で「お祝い」と書くのが定番である。婚礼関係の表書きであれば、「御結婚祝」「寿」といった言葉になる。そして、水引の下には贈り主の名前を書く。組織を代表して贈答する場合には「(組織名)一同」と名入れする。
現代では、熨斗の絵を手描きすることも珍しくない。水引や結び切りを手描きにしたり、熨斗をイラスト風にしたりすると親しみやすさがわく。気心の知れた相手に贈る熨斗であれば、手描きも効果的だろう。ただし、目上の相手への贈り物、格式ばった祭事に関する品であれば、手描きを避けるのが無難である。
熨斗の関連表現
相手に何らかの贈り物をすることを「熨斗をつける」と表現する場合もある。ただ、「わざわざ丁寧な装丁を施す」という意味もこもっており、皮肉として用いられるケースが多い言葉だといえる。そして、相手にもらったものを返上するとき、「熨斗つけて返す」と表現することも少なくない。「熨斗をつけるほど気持ちが高ぶっている」という意味で、願ったりかなったりの事態を喜んでいる状態ともいえる。「熨斗をつける」と同じく、「熨斗つけて返す」には敵意のニュアンスがこもっていることもある。また、平織り生地の一種として「熨斗目」も日本人に親しまれてきた。あるいは、その生地で作られた着物の総称を熨斗目とすることもある。熨斗目は男子の宮参りや七五三用の着物に用いられる生地であり、おめでたいイメージの熨斗から名づけられている。さらに、屋根の上部に取り付けられている瓦が「熨斗瓦」である。熨斗瓦は雨水を表側と裏側に流すため、日本家屋に欠かせない。熨斗瓦があることで家の防水性は保たれ、雨漏りが起きにくくなる。熨斗瓦の中にも「厚熨斗」「大熨斗」など多くの種類があり、用途によって選び分けられてきた。
熨斗の本来の意味である、「薄く平たいものを乾燥させる」という言葉の使い方も現存している。たとえば、「のしいか」とは、いかを乾燥させた保存食である。水分が抜けているので腐りにくく、長持ちする。また、酒のつまみとして日本人に人気の食品としても知られている。
のし【熨=斗/×熨】
熨斗
熨斗(のし)
熨斗
熨斗
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熨斗(のし)とは、一般的には慶事における進物や贈答品に添える飾りである。ただし、元来長寿を表す鮑が使われていたため、お見舞いなどには熨斗を使う場合もある。現在では黄色い紙を長六角形の色紙で包んだ形状をしているものが多く使われる。祝儀袋等の表面に印刷された、簡略化されたものもある。しばしば水引と併用される。
なお、漢語「熨斗」は「ウット」とも読み、「熨(熱でしわをのばす)」+「斗(ひしゃく)」、即ち、昔のアイロンである火熨斗(ひのし)を指す。現代中国語でも、熨斗はアイロンを意味する。
熨斗鮑

概要
元来、熨斗鮑とはアワビの肉を薄く削ぎ、干して琥珀色の生乾きになったところで、竹筒で押して伸ばし、更に水洗いと乾燥、押し伸ばしを交互に何度も繰り返すことによって調製したものを指した。
「のし」は延寿に通じ、アワビは長寿をもたらす食べ物とされたため、古来より縁起物とされ、神饌として用いられてきた。『肥前国風土記』には熨斗鮑についての記述が記されている。また、平城宮跡の発掘では安房国より長さ4尺5寸(約1.5m)のアワビが献上されたことを示す木簡が出土している(安房国がアワビの産地であったことは、『延喜式』主計寮式にも記されている)。中世の武家社会においても武運長久に通じるとされ、陣中見舞などに用いられた。『吾妻鏡』には建久3年(1191年)に源頼朝の元に年貢として長い鮑(熨斗鮑)が届けられたという記録がある。
神饌として伊勢神宮に奉納される他、縁起物として贈答品に添えられてきた。やがて簡略化され、アワビの代わりに黄色い紙が用いられるようになった(折り熨斗)。
正月の鏡餅には大熨斗、束ね熨斗が飾られる。婚礼時の結納品として、束ね熨斗が用いられる。
伊勢神宮における熨斗鮑
伊勢神宮では、古来の製法で調製された熨斗鮑が、6月と12月の月次祭(つきなみさい)、10月の神嘗祭(かんなめさい)で奉納される。この熨斗鮑は三重県鳥羽市国崎町の神宮御料鰒調製所にて調製される。熨斗鮑造りは、毎年6月から8月にかけて作業が行われ、一回に使われる鮑は約200kg。一つ一つ皮を剥くように薄く切っていき、それを干していく。調進所より少し先のヒノキで造られた干し場で、布のようになった鮑が下がる風景を見ることもできる。毎年7月2週目の日曜日に熨斗鮑祭りが開催される。第11代垂仁天皇の第4皇女である倭姫命(やまとひめのみこと)が国崎を訪れた際、「お弁」と言う海女からアワビを献上されたことが由来とされる。
折り熨斗
現代では紅白の紙を折り込んで中央に黄色の短冊状の紙が付されているものを熨斗とすることが多く、この黄色の短冊状の紙の部分が熨斗鮑を表している。折り熨斗と呼ばれる。折り熨斗には両折り熨斗や片折り熨斗などがあり、折り込まれかたによって真・行・草などに分類される。
その他の熨斗
熨斗の簡略化が進んで折り熨斗が紙に直接印刷されている場合も多く、また、熨斗鮑の本来の形から離れて印刷のしと呼ばれる次のような熨斗が用いられることもある。
- 文字のし
- 「のし」の2文字を用いたもの
- わらびのし
- ワラビを熨斗にデザインしたもの
- 松葉のし
- 松葉を熨斗にデザインしたもの
熨斗に関するしきたり
- 仏事(主に弔事)などの贈答品には、熨斗を付けない。仏教では生臭物を避けるため。仏事でもお祝いごとの場合は戒律の厳しい宗派では気にされるが、最近は熨斗を付ける場合も多い。
- 魚介類を贈答品にする場合は、熨斗を付けない。熨斗が鮑であるという本来の性質からすると正しいが、現代では特に気にされていない。
- お見舞いには熨斗を付けない。弔事に熨斗を避けることから、熨斗がお祝いの意味に理解されるようになり、現在市販の御見舞と字の入った金封・祝儀袋はほとんどが熨斗無しである。本来は熨斗鮑が長寿を願う縁起物であるので、熨斗を付けたほうが良いように思われるが、「病気を引き延ばす」の意味合いとならないように通常は熨斗を付けない。
脚注
注釈
出典
関連項目
外部リンク
熨斗
「熨斗」の例文・使い方・用例・文例
- 命が欲しくば熨斗をつけて進上する
- 熨斗を付ける(相当するは)
- 熨斗を付けて進呈する
- 熨斗を付けて進上しよう
- 欲しけりゃ熨斗を付けて上げる
- 紙入を掏られた、欲しけりゃ熨斗を付けてやらぁ
- そんな物は熨斗を付けられてもまっぴらだ
- 彼がそんなことを言ったか、その悪口なら熨斗を付けて返上する
- そんな物は熨斗を付けられてもまっぴらご免だ
- 彼はそんなことを言ったか、その悪口なら熨斗をつけて返上する
- この命が欲しけりゃ熨斗をつけて進上する
- 進物にするのだから熨斗を付けて下さい
- なにもかもそっくり熨斗を付ける
- 熨斗包みの紙を熨斗の代用にするもの
- 熨斗を付ける代わりに文字で書くこと
- 熨斗の代わりに書いたしるし
- 鯨熨斗という,鯨の肉を打ちのばして乾かした食べ物
熨斗と同じ種類の言葉
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