戦争 戦争の過程

戦争

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/26 01:05 UTC 版)

戦争の過程

黒船来航強制外交。嘉永7年(1854年)横浜への黒船来航
マシュー・ペリーに随行した画家ヴィルヘルム・ハイネによるリトグラフ

戦争は永遠に続くものではなく、一定の段階を過ぎれば収束していく(ただし、ゲリラ戦や断続的なテロ攻撃は戦線を維持する必要がないため、戦争とは本質的に性質が異なる)。兵力や軍需物資の補填などの兵站能力的限界から、どのような国家、勢力でも激しい戦闘を長期間にわたって継続することは不可能であるからである。その発展の過程は無秩序に見えるが、ある程度の段階が存在していると考えられている[42]

平時

安定的な秩序が維持されており、各国(一部の国では平時においても国内の不安定がある)は基本的に平和に過ごしている。戦争の危機は認識されておらず、準備もなされていない。

  • 艦隊・部隊などの相互訪問などの軍事交流、独立記念日などの国家行事の支援など。
  • 災害救助、医療支援、測量活動支援、調査活動支援など。
  • 同盟国や友好国との共同軍事訓練などによる関係の増進。
  • 武器兵器の売却、教官派遣、留学生交換などによる友好関係、勢力圏の増進。

危機

戦争勃発の誘因となりうる事件や問題が発生・表面化し、急速に事態が緊張化していく。奇襲を受ける場合はこの段階を通過しない場合もある。この時点ではまだ戦争を未然に防止することは外交によって可能であると考えられるが、不安定化末期から準戦時の外交交渉はしばしば非常に切迫したものとなる。

準戦時

戦争の危機が高まり、急速に事態が緊張化して制御不能となっていく。国家として戦時体制が敷かれ、軍隊が動員され、外交交渉は絶望的になっていく(最後通牒宣戦布告を参照)。この段階になればもはや事態を収拾しようとすることは極めて困難となる。この時点で戦争勃発を阻止しようとするのは遅すぎる。

  • 配給制や統制経済などの戦時体制の準備。
  • 予備役の動員や民間防衛の準備体勢への移行。
  • 外交関係の断交や外交使節団の召還。
  • 破壊工作員やスパイの潜入、謀略活動。
  • 対象国にとって重要な陸海空の交通路の封鎖。
  • 対象国に向かう船舶などの臨検、抑留、拿捕
  • 対象国の主要交通路の封鎖、口座凍結などの金融制裁などの経済制裁
  • 交戦地域の設定。

戦時

開戦を告げる宣戦布告が行われ(これは伝統的な国際法に基づく行為であり、現代では行われない場合もある)、軍隊が戦場に展開し、敵戦力との戦闘に入る。また戦時体制に基づいてあらゆる経済情報開示、生活が軍事上の必要から統制される。この段階で戦争の経過を当初の計画通りに進んでいるかなどを考慮し、いかに有利に戦争を収束させるかという点が注目される。

  • 戦時体制の実施と予備役民間防衛の総動員。
  • 情報統制やスパイ摘発・相手国の宣伝対策などの防諜政策の展開。
  • 相手国に対する世論誘導を目的とした広報政策の展開。
  • スパイ・同調者・協力者の獲得工作の展開。
  • テロリスト革命家、協力者、破壊工作員などによる工作活動(ほとんどは政府の判定のみに基づき、後日冤罪や政府特務機関の自演だったと判明する例もある)。
  • 限定地域(海域)における軍事施設・艦艇などに対する攻撃占領
  • 限定地域以外における軍事施設・艦艇などに対する攻撃、占領。
  • 軍事施設などに対する攻撃、占領。
  • 兵器武器生産施設となっている工業地帯に対する攻撃、占領。
  • 首都、統治機関、主要都市など政経中枢に対する攻撃、占領。

終結

一方が圧倒的な勝利を獲得した場合、また戦況が双方にとって好転せず停滞的になった場合、対立している両国が講和を行うことを決定すれば、その戦争は収束に向かう。この際に締結されるのが講和条約と呼ばれるものである(休戦協定戦闘の一時的な中断であり、戦争の終結ではない)。しかし、講和の交渉とは外交官にとって最も困難な外交交渉の一つであり、その交渉過程にはさまざまな不満や問題が発生することもある。

  • 戦闘作戦の長期的な停滞。
  • 戦争遂行の外交的・内政的な問題の発生。
  • 攻撃的な戦闘行動の停止(停戦)。
  • 和平交渉の開始、暫定的に戦争を休止する休戦協定の締結。
  • 戦後の双方の地位を定めた講和条約の締結と、議会での批准。
  • 敗戦した政府組織の亡命

戦後

戦争終結してもその決着が新たな問題や不満を生んでいれば、それが起因して新しい戦争をもたらすこととなる。外交的な解決が不可能となった場合、戦争は軍事力を以って自国の利益を相手から奪うことができる。ただしその過程で失われるものは人命、経済基盤、生活の安全だけでなく、勝敗によっては国際的な信用や政府、国家主権が奪われる場合もある。なお近現代においては敗北で民族が消滅することはない。

主権国家体制において付庸国(附庸国、ふようこく)、従属国(じゅうぞくこく)(: vassal state)とは、宗主国から一定の自治権を認められているが、その内政・外交が宗主国の国内法により制限を受ける国家を指す。[43]

主権を不完全にしか持たないため、被保護国と合わせて半主権国: semisovereign state)、従属国: dependent state[44]とも呼ばれる。

傀儡政権(かいらいせいけん、英語: puppet government)とは、ある領域を統治する政権が、名目上には独立しているが、実態では事実上の支配者である外部の政権・国家によって管理・統制・指揮されている政権を指す[45][46]


注釈

  1. ^ 敵を完全に殲滅して敵国の抵抗力を徹底的に破壊する戦略。
  2. ^ ベイジル・リデル=ハートは『戦争に関する考察(Thoghts on War)』において戦争の原因は突き詰めれば心理的なものであると考え、全感覚(あらゆる方面における知覚)を用いて戦争を理解しなければ、戦争を防止する展望は持ち得ないと論じた[39]
  3. ^ 戦争哲学の前提として戦争の原因論はその性質から観察者の哲学的・政治的・歴史学的・法学的な立場やバイアスなどに大きく関わる。例えば決定論の立場で戦争の原因論を考察した場合、あらゆる要因がその戦争の発生を決定付けているために人間は本質的に戦争に責任を持つことができないということとなり、原因は起因したそれら諸要素となる。
  4. ^ 国際政治学において侵略と認定する条件として、第一に武力行使、第二に先制攻撃、第三に武力による目的達成の意思、が挙げられており、自衛や制裁などの免責理由がないこととして価値中立的な定義としている。ただし、侵略の条件に「意思」が挙げられていることはこの定義の法律的性質を現すものであり、ある特定の価値観が存在していると指摘できる。そのため、軍事上の事実的行為として侵略は武力の先制使用であると考えられている[41]

出典

  1. ^ 「戦争」『国際法辞典』、217-219頁。
  2. ^ 「国際紛争の平和的解決」『国際法辞典』、118-119頁。
  3. ^ 三石善吉 戦争の違法化とその歴史 東京家政学院筑波女子大学紀要第8集 2004年 pp.37-49.
  4. ^ 本郷健『戦争の哲学』(原書房、1978年)46-47頁
  5. ^ Field Manual 100-5, Operations, Department of the Army(1993)
  6. ^ 佐原真「日本・世界の戦争の起源」、仮名関恕・春成秀爾編『佐原真の仕事4 戦争の考古学』岩波書店 2005年
  7. ^ 服部 2017, p. 190.
  8. ^ 佐原真「ヒトはいつ戦い始めたか」、金関恕・春成秀爾編『戦争の考古学』佐原真の仕事4 岩波書店
  9. ^ 本当の戦争―すべての人が戦争について知っておくべき437の事 ISBN 978-4087734102
  10. ^ 佐原真「戦争について考える」、『考古学つれづれ草』小学館 2002年
  11. ^ 朝日新聞2016年3月31日2016年4月10日閲覧
  12. ^ 佐原真「日本・世界の戦争の起源」、金関恕・春成秀爾編『佐原真の仕事4 戦争の考古学』岩波書店
  13. ^ Max Boot, War Made New: Technology, Warfare, and the Course of History, 1500 to Today (New York: Penguin Group Inc., 2006), 4–5.
  14. ^ 石津朋之、ウィリアムソン・マーレー著 『21世紀のエア・パワー』 芙蓉書房出版 2006年10月25日第1刷発行 ISBN 482950384X
  15. ^ クギを打った棒や素手で殴り合い 中印衝突で 奇妙な戦闘の舞台裏”. 産経新聞 (2020年6月26日). 2021年2月13日閲覧。
  16. ^ ロシア、ウクライナ複数都市を攻撃 首都空港巡り戦闘(写真=AP)” (日本語). 日本経済新聞 (2022年2月24日). 2022年2月24日閲覧。
  17. ^ ロシアのウクライナ侵攻、ネット上に情報続々 宣戦布告はYouTubeに、火の手の様子はTwitterに、航空機の状況はFlightradar24に” (日本語). ITmedia NEWS. 2022年2月24日閲覧。
  18. ^ Gilpin, Robert (1988). “The Theory of Hegemonic War”. The Journal of Interdisciplinary History 18 (4): 591–613. doi:10.2307/204816. ISSN 0022-1953. https://www.jstor.org/stable/204816. 
  19. ^ 飯田浩司著 『軍事OR入門』 三恵社 2008年9月10日改訂版発行 ISBN 9784883616428 195頁
  20. ^ Wallinsky, David: David Wallechinsky's Twentieth Century: History With the Boring Parts Left Out, Little Brown & Co., 1996, ISBN 0-316-92056-8, 978-0-316-92056-8 – cited by White
  21. ^ Brzezinski, Zbigniew: Out of Control: Global Turmoil on the Eve of the Twenty-first Century, Prentice Hall & IBD, 1994, – cited by White
  22. ^ Ping-ti Ho, "An Estimate of the Total Population of Sung-Chin China", in Études Song, Series 1, No 1, (1970) pp. 33–53.
  23. ^ Mongol Conquests”. Users.erols.com. 2011年1月24日閲覧。
  24. ^ “The world's worst massacres Whole Earth Review”. (1987年). オリジナルの2003年5月17日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20030517105614/http://www.globalwebpost.com/genocide1971/articles/general/worst_massacres.htm 2011年1月24日閲覧。 
  25. ^ Taiping Rebellion – Britannica Concise”. Britannica. 2011年1月24日閲覧。
  26. ^ Michael Duffy (2009年8月22日). “Military Casualties of World War One”. Firstworldwar.com. 2011年1月24日閲覧。
  27. ^ Selected Death Tolls for Wars, Massacres and Atrocities Before the 20th Century”. Users.erols.com. 2011年1月24日閲覧。
  28. ^ McFarlane, Alan: The Savage Wars of Peace: England, Japan and the Malthusian Trap, Blackwell 2003, ISBN 0-631-18117-2, 978-0-631-18117-0 – cited by White
  29. ^ Nuclear Power: The End of the War Against Japan”. BBC News. 2011年1月24日閲覧。
  30. ^ Timur Lenk (1369–1405)”. Users.erols.com. 2011年1月24日閲覧。
  31. ^ Matthew White's website (a compilation of scholarly death toll estimates)
  32. ^ Russian Civil War”. Spartacus.schoolnet.co.uk. 2010年12月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年1月24日閲覧。
  33. ^ ジェイムズ・F・ダニガン、ウィリアム・マーテル著、北詰洋一訳『戦争回避のテクノロジー』(河出書房、1990年)37頁
  34. ^ 防衛大学校・安全保障学研究会編『安全保障学入門』(亜紀書房、2005年)24-25頁
  35. ^ 栗栖弘臣『安全保障概論』(BBA社、1997)116-119頁
  36. ^ 防衛大学校・安全保障学研究会編『安全保障学入門』(亜紀書房、2005年)25-27頁
  37. ^ 防衛大学校安全保障学研究会『最新版 安全保障学入門』(亜紀書房、2005年)31-32頁
  38. ^ 栗栖弘臣『安全保障概論』(ブックビジネスアソシエイツ社、1997年) 131-133頁
  39. ^ 松村劭『名将たちの戦争学』(文春新書、2001年)18頁
  40. ^ 古賀斌『戦争革命の理論』(東洋書館、1952年)128-139頁
  41. ^ 服部実『防衛学概論』(原書房、1980年)33-34頁
  42. ^ 防衛大学校・安全保障学研究会編『安全保障学入門』(亜紀書房、2005年)182頁の『軍事力によるエスカレーションの具体例』の図、及びジェイムズ・F・ダニガン、ウィリアム・マーテル著、北詰洋一訳『戦争回避のテクノロジー』(河出書房、1990年)32-36頁を参考とした。
  43. ^ 寺沢一、山本草二、広部和也編 編「Ⅲ国家の成立16国家結合」 『標準 国際法』(初版)青林書院、1989年6月、112頁頁。ISBN 978-4417007517 
  44. ^ 佐分晴夫「従属国」 『日本大百科全書』小学館http://100.yahoo.co.jp/detail/%E5%BE%93%E5%B1%9E%E5%9B%BD/2010年4月11日閲覧 [リンク切れ]
  45. ^ Yahoo Dictionary>JapanKnowledge>大辞泉>傀儡政権[リンク切れ]
  46. ^ Exite>三省堂>大辞林>傀儡政権[リンク切れ]
  47. ^ 防衛大学校・防衛学研究会『軍事学入門』(かや書房、2000年)及びジェイムズ・F・ダニガン著、岡芳輝訳『新・戦争のテクノロジー』(河出書房新社、1992年)などを参考にし、主要な闘争の局面について整理した。
  48. ^ 防衛大学校・防衛学研究会『軍事学入門』(かや書房、2000年)52-53頁






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