フーリンの子らの物語とは? わかりやすく解説

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フーリンの子らの物語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/18 14:22 UTC 版)

モルゴス」の記事における「フーリンの子らの物語」の解説

ドル=ローミンの領主フーリンの妻はモルウェンといった。この二人の間に生まれた子がトゥーリンで、彼はニアナイス・アルノイディアド終わった時まだ8歳であったトゥーリンにはラライスという名の妹がいたが、彼女は3つになる時病で死んだ。そしてこの時モルウェン三人目の子懐妊していた。ニアナイス・アルノイディアドの後、東夷たちがこの地に入り込み無法働いたが、ドル=ローミンの奥方東夷たちの間で、あの女は白い魔物エルフのこと)と付き合いのある魔女だという噂が飛び交い危険視され、彼らはフーリン家の者とその館には手を出そうとはしなかった。東夷たちはエルフ恐れていたのである故に彼は多くエルダール避難場所としている南方山岳地帯恐れ、近づこうとはしなかった。こうしたことから東夷たちは略奪の後北へ引き上げていった。フーリンの館はドル=ローミン南東にあったからである。とは言え今や彼女たちの生活は貧しくなっていた。彼女たち殺されることこそなかったものの、土地財産奪われしまっていたからである。もしもフーリン縁者アイリンからの密かな援助なければ、彼らは飢え死にしていたことだろう。アイリンはブロッダという名の東夷頭目に、力ずくで妻とされていたのである。しかしモルウェンこのまま状況では埒が明かない事に気付いており、最も恐れていたこと―ドル=ローミンの正当な継承者であるトゥーリン東夷奴隷になることを避けるため、彼を密かに南方送り出しシンゴル王に匿って貰えいだろうかと考えた。なぜならバラヒア息子ベレンは彼女の父方縁者で、フーリン友人でもあったからである。そこでニアナイス・アルノイディアド翌年モルウェンは、トゥーリン年老いた二人下僕付けて山の向う送り出したドリアスに向かうために。この母との別れトゥーリン悲しみ始まりであった。 そしてモルウェンは子を産んだ女の子であった。彼女は娘にニエノールと名付けたその頃トゥーリン一行はついにドリアス国境辿り着いていた。そこで彼らは国境守備隊隊長ベレグと出会い、メネグロスへと案内された。シンゴルは昔と違って今やエダイン三王家に好意的になっており、トゥーリン快く迎え入れると、驚くべきことに己の養子とした。人間中にあって最強の者、フーリン・サリオンに敬意を表するためである。そしてトゥーリン下僕一人ドル=ローミンの奥方に、このことを伝えるためにと出立すると、シンゴルエルフ護衛付けてやった。彼らは無事にモルウェンのもとに到着しトゥーリンのことを伝えた。この時エルフ達は女王メリアン招き伝えてモルウェンにもドリアスへ来るよう促したのだが、彼女は自尊心とニエノールのことからこれ丁重に拒み使者エルフ達が帰還する時、ハドル家重代宝器中でも最も貴重なのであるドル=ローミンの竜の兜託したトゥーリンドリアスでの少年時代を、ネルラスという名のエルフ乙女とよく過ごした。彼女かドリアスについてトゥーリン多くのことを学び、またシンダール語も彼女か学んだこの頃トゥーリンにとって明る一時であった。しかしトゥーリン少年から青年になると、ネルラスと会うことは次第少なくなっていった。それでもネルラスは陰から彼を見守っていたのだが。9年の間トゥーリンはメネグロスで過ごした彼の親族消息使者通じて度々齎され、妹ニエノールが美しく成長していることや、それがモルウェン心痛和らげていることを伝え聞いたのである。そしてトゥーリン人間の中で最も丈高く成長し、その膂力勇気国内知れ渡るようになった。彼はベレグに弓矢の技に知識、そして剣術学んだこのように彼をよく知るものからは愛情友情得たが、彼自身陽気な性質ではなく、滅多に笑うこともない陰気な所があったので、友人多くはなかった。特に彼を嫌う者の中にサイロスという名のエルフがいた。彼はベレリアンド最初合戦デネソール仕えていたものである。デネソール死後、彼はオッシリアンドではなくドリアス避難してきたのであった。彼はトゥーリン巧みに悪意隠して嫌味言ったり、侮蔑言葉投げかけた。トゥーリンはこれに終始沈黙持って答えたが、これがさらにサイロスの癇に障った17歳になった時、新たなトゥーリン悲しみ起きたドル=ローミンから使者戻ってなくなったのである今やモルゴスの覆う影はヒスルム全土にまで達していたためである。トゥーリン家族のことを思うと思い悩んだ。彼はシンゴル王前に参じると剣と鎧、そしてドル=ローミンの竜の兜賜るよう願い出た。それは叶えられたが、彼が冥王撃とうとしていることを知ると、シンゴル夫妻忠告してそれを諌めた。そこで彼は忠言従い北の国境へ出向きエルフ部隊合流しオークや他のモルゴス召使いたちと戦うようになった。彼は常に先陣切って敵を屠った。その大胆さからドル=ローミンの竜の兜再来ドリアス以外の国々でも囁かれるようになったこの頃戦士としてトゥーリンが敵わなかったのは、彼の師であるベレグ・クーサリオンただ一人であった二人戦友となって共に戦った。 そして3年後トゥーリン戦い疲れて休息取ろうとメネグロスに帰ってきた。しかし荒野から戻ってたばかりの彼は髪は茫々武具衣服くたびれ果てており、そんな彼が食卓についたところをサイロスが嘲って、ヒスルムの男たちこんなにも野蛮荒々しいのなら、女達髪の毛以外身を覆うものもなく走り回っているに違いないと、侮蔑言葉投げかけた。これにはトゥーリン激怒し、杯を取るやサイロスの顔面投げつけた。彼はひどい傷を負いひっくり返った。そこへトゥーリンは剣を抜いて迫ったが、これはマブルングによって阻止された。翌日トゥーリン国境警備隊戻ろうとしていたところを剣と盾武装したサイロスが待ち伏せしており、背後から襲いかかった。しかし百戦錬磨戦士となっていたトゥーリンはこれを躱すと、素早く剣を抜き打ちかかった。そしてサイロスの盾を砕き、剣を持つ手を傷つけて、彼を無力化したその上で昨日侮蔑お返しにサイロスの衣を剥ぎ取り、身を覆うのは髪の毛だけにすると、剣でもって追い回した。サイロスは狂ったように悲鳴を上げながら逃げまわったため、他のエルフ達も何事かと集まってきたが、二人はすごい速さ駆け抜けていったため、ついていける者は殆どおらず、追いかけられたのはマブルング他数名であった。彼は追いかけながら、必至トゥーリン思いとどまるよう説得したが、トゥーリンはそれを無視した。そしてサイロスはエスガルドゥインの川まで追い詰められ恐怖のあまり跳躍試みたものの、対岸への着地には失敗し悲鳴とともに落ちていき、水中大岩当たって砕けて死んだその結果見届けたトゥーリン振り返ると、そこにはマブルング他何名かのエルフ達がやって来ていた。彼はトゥーリンにメネグロスに戻り、王の裁きを待つよう伝えた。しかしトゥーリンはこれを断った。サイロスは王の助言者の一人であったからである。マブルングは心中トゥーリン同情していたため、友として戻るよう勧めた。しかしそれでも囚人となるのを恐れたトゥーリン断り立ち去った。もしトゥーリン生きたまま捕らえようとするなら、マブルング側にも犠牲者が出るのは避けられないためである。そしてトゥーリン逃亡し無法者となったのであるその頃ドリアスではトゥーリンに対して裁断下されようとしていた。シンゴル王はサイロスも嘲笑言葉投げかけたりと非はあるが、死に至らしめる程の罪には見合わない考えトゥーリンが王に赦しを請わず国を出て行ったことを聞き養子縁組取り消すとまで発言した。だがそこへベレグがネルラスを連れて来て、彼女が王に彼女の見たこと、即ちサイロスがトゥーリン不意打ち仕掛けたことを言上した。これにより審判の場は一変し、皆がトゥーリン同情的になった。そして王はトゥーリン過失赦し、再び王宮迎え入れることを許可した。しかしネルラスは泣き出し、彼は見つかるだろうか嘆いた。王もなにか良い手立てはないものかと思案に暮れていたところを、ベレグが王に対して自分トゥーリンを必ず探し出して連れてくると応え一人出立したその頃トゥーリンは自らを王に追われる無法者になった信じこみ、西を目指しドリアス抜けると、テイグリン南部入ったニアナイス・アルノイディアド以前には、ハレス一族点在して生活していた場所である。だが今では彼らの多く死に絶え生存者はブレシルへと落ち延びていた。そしてニアナイス・アルノイディアド以降荒廃した時代となったため、付近一帯オーク無法者跳梁跋扈していた。敗残兵罪人荒廃した土地捨ててきた人々追放者、これらは略奪繰り返す無法者化していた。彼らはガウアワイス(狼人)呼ばれ忌み嫌われていた。その中の50人ほどは徒党組みオーク劣らぬほど嫌われていた。その悪名高い一党トゥーリン出会うこととなった。彼らは通行料要求し払えないなら死んでもらうと脅してきたが、トゥーリンそのうち一人即座に殺してみせることで、後釜入った。そして本名明かさずネイサン名乗った程なく彼は一目置かれるようになった。剣の腕が立ち、知識も豊富で、欲が薄く自分取り分を殆ど要求しなかったからである。このように無法者仲間から信用されるようになったが、恐れられるようにもなった。彼らには理解できない突然の怒りのためである。トゥーリン自尊心故にドリアスには帰れず、ブレシルのハレス一族のもとに下るつもりもなく、かと言ってドル=ローミンには戻れなかった。冥王の影の下にある彼の地に、単独赴くのはあまりにも危険過ぎるからであったそれゆえトゥーリンはガウアワイスの一員として留まらざるを得なかった。しかし彼らの非道な行為見て見ぬふりをする時、憐憫の情羞恥心から怒り感情が頭をもたげたのである。そして春が来たが、このまま森の民家々近く根城構えるのは危険なことであった何時彼らが団結してガウアワイスに抵抗してくるか知れないからである。そこで南へさっさと行くべきだとトゥーリン思っていたが、それを首領フォルウェグがしないのを不審思っていた。そんな折、散歩出ていたトゥーリンはたまた森の民若い娘襲おうとしていた首領斬り捨ててしまう。そこを無法者一員アンドローグに見られてしまうが、彼の命は助けた。この結果ガウアワイス内で揉めたものの、前首領不平溜まっていたこともあって、トゥーリン新し首領とすることに決まった。そして彼らはその地方離れたドリアスから幾人も探索者放たれトゥーリン出奔した都市探索当たったが、探索失敗終わったというのもまさか無法者の徒とつるんでいるとは、夢にも思わなかったからである。結局彼らは皆帰参した。ベレグのみがひとり孤独な探索続けた。そしてトゥーリン助けられ森の民の娘からついに足がかり得たのである。ベレグは追跡開始したが、トゥーリン移動の際ほとんど手がかりを残さぬよう、水際立った術を用いて妨げたので、ベレグですら彼らの探索には手を焼いた痕跡を見つけ、野生生き物から聞き出した情報からその場行ってみると、既にもぬけの殻となっていた。 それから程なくオーク達がテイグリンを渡って南にやって来た。ブレシルの民の抵抗を受けながらも、オーク共は森の民の許へ略奪にやってきた。ベレグによる注意受けていたため先に送り出していた婦女子は、ブレシルに逃れていたため助かったが、遅れて出立した男たちオーク遭遇し戦いとなり打ち負かされた。幾許かの者が辛うじてブレシルまで逃げ切ったが、多くの者は殺される捕虜となった。そしてオーク家屋敷略奪して回ると、火を付け、西に戻って街道使い北方戻ろうとしていた。これを無法者斥候察知した捕虜どうでもよく、略奪品目当てゆえである。しかしトゥーリン相手規模わからない以上、無闇に襲うのは危険だ判断したが、無法者たちは耳を貸そうとはしなかった。そこで仕方なくトゥーリンはオルレグという名の無法者伴って偵察出たその間はアンドローグが一党指揮をとることとなった。だがオーク達は街道近くが、ナルゴスロンド領域に近いことを知っており、その見張り恐れてもいた。そのため略奪後で浮かれておらず、用心深くなっていたためトゥーリンとオルレグは発見されてしまった。オーク達はナルゴスロンド斥候勘違いし、たちまち二人追い回し始めたトゥーリンは彼らの様子から、ナルゴスロンドエルフを大変恐れているのを見抜きオーク欺いて西へ逃げた。オルレグは途中で多量の矢を浴びて死んだが、俊足エルフの鎧を身に纏っていたトゥーリンは無事逃げ果せた。オーク達はナルゴスロンドエルフやって来るかもしれないとの恐れから、捕虜皆殺しにすると慌てて北へ逃げていった。 三日間たっても首領とオルレグが戻らないことから、無法者たちは出立促したがアンドローグがこれを制していた。そんな時彼らの前に一人エルフ不意に姿を表した。ベレグであった。彼は何の武器持たず敵意のないことを示すため掌を彼らの方に向けていた。しかし無法者たちは恐怖し、アンドローグの打った輪縄がベレグの両腕絡めとった。ベレグは友として参った自分になぜこんな仕打ちをするのかと、ネイサンの名を呼んだが、ウルラドという名の無法者が彼は今は此処にはいないことを告げた。そしてアンドローグが、長らく自分たちを付け回していたのがベレグであると確信すると、彼を木に縛り付けた。彼は詰問したがベレグは、自分ネイサン名乗る男の友人で、彼に吉報携えてきたとしか答えなかった。アンドローグは彼を殺そうとしたが、多少心根良い者たちが反対し、アルグンドは、もし首領戻ってきた時に友人吉報奪われたと知ったら、自分たちは後悔することになると言って制止した。だがアンドローグはベレグをドリアス王の間者に違いない決め付けた。それから二日間経過する流石に男たち痺れ切らしエルフ殺そうとした。その時丁度トゥーリン帰ってきたのである。彼はベレグを見ると衝撃を受け、涙をはらはら流しながら駆け寄った。そして友を縛っている縄目断ち切ると、ベレグを掻き抱いた無法者仲間から事の次第聞いて自分行ってきた無法無道な行為に自責の念芽生え今後トゥーリン人間エルフ外しか襲わないと誓った。そこに縛めから解かれたベレグが、サイロスの一件不問となったことを告げドリアス戻ってくれるよう頼むが、彼は黙りこんでしまった。翌朝もう一度ベレグはドリアスに戻るよう説得したが、トゥーリン自尊心からドリアスへの帰還拒んだ。それに無法者仲間に対して愛情があることから、今更彼らを見捨てるわけにも行かない告げトゥーリン自由にやってゆきたいと、自身の手勢を従えて戦うことを決意する。そしてベレグに残ってくれるよう懇願するが、ベレグはそれは出来ない答え今やオーク達はディンバールにもやって来て、ブレシルの人間難儀しているから自分はそこへ戻るつもりだと言う。そこで自分会いたければディンバールに来て自分探せ伝える。トゥーリンはそれに黙って耐えたが、不意にエルフ乙女のことを口に出し、彼女に証言してもらったのに自分は彼女を思い出すことが出来ない、なぜ彼女は自分見ていたんだろうかと独りごちる。これにはベレグも驚きトゥーリン幼い頃ネルラスとともに過ごしていた日のことを告げる。しかし子供の頃のことはもう朧気でよく思い出せない答えトゥーリンに、ベレグは大きく嘆息し中つ国には武器によらぬ傷もあるのだと言いエルフ人間はやはり出会うべきではなかったのだと嘆いた。そして別れの際何故かアモン・ルーズが目に入ったことから、トゥーリンはベレグに、自分会いたければアモン・ルーズに来て自分探せ伝え二人友情懐きながらも悲しい気持ち別れた。 ベレグはメネグロスに戻ると、シンゴル夫妻に事の顛末全て言上した。シンゴル溜息をつくと、トゥーリンに対してどうすればいいのかと、悩んだ。そこでベレグは暇乞いをした。彼は出来る限りトゥーリン守り導く決心をしたのであるシンゴルはそれを許可し別れに際して望みの品を与えと言った。ベレグは名剣一振り所望した。今やオークの数は多すぎて、彼の大弓だけでは間に合わなくなってきたのと、ベレグの持っている剣ではオークの鎧を貫くのが難しくなっていた。それに対しシンゴル武器庫所蔵している剣のうちか好きなものを選べと言いベレグはアングラヘルを選んだ。この剣は非常な名剣で、これに匹敵するのはアングウィレルという対になる剣のみであった。この二振りの剣は隕鉄出来ており、鍛えた刀匠は、ゴンドリンで処刑された<暗闇エルフ>エオルである。彼はナン・エルモスの住む許可シンゴルから得る代わりに嫌々アングラヘルを献上したのだった。アングウィレルの方はエオルが自分用にとっておいたが、マイグリンが脱走時に勝手に持ちだした。ベレグがアングラヘルを拝領する女王メリアンがその刃を見て、その剣には邪気篭っており、それを鍛えた刀鍛冶の黒い心が潜んでいるため、使い手愛することはないだろう忠告する。それでもベレグはこの剣を選んだ。そしてメリアンからはレンバスを大量に与えられた。 ベレグはこれらの授けられた物を携え、北のディンバールへ戻っていった。そしてアングラヘルは鞘から抜かれることを喜んだ。やがてオーク共が駆逐され戦い鎮まると、冬にベレグはそこを去り二度と戻らなかったのである。 ベレグが去ってから、北方オーク以前にも増して大部隊で街道南下してテイグリンを渡るようになり、無法者一行狩るよりも狩られることの方が多くなってきた。そこでトゥーリンはより安全な巣窟を探さねばならない痛感し、シリオンの谷間抜けて西へ向かったここまで遠出するのは一向にとっても初めてのことであったそんな中雨宿りをしている時、3つの人影目撃する大声止まるよう命じたが、人影はそれに従わず逃げようしたため、アンドローグが矢を射かけた。2つ人影そのまま逃げたが、1つ逃げ遅れトゥーリン達に捕まった。それは小ドワーフで名をミームといった。ミーム命乞いをし、身代金代わりに誰にも見つからぬ隠れ家を共にしてもよいと申し出たため、トゥーリンはそれを受け入れた翌日彼らはミーム続いてアモン・ルーズへ向かった。アモン・ルーズは禿山でシリオンの谷とナログの間の荒れ地外れにあり、岩を覆うセレゴンという深紅の花以外何も生えていなかった。ミーム秘密の入口に着くと、一行バルエン=ダンウェズと名付けた洞窟の中へと案内した。ここでミーム自分息子キームが死んだことをもう一人息子イブンから知らされる。アンドローグの放った矢がキームの命を奪ったのであるトゥーリンはこれを申し訳なく思い、もしも富が手に入ることでもあれば金塊息子の命を贖おうと申し出たミームはこれを聞くトゥーリン眺めその旨承ったことと、気持ちが少しは和らいだことを告げた。だがアンドローグに対しては、再び弓矢を手に取らば弓矢によりて死ぬという呪いをかける。こうしてバルエン=ダンウェズにおけるトゥーリン日々が始まる。 ある年の真冬近づく頃、未曾有の大雪北方から齎され、アモン・ルーズも深い覆われた。アングバンドの力が増大するにつれて、ベレリアンドの冬は厳しさ増していると人々の間で噂された。そんな厳し寒さ最中、ベレグ・クーサリオンが再びトゥーリンの許へ訪れる。ベレグは彼の竜の兜携えてきていた。それによってトゥーリン考えが変わることを期待したからである。しかしトゥーリンドリアス戻ろうとはしなかった。ベレグは彼への愛情負け、彼もトゥーリン仲間になることになった無法者仲間にレンバスを与えることで活力与え怪我人病人治療した。たちまち彼らは癒やされた。ベレグは弓の腕前優れて、力も強く遠目効いたので、無法者仲間からも尊敬を受けるようになった。しかし小ドワーフ過去にベレリアンドのエルフ追い立てられ殺されたことがあったためミームはベレグを憎んだトゥーリンは再び竜の兜身につけると自らをゴルソル(恐るべき兜の意)と名乗りバルエン=ダンウェズを拠点戦い開始したオーク達は南方地域、ベレリアンドに入る道を探っていたが、トゥーリン率いられたガウアワイス達はそれを襲撃するようになった竜の兜強弓再起したという噂は遍く伝えられた。流離人となりつつも、モルゴス抵抗する意思を持つ多くの者たちが、再び勇気取り戻しトゥーリンとベレグの許へ集まってきた。テイグリン川とドリアス西境に挟まれ地域ドル=クゥーアルソルと呼ばれるようになった。<弓と兜の国>の意である。トゥーリン一党一大勢力膨れ上がりアングバンド影響後退した。メネグロスやナルゴスロンド、そして隠れ王国ゴンドリンにすら二人武勇誉れ響いたトゥーリン一党対しナルゴスロンドからは、その秘密の場所を守るため、軍事的な支援できないものの、必要な物何であれ提供しよう、と申し出が来た。全て上手く言ってるように見えたが、ベレグは先のことを考えて度々警告した。だがトゥーリン考え変えず、ここで力を蓄えた後にドル=ローミンへ向かう旨を告げた。やがて二人のことはモルゴスの耳にも入り竜の兜故にフーリン息子存在明らかになってしまった。彼はアモン・ルーズ近辺間者大量に放った。 その年も暮れる頃、ミームイブンは冬の蓄えのため、荒れ地赴いたところを捕らえられた。そして秘密の入口をまたも案内させられる羽目になった。こうしてバルエン=ダンウェズは敵に売られた。ミーム案内で、オーク達は敵が寝静まっているところを襲ったのであるトゥーリン仲間多く寝ているところを襲われ殺された。中には階段使って丘の頂に逃れた者もおり、彼らはそこで討ち死にするまで戦った。アンドローグもそこで勇敢に戦ったオークの矢で致命傷負った。しかしトゥーリン戦闘中に網を被せられ身動き取れなくなったところを連れ去られた。当たりに静けさ戻った頃、ミームが姿を現した。そして山頂に斃れた死者たちを見渡したが、一人生存者がいた。ベレグであった。そこでミーム憎悪の念からベレグを殺そうと、死者傍らにあったアングラヘルを手に近づいたが、ベレグはよろめきながら立ち上がり、アングラヘルを奪い返す逆にそれを突きつけた。ミーム仰天して山頂から逃げ去った。ベレグはひどい傷を負っていたが、彼は中つ国エルフでも力強い者である上、癒やしの術にも長けていたので死ななかった。回復した彼は埋葬しようとした死者中にトゥーリンがいないことに気付き、彼がオークたちに連れて行かれたことに気付いたのである。そこで彼は追跡開始した相手足取りを追う術にかけて彼の右に出るものは、中つ国広しといえども一人もいないほどであった。彼は眠らず急行したのに対しオーク達は勝利浮かれて北上するにつれ、追跡恐れなくなっていたため、その足取り遅かったオーク達の居所ももはや然程遠くはなかった。そんな時ベレグは道中タウア=ヌ=フイン一人エルフ発見する。それはナルゴスロンドのグウィンドールであった。そこでグウィンドールにレンバスを与え活力取り戻させ、通過したオーク部隊の話を聞くと、その中にたいそう背の高い人間の男がいたと彼は言った。そこでトゥーリン助けるために自分が来たことを話すと、彼は一端諦めることを勧めるが、ベレグはそれでもトゥーリン見捨てず助けにいく決心であると言うと、彼も助力申し出た。アンファウグリスの不毛の地まで来るとオーク達は、見張り番に立てて酒盛り始めたその頃エレド・ウェスリンに稲妻走り西から風が吹き始めていた。オーク眠った所でベレグはその強弓一匹ずつ確実に仕留めていった。そして二人野営地に入ると、縛られトゥーリン発見し、綱を切ると抱き上げてそこから運びだした。そこから少し上った茂みまで来ると、これ以上彼を運べ二人トゥーリンをそこで下ろした。嵐は近くまで来ていた。ベレグはアングラヘルを抜くと、トゥーリンの手足の縛め切った。しかしこの時運命の力が強く働いた。足の切った時アングラヘルの切っ先が、トゥーリンの足を少し刺したのである。彼はそれで目を覚ました。すると何者かが抜き身の剣を引っさげて、自分の上屈みこんでいたのだ!彼はオークが再び彼を苦しめに来たと早とちりし暗闇の中で掴みかかると敵の剣を奪い取り彼の上に屈みこんでい何者かを斬り殺したのである。しかしその時一閃稲妻頭上走り自分が斬った者の顔を照らした。それはベレグの顔であったトゥーリンは石と化したように動かず、それを見つめ、傍らのグウィンドールは稲光照らしだされるトゥーリンの顔の凄惨さに言葉もなかった。オーク達は嵐のため野営地全体大変な騒ぎとなっていたが、トゥーリンはグウィンドールの危険を告げる声にも全く反応せず、ベレグの亡骸傍らいつまで座り込んでいた。朝が来て嵐も去ると、オーク達はトゥーリン捜索諦めアングバンドへと帰還していったトゥーリンは魂が抜けたように呆然と座り込んでいた。グウィンドールはトゥーリン促すとベレグを埋葬した傍らには彼の強弓ベルスロンディングが置かれた。しかしアングラヘルはグウィンドールが取り置き無益に土の中にあるよりはモルゴス召使恨みを晴らすとよいと言った。そしてこの先必要だったためレンバスも取り置いた。 こうして最も信義篤い、ベレリアンドのの技にかけては右に出るもののいないベレグ・クーサリオンは、彼の弟子であり親友であったの手によって最期を遂げたのである。この悲しみ一生トゥーリンの中から消えことはなかった。 グウィンドールは自失した状態のトゥーリンを導くと、その場離れ、彼を守って案内務めた二人長い道果て、ついにエイセル・イヴリンに到着した。エレド・ウェスリンの下にあるナログ川の水源である。ここでグウィンドールはトゥーリンにこのを飲むことを勧めた何故ならばイヴリンの泉にはウルモの力が宿っていたからである。その飲んだトゥーリン正気取り戻すと同時に、涙をはらはら流した。ここで彼は亡きベレグに捧げる歌を作って歌った。そこでグウィンドールは彼にアングラヘルを手渡した。その刀身黒々としていて大きな力を秘めていたが、今は刃は鈍っていた。そしてトゥーリンはグウィンドールの自己紹介聞くと、父フーリンのことを尋ねたが、グウィンドールは彼の姿は見てないが、モルゴス公然と抵抗したため、彼と彼の肉親呪いかけられたという噂を聞いた答えた。彼らはエイセル・イヴリンを立ち去ると、南に旅を続けナルゴスロンドへとやって来たのであるナルゴスロンドでは王女フィンドゥイラスが、グウィンドールの恋人であったため、彼らの帰還喜んだ。そこでグウィンドールに免じてトゥーリンナルゴスロンド滞在することを許された。しかしグウィンドールが彼の紹介をしようとした所、トゥーリンはそれを遮り自分のことをウーマルスの息子アガルワイン名乗った。即ち<凶運息子にして血に汚れたる者>の意である。エルフたちはそれ以上問い詰めようとはしなかった。やがてトゥーリンオロドレス覚えめでたくなった。彼はまだ若く母親譲り美貌持ち主であった上、その所作ドリアスにあって洗練されており、彼はエルフ中にあっても、ノルドール公子勘違いされもおかしくはなかった。それ故彼はアダンエゼル(エルフ人間の意)と呼ばれることが多かったナルゴスロンド優れた刀鍛冶たちは、彼のためにアングラヘルを鍛え直した。刀身は黒いままだが、刃は青白い火の如く輝きトゥーリンはこの剣をグアサング(死の鉄剣)と名付けた。彼はその剣とドワーフ鎖帷子、そして敵に悟られぬよう竜の兜は身に帯びず武器庫見つけたドワーフ仮面を身につけて戦い出た彼の示した武勇と剣の腕は殊に優れていたため、彼はモルメギル(黒の剣の意)とも呼ばれるようになった。敵はその剣と仮面見ただけで逃げようになったトゥーリンオロドレス王に重用されるようになり、王の会議でも発言権得たが、グウィンドールは常にトゥーリン意見反対した。彼はアングバンド囚われていたことがあり、モルゴスの手口を多少なりとも知っているからであった例え幾つかの勝利を勝ち得ても、モルゴスはそれによって強敵の場所を悟り十分な力を集めて、そこに破壊鉄槌振り下ろすのだ、と。今や秘密の中に行動するのが最良のことであり、ヴァラールが来るまでそうやって持ちこたえることだ、と発言した対してトゥーリンヴァラールなどは当てにならず、小さくとも勝利を重ね束の間であっても栄光勝ち取るべきであり、例え最期敗れようともせめて彼の者に一矢報いるべきだ、と主張した。また人間の命はエルフ違って短く逃げ隠れするよりは、戦に打って出る方が良いとも述べ、それによって成された勲まではモルゴスも消すことはできない反駁した。対してグウィンドールはキーアダンの許で船が造られて、西方使者が度々送られていることを述べトゥーリン自分自身誉れに執われており、そして同じやり方ナルゴスロンド国民要求していると非難した結局両者意見相容れることはなかった。 王女フィンドゥイラスはフィナルフィン王家ならではの美し金髪持ち主であったトゥーリンは彼女を目にしたり、共に過ごしたりすることに喜び覚えるようになっていった。というのも、彼女は故郷ドル=ローミンの女性たちのことを思い出させたため、彼に肉親縁者のことを懐かしく感じさせたためである。そして彼女の方も次第トゥーリン好意を抱くようになり、彼女の方から彼を探すようになった二人で語らう時、彼女はあまり見たことのないエダインのことについて尋ね、彼は快くそれに答えたりしたが、自分故郷係累については一切触れなかった。フィンドゥイラスは彼を異性として好ましく思っていたが、トゥーリンは、幼いころ亡くした妹ラライスの面影を彼女に見出しただけであって異性として見ているわけではなかった。彼はフィンドゥイラスに、あなたのような美しい妹がいればよかったと言い、それにフィンドゥイラスは彼を慕う心を隠して自分にもトゥーリンのような頼もし兄弟がいればとよいと思うと答えると、アガルワインの名は相応しくない上に真の名とも思えないと言い以後彼女は彼をスリン秘密の意)と呼ぶと告げた。これを聞いてトゥーリンはぎくりとし、それは自分の名ではないと言った。 フィンドゥイラスの想いはグウィンドールとトゥーリン狭間揺れ動いていたが、次第後者の方へ傾いていった。しかしこれは彼女の心を苦しめた。グウィンドールのアングバンドでの受難のことを考えると、彼にさらに苦しみ与えることは、彼女の望むところではなかったからである。それでもトゥーリンへの愛は日増しに増していった。しかしそこではたと、ベレンとルーシエンのことが思い出されトゥーリンベレンのような人間ではない事に気づいた。彼がフィンドゥイラスに向ける愛情男女間のそれではなく別の類のものである薄々感じていたためである。そのためフィンドゥイラスの心は曇りがちになった。それを見たトゥーリンは、グウィンドールのアングバンド対す発言で彼女が恐れをなしたのだろう、と勘違いしたトゥーリンはフィンドゥイラスに、グウィンドールの言葉恐れないよう、モルゴスの手のものは皆撃退してみせると励ましたが、それにフィンドゥイラスは、ナルゴスロンド失われないか、トゥーリン出陣の度に胸が重くなるとだけ答えたこの頃トゥーリン彼に対するグウィンドールの友愛冷え始めているのを感じ取っていた。そしてアングバンド受けた苦しみから癒やされつつあったのに、また悲哀の中へと戻ってしまったように見えるを不思議に感じた。そこで彼はおそらく王の会議で、彼の発言自分反対ばかりしており、王も自分発言重視するようになったからだろうと考えた。ただ、それでもトゥーリンの方は考え違いはともかく、グウィンドールに対して友愛の念は変わらなかったし、アングバンドでの一件から深く彼を憐れんでいた。そこで彼はグウィンドールに励まし言葉をかけたが、彼はトゥーリンを見つめ何も言わなかった。そこでトゥーリンはなぜそのように見るのか尋ねた上で自分がグウィンドールの助言反対したのは確かだが、男として自分信義曲げられないといった意を伝え、だが自分彼に対す恩義忘れてはいないとも付け加えた。グウィンドールはそれに答えてトゥーリン忘れてはいないと言うが、彼の行為助言自分故郷同胞変わりつつあることと、彼の影が皆を覆い彼のせいで自分全て失ったと言ったトゥーリンにはその答えがよくわからなかったが、王に重用されようになった自分妬んでいるのだろうと推測した。 ある時、グウィンドールは暗然としてフィンドゥイラスに言った自分今でも彼女を愛しているが、彼女はそれに捕らわれることなく、自らの愛の導く所へ行かれよ、と。しかし用心するべきであるとも言ったイルーヴァタールの長子次子の間で縁組をするのは賢明ではない。彼らの命は短く、すぐにこの世を去ることになる上、ベレンとルーシエンのような例外そうそうあるものでもなく、またトゥーリンベレンではないと。そしてグウィンドールは彼の真の名を、フーリン息子トゥーリンであることを告げフーリンとその一家にはモルゴス・バウグリアの呪い下されていると警告した。それに対してフィンドゥイラスは今でもグウィンドールのことは愛しているものの、より大きな愛、トゥーリン捕らわれてしまったことを告げると同時にトゥーリン自分愛してはいないし、愛そうという気にもならないだろうと答えた。そこでグウィンドールはならば何故トゥーリンはフィンドゥイラスを探し求めるのかと問いかけるが、それには彼も慰めを必要としているからだと彼女は答える。そして三人中に不実な者がいるのならそれは自分であるとも告げたその後トゥーリンは、グウィンドールとフィンドゥイラスの間で何が起きたかも知らずに、彼女が憂い帯びた表情見せていたため、よりいっそう優しくなった。が、彼女は彼に言った。何故自分から本当の名前を隠すのか、彼の素性知れば尊敬の念増し、より深く彼を理解できたであろうにと伝えた。そして彼女は彼の真の名知ったことを告げる。これを聞いたトゥーリンは、激怒してグウィンドールに詰め寄った。何故自分本当の名を洩らしたのか、自分運命呼び出したのか、それから隠れよう自分はしているのに、と。グウィンドールはそれに運命トゥーリン自身中にあり、名前にあるわけではない答えたモルメギル本当は、フーリン・サリオンの息子トゥーリンであることがオロドレス耳に入ると、彼はトゥーリン大い礼遇した。そして増々王から重用されようになったトゥーリンナルゴスロンドエルフたちの戦い方秘密の中に行動するといった戦術好まず堂々とした合戦をしきりに懐かしんだ。そして王の会議で度々それを提案し遂にそれが通ってしまい、ナルゴスロンド隠密裡に戦うことを止めフィンロド城門からナログの川に大橋をかけ、堂々と進軍していくようになった。グウィンドールはこれを無謀だと言って反対したのだが、彼の言葉に耳を貸す者は最早いなかった。そしてナルゴスロンドの軍はアングバンドの軍を打ち負かしモルゴス召使どもはナログ川とシリオンの川に挟まれ全域から追い出された。モルメギル武勲は更に名高いものとなった。しかしこれによって遂にナルゴスロンド所在モルゴス知られてしまい、彼の次のターゲットとなるのであるナルゴスロンド軍勢のためにモルゴス軍が一旦退いた時、モルウェンとニエノールはこの猶予期間にようやくドル=ローミンを離れ長旅経てドリアスにまでやって来た。しかし彼女は落胆した。既にトゥーリンはそこにはいなかったからである。またドル=クゥーアルソルが滅びて以来竜の兜の噂も絶えて久しかった。しかしシンゴル王モルウェン母娘賓客としてもてなしたその頃ナルゴスロンドゲルミアとアルミナスという二人エルフがやって来た。彼らはキーアダンの許から派遣され水の王ウルモから啓示を受け、ナルゴスロンド災厄迫っていると告げた。エレド・ウェスリンの山麓とシリオンの山道探索したが、モルゴス軍勢サウロンの島に集結していると話したトゥーリンそのことならもう既に聞き及んでいると答えた。しかし使者たちは、水の王啓示述べた北方邪悪なるものがシリオンの水源汚したこと、ウルモの力は流れ水の上流から退くこと、ナルゴスロンド城門閉ざし外には出ないこと、誇りである大橋叩き壊してナログの川に落とせと。オロドレスヴァラたるウルモ言葉心乱れたがトゥーリンはこれに一切耳を貸さず二人使者ぞんざいに扱った。その扱いたるや使者たちが彼は本当にハドル家人間なのかと疑わずにはいられなかった程であった今やトゥーリンそれだけ自尊心の高い人間となっており、石の叩き壊すなどということは論外であった。 それから間もなくブレシルがオークの軍に襲われ、ハンディア王が殺された。ブレシルの人間たち敗北しの中へ敗走した。そしてついにモルゴス集結させていた大軍を、ナログ地方向けて解き放った。ウルローキのグラウルングもアンファウグリスを超えてやって来た。彼はシリオンの谷間通過すると、エイセル・イヴリンを汚し次いでナルゴスロンド領土入り込みナログの川とテイグリンの川に挟まれ平原焼き尽くしたのである対してナルゴスロンド兵士たち勇ましく出陣し行きその日トゥーリン久々に竜の兜被った。彼とオロドレス王が騎首を並べて進むと、兵士たち士気いや増した。しかしモルゴス軍勢偵察隊報告よりも遥かに多く、その上大竜グラウルングがいた。竜の兜守られトゥーリン除いて、グラウルングの接近に耐えられるものは一人もいなかった。エルフ達は退けられ、ギングリスとナログの二つに川に挟まれたトゥムハラドに追い詰められ、その合戦敗北喫した。王オロドレス最前線討ち死に遂げ、グウィンドールは致命傷負ったトゥーリンが彼を助けに来たため、兜への恐怖から敵は逃げ去った。彼はグウィンドールを助けつつ戦場から抜け出した。そこでグウィンドールは、前に自分トゥーリン助けたことの逆になったと言いつつも、自分はもう死んで中つ国を去らねばならないから、無駄なことだと言った。そしてトゥーリンあの日助けたことが不運恨めしく思われる話した。それがなければ彼は愛と命脈保っていたであろうし、ナルゴスロンドもまだ存続し得たから、と。そこで自分はもう見捨てて急ぎナルゴスロンドへ向かうようトゥーリン言った。死を前にした予見の力からか、フィンドゥイラスのみがトゥーリンモルゴス呪いから救い出せる、と彼に伝え別れ告げたトゥーリンナルゴスロンドへと急行したが、オーク軍勢とグラウルングは彼に先んじており、トゥーリン到着した時には既に、ナルゴスロンド略奪されていた。城門前にかけられ大橋渡って、ナログの深い川易易と渡ることが出来たからである。トゥーリン提案した石の味方にとって今や災いとなってしまった。殺害免れたエルフ婦女子たちは、モルゴスの許へ奴隷として連れて行かれるため城門前のテラス集められていた。トゥーリンは敵を薙ぎ倒し剣を振るいながら、囚われ女性たちの方へと進んでいった。丁度その時グラウルングが城門から姿を現した。彼はトゥーリンとその竜の兜認めると、よくぞやって来たなと声をかけた。そしてグラウルング自身その竜の兜魔力恐れていたため、トゥーリンからその守り取り去ろう試みた。竜は彼を嘲りつつ、彼を自分従者であり家来であると呼んだ何故ならば自分模した飾り取り付けた兜を身に帯びているからだ、と言って挑発した。トゥーリンはそれに答えて、世迷い事を、この竜の飾りはお前を嘲って造られたものだと返し、さらにこの兜を帯びた者が自分滅び齎すではないかと、恐れ続けることになるだろうと煽った。しかしグラウルングはそれならいま眼の前にいる者ではなく別の名の者を待つことになるなと答え自分フーリン息子トゥーリン恐れてはいない、奴は顔を晒して自分を見ることも出来やしない臆病者だと嘲笑した。竜の恐怖は凄まじかったため、それまでトゥーリンは兜の面頬下げて彼の目を見ないよう注意していたのだが、自尊心から愚かにもこの嘲弄乗ってしまい、面頬跳ね上げ竜の目を直視してしまった。すると彼は竜の目の魔力のため金縛りとなってしまった。そしてグラウルングは彼を嘲ると共に呪言吐きかけ、お前の母と妹はドル=ローミンで惨めな生活を送っているぞと嘘を吹き込んだその間オーク達は捕らえたエルフ女達連れて行った。その中にはフィンドゥイラスもいて、彼女は必至トゥーリン呼びかけたが、竜の呪縛下にある彼には届かなかった。そして竜は呪縛を解くと身内所へ急ぐよう囃し立てた。竜の呪言影響下にある彼は、フィンドゥイラスの呼ぶ声にも耳を貸さずドル=ローミンへの道を急いで行った。グラウルングは声高に笑った。主モルゴス命じられ仕事果たしたからである。それから大橋叩き壊してナログ川に沈めると、フィンロド秘蔵財宝尽く集めて奥の広間積み上げその上でとぐろを巻いたトゥーリンドル=ローミンまで休むことなく歩き続けた今やドル=ローミンは東夷支配下にあり、彼は用心深く頭巾深くかぶり歩いた。そして目指すフーリンの館についに辿り着いた。だがモルウェンは既に去り今や東夷のブロッダがその屋敷略奪した後で、そこは廃屋となって人っ子一人いなかった。ブロッダの屋敷フーリン屋敷の直ぐ側に立っており、かれはそこへ赴き一夜の宿借りた。ブロッダの妻アイリンによってそれは与えられた。彼はそこで昔の使用人と運良く出会うことができ、一端外に出てモルウェンもニエノールもすでにここにはいないこと、その行き先アイリンしか知らない教えられた。そこでトゥーリンはブロッダの屋敷内ズカズカ入り込むと、自分アイリン縁者であるとブロッダに告げた。そしてアイリンに母と妹のことを聞いたが、立ち去ったとしかアイリン答えられなかった。そこで酒と憤怒真っ赤になったブロッダが、死にたくなければとっとと出て行け脅しをかけたが、トゥーリン黒の剣抜き放ちブロッダに突き付けてアイリン真実を言うよう迫った。そこでモルウェンの館はブロッダに荒らされ、彼女は一年以上も前にドリアス発ったこと、モルウェンドリアスにいるはずの息子と会う予定であったことを告げた。しかし目の前にいるトゥーリンモルウェン息子なら、一切歪んでしまったようだと言った。これを聞いてトゥーリン狂気侵され如く笑った。グラウルングの呪言解けて、謀られたことがわかったからである。不意にドス黒い怒りとらわれた彼はブロッダを投げつけ、投げ落とされた彼は頸骨折れて死んだ。そして客として来ていた他の東夷三人切り捨てたところで、他の東夷達が向かってきたが、召使とされていた多くドル=ローミンの民達が彼の救助向かい双方戦いとなり、多数犠牲者出たものの、その場にいた東夷一人残らず殺された。トゥーリンの昔の使用人致命傷負い彼に別れを告げると息絶えた。そしてアイリントゥーリン急いで出立するよう促した。彼が一族に死と破壊運んできたからである。東夷達は速やかに復讐に来るであろう。彼女はトゥーリンに彼が起こした事態自分引き受けねばならないこと、それと彼の短慮な行いを咎めた。それにトゥーリン叔母上の心は弱いと答えると、モルウェンの許まで連れて行こう申し出たが、彼女は拒否した。そして再び早く逃げるよう勧めたトゥーリン何人かの仲間とともにブロッダの館をぬけ出すと、東夷山狩り遁れ遠くまでやって来た。その時遥か遠くに火の手見えたアイリンが館に火を放って自害したのである。それを見たトゥーリンに、仲間アイリン決し弱くなかったこと、辛抱強くドル=ローミンの生き残り出来ることをしてくれていたことを告げる。そして一行山中隠れ家まで辿り着き備蓄されていた食料トゥーリン手渡すと、シリオンの谷間へと南下する下り道で別れた今やトゥーリンが来たことで、ドル=ローミンの生き残り狩られるとなったからである。 トゥーリン生まれ故郷去り、苦い思い懐いてシリオンへと下っていった。彼が戻ったがゆえに、生き残っていた同胞に、更に大きな苦しみ与え羽目になったからであった唯一の慰め黒の剣南方振るわれていた頃、そのためにモルウェンとニエノールがドリアス脱出する猶予出来たのだ、ということであったトゥーリン二人このままシンゴル夫妻預かってもらおう彼処なら安全だし、自分行く先々に影を投げかける人間なのだからと独りごちると、彼はドリアスには向かわず遅まきながらフィンドゥイラスを探すことにした。彼は用心深くフィンドゥイラスを探し求めた。北に続くシリオンの山道オーク達を待ち伏せしようとも試みたが、全て無駄な努力であった。そんな最中テイグリンの川を南に下っていたトゥーリンは、ブレシルのハレス一族遭遇した。彼らはオークとの戦い最中で、包囲されていた。オークのほうが数が勝っていたため、彼らが助かる見込みは殆どなさそうだった。そこでトゥーリン大人数伏兵がいるように見せかけて、オーク達を襲ったオーク達は算を乱して逃げ出したトゥーリンのグアサングはそれだけ恐れられていたからである。そこでハレスの族攻勢出てトゥーリンと共にオーク達を殆ど討ち取った。その水際立った腕前見たハレスの族は、トゥーリンに是非とも住まいを共にして欲しいと頼み込んだ。しかし彼はナルゴスロンド姫君探しているのでそれは出来ない断った。すると彼らは痛ましげに彼を見つめ、ドルラスという男が、もう彼女を探す要はないと告げた理由尋ねトゥーリンに、オーク軍勢捕虜引き連れ、テイグリンの渡り瀬通過しようとしたところを彼女たち救出するために、ブレシルの男たち待ち伏せ仕掛けた際に、オークどもは卑怯に捕虜女達皆殺しにしたと答えた。そしてオロドレスの娘フィンドゥイラスは、木に磔にされたとも付け加えたトゥーリン衝撃を受け、なぜそれが姫とわかったとだけ尋ねた。ドルラスは姫が息を引き取る前にモルメギル、フィンドゥイラスはここにいる、とモルメギル伝えて、そう言い残すと彼女は事切れたと答えた。そこで彼らはその場所、テイグリンの畔に塚を築き姫を葬った。それから既に一月経ていた。トゥーリン自分をそこへ連れて行ってくれるよう頼んだ。そのため彼らは姫が葬られた塚へと彼を案内したトゥーリンはそこで悲しみ余り倒れ伏し気を失ったその時ドルラスは彼の持っていた黒の剣と、ナルゴスロンド姫君探していたという彼の用向きから、この男こそモルメギル、即ちフーリン息子トゥーリンであると気付いたそれ故彼らはトゥーリン担ぎ、彼らの住処へと運んでいった。 その頃ハレスの族繰り返される戦闘で、その数を大きく減らしていたため、ブレシルの深く住処築いていた。ハンディアの息子ブランディア族長となり統治していたが、彼は幼い頃より足が不自由であったため、武人ではなく代わりに癒やしの術を身につけていた。ブランディア担ぎ込まれトゥーリン見て不吉な思い捕らわれたが、それでも彼を自分の家引き取って癒やした。春が巡り来た頃、トゥーリンはようやく元気を取り戻し病床から起き上がれようになった。彼は自分所業過去思い、その暗い影と縁を切り、ここで平和に暮らそう思った。名前と絆を断ち切ることで、それが出来ると考えた。そこで彼は今までの名を全て捨て去り、自らをトゥランバール名付けたクウェンヤで<運命支配者>の意である。そして他の者達に自分をブレシルの人間思って欲しいことと、他にあった名前はもう忘れてくれるよう頼み込んだとは言え、名前を変えたからといって性格まで変わるわけでもなく、モルゴス対す怨み忘れられなかったため、彼は志を同じくする仲間と時々オーク退治に出かけた。だがこれはブランディアの気に召さなかった。彼は隠れ潜むことによって、己が民の存続図っていたからである。トゥーリントゥランバール新たな武勇が、ブレシルに復讐を招くようなことが無いよう気をつけるため、黒の剣竜の兜仕舞い込み弓矢使って戦った。しかし彼はフィンドゥイラスの眠る塚、今やハウズ=エン=エルレス(エルフ乙女の塚)と名付けた地に、オーク近づくようなことは断じてさせなかった。 一方その頃モルウェンとその娘ニエノールはドリアスで、シンゴル王と妃メリアン庇護の下、安全に暮らしていた。だがそんな時ナルゴスロンドからの知らせドリアス達した。トゥムハラドの合戦生き残った者たちが、シンゴルの許へと避難してきたからである。彼らの言うことは様々であったが、黒の剣ドル=ローミンのフーリン息子トゥーリンだ、ということだけは一致していた。これを聞いたモルウェン母娘悲しみ大きかったモルウェンこのような疑念抱かせることこそまさにモルゴス仕業であり、真実を知ることもままならないのかと嘆いたが、トゥムハラドの合戦で彼が竜の兜を身に帯びていたことを聞くと、真実だ悟り居ても立ってもいられずメリアン忠告にも耳を貸さずに、我が子探すためにドリアス発った。ただ娘のニエノールにはドリアスに残るよう言いつけたシンゴルはマブルングを始めとした一隊呼び集めモルウェン追い彼女を警護するよう、そして可能なら連れ戻すよう申し付けた。マブルング一隊はシリオン川の傍で彼女に追いつき、帰る意志はないか問うたが、モルウェン物狂いのようになってそれを撥ね付けた。そのため仕方なく共に川を渡ったが、その時に彼女の娘ニエノールも一行紛れ込んでいたことが露見したモルウェン即刻戻るよう命じたが、彼女は従わなかった。実の所ニエノールはトゥーリン探そう思ったわけではなく自分母親の行くところについて行くと言うことで、娘にも危険が振りかかる恐れ生じる事を案じさせ、出来得ればモルウェンドリアスに引き戻そう考えたのである。しかしモルウェンはその自尊心故に戻ることを拒否しついてくるよう娘に言った。マブルングはそれに呆れつつも、王命故に彼女ら警護せざるを得なかった。こうしてモルウェン一行三日進み続けてナログ川の東方にまで近づいた。そこでマブルングはアモン・エシアという山にモルウェン母娘護衛騎士残し、自らは偵察隊率いて隠密裡ナルゴスロンドの方へ近づいて行った。しかしグラウルングはとうに彼らの接近気づいていた。竜の眼遠目の利くエルフのそれを上回り、アモン・エシア山頂幾人かが残っていることまで見抜いていた。マブルングたちがナログ川の激流渡れところを探している最中に、突如グラウルングは打って出た。竜はナログの流れに身を浸したため辺りはたちまち蒸気包まれ、マブルング達は盲になるほどの蒸気と竜の悪臭たまらず、殆どの者がアモン・エシアの方角逃げ出した。だがマブルングは豪胆であったため、グラウルングがナログ川を乗り越えた際に、脇に退き隠れてその場に留まった。彼はトゥーリンに関して事実集めよとの王命受けていたので、グラウルングが去った直ぐ様ナルゴスロンド王宮内を探索しようと決意した。ナログ川を渡ったグラウルングはそのまま東へ進んだ。竜の来襲気付いた護衛騎士達は、慌ててモルウェン母娘連れて東へ全速力逃げ戻ろうとした。しかし竜が起こした蒸気悪臭風に乗ってアモン・エシアに到達し、彼らを包み込んだため、馬たちが混乱して制御できなくなり、てんでバラバラ逃げ出す羽目になってしまい、そのためモルウェンが娘の名を叫びながら、霧の中消えていっても何も出来なかった。以後彼女は行方知れずとなる。しかし娘の方は、落馬したものの幸い無傷ですんだ。彼女はそこで考えアモン・エシア山頂に戻るのが賢明だ思われた。いずれマブルング達が戻ってくるだろうと考えたからである。彼女は臭気濃霧の中、山の方へ見当をつけて登り始めたそのうちにようやく薄れ明る日光の中、頂に着くことが出来た。そして西方を見ると目の前にグラウルングの巨大な頭があった。丁度竜は反対側から這い登ってきていのである。そして彼女は竜の邪眼見てしまった。彼女はハドル家血を引く強い意思持ち主であったため、暫くの間竜に抗った。しかしグラウルングは持てる力を発揮し、彼女の目的素性とを知った。竜は笑うとその邪視魔力で彼女の心を闇で覆い、そして忘却呪いをかけた。そのため彼女は意思奪われ自分何者かさえもわからなくなり身動きすることも出来なくなってしまった。そうするとグラウルングは満足したように己の巣へと戻っていった。一方マブルングはこの間フィンロドの館を探索していたのだが、竜の戻ってくる気配気付くと直ぐ様そこから撤退した。しかし、途中で竜の嘲りとニエノールがどうなったかを聞かされて、急いでアモン・エシア山頂向かった。そこには様子おかしくなったニエノールが一人佇んでいた。彼女は何の反応もせず、手を引けばただ大人しく付いて来るだけであった。マブルングはこの探索行の結果臍を噛む思いで山を降りていった。ドリアスへと戻る途中、マブルングの仲間だった三人二人を見つけ、一行はのろのろと進みようやくドリアス国境付近にまで来た。そこで一行疲れから眠り込んでしまった。そこを折悪しくオーク一隊襲われた。オーク達は北方暗黒の力が増大するに連れ最近ではドリアス境界近くをも徘徊するようになっていたのであるオークおぞましい声にニエノールは目を覚まし恐怖駆られて逃げ出したオークどもは彼女を追ったが、目が覚めたエルフたちも追いかけオークたちと戦闘になった。そして残らずオークを斬って捨てた後、二エノール探したが彼女は最早見つからなかった。 その頃トゥランバールことトゥーリンは、数人仲間とともにオーク退治に出かけた。その帰り南方から稲妻豪雨伴った嵐がやってきたので、彼らはテイグリンの渡り瀬使って近く宿場へと道を急いだその時稲妻閃光照らしだされ、フィンドゥイラスの塚の上横たわる乙女亡霊しきもの見えたため、トゥーリンは思わず震え慄いた。しかし仲間たち駆け寄って見ると、それは人間の娘でまだ息があった。彼らは彼女を担ぎ上げトゥーリン自分マントを彼女に着せかけて(どういう理由か彼女は何も身に着けていなかった)、自分たちの小屋まで連れて行った。そこで彼女を介抱すると、彼女は意識取り戻した。彼女の視線彷徨うように彼らに向けられていたが、トゥーリンを眼に止める表情に光が差し、彼女の心は安らぎ覚えた。彼女は彼から離れたくないと思った。そしてトゥーリンは彼女に食べ物与え、彼女が食べ終えると、氏素性やどうして彼処にいたのかなどと色々尋ねた。だがそれらに彼女は何も答えられず、さめざめ泣いた。そこで彼は無理にそれ以上問い詰めるようなことはせず、彼女を仮の名前としてニーニエル(涙の乙女の意)と呼んだ以後ブレシルの民から彼女はそう呼ばれることとなる。翌日、彼らは彼女を伴って、彼らの住処であるエフェル・ブランディアへと向かった。しかしその途上ニーニエルが瘧にかかったように震え出し高熱発した。彼らが住処到着するとそこで彼女は長いこと病の床につくこととなったその間に彼女はブレシルの婦人から言葉習い覚えブランディア癒やしの術により快癒した。しかしハウズ=エン=エルレスの塚の上にいた事や、それ以前のことは何も思い出すことが出来なかった。ブランディアは彼女に物を教えるため、二人でを歩くことが多くなり、次第に彼女に惹かれていったが、彼女の心は常にトゥランバール向けられていた。やがてトゥーリンもニーニエルを難からず思っていたので、向けられる好意応えるようになっていった。この頃ブレシルの民たちはオーク悩まされることがなくなってきていたので、トゥーリン戦いには行かずその平和を享受しているうちに、ニーニエルに結婚申し入れた。しかしニーニエルは彼を愛しているにも関わらず、この時はその申し入れを一旦断ったというのもブランディア引き止めたからであった。それは決して恋のライバルとしての妬みからではなく、何とも言え不吉な予感がしたからであった。そして彼はトゥランバール名乗っているが、真の名フーリン息子トゥーリンであると明かした何故かその名を聞いた時、彼女の面には影が差したトゥーリン振られるとは思っていなかったので、意気消沈したが、彼女かブランディアに待つよう忠告受けたからだと聞く不愉快になった。しかし翌年の春トゥーリン再度求婚し、もし受け入れられねば自分はここを去り荒野の戦いに戻ると断言した。彼女はついに受け入れ婚約し夏至当日に式を挙げた。ブレシルの民は二人のために美しい家を建てて送った二人幸せの内にそこに住んだ。だがブランディア苦しみ彼の心は影に覆われた。 トゥーリンがブレシルに来て三年の後、ナルゴスロンド王国全域支配下置いたグラウルングは、竜王のごとく振る舞いオーク招集するとブレシルへの攻撃開始した。グラウルングの主たるモルゴスは、エダイン三王家の最後一つが、未だブレシルに留まっていることを知っていたからである。モルゴスが彼らの存在を見逃すはずがなかった。結局ブランディア隠れ潜んで民を存続させる、という考え所詮無駄な足掻きであった。しかしオーク達が来襲した際、トゥーリンは戦には出なかった。ニーニエルの懇願負けたからであった。彼は本拠地攻撃され時の出陣すると、彼女に約束していたからである。だが今回オーク来襲今まで違い、ブレシル攻略目的したものだったから、ドルラスや彼の仲間苦戦した。そこでドルラス達はトゥランバールに対して、ブレシルの民の一人であるならオークと戦うべきであると非難した。止む無くトゥーリンはグアサングを取り出すと、ブレシルの男たち大勢率いてオーク共を完全に敗北せしめた生き残った少数ナルゴスロンド帰り着き、グラウルングに事の次第報告した。竜はそれを聞いて激怒したが、黒の剣がブレシルにいるというオーク報告についてつらつらと考え、しばらく伏したまま動かなかった。その年の冬は平和のうちに過ぎ、トゥランバール武勇を皆讃えた。しかしトゥーリン坐して思案耽った今や黒の剣所在は明らかとなった。これが吉と出るか凶と出るか。試練の時である。真にトゥランバール―<運命支配者となって定め打ち勝つか、それとも敗れるか。何れにせよグラウルングは殺す。彼は決意した。己の運命逃げ立ち向かうことを。 翌年の春ニーニエルは身籠った。その頃エフェル・ブランディアに、ナルゴスロンドからグラウルングが出撃した、という噂がもたらされた。トゥーリン偵察隊送り出した今やハレスの族彼の差配従いブランディア注意を払うものは殆どいなかった。夏が近づく頃、竜はブレシルの国境近く横たわり住民たちに恐慌もたらした。グラウルングは北のアングバンド帰るではなく、ブレシルを襲うつもりでいることが明らかであったからである。だが使者報告で、グラウルングがナルゴスロンドからこちらへ向かって一直線進んで来ていることを聞くと、トゥーリンの心に望み生じた。もしこのまま真っ直ぐにブレシル目指して竜が進むのなら、途中にある深い峡谷超えなければならないからである。トゥランバールはブレシルの民に、全軍でこの竜にあたって勝ち目はないこと、必要なのは狡知幸運少人数腕利きだけだと述べ、他の者達には最悪状況、竜にこの地が蹂躙されるのに備えて避難準備をするよう言った。不安に惑う民たちに、トゥーリンはグラウルングがアザガールの一撃逃げ帰った故事引き合い出し、彼はこれからグアサングを持って全力で竜の腹を狙うことを告げた。グアサングを引き抜き高く掲げたトゥランバールは、ブレシルの黒き刺と呼ばれ喚声受けた。そして自分と行動共にする強者募った。ドルラスがすぐに前に進み出たが、他に名乗り出るものはいなかった。そこでドルラスは人々非難し、民の面前ブランディア助言など役に立たぬ嘲りつつ、ハレス家の誉れのために働こうというものはいないのか、と叫んだブランディアはこれに対して苦い思い味わいつつも黙って耐えた。だがブランディア身内であるフンソールがドルラスを叱責しブランディアハレス家のために自分彼の代わりに行くと言ったトゥーリン三人十分だろうと言いつつ、自分ブランディア蔑ろにしているわけではなく彼の賢さ癒やしの術は後々必要になるだろう、とフォローした。だがこれらの言葉ブランディアの苦い思いを一層強くさせただけであった。彼はフンソールにトゥランバール行ってもよいが、許し与えない彼の影はフンソールに禍を呼ぶだろうとだけ言った。それからトゥランバールはニーニエルに別れ告げた。彼女は不安と悲しみ泣き崩れ彼に取り縋った。しかしトゥーリン自分決し死なないと彼女に告げ、ドルラスとフンソールを伴って出立した三人遠くに竜から立ち上る煙を認める場所まで来た。卸も最後斥候待っていて竜はテイグリンの縁まで来ていることを伝えた。それを聞きトゥランバール喜んだ。竜が迂回してテイグリンの渡り瀬向かっていたなら、望み潰えていたからだ。そして連れてきた二人向かって黄昏時になったらテイグリンに忍び寄り気取られぬよう川までいけたなら、峡谷の底へ降りて激流渡り、竜が動くときに通る道に出る、と言った今やグラウルングは巨体であるゆえに、カベド=エンアラス峡谷飛び移ろうとしているであろうから、そこを下から竜の土手っ腹を狙うという作戦であった。これを聞きドルラスは尻込みした。カベド=エンアラス峡谷危険な場所だったからである。胆力のある健脚男なら日中渡れるかもしれないが、それを真夜中に渡河しようなどとは、この上なく危険なことであった。だが反対しても無駄であった。そして夕闇落ちると彼らは行動移った残されたニーニエルは不安の余りこのまま坐して待つ気にはなれず、結果見届けるためトゥランバールの後を追った。そしてブレシルの民の多くも彼女に賛同し、彼女とともに出発していった。ブランディア無謀であると言って止めたが、一団聞き入れなかった。このため怒った彼は領主地位放棄しトゥランバール後釜据えるがいいと言って自分歯牙にもかけなかった民への愛情捨て去った。そしてニーニエルへの愛のためだけに松葉杖と滅多に挿さぬ剣を腰に、彼女たちの後を追ったが、足が不自由な彼は一団から遥かに遅れてしまった。 辺りが闇の帳に覆われた頃、ついにトゥーリン一行はカベド=エンアラス到達し激流流れる音が、他の音を消し去ってくれることを期待して峡谷這い降りて底に到着した。だがそこでドルラスの心は怯んだ。テイグリンの川は激流であり、しかも川には大きな石や岩が突き出していたからだ。それでもトゥーリン先頭立って進み、ついにこの流れ渡りきった。続いてフンソールも渡りきった。彼はハレスの族中でも武勇において人後に落ちない者だったからである。しかしドルラスは渡ることが出来ず引き返して隠れ潜んだ。テイグリンを渡りきった二人はドルラスに構わず、グラウルングの寝ている場所に向かって北上する道を探り始めた峡谷暗く狭くなり、手探りで進む中、二人はついに上方に火のちらつきを見つけると同時に竜の巨大な鼾を聞いた。そこで崖っぷち近づくため、闇の中手探り登り始めた。竜の腹を狙うためである。その時大きな音がし峡谷に谺した。グラウルングが眠りから覚め、ついに動き始めたのである。ブレシルを襲撃するために。だが事はトゥーリン思い通りに運んでいた。竜は火を吐きながら、まず頭の部分峡谷渡し、その鉤爪向こう岸になる崖をしっかり掴むと、次いでその長い体を向こう側引きずり始めたからである。二人大胆かつ迅速に動く必要に迫られた。というのも、竜の吐く炎は免れたものの、グラウルングの進路からは逸れた所にいたため、竜の真下まで急いで崖を横断しなければならなくなったからである。危険も顧みずトゥーリンはよじ登って竜の真下まで行こうとしたが、その熱と悪臭に足がよろめき、崖から落ちそうになった。しかし後に続くフンソールが彼の腕を掴んで落下防いでくれた。トゥーリンは思わず、大した胆力持ち主だと彼を賞賛し、彼をパートナーしたことが幸いしたと言った、その直後大岩崩れ落ちて来て、フンソールを直撃し彼は水中へと落ちていった。これが彼の最期であったトゥーリン自分投げかけられた影が、新たな犠牲者生んだことを嘆きつつも、一人竜に立ち向かうことを決心した。彼は持てる限り意志と力を奮い起こし、そして竜とその主への憎しみから、グラウルングが峡谷渡り終え前に、崖の横断成功し、竜の真下まで来た。その時丁度竜の体の中央部が上を通り過ぎようとしているところだった。その巨体重さ余りトゥーリン頭上すれすれまで撓んでいた。そこでトゥーリン黒の剣引き抜くと、竜の腹に柄まで通れとばかり深く刺し貫いた。グラウルングはその致命的な一撃に、絶叫発した。竜が断末魔の苦しみのたうった際、トゥーリンの手からグアサングはもぎ取られた。竜は苦しみ余り向こう岸にまでその身体投じ悶え咆哮上げると、その苦悶から暴れ回り周囲を火と巨体破壊すると、ようやく煙と焦土中に長くなってピクリとも動かなくなったトゥーリンは凄まじい疲労覚えたが、這うように再度渡河すると、もと来た崖をよじ登った。そして竜の断末魔の場に来ると、ついに仕留めた仇敵つくづくとうち眺めた。そこで彼は竜に近寄ると、腹に足をかけ、グアサングの柄を握り引き抜こう力を入れたその際ナルゴスロンド城門前で、彼を嘲弄したグラウルングの言葉をもじって竜を嘲る同時に別の名の者を待つ必要はなかったなとも蔑んだ。そして彼は剣を引き抜いたが、その時竜から吹き出した黒血が、その毒で彼の手を焼き痛みに思わず彼は声を上げた。そこへ、まだ死んでいなかったグラウルングが邪眼見開きトゥーリン凝視したため、彼は意識失って死んだように竜の側に打ち倒れた。 グラウルングの断末魔の叫びはニーニエルたち一行のもとにまで響いた。そこで皆恐怖し、竜が襲撃者打ちのめし勝利を収めたではないか疑った。しかしその場から敢えて動くようなことはしなかった。というのも、グラウルングが勝利したならばブレシルの拠点、エフェル・ブランディアへと向かうだろう聞いていたからである。そこで彼らは竜の気配伺っていたが、様子探りに行くほどの剛の者はいなかった。ニーニエルはグラウルングの声を聞く同時に、心が闇で覆われただ身を震わせるけだった。そこへブランディアがやって来た。彼はようやく一団追いついたのであるその場で、竜が川を渡ったことと、ブレシルの黒いと他の二人死んだのだろう、という話を聞いた彼はニーニエルを憐れんだ。だがふと、黒の剣死んだがニーニエルは生きている、そして竜はブレシルの拠点へと行ってしまっただろうと考え、彼はその間にニーニエルを連れて、共に逃げ出そうとした。自分蔑んだ民のことはどうでも良かった。そこで彼女の手を取ると、テイグリンの渡り瀬に続く道を下っていった。その時彼女は立ち止まり何処へ行くのか尋ねたブランディアは竜から逃げるために遠くへ一緒に逃げるのだ、と答えたが、彼女は夫の元へ連れて行くのだとばかり思っていた、自分は夫を探すからブランディア好きな様にすればいいと言うと、彼を置いてさっさと竜の渡河した方向進んでいった。ブランディア呆気にとられていたが、一人行ってはいけないと制止しつつ、慌てて自分も彼女の後を追った。だが彼はその足の不自由さ故に引き離された。どんどん先を進む彼女はハウズ=エン=エルレスに着いた。すると不意に恐ろしさ襲われ一声叫ぶと背を向けマント脱ぎ捨てて、白い衣装月光に煌めかせながら、川沿い南方向へ向けて走りだした。ブランディア山腹からその姿を認め、彼女の通る道と出会う方向へと向かった。それでも彼はまだ彼女に追いつけなかった。そしてニーニエルはついに竜と彼女の夫が横たわっている場所にやって来たのである。月は冴え冴えとした光を投げかけ、辺り照らしていた。彼女は竜の体と側に倒れている男を眼にした。彼女は恐怖忘れて最愛の夫であるトゥランバールの許へ駆け寄る必死に声をかけ介抱した。だが応えはなかった。彼女の叫び聞きつけたブランディアその場辿り着いた。しかし彼は動けなかった。というのも、ニーニエルの声に反応してグラウルングが身じろぎしたからである。竜はその邪眼を彼女に向けると断末魔喘ぎながら言った。また会ったな、フーリンの娘ニエノールよ、喜ぶがいい、ついに兄妹相見えたのだからと。そしてここにいるのが彼女の兄トゥーリンに他ならず、様々な禍事行く先々齎す者で、その中で最悪行為は、彼女自身が肚の中に感じているであろう告げた。こうしてグラウルングは死んだ。ニーニエル、今やニエノールは愕然として座り込んだ。竜の死とともに忘却呪い取り払われすべての記憶戻ってきた。彼女は恐怖苦悩震えた。それを聞いていたブランディア恐ろしさ余り木に縋り付いた。それからニエノールは突如跳ね起きると、トゥーリン見下ろして別れ告げたさようなら、二重愛すお方よ、と。そして彼女は半狂乱になってその場離れたブランディアは待つよう制止したが、彼女はもう全てが遅いと答えて彼の前から走り去り、カベド=エンアラスの崖の縁に来ると、テイグリンの川に向かって呼ばわった自分抱きしめてくれるよう、ニエノール・ニーニエルを海まで運び去ってくれるよう。そうして彼女は崖から身を投げ轟く激流の中へ消えたのであるブランディア恐ろしさ余りその場離れた道中ドルラスと出会い、この男が仲間見捨て隠れ潜んでいたことを知り激高した。そして黒の剣そそのかし、竜を呼び寄せ、フンソールの死を招いたのはお前のせいだと詰ると、ドルラスを斬り殺した。そして民のもとへ戻ると、竜とトゥランバール死んだことを吉報だと述べ(これに民は彼は気が触れたではないか疑った)、さらにニーニエルも死んだことを伝えた。そして二人が実はフーリンの子兄妹であったことも。そしてニエノールは川に身投げしてしまったから、トゥーリンの墓を作ろう一団その場離れた。 ニーニエルが走り去るのと同時にトゥーリン身じろぎした。彼女の声が聞こえたような気がしたからである。だが彼は疲労余りこんこんと眠り続けていた。そして暁頃に眼を覚ました。ふと竜の毒血焼かれた手を見やる手当がしてあった。それなのに地面置き去りにされていたのが彼に解せなかった。そして疲れきった身でグアサングに縋りつつ、もと来た道を戻っていった。その時に彼を埋葬しようとしていたブランディア一行行き会ったのである人々は彼を見ると驚き恐れて後退った。亡霊ではないか思ったのである。それにトゥーリン自分生きていること、竜は倒したことを言うと、誰かがブランディア愚か者呼んだ。彼が偽りの話をしたと思ったのである。しかしトゥーリンは、毒血負った傷の治療をしてくれたのがブランディアだと勘違いし愚か者呼ばわりした者を叱責した。そして知りたいことたくさんあるが、まずニーニエルはどこにいるのかと尋ねた。しかし皆それに答えられず、ブランディアがここにはいないと答えた。彼女は死んだのだと告げた。それに対してブランディア好意持たないドルラスの妻が、ブランディアは気が触れているから聞き流せ、とトゥーリン言ったトゥーリンの死を吉報と言ったりしたのだからと付け加え、ニーニエルの話も何処まで本当やらと疑問呈した。そこでトゥーリンブランディア近づくと、自分死がい知らせとはどういうことだと詰め寄り、ニーニエルのことで自分嫉妬しているのか曲がり足めと侮辱したブランディアの心は怒りの方が憐れみ勝り、ニーニエルは身投げして死んだと言い、しかしそれはトゥーリンのせいであり、彼から逃げるため、彼に二度と会わぬためだからだと言った後、彼女がフーリンの娘ニエノールだと明かした。そしてグラウルングの死の間際言葉再現してみせ、トゥーリンに対して彼は彼の身内にも、彼を匿った者達にも禍をもたらす者だと言い返した。これを聞いたトゥーリンは、グアサングを握ると残忍な眼でブランディア見たというのもブランディア言葉に、自分追いつこうとしている運命足音聞いたからである。けれども彼の心はそれを認めようとはしなかった。ブランディアは己の死を予感したが怯まずに、自分は死を恐れはしない愛するニーニエルを探し行き、彼女を再び見出すのだと言った激怒したトゥーリンは、偽りを吐くお前が見出すものはグラウルングだ、お前の魂の友である長虫とともに闇の中朽ちるがいい!と叫びブランディア斬殺した。それから彼は走り去るとハウズ=エン=エルレスにたどり着き、フィンドゥイラスの名を呼び良い智慧授けてくれるよう叫んだこれからドリアス向かってグラウルングの最期の言葉確認すべきか、それともどこか戦場に死を求めるべきか、何れがより禍をもたらすのか彼にはわからなかったからである。丁度そこへマブルングが完全武装した一隊引き連れてやって来た。彼らはブレシルの黒い目指してグラウルングが出撃した事を聞き及び力を貸すためにやって来たのであった。しかしトゥーリンから竜を斃したことを聞き及ぶと、エルフ達は驚嘆し大いに彼を褒めそやした。しかし彼はそれに構わずドリアスにいるはずの肉親について尋ねたエルフ達は答えなかったが、ようやくマブルングがモルウェン母娘訪れた凶運について話した。こうしてついに運命トゥーリン捕らえたこと、ブランディア殺したのは不当なことであったことを彼は知ったトゥーリン憑かれたように高笑いして、全くひどい冗談だと叫んだ。そしてマブルングたちに自分の前から失せろ繰り返すと、 ああ、呪われよ、呪われよ、呪われよ!メネグロスも、マブルング達の用向き呪われあれ!狂気侵され如く叫び、彼らの前から走り去った。後に残された者達は呆気に取られたが、マブルングはなにか恐ろしいことが起きた違いない考えトゥーリン助けるため彼を追いかけた。しかしトゥーリンは彼らの遙か先を走り追いつけなかった。彼はカベド=エンアラスにまで来ると、グアサングを引き抜き、剣に向かって問いかけた。グアサング、死のよ!汝は如何なる血にも怯まぬであろう。汝、トゥーリン・トゥランバールを受けるや?速やかに我が命を奪うや?すると驚くべきことに、黒き剣は答え返した然り、と。汝の命を速やかに奪ってやろう、と刀身から冷たい声が響いた。そこでトゥーリン地面に剣の柄を立て、グアサングの切っ先身を投じた黒き剣は彼の命を奪った。そこへマブルング達がやって来て竜とトゥーリン亡骸を眼にした。ブレシルの民も来たことで彼らから一部始終聞きトゥーリン狂気と死原因知って驚き打たれた。やがてマブルングが悲痛な口調で、自分もまた運命の網に捕らわれてしまった。こうして自分言葉トゥーリン死に追いやってしまったのだから、と言った。それから彼らがトゥーリン担ぎあげると、黒の剣粉々に砕けているのを見たエルフ人間多く木々集めると、竜の骸を焼き灰にした。そしてトゥーリン倒れていた所に高い塚山を築くと、彼をそこに葬った。グアサングの破片傍ら埋められた。それら全てをなし終えるエルフ人間詩人哀悼の唄を歌い大きな灰色の石を塚山の上立てた。そこにはドリアスルーン文字で、 トゥーリン・トゥランバール ダグニア グラウルンガ ニエノール・ニーニエル と刻まれた。しかしその塚山に彼女はいない。テイグリンの激流が、彼女を何処かへと運び去ってしまったからである。 かくしてベレリアンドの全ての物語詩の中で、最も長いフーリンの子らの物語は終わる。

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