過失とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 同じ種類の言葉 > 社会 > 社会一般 > 失敗 > 過失の意味・解説 

か‐しつ〔クワ‐〕【過失】

読み方:かしつ

不注意などによって生じたしくじり過ち

法律用語

私法上、一定の事実認識することができるはずなのに、不注意で認識しないこと。

刑法上、行為者不注意によって犯罪事実発生防止しなかった落ち度のある態度。⇔故意(こい)。

欠点

「—なき美人なりけり」〈盛衰記一九


過失(かしつ)


”過失”とは、自分行為から一定の結果生じることの認識予見可能性)があって、結果回避可能だったにもかかわらず回避するための行為怠ったことをいう。

損害賠償請求する場合相手方故意や過失によって損害被ったことを立証しなければならない民法709条)。民法原則によれば特許品無断製造したという特許権侵害場合であれば、「侵害者がその製造行為によって特許権侵害することを予見できたこと」などを権利者証明しなければならない。したがって侵害者が特許権があることを知らない場合には証明難しく損害賠償請求することも難しくなる

しかし、特許権意匠権商標権侵害され場合には、侵害者に過失があったものと推定される特許法103条等)。これら権利の内容は、特許公報によって公開されるため、「業として実施をする場合には過失があるものと推定することにしている。したがって侵害行った側が無過失である場合には、侵害者がその旨証明しなければならない立証責任転換)。

執筆弁理士 古谷栄男)

過失

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/15 03:37 UTC 版)

過失(かしつ)とは、注意義務に違反する状態や不注意をいい、特に民事責任あるいは刑事責任の成立要件としては、ある結果を認識・予見することができたにもかかわらず、注意を怠って認識・予見しなかった心理状態、あるいは結果の回避が可能だったにもかかわらず、回避するための行為を怠ったことをいう。

民事責任における過失

概説

取引法上は、善意で取引を行った者を保護するための要件として、無過失が要求されている場合がある(日本法では民法93条民法192条民法478条など)。これらの規定における過失とは、真実の権利関係等について調査・確認を行うべき義務があったのに、これを怠ったことをいうことが多い。また、故意・過失は債務不履行責任や不法行為責任の判断の要素となっている。なお、損害賠償の額を認定するに際して債権者被害者)側の「過失」が一定の割合において認められるときに、その旨を考慮して損害賠償額を減額するローマ法に由来する制度を過失相殺という。ただ、債務不履行に対する損害賠償での過失相殺のように、過失相殺でいう「過失」については債権者に自己に対して損害を与えないようにする法的義務は存在しないため法律上の義務違反とはいえないとして一種の特別の過失であるとする説と信義則上の義務違反であり通常の過失と同様であるとする説がある[1]。過失相殺の詳細については損害賠償を参照。

債務不履行責任における過失

ドイツ民法では債務不履行による損害賠償の責任根拠として過失責任主義(債務者の責めに帰すべき事由)がとられ、日本の旧民法415条(2017年民法改正前)も「債務者の責めに帰すべき事由」という文言で債務不履行による損害賠償請求の主観的要件とされていた(過失責任主義)[2]

2001年のドイツの債務法改正法である現代化法では債務不履行損害賠償の責任根拠として過失責任主義が維持された[2]。一方、フランスでは契約責任の帰責の根拠は契約の拘束力とされている[2]。過失責任主義では債務者の履行過程における違法で有責な行為に対する制裁として債務者に賠償責任が課されると考えるが、契約の拘束力を根拠とする考え方によれば債務不履行に基づく損害賠償責任は債務者が約束したのにそれを遵守しなかった点にあると考える[2]

日本の2017年の民法改正では、旧民法415条で「債務者の責めに帰すべき事由」という文言で主観的要件とされていた点(過失責任主義)について、改正後の民法415条1項は「債務者の責めに帰することができない事由」と否定形にして債務者の免責事由を定めた[2]。そして「その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という修飾語を挿入して債務者の故意・過失を意味していないことを明らかにし、債務不履行責任についての過失責任主義と決別した[2]。2017年の民法改正で統一的債務不履行概念の導入が図られ、損害賠償の要件としては包括的不履行概念に含められる事例であれば、債務者に免責が成立しない限り、損害賠償が債権者に与えられることとなったと説明されている[2]

不法行為責任における過失

過失責任主義

近代法の基本原則は過失責任主義をとっている[3]。不法行為責任が成立するためには故意または過失が要件となる。損失の負担を予測可能な範囲に限定することで事業活動の自由を保障しようとする趣旨である[3]

日本の民法でも民法709条に規定されており、原則として過失責任主義がとられている。

しかし科学技術の発展や企業活動の拡大とともに、社会生活の中に危険性を伴う活動や物が増大することとなった結果、故意や過失の立証が被害者にとっては困難な場合も多くなり、報償責任や危険責任の理論を考慮を入れて不法行為における当事者間の公平を図ることが必要と考えられるようになった[3]。そこで立法では立証責任を転換する場合や不法行為の成立要件から故意・過失を除外する場合(無過失責任)などが生じている[3]

過失の意義

不法行為責任における過失とは、違法な結果が発生することを予見し認識すべきであるにもかかわらず、不注意のためそれを予見せずにある行為を行う心理状態をいう[4]。ただし、学説では過失の有無について行為者の能力に即した具体的判断を行うのではなく、行為者の職業や地位に従って客観的に判断することが承認されてきた[4]。そのため過失を心理状態とする理解とは理論上は距離が生じているとされている[4]

過失の態様

過失には認識なき過失と認識ある過失がある。違法な結果の発生を予見できない場合は認識なき過失である。違法な結果の発生を予見しながら相当な防止措置を講じなかった場合には認識ある過失である[5]

また、過失には重過失と軽過失がある。重過失とは通常人に要求される程度の相当な注意をしなかったとしても、わずかな注意さえあればたやすく違法・有害な結果を予見できるのに漫然とこれを見過ごす場合である[5]。重過失は故意に近く著しく注意を欠如した状態をいう[5]。重過失にあたらない通常の過失が軽過失である。

刑事責任における過失

過失の意義

犯罪論における過失とは、注意義務に違反する不注意な消極的反規範的人格態度と解するのが通説であるが、過失犯の構造については議論がある。

犯罪についてどのような理論体系(犯罪論)を想定するのが適当かは、法令等によって一義的に規定されているわけではなく、解釈ないし法律的議論によって決すべき問題であり、過失犯の理論体系についても同様である。過失犯の構造について、以前は、結果の予見可能性を重視する旧過失論が支配的であったが、現在では客観的な結果回避義務違反を重視する新過失論が通説となっている。

日本の刑法では38条1項で、過失犯(過失を成立要件とする犯罪)の処罰は法律に規定があるときにのみ例外的に行うとされている。

過失の態様

認識なき過失と認識ある過失

認識なき過失(認識のない過失、無意識の過失)とは犯罪事実の表象すら欠いている過失をいう[6]

認識ある過失(認識のある過失、意識的過失)とは客観的な不注意が存在することを行為者が認識している過失をいう[6]。違法・有害な結果発生の可能性を予測しているが、その結果が発生しないであろうと軽信することをいう。例えば、自動車運転中、道路脇を走行中の自転車に接触するかもしれないと思いつつも、「充分な道路幅があるので接触することはない」と考えるような場合である。

認識ある過失に似て非なるものとして「未必の故意」がある。刑法学上の通説では、故意とは行為者が犯罪の実現について認容している場合をいう[7]。違法・有害な結果発生の可能性を予測しつつ、その結果発生を容認してしまうことを未必の故意という。例えば、自動車運転中、道路脇を走行中の自転車に接触するかもしれないと思いつつ、「接触しても仕方がない」と考えるような場合である。

重過失

刑法上、重大な過失(重過失)が構成要件とされている例がある。重過失とは、結果の予見が極めて容易な場合・著しい注意義務違反のための結果を予見・回避しなかった・過失の過程に著しい悪意(故意)があった場合をいう。欧米ではgross negligenceという。willful misconduct or gross negligenceで「故意又は重過失」にあたる。企業同士の損害賠償に関係する係争の場合、故意・重過失と客観的に認められる場合は、賠償義務に関する免責規定(上限額などの条件)は無効になることが多い。

重過失と単なる過失(軽過失)の別は一概に定めることはできず、具体的事例、例えば、責任主体の職業・地位、事故の発生状況等に照らして判断する必要がある。

脚注

  1. ^ 篠塚昭次 & 前田達明 1992, p. 245.
  2. ^ a b c d e f g 福田清明「民法 (債権法) 改正案における債務不履行損害賠償の要件構成」『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第25巻、明治学院大学大学院法務職研究科、2017年1月、95-111頁、CRID 1050001339222470912hdl:10723/3097ISSN 1349-43762023年12月29日閲覧 
  3. ^ a b c d 篠塚昭次 & 前田達明 1993, p. 1.
  4. ^ a b c 篠塚昭次 & 前田達明 1993, p. 11.
  5. ^ a b c 篠塚昭次 & 前田達明 1993, p. 12.
  6. ^ a b 大塚仁 2008, p. 203.
  7. ^ 大塚仁 2008, p. 183.

参考文献

  • 大塚仁『刑法概説 総論 第4版』有斐閣、2008年。 
  • 篠塚昭次、前田達明『新・判例コンメンタール 5 債権総則1』三省堂、1992年。 
  • 篠塚昭次、前田達明『新・判例コンメンタール 9 不法行為』三省堂、1993年。 

関連項目


過失

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/25 15:18 UTC 版)

過失致死傷罪」の記事における「過失」の解説

両罪とも暴行傷害故意がなく、死傷結果について過失があることが要件となっている。暴行傷害故意があれば傷害罪傷害致死罪成立するまた、業務上の過失である場合には業務上過失致死傷罪に、重過失があれば重過失致死傷罪該当し従来よりも重く処罰される。もっとも、「業務」の範囲広く認められているため、また業務でなくとも(立件されるほどの事案であれば重大な過失があったと認定する傾向がある。 さらに一定の類型作為不作為により死傷結果惹起した場合結果的加重犯として処罰されるため(例:往来危険汽車転覆致死傷罪)、過失致死傷罪該当する事例は狭い範囲限られている。多く類型自転車事故火気燃料の誤取扱などによる死傷であるが、情状結果が重かった場合には重過失致死傷罪として立件される事が多い。 なお、自動車原動機付自転車を含む)の運転上必要な注意怠り、過失により死傷至った場合には、従来業務上過失致死傷罪問われていたが、自動車運転過失致死傷罪への改正経て自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の過失運転致死傷により処罰されるようになった

※この「過失」の解説は、「過失致死傷罪」の解説の一部です。
「過失」を含む「過失致死傷罪」の記事については、「過失致死傷罪」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「過失」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ

過失

出典:『Wiktionary』 (2021/12/06 08:15 UTC 版)

この単語漢字

第五学年
しつ
第四学年
音読み 漢音

発音

名詞

(かしつ)

  1. 不注意から失敗
  2. ある損害損失原因となる不注意
  3. (法律) 注意すれば認識できる事実を、不注意により認識しないこと。また、注意すれば避けられる損害犯罪結果を、不注意により回避しないこと。

類義語

対義語

熟語

翻訳


「過失」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。



過失と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「過失」の関連用語


2
100% |||||

3
小過 デジタル大辞泉
100% |||||

4
無過失 デジタル大辞泉
100% |||||


6
重過失 デジタル大辞泉
96% |||||

7
94% |||||

8
粗相火 デジタル大辞泉
94% |||||



過失のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



過失のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
古谷国際特許事務所古谷国際特許事務所
(C)1992-2025 FURUTANI PATENT OFFICE
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの過失 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの過失致死傷罪 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。
Text is available under Creative Commons Attribution-ShareAlike (CC-BY-SA) and/or GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblioに掲載されている「Wiktionary日本語版(日本語カテゴリ)」の記事は、Wiktionaryの過失 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、Creative Commons Attribution-ShareAlike (CC-BY-SA)もしくはGNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS