とっきょ‐けん〔トクキヨ‐〕【特許権】
特許権(とっきょけん)
発明とは、自然法則を利用した技術的思想の中で特に高度なもののことを指す。この発明を保護し利用を図ることにより、産業の発展を目指すことを目的として、特許法が定められている。
特許権は、特許庁に出願し、登録される必要がある。日本を含む多くの国では、一番最初に特許出願した人に権利を与える「先願主義」が採用されている。これに対して、最初に発明した人に権利を与える方式が「先発明主義」で、アメリカで採用されている。
特許権が与えられると、その発明を独占できるようになる。つまり、その発明を使って開発した商品を販売したり、他人に特許の内容を使わせてその使用料を得たりすることができる。また、特許権を侵害された場合には、相手方に対し損害賠償請求をすることも可能である。なお、特許の有効期限は20年となっている。
現在、半導体回路(IC)、遺伝子(DNA)など多くの分野で特許が認められ、法整備が進められている。
特許、実用新案、意匠(デザイン)、商標の工業所有権や著作権などを合わせた知的所有権の保護は、各地で権利の侵害をめぐる裁判が行われるなど国際的な課題ともなっており、WIPO (World Intellectual Property Organization;世界知的所有権機関) により管理・運営が行われている。
(2000.04.12更新)
特許権(とっきょけん)Patent right
”特許権”とは、新規な発明を創作した者に与えられる独占権である。特許権を得るためには、特許庁に対して特許出願を行い、審査を経なければならない。新規性、進歩性のない発明には、特許が与えられない。特許の付与された発明を特許発明という。特許発明の技術的な範囲は、特許請求の範囲に基づいて決定される。
「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものであると定義されている(特許法第2条)。経済法則に基づくアイディア(たとえば、資金運用方法など)は、自然法則を利用していないので、特許付与の対象とならない。ただし、資金運用方法を実現するソフトウエアは、特許付与の対象となる場合がある。(詳しくは「自然法則の利用性」を参照のこと)
特許権者は、特許発明を独占的に実施する権利を有する。他人が無断で特許発明を実施した場合には、特許権者はこのような侵害行為を停止させ(差止請求権)、特許権侵害によって被った損害を賠償させることができる(損害賠償請求権)。
特許権は登録によって発生する。また、存続期間は特許出願の日から20年である。登録後は、各年ごとの特許料を支払わなければ権利が維持できない。したがって、特許料を支払わない場合、特許出願の日から20年より前に権利が消滅する。

動画コンテンツ「特許公報の読み方」
(執筆:弁理士 古谷栄男)
特許権
とっきょけん 特許権 patent
特許
特許(とっきょ、英: Patent)とは、法令の定める手続により、国が発明者またはその承継人に対し、特許権を付与する行政行為である[注 1][注 2][2]。
日本では他の意味でも特許という言葉が使われるので、この意味を明示するためにカタカナ語として「パテント」と呼ぶ場合もある。
概要
最も一般的な公開代償説によれば、特許は、有用な発明をなした発明者またはその承継人に対し、その発明の公開の代償として、一定期間、その発明を独占的に使用しうる権利(特許権)を国が付与するものである。そこで各国の特許法では法定の特許存続期間を設け[注 3]、その期間をすぎると発明の実施が自由開放される仕組みとなっている[2]。
特許権は、無体物(物(有体物)ではない、形のないもの)である発明に排他的支配権を設定するものであり、知的財産権のひとつとされる。日本の特許法においては、特許制度は、特許権によって発明の保護と利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とするとされている(特許法第1条)。
特許制度の歴史
英語で特許を意味する"patent"の語源は、ラテン語の"patentes"(公開する)であるといわれている[3]。
中世ヨーロッパにおいては、絶対君主制の下で王が報償や恩恵として特許状を与え、商工業を独占する特権や、発明を排他的に実施する特権を付与することがあった。しかし、これは恣意的なもので、制度として確立したものではなかった[2]。
イタリアのヴェネツィア共和国では、現在知られる限り最初の特許は、1421年に、ブルネレスキに与えられ[4]、1474年には世界最古の成文特許法である発明者条例が公布された。このことから、近代特許制度はヴェネツィアで誕生したとされている[2][5]。
1623年にイギリス議会で制定された専売条例は、それまでエリザベス1世とジェームズ王が塩税やデンプン税のため恣意的に認めてきた特許を原則禁止にした[注 4]。例外的として発明と新規事業のみは、一定期間(最長14年間)に限って独占権を認めるとともに、権利侵害に対する救済として損害賠償請求を規定した。この条例の制定により特許制度の基本的な考え方が確立した[2][5]。専売条例は後にジェームズ・ワットの蒸気機関(1769年)や、リチャード・アークライトの水力紡績機(1771年)などの画期的な発明がなされる環境を整え、英国に産業革命をもたらした[6]。
1883年には、工業所有権の保護に関するパリ条約(パリ条約)が締結され、内国民待遇の原則、優先権制度、各国工業所有権独立の原則など、特許に関する国際的な基本原則が定められた[2]。
日本
日本の特許制度は、明治維新後の1871年(明治4年)に最初の特許法である専売略規則(明治4年太政官布告第175号)の公布によって始まったが、この制度は利用されずに当局も充分な運用ができなかったため、翌年には施行が中止された。その後、1885年(明治18年)4月18日に本格的な特許法である専売特許条例(明治18年太政官布告第7号)が公布・施行された。これは、フランス特許法をモデルにした[7]。1888年(明治21年)には、発明者に特許請求権を付与し一定の審査官によって出願を審査する審査主義を確立した特許条例(明治21年勅令第84号)、意匠条例、商標条例が公布され、1899年(明治32年)には旧特許法(明治32年法律第36号)を制定してパリ条約に加入した。1922年(大正11年)に施行された大正10年法では先願主義が採用され、現在の特許法の基礎が作られた。現行特許法(昭和34年法律第121号)は、1959年(昭和34年)に全面改正された昭和34年法を累次、部分改正したものである[2][5]。
特許制度の意義
発明に対して特許制度により独占的権利を与える根拠としては、いくつかの説が提唱されている。それらを大別すると、基本権(自然権)説と産業政策説の2つに分けられる。現在では、産業政策説に属する公開代償説が最も広く受け入れられている[2]。
基本権(自然権)説
発明に対する権利は、人間に与えられた基本的な権利(自然権)であるとする説。1791年のフランス特許法等で採用された考え方である。財産権説と受益権説に細分される[2]。
財産権説
発明に対する権利は財産権であるとする説。基本的財産権説とも呼ばれる。この説によれば、特許法は、権利を創設するのではなく、規制するものであるということになる。この説では、各国で独立して特許が与えられること(属地性)、複数の者が独自に同じ発明を完成しても最初に出願(または発明)した者しか権利を取得できないこと、出願をしなければ権利を取得できないことを説明することができない[2]。
受益権説
発明が社会に貢献した程度に比例して、その報酬を受ける権利があるとする説。基本的受益権説とも呼ばれる。この説では、上記の財産権説の矛盾に加えて、発明の社会への貢献度とその報酬とが必ずしも比例しないことを説明することができない[2]。
産業政策説
発明に対する権利は、国の産業政策として発明の権利保護を図るために与えられるとする説。公開代償説、発明奨励説、過当競争防止説(競業秩序説)に細分される[2]。
公開代償説
仮に、発明者に独占権を認めないとすると、発明が他人に模倣されてしまうために、発明者は発明を秘密にし、その結果、発明が社会的に活用されないことになる。このため、新規で有用な発明を世の中に提供した代償として、一定期間、その発明を排他的に独占する権利を付与するとする説で、現在最も広く支持されている説である。秘密公開説、代償説とも呼ばれる[2]。この説に基づき、発明の権利を得るには原則的に発明の公開が求められているが、TRIPS協定では秘密特許(通称)など知的財産権に対する優先事項が極一部に限り認められている。
発明奨励説
仮に、発明者に独占権を認めないとすると、発明者は自ら発明したにもかかわらず他者に対して優位な立場に立つことができず、発明を行ったり、それを事業に結びつける意欲を失い、その結果、発明が社会的に活用されないことになる。そこで、発明を奨励するために、一定期間、その発明を排他的に独占する権利を付与するとする説である。刺激説とも呼ばれる[2]。
過当競争防止説
仮に、発明者に独占権を認めないとすると、発明が他人に模倣されてしまうために、発明者や企業は、他人の発明を模倣することや、自分の発明を模倣されないようにすることへ注力し、過当競争状態が生じ、発明自体に対する意欲や投資のインセンティブが働かない。そこで、過当な競争を防止するために、一定期間、その発明を排他的に独占する権利を付与するとする説である。競業秩序説とも呼ばれる[2]。
批判
ノーベル経済学賞を受賞した経済学者ジョセフ・スティグリッツは、適切に設計されていない知的財産権は諸刃の剣であり、技術革新を生み出すための研究投資に動機付けを与える一方で、知識の拡散を阻害する要因も働くと述べる。これは、企業が集団的知性から得られるものを最大化することを促進する一方、その貢献を最小化することも促進するためであり、その場合には技術発展は阻害されてしまう[8]。
同じくノーベル経済学賞を受賞した経済学者エリック・マスキンは、ソフトウェア産業のような技術革新が間断なく起こる産業においては、特許の基準を厳格にするよりも、特許制度を廃止した方がよいかもしれないと論じる[9]。ソフトウェア産業では、先に起きた小さな技術発展をもとにして次の小さな進歩が起きるというように、ドミノ倒し式に技術発展する構造となっている。多くの独占者が行うように、特許権者は高額なライセンス料を課す[9]。これによって各々の小さな進歩が妨げられ、全体としてイノベーションが阻害されてしまう。
米国では、特許政策によって制御のきかない独占が数十年間も製薬会社に許されていた。このため、米国民は他の先進国の2倍の価格で処方薬剤を購入している。一方、米国以外の先進国では、特許による独占の一方で、薬価統制や薬価交渉等の政策により、製薬会社が独占を悪用することに一定の制限を課している[10]。
特許検索サービス
各国では、特許庁等が公的な特許検索サービスを提供している。日本では独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する特許情報プラットフォーム (J-PlatPat) があり、特許以外にも実用新案、意匠及び商標等の産業財産権をインターネット上で調べることができる。日本以外では、欧州特許庁 (EPO) のEspacenetが代表的である。
一方、民間企業も有料又は無料のサービスを提供している。GoogleのGoogle Patentsでは、日米欧を含む17ヶ国・機関が発行した特許文献を無料で検索できる[11]。国際的なサービスとしては、Clarivate Analytics(旧トムソン・ロイター)、ProQuest Dialog、STN(FIZ Karlsruhe)、日本国内でのサービスとしては、Shareresearch(日立製作所)、CyberPatent Desk(サイバーパテント)、Japio-GPG/FX(日本特許情報機構)等がある。
特許マップ
特許マップは、特許情報を利用目的に応じて加工・分析して、図面、グラフ、表などで視覚的に表したもので、パテントマップとも呼ばれる。特許マップは、技術開発の動向や課題等を把握するために用いられる[12][13]。
その他
- パテントレザー - エナメル加工された皮革素材は特許技術であったためこの呼び方がされている。
脚注
注釈
出典
- ^ 神山智美 (2018年4月6日). “「ビジネスに関わる行政法的事案」第1回:「特許」「許可」「認可」とは”. 一般社団法人GBL研究所. 2022年4月17日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 吉藤幸朔著、熊谷健一補訂『特許法概説第13版』
- ^ 小太郎, 名和「アイデアの独占 その正当化への迷い」『情報管理』第57巻第1号、科学技術振興機構、2014年、50–54頁、doi:10.1241/johokanri.57.50。
- ^ 』知識の社会史―知と情報はいかにして商品化したか』,ピーターバーグ著,2004年,新曜社,p230
- ^ a b c 産業財産権制度の歴史 特許庁
- ^ 大山正嗣「特許から見た産業発展史に関する調査研究」『知財研紀要』第9巻、知的財産研究所、2000年、38-47頁、ISSN 18813712、NAID 40005378089、NDLJP:10959121。
- ^ 清瀬一郎 (1929-01-30). 特許法原理. 株式会社 巌松堂書店. p. 42
- ^ Why learning matters in an innovation economy Joseph Stiglitz, Business, theguardian, 9 Jun 2014
- ^ a b Patents on Software: A Nobel Laureate’s View letter, The New York Times, 14 Oct 2012
- ^ Want 'free trade'? Open the medical and drug industry to competition Dean Baker, The Guardian, 11 November 2013
- ^ About the new Google Patents - Google Help
- ^ 技術分野別特許マップ 特許庁[リンク切れ]
- ^ パテントマップを使いこなそう(第3シリーズ) 特許業務法人オンダ国際特許事務所
関連項目
- 特許・実用新案審査基準
- 世界知的所有権機関
- 特許所管組織の一覧
- 特許権侵害訴訟
- サブマリン特許
- パテント・トロール
- ソフトウェア特許
- 堀田瑞松
- 特許戦争
- 各国の特許制度 日本/米国/欧州/中国/韓国
- 知的財産管理技能士
- 知的財産検定
- 知的財産学部
- 知的財産専門職大学院
- 検索技術者検定
- 日本知的財産協会
- 知的財産大学院協議会
外部リンク
特許権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 02:19 UTC 版)
特許権者のデンソーウェーブは、まずはQRコードが普及するよう敢えて特許をオープンにすることとし、規格化された技術に対して特許権を行使しないと宣言している。なお、近年QRコードの中に文字や画像を組み込んだものが一部で使われるようになっているが、これらの多くはQRコードの上に単に文字や画像を載せたものに過ぎず厳密にはQRコードの規格に準拠していないため、QRコードのエラー訂正のレベルや読み取り機器の性能によってはコードが正常に読み取れない場合がある。このためデンソーウェーブでは、規格に準拠していないコードについて「QRコード」と呼ぶことはできないとしているほか、規格外のコードの使用に対しては特許権を行使することもあり得るとしている。 QRコードの開発チームは2014年に、欧州特許庁が付与する欧州発明家賞を日本で初めて受賞している。 関連特許特許第2938338号「二次元コード」(出願人:日本電装・豊田中央研究所 存続期間満了により権利消滅)米国特許第5726435号「Opticaly readable two-dimensional code and method and apparatus using the same」(アメリカ版 存続期間満了により権利消滅) 特許第2867904号「2次元コード読取装置」(存続期間満了により権利消滅)米国特許第5691527号「Two dimensional code reading apparatus」(アメリカ版 存続期間満了により権利消滅) 特許第3716527号「2次元コードの読取方法」(存続期間満了により権利消滅) 特許第3726395号「2次元コードおよび2次元コードの読取方法」(存続期間満了により権利消滅) 特許第3996520号「光学的情報印刷媒体、光学的情報読取装置及び情報処理装置」(存続期間満了により権利消滅)米国特許第7032823号「Two-dimensional code, methods and apparatuses for generating, displaying and reading the same」(アメリカ版 存続期間満了により権利消滅) ほか
※この「特許権」の解説は、「QRコード」の解説の一部です。
「特許権」を含む「QRコード」の記事については、「QRコード」の概要を参照ください。
「特許権」の例文・使い方・用例・文例
- 特許権を侵害する
- その特許権はいつ切れるのですか
- 特許権所有者を訴える
- 特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つを産業財産権という。
- 裁判所は特許権侵害に対して15万円の罰金を科した。
- AはBの製品に対する特許権侵害罪をなんとかして軽減したいと考えている。
- 特許権は重要な財産権である。
- 会社へ特許権を売る。
- 彼は一括払いの金額に目がくらんで彼の特許権を手放した.
- 専売特許権所有者
- 専売特許権
- 専売特許権を侵害する
- 特許権
- 彼のふるまいは、彼についての気恥ずかしい事実の特許権を取った
- ブランド薬品の特許権保護が失効したとき、FDAが合意すれば、その薬のジェネリック版を売り出すことができる
- 特許権を受けた発明者
- 米国の電気技師で、1907年に初の三極真空管の特許権を取り、電波を検出、増幅することを可能にした(1873年−1961年)
- 米国の発明者で、初期のミシンを組立てて、特許権侵害のために他のメーカー(イサク・M・シンガーを含む)に勝った(1819年−1867年)
- 特許権に関する訴訟について下される法の適用宣言
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