コロンビア 治安

コロンビア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/21 13:30 UTC 版)

治安

社会学者のパウル・オキストによれば、16世紀から19世紀までの約300年間、コロンビアにおいては政治的暴力はほとんど発生しておらず、世界で最も治安の良い国のひとつであったという[39]1830年以降、内戦が起きていない期間の10万人あたりの殺人発生率は10人程度で極めて低い水準であった。ホセ・マリア・サンペール『コロンビア共和国の政治変革と社会状況』(1861年)によれば、「田舎者にとっては、政府は神話的人格であるが、われわれの間で政府とは、ひとりで武器を持たず徒歩で配達する郵便夫が、偶然に山賊に出会ったような予期せぬ場面でその危険を取り払うために三色旗を振れば十分であるほど敬意を払われている存在である。警察はどこにも存在しないし、犯罪を抑圧する手段は極めて限られている。しかし、それにもかかわらずこじ開けて侵入する泥棒や人を欺くような人間は非常に稀であり、また、職業的な盗賊はここでは例外的で、さらに刑罰制度には重大な欠陥があるにもかかわらず再犯者はめったにいない」[40]

19世紀のコロンビアの治安の良さの証拠として、コロンビアを旅行した米国人イサック・ホルトンの旅行記『アンデス地方の20ヵ月』(1857年)の記述「生命に対する犯罪に関していえば、ヌエバ・グラナダ全土の殺人は、ニューヨーク市だけの殺人件数の五分の一にも達していないと思われる」や、1884年のカトリック司祭のフェデリコ・アギラールによるコロンビアの犯罪統計と他国の比較検討で、チリ、メキシコ、ベネズエラ、エクアドル、スペイン、イタリアの殺人率はコロンビアよりも高く、「コロンビアでは、チリにおける日常的な山賊、メキシコにおける恐ろしい追いはぎ、グアテマラにおけるかなり頻繁な泥棒の心配をしないで旅行できる」等の記述が挙げられる[41]

19世紀以前のコロンビアはラテンアメリカ諸国の中で最も治安の良い国であり、内戦が絶えなかった19世紀後半において治安維持に関わる国家権力が弱く司法制度が十分機能していない状態であったにも関わらず、一般犯罪は総じて少なかったことは正しく認識されるべきである[42]。世界的に見ても20世紀前半まで治安の良い国であったとされる。

コロンビアはかつて誘拐と殺人の発生率が高い国であった。1960年代初頭の殺人事件発生数は3,000件ほどだったが、1990年代初頭にはこれが十倍の30,000件に達した[11]。とりわけ国境付近のプトゥマヨ県グアビアーレ県アラウカ県のような地域では10万人当たりの殺人事件発生数は100人に達し、 1990年代には、発生した殺人事件のうち犯人の97%が処罰を受けなかった[11]。こうした犯罪が1960年代以降急速に多発した原因としては、かつて国民の倫理的な規範に国家よりも遥かに強い影響を与えていたカトリックに代わる新しい世俗的な倫理を、カトリック的な倫理規範が解体された後も生み出せていないことが大きな原因であるともいう[11]

しかし、2002年に成立したウリベ政権と続く2010年に成立したサントス政権が治安対策に力を入れた結果、飛躍的な治安改善が成し遂げられつつある[43]。1990年代初頭には殺人事件発生数が10万人当たり77.5人だったが[11]、2012年現在は30.8人にまで減少している[44]。誘拐事件発生数も2002年には2882件あったが、2010年には282件に激減している[43]。とはいえ先進国と比較すればいまだ犯罪発生率が低いとは言えないので、犯罪被害防止を常日頃から心掛けて行動すべきとされる[43]

治安改善後、同国は観光に力を入れており、ボゴタ、メデジン、カリバランキージャ等の大都市やカルタヘナ等の観光地では警備体制が比較的整っているため、その他の地方と比較すると安全といえる。

近年、隣国ベネズエラの経済危機により、コロンビアへ逃れてくるベネズエラ難民が急増しており、2018年9月時点でその数は100万人にも及ぶ。ベネズエラ難民による犯罪が社会問題となっている[21]

人権


注釈

  1. ^ 1990年代、コロンビアでは年間34,000人が殺人事件の犠牲になり、世界の誘拐事件の6割に相当する3600人が誘拐された。
  2. ^ 1990年代のコロンビアの殺人発生率(10万人当たりの殺人件数)は77.5人(1991年は86人で世界最悪)だった。
  3. ^ 2002年に就任したアルバロ・ウリベ大統領の下で極左テロ組織麻薬カルテルへの取り締まりが強化され、全国の自治体警察署が設置された。2017年のコロンビアの殺人発生率は25.2人でラテンアメリカではブラジル(30.74人)やメキシコ(25.71人)より低い。
  4. ^ 1985年の噴火により氷河が溶け出して土石流が生じ、アルメロ市を埋め尽くし、2万人もの犠牲者を出した。
  5. ^ この高原は、氷河が溶けて湖になり、堆積物が沈殿したことによってできたと考えられている。現在でも湿原があちこちにあり、その名残を留めている。
  6. ^ この斜面の北部はクシアナ油田に代表される石油産業も発展している。

出典

  1. ^ 裁判員制度”. コロンビア共和国基礎データ. 2018年11月5日閲覧。
  2. ^ a b UNdata”. 国連. 2021年11月7日閲覧。
  3. ^ a b c d e f IMF Data and Statistics 2021年11月7日閲覧(World Economic Outlook Database, October 2021
  4. ^ Tovar Pinzón, Hermes (2001-03-03). “Emigración y éxodo en la historia de Colombia” (スペイン語). Amérique Latine Histoire et Mémoire. Les Cahiers ALHIM. Les Cahiers ALHIM (3). doi:10.4000/alhim.522. ISSN 1777-5175. http://journals.openedition.org/alhim/522. 
  5. ^ COLOMBIA JOINS THE OECD AND NATO” (英語). Staff Relocation Services México (2018年7月16日). 2021年7月22日閲覧。
  6. ^ Barrett, William P.. “The Best Places To Retire Abroad In 2020” (英語). Forbes. 2021年7月22日閲覧。
  7. ^ 見えない内戦の傷跡 大統領訪問を歓迎 豊富な商品、物価も平静『朝日新聞』1978年(昭和53年)7月18日朝刊、13版、7面
  8. ^ http://www.asahi.com/international/update/0807/TKY201008070193.html
  9. ^ The Nobel Peace Prize 2016” (English). Nobel Foundation. 2016年10月7日閲覧。
  10. ^ “コロンビア「ノーベル賞の和平」暗雲 大統領に見直し派”. 朝日新聞. (2018年6月19日). https://www.asahi.com/articles/ASL6L43V0L6LUHBI00Y.html 2019年1月27日閲覧。 
  11. ^ a b c d e f g h i j k l フランシスコ・デ・ルー「コロンビア その社会・経済・政治的変化と障壁」『変動するラテンアメリカ社会 「失われた10年」を再考する』グスタボ・アンドラーデ、堀坂浩太郎:編(彩流社、1999年)
  12. ^ 寺澤辰麿『ビオレンシアの政治社会史―若き国コロンビアの“悪魔払い”』(アジア経済研究所、2011年)92-94頁
  13. ^ a b 寺澤辰麿『ビオレンシアの政治社会史―若き国コロンビアの“悪魔払い”』(アジア経済研究所、2011年)65頁
  14. ^ 寺澤辰麿『ビオレンシアの政治社会史―若き国コロンビアの“悪魔払い”』(アジア経済研究所、2011年)70頁
  15. ^ 寺澤辰麿『ビオレンシアの政治社会史―若き国コロンビアの“悪魔払い”』(アジア経済研究所、2011年)66頁
  16. ^ a b 寺澤辰麿『ビオレンシアの政治社会史―若き国コロンビアの“悪魔払い”』(アジア経済研究所、2011年)272頁
  17. ^ 寺澤辰麿『ビオレンシアの政治社会史―若き国コロンビアの“悪魔払い”』(アジア経済研究所、2011年)273頁
  18. ^ 「コロンビア:サントス氏が決選投票制す 大統領選」[リンク切れ]毎日新聞』2010年6月21日
  19. ^ “ベネズエラがコロンビアと断交 左翼ゲリラの活動めぐり対立”. 47NEWS. (2010年7月23日). http://www.47news.jp/CN/201007/CN2010072301000016.html 2010年7月23日閲覧。 
  20. ^ 「ベネズエラとコロンビア、国交回復で合意」『読売新聞』2010年8月11日[リンク切れ]
  21. ^ a b “ベネズエラ難民、受け入れ国でトラブル 近隣国、国際会議で有効な対策打てず”. 『日本経済新聞』. (2018年9月5日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35015560V00C18A9FF2000/ 2019年3月2日閲覧。 
  22. ^ “ベネズエラ、コロンビアとの断交を発表 国境で支援物資搬入めぐり衝突”. 日CNN. (2019年2月24日). https://www.cnn.co.jp/world/35133180.html 2019年3月2日閲覧。 
  23. ^ 石川幸一 (2010年9月6日). “環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP) の概要と意義 (PDF)”. 国際貿易投資研究所. 2012年2月4日閲覧。
  24. ^ イネス・サンミゲル『黄金郷を求めて―日本人コロンビア移住史』(神奈川大学出版会、2014年)3、92、107頁
  25. ^ 寺澤辰麿『コロンビアの素顔』(かまくら春秋社、2016年)29-30頁
  26. ^ a b c 二村久則編集『コロンビアを知るための60章』(明石書店エリアスタディーズ90、2011年)20ページ
  27. ^ 二村久則編集『コロンビアを知るための60章』(明石書店エリアスタディーズ90、2011年)23ページ
  28. ^ 二村久則編集『コロンビアを知るための60章』(明石書店エリアスタディーズ90、2011年)218-19、23ページ
  29. ^ a b c 二村久則編集『コロンビアを知るための60章』(明石書店エリアスタディーズ90、2011年)22ページ
  30. ^ 平成28年度県民経済計算について(内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部) (PDF)
  31. ^ 日経ヴェリタス』2020年3月8日50面「Econo Graphics」
  32. ^ “犯罪都市から南米のシリコンバレーへ 急成長のコロンビア”. CNN. (2015年7月5日). http://www.cnn.co.jp/business/35062653.html 2015年8月18日閲覧。 
  33. ^ 日本人が知らない「コーヒー」生産農家の悲哀”. 東洋経済オンライン (2019年8月3日). 2019年11月19日閲覧。
  34. ^ a b Geoportal del DANE - Geovisor CNPV 2018”. geoportal.dane.gov.co. 2021年7月22日閲覧。
  35. ^ Grupos Étnicos existentes en Colombia - Ministerio de Educación Nacional de Colombia”. www.mineducacion.gov.co. 2021年7月22日閲覧。
  36. ^ Colombian Culture, Cultural Atlas.
  37. ^ 「コロンビアで同性婚合法化 南米で4か国目」AFP BB News(2016年4月29日)
  38. ^ 「大学民営化 20万人抗議 政府 法案撤回の意向表明」しんぶん赤旗』2011年11月12日(土)
  39. ^ 寺澤辰麿『ビオレンシアの政治社会史―若き国コロンビアの“悪魔払い 』(アジア経済研究所、2011年)222頁
  40. ^ 寺澤辰麿『ビオレンシアの政治社会史―若き国コロンビアの“悪魔払い”』(アジア経済研究所、2011年)224-225頁
  41. ^ 寺澤辰麿『ビオレンシアの政治社会史―若き国コロンビアの“悪魔払い”』(アジア経済研究所、2011年)225-226頁
  42. ^ 寺澤辰麿『ビオレンシアの政治社会史―若き国コロンビアの“悪魔払い”』(アジア経済研究所、2011年)226頁
  43. ^ a b c 安全対策基礎データ”. 外務省 (2012年11月27日). 2014年7月5日閲覧。
  44. ^ 「世界の殺人発生率、最も高い国はホンジュラス 国連」 CNN
  45. ^ World Cup Hall of Fame Andres Escobar (1967-1994) -CNNSI.com: 2013年6月13日






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