民主主義 種類

民主主義

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/21 05:58 UTC 版)

種類

民主主義の代表的な種類・分類には以下があるが、その分類や呼称は時代・立場・観点などにもよって異り、多くの議論が存在している。

直接民主制(direct democracy)

スイス・グラールス州の州民集会。2014年。

直接民主主義は、集団の構成員による意思が集団の意思決定に、より直接的に反映されるべきと考える。直接民主主義の究極の形態は、構成員が直接的に集合し議論して決定する形態であり、高い正統性が得られる反面、特に大規模な集団では物理的な制約や、構成員に高い知見や負担が必要となる。また議員など代表者を選出する形態でも有権者の選択が重視され、議員は信任されたのではなく有権者の意思を委任された存在であり、有権者の意思に反する場合はリコールや再選挙の対象となりうる。 

古代アテナイ古代ローマでは民会が実施された。現代ではイニシアチブ(国民発案、住民発案など)、レファレンダム(国民投票住民投票など)、リコール(罷免)が直接民主主義に基づく制度とされ、都市国家の伝統を受け継ぐスイスアメリカ合衆国タウンミーティングなどでは構成員の参加による自治が重視されている。

間接民主制(indirect democracy)

2007年フランス大統領選挙で投票する女性

間接民主主義(代表民主主義、代議制民主主義)は、主権者である集団の構成員が自分の代表者(議員、大統領など)を選出し、実際の意思決定を任せる方法・制度である。主権者による意思決定は間接的となるが、知識や意識が高く政治的活動が可能な時間や費用に耐えられる人物を選出する事が可能となる。選挙制度にもより、議員の位置づけ(支持者や選挙区の代表か、全体の代表か)、選挙の正当性(投票価値の平等性、区割りなどの適正性、投票集計の検証性など)、代表者(達)による決定の正当性(主権者の意思(世論、民意)が反映されているか)などが常に議論となる。

自由民主制(Liberal democracy)

自由民主主義(自由主義的民主主義、立憲民主主義)は、自由主義による民主主義。人間は理性を持ち判断が可能であり、自由権私的所有権参政権などの基本的人権自然権であるとして、立憲主義による権力の制限、権力分立による権力の区別分離と抑制均衡を重視する。古典的には、選出された議員は全員の代表であり、理性に従い議論と交渉を行い決定する自由を持つと考える。

宗教民主主義

宗教における民主主義。キリスト教民主主義会衆制、仏教民主主義、イスラム民主主義など。

社会主義関連の民主制

社会主義における民主主義には、フェビアン協会等による社会民主主義の潮流、民主社会主義マルクス・レーニン主義(いわゆる共産主義)によるプロレタリア民主主義人民民主主義新民主主義などがある。

ジェファーソン流民主主義

アメリカ合衆国大統領トーマス・ジェファーソン等による民主主義。共和制、自立を重視し、エリート主義に反対し、政党制と弱い連邦制(小さな政府)を主張した。

ジャクソン流民主主義

アメリカ合衆国大統領アンドリュー・ジャクソン等による民主主義。選挙権を土地所有者から全白人男性に拡大し、猟官制や領土拡張を進めた。

草の根民主制(Grassroots democracy)

市民運動住民運動など一般民衆による民主主義。ジェファーソン流民主主義を源泉とし、フランクリン・ルーズベルトが提唱した[14]

戦う民主主義(防衛的民主制度,Defensive democracy)

防衛的民主制」とは、第二次世界大戦後のドイツ等、共産主義(コミュニズム)やファシズムなど自由民主制を否定する言動の自由や権利までは認めない民主制度。(西)ドイツ連邦憲法裁判所は判決の中で「自由の敵には無制限の自由は認めない」と断じて、ドイツ共産党を1956年から強制解散させている[15]


注釈

  1. ^ 条文番号は編別ではなく通番。
  2. ^ 意訳を含め、良い政体を民主政、悪い政体を衆愚政治とする出典も存在する(浅羽 p57、など)。

出典

  1. ^ Democracy Index 2023 - Economist Intelligence”. www.eiu.com. 2024年2月15日閲覧。
  2. ^ a b Democracy | Definition, History, Meaning, Types, Examples, & Facts | Britannica” (英語). www.britannica.com (2024年4月3日). 2024年4月13日閲覧。
  3. ^ a b c d ブリタニカ・ジャパン 2019, p. 「民主主義」.
  4. ^ 公益財団法人 公益法人協会”. 公益財団法人 公益法人協会 (2021年10月1日). 2024年4月13日閲覧。
  5. ^ weblio - democracy
  6. ^ 平凡社 2019, p. 「民主主義」.
  7. ^ Demokratia, Henry George Liddell, Robert Scott, "A Greek-English Lexicon", at Perseus
  8. ^ 杉田 p14
  9. ^ 統一日報 : 歴史を変えた誤訳-‘民主主義’”. 統一日報. 2022年7月3日閲覧。
  10. ^ Democratism : Explaining International Politics with Democracy Beyond the State (New Horizons in International Relations series)”. 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア. 2022年7月3日閲覧。
  11. ^ この項、(陳力衛「「民主」と「共和」 : 近代日中概念の形成とその相互影響」『成城大学経済研究』第194号、成城大学経済学会、2011年11月、9-35頁、ISSN 03874753NAID 110009557639 )から、「民主」という語の履歴について解説する目的で引用した。
  12. ^ a b c d 宇野p194-195
  13. ^ アジアの民主主義は生き残れるのか / 会員コラム / 特定非営利活動法人 言論NPO”. 特定非営利活動法人 言論NPO. 2024年4月13日閲覧。
  14. ^ 草の根民主主義 - コトバンク
  15. ^ 佐瀬昌盛 『西ドイツ戦う民主主義 ワイマールは遠いか』PHP研究所、p167、1979年。ISBN 978-4569203171
  16. ^ a b 宇野p28-29
  17. ^ a b 宇野p15-43
  18. ^ 浅羽 p60-61
  19. ^ 浅羽 p64
  20. ^ 浅羽 p65-66
  21. ^ 浅羽 p66-67
  22. ^ a b 浅羽p68-71
  23. ^ 山本浩三、「一七九一年の憲法(一)訳」『同志社法學』11巻 4号、同志社法學會、124-136頁、1960年1月20日、NAID 110000400935
  24. ^ 山本浩三、「一七九三年の憲法(訳)」『同志社法學』11巻 6号、同志社法學會、103-112頁、1960年3月20日、NAID 110000400948
  25. ^ The Polity IV project
  26. ^ United Nations General Assembly Session 62 Resolution 7. Support by the United Nations system of the efforts of Governments to promote and consolidate new or restored democracies A/RES/62/7 page 3. 8 November 2007. Retrieved 2008-08-23.
  27. ^ a b 佐々木 p15-21
  28. ^ トゥキディデス『戦史』(久保正彰訳、岩波文庫)第2巻37、41より
  29. ^ a b 野上p30-46
  30. ^ 民主主義が独裁政治へ転落する道とは 2400年前に指摘されていたシナリオ:朝日新聞GLOBE+”. 朝日新聞GLOBE+. 2022年4月11日閲覧。
  31. ^ a b 佐々木 p31-36
  32. ^ a b 宇野p15-22
  33. ^ a b 野上p148-150
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  38. ^ 浅羽 p62-63
  39. ^ 『ジョージ王朝時代のイギリス』 ジョルジュ・ミノワ著 手塚リリ子・手塚喬介訳 白水社文庫クセジュ 2004年10月10日発行 p.8
  40. ^ a b 浅羽 p63-65
  41. ^ #中里 p185-201
  42. ^ a b 佐々木 p45
  43. ^ #中里 p206-211
  44. ^ a b 浅羽 p65-66
  45. ^ 野上 p66-69
  46. ^ 浅羽 p75
  47. ^ 浅羽 p75-76
  48. ^ a b 野上p55-58
  49. ^ 野上p95
  50. ^ 『国家と革命』 - 日本大百科全書(ニッポニカ)、世界大百科事典、他
  51. ^ ウラジーミル・レーニン『国家と革命』第3章
  52. ^ ウラジーミル・レーニン『国家と革命』第1章
  53. ^ a b 浅羽 p80-81
  54. ^ a b c d e f g h 浅羽 p80-89
  55. ^ a b c 浅羽 p86-89
  56. ^ a b c d e f g h i j 浅羽 p89-97
  57. ^ a b c d e f 浅羽 p122-143
  58. ^ 浅羽 p149-158
  59. ^ a b 佐伯 p103-109
  60. ^ a b c 宇野p20
  61. ^ 国連憲章の改正 - 国際連合広報センター
  62. ^ a b 浅羽『右翼と左翼』 p88-92
  63. ^ 第2版,世界大百科事典内言及, 日本大百科全書(ニッポニカ),精選版 日本国語大辞典,旺文社世界史事典 三訂版,百科事典マイペディア,デジタル大辞泉,世界大百科事典. “人民民主主義とは”. コトバンク. 2022年8月20日閲覧。
  64. ^ 小項目事典, 日本大百科全書(ニッポニカ),ブリタニカ国際大百科事典. “自由からの逃走とは”. コトバンク. 2022年8月20日閲覧。
  65. ^ 山岸喜久治「ドイツ連邦共和国における政党禁止の法理」『早稲田法学』第67巻第3号、早稲田大学法学会、1992年2月、81-156頁、hdl:2065/2190ISSN 0389-0546CRID 1050282677444383744 
  66. ^ a b シュミット p114-125
  67. ^ a b c 浅羽 p159-164






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