空想的社会主義とは? わかりやすく解説

くうそうてき‐しゃかいしゅぎ〔クウサウテキシヤクワイシユギ〕【空想的社会主義】

読み方:くうそうてきしゃかいしゅぎ

《(ドイツ)utopischer Sozialismus》オーエン・サン=シモン・フーリエらの社会主義に、エンゲルス与えた名称。科学的社会主義としてのマルクス主義対するもので、資本主義のはらむ矛盾直観的に指摘し未来社会理想像描いたが、歴史法則科学的把握足りずその実現の方法欠いたユートピア社会主義。→科学的社会主義


空想的社会主義

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/23 10:09 UTC 版)

政治イデオロギー > 社会主義 > 空想的社会主義


空想的社会主義(くうそうてきしゃかいしゅぎ、:utopian socialism, :Utopischer Sozialismus)とは、フリードリヒ・エンゲルスが、自らの主張する社会主義を「科学的社会主義(マルクス主義)」として、それとの対比で名付けた初期の社会主義思想のことである[1]

概要

空想的社会主義またはユートピア社会主義とは、近代的な社会主義思想の最も始まりに位置する思想を指して言う言葉である。シャルル・フーリエアンリ・ド・サン=シモンロバート・オウエンに代表される。

理想社会に対する人間の夢は古くはプラトンの『国家』にもみられ、さらに近世初頭の16世紀17世紀にはトマス・モアの『ユートピア』、トマソ・カンパネッラの『太陽の都』、フランシス・ベーコンの『新アトランティス』などに現れており、広義にはこれらを含めて空想的社会主義と呼ぶこともある。

空想的社会主義という言葉は、カール・マルクスフリードリヒ・エンゲルスが、自らの主張する社会主義を「科学的に構築される社会主義」(科学的社会主義)として、それとの対比物として名付けたものである。科学的社会主義では空想的社会主義を次のように定義している。

  1. 仮説上の完全な共産主義社会のビジョンを創造した。
  2. しかし、そのような社会の実現方法や維持方法を考えなかった。

フリードリヒ・エンゲルスは著書『空想から科学への社会主義の発展』の中で、サン=シモン、フーリエ、オウエンについて次のように述べている。

  • 資本主義的生産の未熟な状態、未熟な階級の状態には、未熟な理論が対応していた。社会的な課題の解決は、未発展の経済関係のうちにまだ隠されていたので、頭のなかからつくりだされなければならなかった。・・・・・・いまではただこっけいなだけのこれらの空想について、しかつめらしくあらさがしをしてまわったり、このような「妄想」にくらべて自分の分別くさい考え方がすぐれていることを主張したりすることは、文筆の小商人たちにまかせておけばよい。われわれはむしろ、空想の覆いの下からいたるところで顔を出しているのにあの俗物たちの目には見えない天才的な思想の萌芽や思想をよろこぶものである。」[2]
  • 「サン=シモンには天才的な視野の広さが見いだされ、この視野の広さのおかげで彼の思想には、厳密に経済的な思想ではなかったけれども、後代の社会主義者たちのほとんどすべての思想が萌芽としてふくまれている」[3]
  • イギリスの労働者の利益のためにおこなわれた社会運動やほんとうの進歩はすべて、オウエンの名と結びついている。」(1880年頃の記述)[4]

また、エンゲルスは空想的社会主義と対比させて科学的社会主義の特徴を次のように述べている。

「社会主義の課題は、もはや、できるだけ完全な社会体制を完成することではなくて、これらの階級とその対立抗争を必然的に発生させた歴史的な経済的な経過を研究し、この経過によってつくりだされた経済状態のうちにこの衝突を解決する手段を発見することであった。」[5]

「空想的社会主義」という言葉が特定の政治運動というよりむしろ幅広いカテゴリを意味する言葉であるため、精確に言葉を定義するのは難しい。ある定義によれば、フランス革命から1830年代中頃までに著作を出版した著者の思想を指すとしているが、別の定義ではイエス・キリストを空想的社会主義者に加えるといった具合である。いっぽう、時期的には後の19世紀後半のフェビアン協会を含む考え方もある。

語義上は歴史上のどの時点の人物であっても空想的社会主義者であってもいいわけだが、この語は19世紀の最初の四半期に生きていた空想的社会主義者にもっとも頻繁に適用される。19世紀中頃から、他の系統の社会主義が空想的社会主義を知的発達と支持者の数において圧倒しはじめる。空想的社会主義者は現代の共同体や社会運動、例えばTechno communismの形成にとって重要だった。

その「空想的」なる名称から否定的な印象があるが、「科学的」を自称するマルクス主義を標榜する社会主義国家が次々と崩壊・挫折していく一方で、シャルル・フーリエのように20世紀以降において再評価される思想家もいる。また、協同組合運動については、その源流をロバート・オウエンとしており、オウエンの思想は順当に発展していったとも解釈できる。これらの思想を「空想的社会主義」とし、「科学的社会主義」よりも前段階の古い未熟な思想とするのは、「科学的社会主義」の立場からの主張にすぎない。そもそも当のエンゲルスも、その著書において「空想的社会主義」の思想や実践の意義に一定の評価を与えている。

なお、サン・シモンシャルル・フーリエらは、一流の科学者で神秘主義者であったエマヌエル・スヴェーデンボリ1688 - 1772)が描写した天界の様子に強い影響を受けて、「地上の楽園」としてのユートピアを思い描き、自らの世界観と教説を形成したと言われている[6]。また、初期の社会主義と心霊主義はともに理想社会(世俗的千年王国)をこの世に到来させようとする点で一致しており、両者は密接な関係にあった[7][8]

脚注

  1. ^ 空想的社会主義』 - コトバンク
  2. ^ エンゲルス『空想から科学へ』第1章、大月書店 国民文庫p.63
  3. ^ エンゲルス『空想から科学へ』第1章、大月書店 国民文庫p.66
  4. ^ エンゲルス『空想から科学へ』第1章、大月書店 国民文庫p.73
  5. ^ エンゲルス『空想から科学へ』第2章、大月書店 国民文庫p.86
  6. ^ 中村健之介 著 「ドストエフスキーとスウェーデンボルグ : Czeslaw Miloszの論文を読んで」 ロシヤ語ロシヤ文学研究 (11), 60-72, 1979-10-10 日本ロシア文学会
  7. ^ 吉村正和 著 『心霊の文化史—スピリチュアルな英国近代』河出書房新社、2010年
  8. ^ 稲垣伸一 著「理想国家建設の夢-ユートピア思想・スピリチュアリズムと社会改革運動」 實踐英文學 63, 89-104, 2011-02-28

関連項目


空想的社会主義

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/14 02:35 UTC 版)

共産主義」の記事における「空想的社会主義」の解説

19世紀前半にはアンリ・ド・サン=シモンシャルル・フーリエロバート・オウエンといった思想家達が、ユートピア構想に基づく社会主義的理論と、共同体運営実験行ったロッチデール先駆者協同組合ニュー・ラナークはその試みの例である。彼らの思想カール・マルクスフリードリヒ・エンゲルスにも影響与えたエンゲルスは彼らの思想を「空想的社会主義」と特徴づけた。

※この「空想的社会主義」の解説は、「共産主義」の解説の一部です。
「空想的社会主義」を含む「共産主義」の記事については、「共産主義」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「空想的社会主義」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ

「空想的社会主義」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。



空想的社会主義と同じ種類の言葉


固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「空想的社会主義」の関連用語

1
サン・シモン デジタル大辞泉
100% |||||

2
オーエン デジタル大辞泉
94% |||||

3
科学的社会主義 デジタル大辞泉
94% |||||


5
龔自珍 デジタル大辞泉
76% |||||

6
サンド デジタル大辞泉
76% |||||





空想的社会主義のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



空想的社会主義のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの空想的社会主義 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの共産主義 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS