ナチズム
ナチズム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 12:23 UTC 版)
「ナチズム」も参照 『ナチズム(Nationalsozialismus)』のイデオロギーは、マルクス主義イデオロギーの完結性と比較しうるような統一的原理では決してない。様々な論者が既に指摘しているように、ナチズムは多様な思想の複合体であり、そこでまず第一に重視されたのが国粋主義的思想であったとしても、この複合体そのものは周囲の状況と世論の動向に応じて次第に多くの解釈と力点の移動とを許容する一つの開かれた体系へと成長していった。ナチズムのイデオロギーの多様性は大規模な大衆獲得の一般的な条件であった。それは、一人一人の有権者が自分自身のイデオロギー的立場をナチズムの中に見いだすことを可能にしていた。様々なイデオロギーの各部分を断片的につなぎ合わせるというやり方の中にナチ運動の大衆性がうかがわれる。 もっともナチズムの基礎を作ったのはナチス自身ではなかった。ナチズムは他の国粋派文筆家やジャーナリスト、人種研究家、文学上のゲルマン崇拝者たちからその世界観的基礎を受け継いだにすぎない。勿論、新保守主義者や革命的ナショナリストが発展させたような反民主主義運動の精神的共有財産の本質的部分も、ナチズムの中に入り込んでいる。 ナチスは革命的ナショナリストから戦争の賛美を、新保守主義者からは自由主義と個人主義との拒否を、暴力の哲学からは力と強者への崇拝と、人類愛や所謂女性的なものへの軽蔑を、ヒューストン・チェンバレンや、多数のアカデミックな人種研究家からは人種と血の賛美を、アルトゥール・ショーペンハウアーからは創造的行為の要素としての意志の強調(ローゼンベルクの思想など)を、またマルクス主義からは都合のよい時にだけその反資本主義的感情を(シュトラッサーの左派的国民社会主義など)を受け継いだ。そして彼等は全てのものに「ナチズムの世界観」というカプセルを被せ、このイデオロギー的特効薬によって一挙に時代の全問題を解決する第三帝国のビジョンをばら蒔いたのである。というのは、これらの思想の大抵のものは反民主主義的精神運動の共有財産であったからである。それらはいわば確固たる基盤を持っていなかった。 唯一ナチズム独自のものとして、或は、ヒトラー固有の業績としてあげられるのは、反民主主義に基づいて活動する1つの大衆組織を作り上げたことにある。実際、ナチス指導者たちの関心は、教条主義的な世界観に自己を縛り付ける政治的理念などではなかった。にもかかわらず、現存国家に反対する全勢力を組織的に結集しようとする意欲、革命への意欲、権力奪取への関心は、彼等の思想の反民主主義的基本姿勢から完全にかけ離れたものではなかった。
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