風
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自然界への影響
飛行する動物や滑空、バルーニングするものは当然風の影響が大きい。動物の場合は鳥をはじめとして、翼を利用して飛行や滑空を行うものがほとんどである。翼は風向に対して水平によけるようにして広げ、揚力を得る機構である。風のない場合でも、翼を広げて下降すれば実質的に「風」を受けて揚力を得ることができる。強い風は生物の散布に大きな影響を与えることもある。例えば日本では夏以降にカバマダラなど熱帯産のチョウが迷蝶として出現する例があるが、これは台風の風に乗って運ばれてくると言われる。植物の生殖において、風は大きな役割を果たしている。コケ植物やシダ植物は胞子を風や水で移動させ増殖する。また種子植物が花粉を媒介する方法としては風媒が最も古く、動物媒の登場後も冷帯においては単一樹種による樹林が多いことや媒介者となる動物の不足から、かなりの樹木が風媒花となっている[32]。タンポポなどのように、風による種子散布を行うものもある。
しかし、風そのものが生物に直接に危害を与えることがある。特に寒冷地や高山では風の影響が大きい。動物は、体表に沿って体を包み込むようにまとった空気が熱を帯びて体温を保持しており、風が吹くと、その薄い空気をはがしてしまう。体温より低い風は体温を下げる働きをする。体感温度はおおよそ風速1mごとに1℃低くなると言われ[33]、低温ではさらにその影響が大きい。
高山の尾根筋などでは非常に強く風当たりがあるので、風によって生物群集が規定される。そのような場所は風衝地と呼ばれ、そこに成立する群落を風衝群落という。そのような群落は、普通背が低く、群落の上面には葉が密生した層を作り、そこから突出する枝葉はほとんど無い。同様の森林は、海岸の風当たりの強い場所にもあり、やや背は低いが、見かけは似ている。この場合、風がもたらす線分が低温と同様の効果を与えているものである。また、樹木が伸びられる場所であっても、尾根筋などの風の強い場所では、その枝が片方だけに伸びたものが見られることがある。これは、風下にだけ枝が伸びたことによる。
風は土壌や地形そのものにも影響を及ぼす。風による土壌侵食は風食と呼ばれ、風により土壌表面の砂や土を吹き飛ばすものと、風によって飛ばされた砂の粒子が岩石を研磨するものの2つのタイプがある[34]。砂漠地帯では特に風食が強く進み、三稜石などの風食による礫も多く存在する[35]。こうして浮遊した粒子は風によって運搬され、やがて堆積して風成層と呼ばれる地層を形成する。風成層は風によって飛ばされてきた粒子が形成するため微細な粒子のものが多く、火山灰や黄土、砂などによるものが多い[36]。黄土高原や関東ローム層などが主な風成層である。風によって運搬される砂塵の量は膨大なもので、例えばサハラ砂漠においては巻き上げられる砂塵の量は年間20億から30億トンにもなり、2月から4月にかけてはカリブ海や南アメリカ大陸に、6月から10月にかけてはフロリダ州などに降り注ぐ[37]。同様に、東アジアにおいては春になるとゴビ砂漠や黄土地帯から巻き上げられた砂塵が偏西風に乗り、朝鮮半島や日本に黄砂を降らせる[38]。
注釈
出典
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