力 (物理学)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/07 03:11 UTC 版)
物理学における
本項ではまず、古代の自然哲学における力の扱いから始め近世に確立された「ニュートン力学」や、古典物理学における力学、すなわち古典力学の発展といった歴史について述べる。
次に歴史から離れ、現在の一般的視点から古典力学における力について説明し、その後に古典力学と対置される量子力学について少し触れる。
最後に、力の概念について時折なされてきた、「形而上学的である」といったような批判などについて、その重要さもあり、項を改めて扱う。
歴史
自然哲学において、力という概念は、何かに内在すると想定されている場合と、外から影響を及ぼすと想定されている場合がある。古代より思索が重ねられてきた。
古代
プラトンは物質はプシュケーを持ち運動を引き起こすと考え、デュナミスという言葉に他者へ働きかける力と他者から何かを受け取る力という意味を持たせた。
アリストテレスは『自然学』という書を著したが、物質の本性を因とする自然な運動と、物質に外から強制的な力が働く運動を区別した。
6世紀のヨハネス・ピロポノスは、物質そのものに力があると考えた。
アラビア半島の自然哲学者ら(イスラム科学)の中にはピロポノスの考えを継承する者もいた。
ルネサンス以降
14世紀のジャン・ビュリダンは、物自体に impetus(インペトゥス、いきおい)が込められているとして、それによって物の運動を説明した。これをインペトゥス理論と言う。

ベルギー出身のオランダ人工学者シモン・ステヴィン (Simon Stevin、1548 — 1620) は力の合成と分解を正しく扱った人物として有名である。1586年に出版した著書 "De Beghinselen Der Weeghconst " の中でステヴィンは斜面の問題について考察し、「ステヴィンの機械」と呼ばれる架空の永久機関が実際には動作しないことを示した[注 1]。つまり、どのような斜面に対しても斜面の頂点において力の釣り合いが保たれるには力の平行四辺形が成り立っていなければならないことを見出したのである。
力の合成と分解の規則は、ステヴィンが最初に発見したものではなく、それ以前にもそれ以後にも様々な状況や立場で論じられている。同時代の発見として有名なものとしてガリレオ・ガリレイの理論がある。ガリレオは斜面の問題がてこなどの他の機械の問題に置き換えられることを見出した。
その後、フランスの数学者、天文学者であるフィリップ・ド・ラ・イール (1640 — 1718) は数学的な形式を整え、力を空間ベクトルとして表すようになった[注 2]。
ルネ・デカルトは渦動説 (Cartesian Vortex) を唱え、「空間には隙間なく目に見えない何かが満ちており、物が移動すると渦が生じている 」とし、物体はエーテルの渦によって動かされていると説明した[4][5]。
ニュートン力学
現代の力学に通じる考え方を体系化した人物として、しばしばアイザック・ニュートンが挙げられる。ニュートンはガリレオ・ガリレイの動力学も学んでいた。またデカルトの著書を読み、その渦動説についても知っていた(ただしこの渦動説の内容については批判的に見ていた)。
ニュートンは1665年から1666年にかけて数学や自然科学について多くの結果を得た。特に物体の運動について、力の平行四辺形の法則を発見している。この結果は後に『自然哲学の数学的諸原理』(プリンキピア、1687年刊)の中で運動の第2法則を用いて説明されている[6]。
ニュートンはその著書『自然哲学の数学的諸原理』において、運動量 (quantity of motion) を物体の速度と質量 (quantity of matter) の積として定義し、運動の法則について述べている。ニュートンの運動の第2法則は「運動の変化は物体に与えられた力に比例し、その方向は与えられた力の向きに生じる 」というもので、これは現代的には以下のように定式化される。
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量記号 F次元 M L T −2種類 ベクトルSI単位 ニュートン (N)CGS単位 ダイン (dyn)FPS単位 パウンダル (pdl)MKS重力単位 重量キログラム (kgf)CGS重力単位 重量グラム (gf)FPS重力単位 重量ポンド (lbf)テンプレートを表示
定義
古典力学における力(英語: force)の、最も初等的な定義は質量と加速度の積を力とするものである。
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力の合成 力 dT と力 dN を合成した力 dF は平行四辺形の法則によって対角線として計算できる。 力の合成とは、ある点に働く複数の力を 1 つの等価な力として表すことを言う。またその逆の操作を力の分解 (decomposition of force) と呼ぶ[17]。合成された力のことを合力 (resultant force) という[18]。力はベクトルとして定義されているので[19]、ベクトル空間における加法の規則に従い合成と分解を行うことができる[20]。力と運動量がベクトルであることにより、運動方程式を任意の成分に分解することができる。この原理を運動の独立性 (independence of motions) という[19]。
分解された力と元の力、あるいは合成される力とそれらの合力の関係を図形的に表すものとして、力の平行四辺形がしばしば用いられる。力の分解に関して、2 成分に分解された力は平行四辺形の辺をなし、その対角線は元の力となる。同様に、2つの力が同じ点に働くと、それらは平行四辺形の辺をなす。2つの力の合力は2つの力のなす平行四辺形の対角線として図示される[20]。力の分解や合成を平行四辺形の組み合わせによって表すことができる、という法則を平行四辺形の法則 (parallelogram law) と呼ぶ[14]。平行四辺形の法則はまた、ニュートンの第4法則 (Newton's fourth law) とか力の重畳原理 (superposition principle of force) とも呼ばれる[14]。
分類
連続体力学などの分野では、力は次の 2 つに分類される。
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- 『物理学辞典』(三訂版)培風館、2005年10月。 ISBN 978-4563020941。
- 小出, 昭一郎『力学』岩波書店、1997年。
- Barbour, Julian (2001). The Discovery of Dynamics: A Study from a Machian Point of View of the Discovery and the Structure of Dynamical Theories. ISBN 0-19-513202-5
- 内井, 惣七『空間の謎・時間の謎 — 宇宙の始まりに迫る物理学と哲学』中公新書、2006年。 ISBN 412101829X。
- 湯川, 秀樹『物理講義』講談社、1975年1月。 ISBN 978-4061298576。
- 巽友正『流体力学』培風館、1982年。 ISBN 4-563-02421-X。
- FerzigerJoel H.; PerićMilovan 著、小林敏雄、谷口伸行、坪倉誠 訳『コンピュータによる流体力学』シュプリンガー・フェアラーク東京、2003年。 ISBN 4431708421。
- 京谷孝史 著、非線形CAE協会 編『よくわかる連続力学体ノート』森北出版、2008年。 ISBN 9784627948112。
- 今井功『流体力学 前編』(24版)裳華房、1997年。 ISBN 4785323140。
- 山本, 義隆『磁力と重力の発見』みすず書房、2003年。
- マッハ, エルンスト 著、岩野秀明 訳『マッハ力学史 (上)―古典力学の発展と批判』筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2006年。 ISBN 978-4480090232。
- マッハ, エルンスト 著、岩野秀明 訳『マッハ力学史 (下)―古典力学の発展と批判』筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2006年。 ISBN 978-4480090249。
- ヘルツ, ハインリッヒ『力学原理』東海大学出版会、1974年11月。 ISBN 978-4486002444。
- デヴレーゼ, ヨーゼフ・T、ファンデン・ベルヘ, ヒード『科学革命の先駆者 シモン・ステヴィン―不思議にして不思議にあらず』山本義隆(監修)、中澤聡(訳)、朝倉書店〈科学史ライブラリー〉、2009年。
ISBN 9784254106428。
- Devreese, J. T.; Vanden Berghe, G. (2003) (Nederlands). Wonder en is gheen wonder. De geniale wereld van Simon Stevin 1548-1620. Davidsfonds, Leuven. pp. 342 — オランダ語原著。
- Devreese, J. T.; Vanden Berghe, G. (2007) (English). 'Magic is No Magic'. The Wonderful World of Simon Stevin. WIT Press, Ashurst, Southampton. pp. 310 — 著者による英訳。
- 江沢, 洋『力学 ― 高校生・大学生のために』日本評論社、2005年2月20日、458頁。 ISBN 4535785015。
- 新井, 朝雄『物理現象の数学的諸原理 ―現代数理物理学入門―』共立出版、2003年2月20日。 ISBN 4-320-01726-9。
- ランダウ, レフ、リフシッツ, エフゲニー『理論物理学教程 力学』広重, 徹(訳)、水戸, 巌(訳)(増補第 3 版)、東京図書、1974年10月1日。 ISBN 978-4-489-01160-3。
- Newton, Isaac (1729) (English). The Mathematical Principles of Natural Philosophy. 1. John Machin, Andrew Motte (translator)
- Clausius, R. (1850). “Über die bewegende Kraft der Wärme” (Deutsch). Annalen der Physik 79: 368–397, 500–524. Part I, Part II.
- “On the Moving Force of Heat, and the Laws regarding the Nature of Heat itself which are deducible therefrom” (English). Philosophical Magazine. 4 2: 1–21, 102–119. (1851-7) . — Clausius 1850 の英訳版。Google Books。
- Rankine, William John Macquorn (1853). “On the general Law of the Transformation of Energy”. Philosophical Magazine. 4 5 (30): 106-117. doi:10.1080/14786445308647205 .
関連項目
外部リンク
「力 (物理学)」の例文・使い方・用例・文例
- 規則の効力を一時停止する
- 彼にはその仕事をする力はないと思う
- ペンギンは飛ぶ能力を失っている
- 彼は管理能力に非常にたけている
- 絶対権力
- 権力を乱用する
- 重力加速度
- だれも努力なしには何事も成し遂げられない
- 彼女は自分の本の中で彼の助力に謝意を述べた
- 暴力行為を行う
- 市長は暴力団に対抗すると誓った
- 精力的な作家
- 病気で彼女の視力が冒され始めている
- 彼女のプレゼンテーションはよく準備されていてしかもかなり説得力があった
- 彼女はとても魅力的だが,しかし容姿がすべてというわけではない
- 原子力時代
- 神の力
- 彼は我々を勝利に導いた原動力であった
- 彼の影響力はまだとても強い
- 全速力で
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