軽井沢町
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概要・特徴

町の北側は森林に広く覆われ、浅間山や上信越高原国立公園へと続いており、南側は草原や田園やゴルフ場が多く分布し、雄大なパノラマ風景が広がっている。町内には別荘、教会、リゾートホテル、レストラン、カフェ、美術館などが点在しており、年間を通じてハイキング、サイクリング、乗馬、ドライブ、ショッピング、ガストロノミー(美食)などを楽しむことができ、夏はゴルフやテニス、冬はスキーやスケートといった屋外レクリエーションに適する。
江戸時代までは中山道の宿場町(軽井沢宿)として栄えたが、明治時代に入ると衰退。そんな中イギリス系カナダ人宣教師によって、その西洋に似た気候風土から1880年代に避暑地・別荘地として開拓され、それ以降高い人気を博している。
明治から昭和前期にかけて、「日本の中の西洋」と言われるまでに聖職者や外交官など毎夏千数百名の外国人が滞在、全国で最も外国人に人気のある夏のリゾート地となり(「日本三大外国人避暑地」も参照)、キリスト教をはじめとする西洋文化が流入した。大正期からは、外国人に倣って日本の上流階級も数多く滞在、皇族や華族、政財界の要人らの別荘が次々と建設され、社交界の舞台となった。加えて同時期から学者や小説家、画家、音楽家などの文化人も数多く滞在し、サロンの舞台にもなる。第二次世界大戦下には、枢軸国・中立国13ヵ国の大公使館と一般外国人千数百名の疎開先となり、連合国軍による空襲は行われなかった。戦後になると、外国人避暑客は減少するもののその知名度は日本人の間で全国的に拡大、高度経済成長期からバブル期にかけての別荘ブーム、アンノン族によるペンションブーム、平成期における通年型観光地への脱皮などを経て、今日に至るまでに発展した。
町全体が別荘地として整備されており、現在では町内における別荘・保養施設数が1万6000軒を超え、持ち家数の1.5倍以上に及んでいる[7]。別荘所有者による固定資産税の納入(全体の約80%[8])などから、財務状況が優良な地方自治体であり、県内唯一の地方交付税不交付自治体となっている。
また別荘地であるとともに、三大都市圏や海外から大勢の観光客が訪れる一大観光地でもある。2019年には、約840万人の観光客が訪れた[7]。町の観光ビジョンは、堀辰雄による当地を舞台とした小説の題名より、『美しい村』とする。
近年では、静養や観光目的以外に、ワーケーションや移住先としても大きな関心が寄せられている[9]。
地方自治研究機構が2012年に発表した「軽井沢町観光振興調査研究事業報告書」によれば、人々が軽井沢に対して抱いているイメージや魅力として、美しい自然や景勝地が豊富で、街並みが美しく、気候や風土が健康に良い避暑地、洗練されていて、おしゃれ、国際的で高級感や上質感もあり、文化的で芸術的な雰囲気、ショッピングが楽しめ、魅力的な料理店やレストランもある、アクティビティ活動が豊富、などが特筆して挙げられている[10]。ブランド総合研究所が毎年発表している「市区町村魅力度ランキング」では、調査開始時(2007年[注釈 1])より全国1000市区町村の中で常にトップ20にランクインしており、長野県下では1位を維持している。
日本で初めて「高原」と冠された地であり[11]、日本における高原野菜[12]、林間学校[13]、テニスブーム[14]、キリスト教式結婚式ブーム[15]、リゾートウェディング[16]の発祥となった町である。また、現在では日本を代表する一大企業グループとなった『西武グループ』の土地開発事業の原点となった町であり、現在では世界中に展開されているホテルチェーンである『星野リゾート』や『プリンスホテル』の誕生の地でもある。日本で初めて分譲別荘地の開発[13]や建売別荘の販売[17]も行われている。また「日本三大野鳥生息地」の一つに数えられ[18]、町内には日本初[19]の『国設野鳥の森』がある。上皇明仁と上皇后美智子が出会った町、ジョン・レノンが長く滞在した町としても知られている。さらに、世界選手権出場経験のあるカーリングチーム『SC軽井沢クラブ』『中部電力カーリング部』の本拠地であるほか、世界最高峰の料理コンクール『ボキューズ・ドール』の日本代表に町内から歴代3名[注釈 2]を輩出している。
人口約2万人の小さな都市ながら、古くから国際交流が盛んであり、「国際観光文化都市」に指定されている。軽井沢は明治から昭和前期にかけて、アジア各国に駐在する宣教師らによる国際会議・極東大会の開催地となり、また外国人避暑客と日本人避暑客が私的に交流する場でもあった。戦後は日本ジャンボリー、世界オールラウンドスピードスケート選手権大会、アイゼンハワートロフィーといった種々の国際イベント・国際大会も多数開催されている。1917年から毎年開催されている軽井沢国際テニストーナメントは、現存する日本最古[20]のテニストーナメントである。1964年東京オリンピックでは馬術、1998年長野オリンピックではカーリングの競技会場になり、世界で初めて[21]、夏季・冬季両方のオリンピック競技会場とされた町である。2014年には、軽井沢国際カーリング選手権大会がアジア初[22]となるワールドカーリングツアーへの参加を果たした。2014年からは日本初の全寮制インターナショナル・スクールで国内唯一のUWC加盟校である『ISAK Japan』が開校している。また、2016年にはG7関係閣僚会合、2019年にはG20関係閣僚会合の開催地となった。
健康保養地(保健休養地)としての特性から、条例などによってあらゆる面で独自の制限がかけられている。景観面では厳しい建築規制が設けられており、生活面では深夜営業や風俗営業・性風俗関連特殊営業の禁止、歓楽街の排除などが行われている。それに関連して、景観保護活動や自然保護運動が複数の団体によって活発に行われており、著名人も多く参加している。また、町内には主に明治から昭和前期にかけての歴史的建造物が多数現存しており、「ナショナル・トラスト」「ブルー・プラーク」等による保存運動も活発である。
「かるいさわ」と発音されることもある。地名の由来など、詳細は「軽井沢#語源」を参照。
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御代田町 | ![]() |
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佐久市 群馬県下仁田町 |
注釈
- ^ 調査自体は2006年に開始されたが、2006年は軽井沢町が調査対象外であったため、当該地を含めた調査の開始は2007年となる。
- ^ 2011年 : 中洲達郎(軽井沢ホテルブレストンコート)、2013年 : 浜田統之(軽井沢ホテルブレストンコート)、2021年 : 戸枝忠孝(レストランTOEDA)。なお、2001年大会日本代表の濱野弘典は、2018年よりザ・プリンス軽井沢の料理長を務めている。
- ^ 本イベントは2011年から2017年まで軽井沢町を通過拠点としていたが、2018年以降はルート変更により不開催。
- ^ 沓掛。
- ^ 南佐久郡大日向村出身の満蒙開拓移民が戦後入植した浅間山麓の地域。
- ^ 旧軽井沢区のうち旧軽井沢ロータリー(草軽交通旧軽井沢駅跡)周辺。
- ^ 新軽井沢区のうち軽井沢駅北口周辺。
- ^ 中軽井沢区のうち中軽井沢駅北口周辺。
- ^ 正確には、夏になると妻子供は別荘に住むが、仕事のある主人だけが平日は東京に残って、週末は別荘で家族と過ごす、というスタイルが多かったようである。
- ^ 舞台は北海道であるが、「湿っ地屋敷」のモデルとなったのは軽井沢町の建築が知られている。
出典
- ^ 「朝日新聞 第963号」(朝日新聞出版局, 2001)p.1402.
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- ^ Kiyohide Yamashita, Japan and People, Nichibei Keizai-Domei Kenkyu-Kai, p.202, 1960.
- ^ ”軽井沢のクリスマス”軽井沢ウェブ(軽井沢新聞社)
- ^ a b 軽井沢町の統計 軽井沢町
- ^ “固定資産税の納入者 79・4%は町外住民”軽井沢ウェブ(2020年10月6日配信)2021年7月15日閲覧。
- ^ a b 新潟市・軽井沢町で地価上昇 新潟・長野、二極化鮮明 日本経済新聞(2021年9月21日)
- ^ 地方自治研究機構「軽井沢町観光振興調査研究事業報告書」(平成24年3月)65-67頁
- ^ 軽井沢高原の風土 軽井沢観光協会
- ^ 世界大百科事典 第2版「高原野菜」の解説
- ^ a b 佐藤大祐, 斎藤功「明治・大正期の軽井沢における高原避暑地の形成と別荘所有者の変遷」『歴史地理学』第46巻第3号、歴史地理学会、2004年6月、 1 - 20頁、 ISSN 03887464、 NAID 40006378788。
- ^ 写真が語る日本テニス史 【昭和20(1945)年】~6日本テニス協会
- ^ 独自の進化を遂げた日本のブライダルビジネス 夢ナビ
- ^ 増田榮美「現代結婚式の歴史 —リゾートウェディングの誕生に焦点をあてて—」(紀要 (39), 37-52, 2016-01-31 上田女子短期大学)pp.33-34
- ^ 写真で見る西武ヒストリー(前編)II 西武グループ土地開発創始期(1893 - 1969) 西武ホールディングス
- ^ 『福島県民百科』(福島民友新聞社, 1980年)885頁
- ^ 森田敏隆『日本国立公園 第2巻』(毎日新聞社, 1985年)128頁
- ^ 「軽トー」の歴史・歴代優勝者 軽井沢国際テニストーナメント
- ^ George Cantor, Anne Jannette Johnson, The Olympic Factbook: A Spectator's Guide to the Winter Games, p.64, Visible Ink Press, 1997.
- ^ “「軽井沢国際カーリング選手権」がワールドツアーにアジアで初の参加”. 産経ニュース (2014年11月19日). 2022年5月23日閲覧。
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- ^ “平年値ダウンロード”. 気象庁. 2021年6月閲覧。
- ^ “観測史上1〜10位の値(年間を通じての値)”. 気象庁. 2021年6月閲覧。
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- ^ 『人事興信録. 7版』(国立国会図書館デジタルコレクション)
- ^ 軽井沢駅前で28戸焼く『朝日新聞』1970年(昭和45年)3月19日朝刊 12版 15面
- ^ 同年1月31日、総理府告示第42号「町の境界変更」
- ^ 同年3月31日、総理府告示第95号「町の境界変更」
- ^ 令和3年度 軽井沢町の統計 人口 長野県軽井沢町公式ホームページ
- ^ 令和3年度 軽井沢町の統計 建設 長野県軽井沢町公式ホームページ
- ^ a b 軽井沢の土地に熱視線 新型コロナ下、地価上昇 信濃毎日新聞2021年4月30日
- ^ 23区民が引越した「非」大都市トップ10ランキング 東洋経済オンライン2021年5月19日
- ^ a b 高級リゾート物件が絶好調 価格2倍、軽井沢は品薄 NIKKEI STYLE2021年8月7日
- ^ 軽井沢町民憲章 軽井沢町 2021年10月10日閲覧。
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- ^ “「今後はゆっくり身体を休める」3期12年務めた佐藤雅義町長が退任”. 軽井沢ウェブ (2011年2月9日). 2023年1月28日閲覧。
- ^ “軽井沢町長プロフィール”. 軽井沢町 (2019年2月18日). 2019年6月2日閲覧。
- ^ “軽井沢町長選で新人・土屋三千夫さん初当選 次点の現職に約1400票差 新庁舎整備計画凍結など訴え ”. 長野放送(Yahoo!ニュース) (2023年1月23日). 2023年1月28日閲覧。
- ^ “正副議長あいさつ”. 軽井沢町議会 (2021年5月7日). 2021年8月23日閲覧。
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- ^ 特集一軽井沢追分寮2013年1月30日 楓園
- ^ 軽井沢追分寮のご案内一都立八潮高等学校同窓会
- ^ 施設・設備紹介一青山学院高等部
- ^ 追分寮生活 その1一三輪田学園
- ^ 鴎友学園追分山荘
- ^ 軽井沢寮一共立女子大学
- ^ 中1軽井沢学習寮 東京女学館高等学校・中学校
- ^ 軽井沢三泉寮のご案内一日本女子大学教育文化振興桜楓会
- ^ しなの鉄道軽井沢駅、「駅ナカ」一新プロジェクト完了2018年3月14日 信濃毎日新聞
- ^ 地域活性化へ「大軽井沢経済圏」 フォーラム開設 日本経済新聞2018/02/26
- ^ 宿泊・発電事業でスタートした100年企業、プリンスグランドリゾート軽井沢の壮大な次世代戦略とは? フォーブス・ジャパン
- ^ 軽井沢町 長野県町村会
- ^ 軽井沢の名称、適切使用を 共同通信社
- ^ ”軽井沢の風土と観光産業”軽井沢観光協会
- ^ 長谷部和夫「西武鉄道でのできごと」『レイル』 92号、エリエイ、2014年10月、63頁
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