空間
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/09 00:52 UTC 版)
- (日常の用語)大きさを持った入れ物。
- (哲学)時間と共に物質界を成立させる基礎形式。アリストテレスなどに古代ギリシアの思想では、個々の物が占有する場所(トポス)である。カントは空間を時間とともに人間精神の「直観形式」だとする立場を呈示した。
- (物理)ニュートンは、空間を3次元のユークリッド空間、すなわち、3方向に無限に拡がるものとする数学を用いてニュートン力学体系を構築した。そして「(空間は)そのnature(本性)において、外界のいかなるものとも関係がなく、常に同じままで(不変)、不動」と記述した。[注 1] 「万有引力」という考え方(遠隔作用論の一種)を提示し、宇宙の空間のすべての点が、全ての天体の位置と質量を「知って」いる、と考え、空間というのは「神の感覚中枢 (sensorium dei)」であると述べた[1]。空間を絶対と見なしたニュートンに対して、(ニュートン同様に大御所であった)ライプニッツは空間は相対的なものである、と見なし、論戦が繰り広げられた。アインシュタインの特殊相対性理論では、空間と時間はミンコフスキー時空という一体のものとして記述され、さらに一般相対性理論では、物質(質量)の存在により「曲がる」4次元リーマン空間として記述された。20世紀後半に発展した超弦理論では空間は9次元だとされる。→#自然哲学における空間、#物理学における空間。
- (数学)→#数学における空間。ユークリッド空間、非ユークリッド空間、空間 (数学)(集合に幾何学的構造を併せて考えたもの)など。
- (建築) →#建築における空間
哲学、物理学、数学、建築、地理学、社会学等々において用いられており、意味・説明は分野ごとに異なるので、それぞれ説明する。
自然哲学における空間
自然哲学における理解を解説する。
アリストテレスは、自然学の基礎的概念として、事物の場所「トポス topos」としての空間概念を用い、物事の運動kinesisを説明した。トポスは「接触面」として、諸元素に対して能動的な作用を及ぼす実在であって、それぞれの本性により、火は上方に、土は下方の場所へと運動する、とした。→『トポス論』
後にアリストテレスの自然哲学はクラウディオス・プトレマイオスの天文学と合体し、性質的な差異と階層構造をもつ有限宇宙が想定された。月下界には月下界特有の性質・法則があり、月の向こう側の空間には、そこ独特の性質・法則があると考えられていた。空間というのは、位置によって性質が異なる、と一般に考えられていたのである。人々は、空間は位置により性質が違うから、地上のものは落下するが、惑星は落ちないまま円運動を続けている、と考えていた。空間は相対的なものであった(宇宙論を参照)。
ルネ・デカルトが1633年に執筆した『宇宙論』の原稿においては、物体とは独立の空間を認めており、運動というのは空間の中のある位置から別の位置への移動」として簡潔に定義できるものであった(だが、この書はデカルトの生前には出版されなかった。出版は死後である。)。その後のデカルトの渦動説によれば、空間にはすきまなく目に見えない何かが満ちており、物が移動すると渦が生じている、物体は「渦」によって動かされている、と説明された[2][3](重力を説明する古典力学的理論を参照)。
自然哲学者アイザック・ニュートンは、上述のデカルトの渦動説は本で読んだものの、その体系に相当無理があると気づいていた。ニュートンは一般に公表はされなかったものの、『重力および流体の平衡について』という書きかけの手稿(『自然哲学の数学的諸原理』が出版される相当前に書かれたもの)を残しており、そこでデカルトの渦動説を名指しで批判している。そして、その手稿で「場所とは物体が占める空間の一部」とし、「静止とは同じ場所にとどまること」「運動とは場所の変化である」としていた(ただしこれは公表されなかった)[3]。
ニュートンは、古代以来の「場所により空間の性質が異なる」という考え方に変化をもたすことにもなった。ニュートンは、天界の惑星の運動と地上の物体の落下が同一のしくみによってもたらされているとしても説明可能だと見抜き、「万有引力の法則」を公表した(『自然哲学の数学的諸原理』)。ニュートンはユークリッド幾何学を用いて、自らの理論体系を構築した。(当時、人類が知っていた幾何学はユークリッド幾何学だけであった。[3]。)よって、ニュートン力学においては空間は、無限に広がる3次元のユークリッド空間と想定されていることになる。 『自然哲学の数学的諸原理』の冒頭部分の「定義」に続く箇所において、絶対空間と絶対時間という概念を導入した。「そのnature本性において、外界のいかなるものとも関係がなく、常に同じままで、不動の」と説明されている。ニュートンの力学体系では、空間は均一の性質で広がるものと想定されるようになり「絶対空間」と呼ばれたのである。また、ニュートンは同著においてその説明につづいて、絶対運動および相対運動について説明を行ない、バケツの中に水を入れ回転させる実験の説明を行った[3]。
また、ニュートンは宇宙の空間のすべての位置・点が、全ての天体の位置と質量を知っているということから、空間というのは「神の感覚中枢 (sensorium dei)」であると述べた。神は絶対性を有しており、宇宙のあらゆる空間に神はあまねく存在している(遍在している)としたのである。(『光学』[4])。
ライプニッツは空間というのは、同時に存在する事物の秩序、ととらえた。空間は表象と表象との関係によって定義される、とした。よってライプニッツの考えでは、ニュートンが言うような絶対空間というようなものは否定した。
2種類の空間概念にまつわる議論
絶対空間と相対空間の考え方について議論が行なわれた。
絶対空間は、英国の自然哲学者ニュートンが唱えた空間概念で、連続的で均質な無限の広がりを想定している。
これは、ドイツのライプニッツによる批判の対象となった。ライプニッツは、相対空間という概念を提示した。ライプニッツによれば、空間とは諸物の関係であり、空間の存在は、その中の諸物の関係を、幾何学などにより合理的に説明できれば証明されるとした。これは、空間の性質を、諸物の位置ならびに位置相互にある距離として表現するものであった。ニュートン(およびその支持者)とライプニッツ(およびその支持者)の間には、激しい論争が闘わされ、何度も書簡(第1-5書簡)のやりとりがなされた[3]。
ライプニッツの第2書簡においては、宇宙における物質の量に関してニュートンを批判しつつ、真空などという概念はないときっぱりと否定した。ライプニッツはその理由として、宇宙に物質の量が多ければ多いほど神の力と知恵を行使できる機会が多いのだから、物質のない虚ろな空間はありえない、とした[3]。第5書簡では、水銀をいれたガラスのチューブを用いたトリチェリの実験(1643年)も引き合いに出し、アリストテレス主義者やデカルト主義者らの見解も提示しつつ「空気を抜かれたガラスのチューブには光線が通過することからして小さな穴があいているに決まっている。そしてその穴は空気は通さないけれど、磁気などの希薄な流体を通すのであって、ガラス容器の中にはそのような微小な物質がつまっていると考えるべきである」と述べた[3]。(ライプニッツのこの説明は、現在の物理学における磁場などの、目に見ることも触れることもできない「場」の概念を先見するものだったとも評価されている[3]。
第4書簡では、万有引力についても攻撃し、「離れた物体同士が、まったく仲介するものなしで互いに引き合うとか、(ある物体のまわりを)物体がまわる(接線方向に進んでゆくことを妨げるものがないのにそうならない)ということも、超自然的だ。このようなことは、ものごとの本性からは説明できない」と非難した[3]。ライプニッツの支持者らもニュートンの万有引力の理論を「オカルトだ」と非難した。
物理学における空間
古典力学 | ||||||||||||
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ローレンツは、「絶対空間においてエーテルが静止している」とし「宇宙は絶対静止しているエーテルと運動する荷電粒子からなる」とする宇宙論によって、ニュートン的な絶対空間の概念を保持していた[3]。 この考え方を支持する人は多く、地球のエーテルに対する運動の効果を地上で測定するという実験が繰り返し行なわれた。マイケルソン・モーリーの実験である。実験結果はエーテルの存在を証明するものではなかった。ローレンツは、「運動する時計は遅れる」とする仮説と、「運動するものさしは収縮する」とする仮説によって、実験結果も受け入れつつ なんとかしてエーテルの存在を認めつづけようとした[6]。 相対性理論での空間アルベルト・アインシュタインは、ローレンツの考えとは異なった観点から着想し、「全ての慣性基準系は対等であって、特権的な基準系はない」とする仮説と、「あらゆる慣性基準系において真空中の光の速度は一定である」とする仮説によって、ニュートン力学の理論体系を組みなおし、空間と時間に関して新しい考え方を提示した(相対性理論を参照)[3]。ここにおいて、空間は時間と連関して扱われることになり、4次元の時空という概念が現れた。 アインシュタインの一般相対性理論以来、重力は空間の歪みと考えられ、空間は曲率がゼロのユークリッド空間ではなく一般にはリーマン空間で表されることになった。そして重力の源は質量であるので、空間は内部の物体とは無関係に存在する単なる容器ではなく、内部の質量自体が空間の構造に影響を与えていることになる。 宇宙論・量子論・場の理論エドウィン・ハッブルらによって、島宇宙(銀河)が遠ざかっていることが発見されてからは、やがて宇宙は一定であるとする定常宇宙論以外に、宇宙が膨張しているとするビッグバン仮説が登場し、両者は拮抗するようにもなり、やがてビッグバン理論の支持者の割合が大きくなった(宇宙論を参照)。 また、20世紀初頭からはじまった数々の物理実験によって、真空は何も含まない「無」なのではなく、エネルギーや構造を持つことが解明された(例えば「ディラックの海」、「カシミール効果」を参照のこと)。このような真空の性質を記述するために場の量子論が1930年代に登場し、やがて素粒子の標準模型へと進化した。標準模型においては、真空と不可分な電磁場や電子場、ヒッグス場などが存在し(電磁場、量子場、ヒッグス場も参照)、粒子は真空を構成する場の励起状態であると解釈されている。宇宙のあらゆる場所に共通の電子の場が存在するために、どこで電子を生成しても、その質量や電荷などの諸性質は全く同一になる(例えば、他のものに比べて質量の小さい電子は生成できない)。また、磁石は真空を構成する電磁場を影響するために、遠距離でも目に見えない引力や斥力が発生すると解釈される。電荷を勢いよく振動させると、電磁場中に光子が励起され無限遠に向かって伝搬する。こうした真空の概念の転換によって、原子や素粒子の性質が極めて正確に予言できるようになった。1960年代には、電磁相互作用と弱い相互作用を統一した電弱理論が確立され、1980年代に実験的に検証された。現在、さらに電弱理論と強い相互作の理論を統一する統一場理論を作り上げようと努力しているが、理論の予測と陽子崩壊等の実験結果に矛盾があるために、困難に直面している。 なお、19世紀末に信じられていたエーテル仮説では、真空中にエーテルと呼ばれる媒質が満たされており、地球がエーテル中を運動するとエーテル風が観測されると考えられていた。エーテルは真空と分離可能で直接観測が可能な液体のような媒質であると考えられていたが、該当する現象が観測されなかったために、エーテルの存在は現在では実験的に否定されている。一方、場の量子論における「場」とは、電磁場のように真空と分離することのできない広がりをもったものを指す。携帯電話に電波が届くのは、空間中のあらゆる場所に目に見えない電磁場が満たされており、携帯電話がその電磁場を励起するからである。電波が伝搬しない真空を作り出すことが不可能であるように、電磁場は真空とは不可分であると考えられる。したがって、エーテル風に類似する効果は場の量子論ではおこらない。 現代の自然科学者は、物理学における空間を「物理的空間」、数学などにおける空間を「抽象空間」と呼ぶこともある。 超弦理論における空間超弦理論においては、空間は9次元である、としている[7]。ただし9次元のうち6次元は、現在観測できないほどに小さく折りたたまれていて観測できないとする[7]。超弦理論では、「9次元空間 + 時間」の「10次元時空」が想定されている[7]。小さな6次元は、カラビヤウ多様体のような形態であるという。
注釈
出典
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