絶対空間とは? わかりやすく解説

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ぜったい‐くうかん【絶対空間】

読み方:ぜったいくうかん

ニュートンによって導入された、すべての運動記述するための基準となりうる静止空間。のちに、光の媒質考えられ静止エーテル対応する空間とも考えられたが、相対性理論によってその存在否定された。


絶対時間と絶対空間

(絶対空間 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/06 23:04 UTC 版)

古典力学
共通重心の周りを周回する二体の物体。物体がひもでつながれているとすると(互いの重力は考えない)、ひもに張力がはたらくのは、二体が絶対空間を基準として回転しているときである(ニュートンの説明)。あるいは二体が宇宙そのものを基準として回転しているためである(マッハの説明)。あるいはまた、現代風の考え方では二体がある慣性系を基準として回転しているためである。

絶対空間の概念はニュートンの時代から現代にいたるまで厳しい批判にさらされてきた。たとえばライプニッツの見解では、空間は物体間の相対位置という以上の意味を持たず、時間は物体間の相対的な動きという以上の意味を持たなかった[6]ジョージ・バークリーの考え方によれば、なにもない宇宙にただ一つ存在する球体は基準点がないため回転を考えることができない。また、一対の球体が互いの周りを回転することは可能でも、共通重心の周りの回転は考えられない[7]。時代が下って、これらの批判はエルンスト・マッハによって新しい形で提起された。マッハの原理en: Mach's principle)が主張するところでは、力学とは詰まるところ物体間の相対運動に尽き、質量さえそのような相対運動の一つの表出にすぎない。たとえば、何もない宇宙にたった一個の粒子が存在しているのであれば、それは質量を持たないと考えられる。マッハによれば、ニュートンの例は単に球体と宇宙全体との間の相対回転のことを言っているのである[8]

「空間」の中で運動する物体は運動の方向と速度を不変に保つ、とわれわれが言うとき、暗に「宇宙全体」と言っているのであり、それ以上でもそれ以下でもない。
—エルンスト・マッハ、チュフォリニホイーラーによる引用: Gravitation and Inertia, p. 387

現代的に見れば、絶対空間と絶対時間を認めないこれらの立場は、空間と時間を操作的に定義する試みととらえてよい。このような視点は特殊相対論によって明確になった。

ニュートン力学の枠内で考える場合でも、現代的な観点では絶対空間は必ずしも必要ではない。代わりに採用されるのは慣性系、すなわち性質の良い基準系集合である。これらはそれぞれ互いに対して等速で運動する。一つの慣性系から別の慣性系に移るとき、物理法則はガリレイの相対性原理に従って変換される。それが絶対空間への反証につながることをMilutin Blagojevićは以下のようにまとめた[9]

  • 絶対空間の存在は古典力学の論理と矛盾する。ガリレイの相対性原理によれば、慣性系の中から特別なものを選び出すことはできないのだから。
  • 絶対空間が慣性力を説明するわけではない。どの慣性系を基準とする加速度であっても慣性力をもたらすのだから。
  • 絶対空間は加速への抵抗を付与するという形で物理的実体に影響を与えるが、逆に影響を受けることがない。

ニュートン自身も慣性系の役割を認識していた[10]

与えられた空間における物体の運動は、その空間が静止していようが、等速で直線上を動いていようが変わることはない。

実用上は、恒星天球上で相対運動を行っていないように見える天体)を基準として等速度運動を行っている基準系を慣性系と見なすことが多い[11]。これについてはen:Inertial frame of referenceでさらに論じられている。

1903年にバートランド・ラッセルは著書『The Principles of Mathematics』で絶対空間と絶対時間を弁護したが、一方で有理力学[12]の分析の中で以下のように認めてもいた。「非ニュートン的な力学もまた、非ユークリッド幾何学と同じく、正統的な体系に劣らず興味深いことだろう」

特殊相対性理論の衝撃

特殊相対性理論の登場まで、物理理論では空間と時間の概念は切り離されていた。特殊相対性理論はこれらを結び付け、どちらも観測者の運動状態に依存することを示した。絶対時間と絶対空間という考え方はアインシュタインの理論において特殊相対性理論時空に置き換えられ、さらに一般相対性理論のダイナミックに曲がる時空に置き換えられた。

相対性理論では絶対的な同時性というものが存在しないため、絶対時間の存在を認めない。絶対的な同時性とは、異なる空間位置で起きた二つ以上の事象が同時だったことを、宇宙のどの観察者からも納得できる形で実験的に証明することを指す。相対性理論は情報伝達速度の上限が光速度だということを前提にしており、その一つの帰結として、異なる場所での同時性は必ず観察者によって相対的になる[13]

参考文献

  1. ^ Mughal, Muhammad Aurang Zeb. 2009. Time, absolute. Birx, H. James (ed.), Encyclopedia of Time: Science, Philosophy, Theology, and Culture, Vol. 3. Thousand Oaks, CA: Sage, pp. 1254-1255.
  2. ^ In Philosophiae Naturalis Principia Mathematica See the Principia on line at Andrew Motte Translation
  3. ^ Space and Time: Inertial Frames (Stanford Encyclopedia of Philosophy)
  4. ^ C. Truesdell (1977) A First Course in Rational Continuum Mechanics, Academic Press ISBN 0-12-701301-6
  5. ^ C. Truesdell and W. Noll (1977) The Non-Linear Field Theories of Mechanics, Springer-Verlag Berlin Heidelberg ISBN 978-3-540-02779-9
  6. ^ Rafael Ferraro (2007). Einstein's Space-Time: An Introduction to Special and General Relativity. Springer. p. 1. ISBN 978-0-387-69946-2. https://books.google.com/books?id=wa3CskhHaIgC&pg=PA1&dq=time+%22absolute+space%22 
  7. ^ Paul Davies; John Gribbin (2007). The Matter Myth: Dramatic Discoveries that Challenge Our Understanding of Physical Reality. Simon & Schuster. p. 70. ISBN 0-7432-9091-7. https://books.google.com/books?id=vlmEIGiZ0g4C&pg=PA70&dq=universe+Milky++rotation#PPA70,M1 
  8. ^ Ernst Mach; as quoted by Ignazio Ciufolini; John Archibald Wheeler (1995). Gravitation and Inertia. Princeton University Press. pp. 386–387. ISBN 0-691-03323-4. https://books.google.com/books?id=UYIs1ndbi38C&pg=RA1-PA386&dq=centrifugal+Einstein+rotating+globes#PRA1-PA387,M1 
  9. ^ Milutin Blagojević (2002). Gravitation and Gauge Symmetries. CRC Press. p. 5. ISBN 0-7503-0767-6. https://books.google.com/books?id=N8JDSi_eNbwC&pg=PA5&dq=inertial+frame+%22absolute+space%22#PPA5,M1 
  10. ^ Isaac Newton: Principia, Corollary V, p. 88 in Andrew Motte translation. See the Principia on line at Andrew Motte Translation
  11. ^ C Møller (1976). The Theory of Relativity (Second ed.). Oxford UK: Oxford University Press. p. 1. ISBN 0-19-560539-X. http://worldcat.org/oclc/220221617&referer=brief_results 
  12. ^ 徳岡辰雄 (1980), “有理力学とは何か”, 日本物理学会誌 (社団法人日本物理学会) 35 (3): 210–218, https://doi.org/10.11316/butsuri1946.35.210 
  13. ^ Rafael Ferraro (2007). op. cit.. p. 59. ISBN 978-0-387-69946-2. https://books.google.com/books?id=wa3CskhHaIgC&pg=PA1&dq=time+%22absolute+space%22#PPA59,M1 

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