地理学における空間
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/10 00:55 UTC 版)
「地理空間」はこの項目へ転送されています。『地理空間』と訳されるフランスの学術雑誌については「fr:L'Espace géographique」を、地理空間学会の学会誌については「地理空間学会#機関誌「地理空間」」をご覧ください。 社会科学において、地理学は、空間をその論理契機として枢要な位置にすえている。地理学的空間、地理学用語としての空間は、地表部の一部を指し、3次元空間を地理的要素が分布する2次元的広がりに転用して用いる。一般的に地帯地方地域地区領域などと呼び、地域計画の分野では地理学的空間を立地空間としてとらえ、土地利用、土地所有、家屋分布、道路網、景観等の基礎調査で3次元空間を2次元空間に置きかえることが成されて、踏襲している。相対空間の距離が輸送費・移動に伴う労苦や事業所・社会集団の立地点として、また、絶対空間の広がりが需要空間や国土領域などとしてとらえられ、その理論体系に重要な役割を演じている。新しい経済地理学は、物理的空間と経済・社会との連関を、経済社会による空間の包摂としてとらえ、均質な物理的空間から異質な経済・社会空間が生産される過程をこの包摂過程から体系的に説明している。 経済・社会は、その容器として絶対空間を必ず充用しなければならないが、絶対空間は同時に、連続性をもち、その中に存在する物体や主体を関係付けて均質化してしまう。このため、市場主体や社会集団の自立性は損なわれる。これが、「絶対空間の形式的包摂」である。これを否定するため、経済・社会を支配する主体は、空間を仕切って、市場主体や社会集団の自立性を回復しなければならない。これが有界化という、「絶対空間の実質的包摂」の過程である。例えば、最近市場原理主義の下で語られるコモンズの悲劇の問題において、コモンズ(入会地、共有地)は、形式的に包摂された絶対空間であり、これを有界化して各区画を私有とすることは、市場経済への絶対空間の実質的包摂である。 経済・社会はまた、その主体の活動位置の特定のため相対空間も充用しなければならない。だが、相対空間は同時に距離の性質をもち、活動する主体を引き離す。このため、市場など経済・社会組織の統合は困難となる。これが、「相対空間の形式的包摂」である。これを否定するため、経済・社会を支配する主体は、相対空間の各位置を結びつけて、市場主体や社会集団の統合を回復しなければならない。これが空間統合と呼ばれる、「相対空間の実質的包摂」の過程である。しかし多くの場合、空間統合は2次元の平面の広がりがつくる距離を1次元の線分の集合たるネットワークによって否定しようとする行為であるので、新幹線や高速道路の建設は、この空間統合をより効率的に行う試みであるが、高速交通手段であるほど単位距離あたりコストがより多くかかり、ネットワークが疎になるので、空間の不均質性はかえって拡大してしまう。これを、空間統合のパラドクスという。 これらの絶対・相対空間の実質的包摂を通じて、物理的空間上に、不均質性をもつ、経済・社会の空間編成が刻み込まれる。これが、空間の生産である。とくに、生産された空間が可視的な物体の形をとる場合、その空間のシステムとなった総体を建造環境と呼ぶ。また、物理的(原初的)空間と生産された空間の編成との相互、ならびに実質的包摂の結果生産された領域と空間統合との相互が全体として絡み合った空間を、相関空間と呼ぶ。
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