空間と時間の再編成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/01/15 01:31 UTC 版)
「ジェームズ・W・ケアリー」の記事における「空間と時間の再編成」の解説
電信がもたらした最も重要な効果のひとつは、社会関係においても、商取引においても、時空間を再構造化したことであった。ケアリーはこの概念について、この章を通して様々に論じており、人が距離を超え、時間を超えてコミュニケーションするあり方を、電信が変化させ始めた経緯の詳細を描いている。ケアリーは、電信によって地理はコミュニケーションとは関係が薄いものになったと述べている。電信は、「表象が輸送から独立し、より速く動くことを可能にした (allowed symbols to move independently and faster than transportation)」のである。 ケアリーは、空間がコミュニケーションに課していた制約が縮小していくことに関し、電信が社会にもたらした重要な諸変化について特に焦点を当てて議論した。地理の無意味化はやがて、コミュニケーションが局地的なものから全国的なものへ、さらには、国際的、全地球的なものへと広がることを可能にした。電信は、世界の一方にいる人に、ほとんど即時的に世界の反対側にいる人とコミュニケーションすることを可能にした。ケアリーは、電信が引き起こした、言語や文体における諸変化についても言及している。電信を送る費用が大きかったことから、言語や文体はより簡潔なものに変容したと、ケアリーは指摘した。「電信は散文を傾かせ、より簡素なものとし (telegraph made prose lean and unadorned)」、その結果、それまであった読者の書き手に対する人格的な結びつきは切り離された。ケアリーによれば、もはや、人格を反映したような逸話やユーモアは、盛り込まれることはない。しかし、空間との関わりが薄まるにつれ、言語が変化することには、他の理由もあるとケアリーは述べている。電信によって確立されたグローバリゼーションの開始によって、言語はもはや局地的であること、口語的であることができなくなっていく。ケアリーは、電信が「ニュースに根本的な変化をもたらした (led to a fundamental change in news)」述べている。文体は、異なる信念なり見解をもつ人々すべて、多くのことなる地域社会、地方、国々の個々人すべてが読めるように、本質的に客観的なものへと変わっていった。ケアリーはまた、空間の認知におけるこうした変化が、人々の思考を変化させた過程についての論じている。個々人が遠方の、自分たちとは信念も大きく異なり、生活のありさまも異なる人々と容易にコミュニケーションできるようになったことで、新たな社会意識が生じたことは明らかであった。 この著作においてケアリーは、時間に対する空間の再編成についてのさらに議論を展開し、このようなコミュニケーションへの障害として空間の縮退の結果、時間の方が一層重要になってきたのだと論じている。電信が存在し、それを使用することで、例えば商取引において、時間の不確定性が、空間の不確定性よりも重要になっていく。ある意味で時間は「拡張され (expanded)」、取引の時間はもはや昼間に限らなくなった、というのも、人は異なる時間帯にいる相手、地球の反対側の半球にいる相手とも取引できるようになったからである。 ケアリーによれば、電信が、空間と時間を再編成するコミュニケーションの変革を導いたのである。この本の第8章で、ケアリーはこうした議論を簡明に述べている。
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