重症急性呼吸器症候群とは?

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重症急性呼吸器症候群

【英】:severe acute respiratory syndrome

コロナウイルス一種SARSウイルス(SARS-CoV)による感染症である。2003年2月アジア最初症例報告され、3月からの数ヶ月世界24カ国以上に拡散し、感染者8,098名、死亡774名の犠牲出し2003年流行終結した。この流行拡散速さ未知感染症脅威世界認識されるとともにさまざまな教訓を残した。対応が遅れたり不適正であったり、ましてや被害隠蔽すると感染者は際限なく拡散することが膨大な犠牲者数で示された。一方で、各機関国際的協力して適正に対応すると犠牲最小限抑制できることも同時に学んだ。
SARS症状は、高熱で始まる。悪感頭痛全身倦怠などを随伴するが、呼吸器症状初期には少なく発病2-7日後に肺炎症状になる。乾性咳強くなり動脈血酸素分圧低下して、10-20%に人工呼吸器が必要になる。伝播様式は、SARS-CoV感染者の咳などの飛沫によりヒトからヒト伝播する。近距離では直接に、口・目・耳の粘膜を介して感染し、間接的汚染物に触れた手から感染することもある。さらに、SARS-CoVは空気中に散布されて拡散した疫学記録があり、感染経路詳細不明である。
SARS対策個人的には、感染者との濃厚接触避けることである。濃厚接触とは、キッス抱擁食器などの共有対面での会話汚染物に直接触れることなどである。集団としての対応は、SARS伝播迅速に確認して、対応(予防治療)しなくてはならないそのためには迅速精度の高い診断法の開発研究急務である。

重症急性呼吸器症候群


中国南部広東省起源とした重症な非定型肺炎世界的規模集団発生が、2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS: severe acute respiratory syndrome)の呼称報告され、これが新型コロナウイルス原因であることが突き止められた。わが国においては同年4月新感染症に、ウイルス特定された6月指定感染症指定され、2003年11月5日より感染症法改正に伴い第一感染症としての報告義務けられるようになった前回集団発生2002年11月16日中国症例始まり台湾症例最後に2003年7月5日にWHOによって終息宣言が出されたが、32地域と国にわたり8,000人を超える症例報告された。

疫 学
SARS2002年11月16日に、中国南部広東省で非定型肺炎患者報告されたのに端を 発し、北半球インド以東アジアカナダ中心に32地域や国々へ拡大した。中国では初期305人の患者死亡例5人)が発生し、2003年3月始めに旅行者を介してベトナムハノイ市での院内感染や、香港での院内感染を引き起こした。同年3月12日にWHOは、全世界向けて異型肺炎流行に関する注意喚起Global Alert)を発し、本格的調査開始した。3月15日には、原因不明重症呼吸器疾患としてsevere acute respiratory syndromeSARS)と名づけ、「世界規模の健康上の脅威」と位置づけ異例旅行勧告発表した1)

2003年12月31日時点データによれば報告症例数は、2002年11月2003年8月中国中心に8,096人で、うち774人が死亡している。1,707人(21%)の医療従事者感染が示すように、医療施設介護施設などヒトヒト接触密な場合に、集団発生可能性が高いことが確認されている(表)。起因病原体特定のためのWHOを中心とした各国協力と、古典的隔離検疫対策用いて収束がはかられ、2003年4月16日新型SARSコロナウイルス(SARS-CoV)特定続き7月5日終息宣言が出された。

その後流行間期2003年9月シンガポール12月台湾続いて孤発実験室感染報告され、2004年1月入り中国広東省において3例の市中感染が疑われる症例報告された。さらに、2004年4月中国北京および安徽省において、実験室感染思われる例をきっかけに、合計9例(死亡1例)の患者発生確認されたが、大規模拡大はくいとめられた。

SARS-CoV流行中心院内感染であったこともあり、症例のほとんどは成人小児患者数は少ない。2003年5月末における中国データでは、罹患率2029歳で最も高く、人口10万人当たり2.92、次いで4049歳(2.15)、3039歳(1.87)の若年成人に高く、50歳以上の年齢群ではすべて1.8以下、10未満は0.16であった2)発症者の約80%は軽快し、およそ20%が重症化したが、予後年齢基礎疾患有無により異なっていた。男女差や人種差は、各集団 発生が生じた地域状況によって異なり疾患特性指摘することは難しい。

SARS起源感染経路病原性不顕性感染有無病態生理季節流行可能性など、依然として不明な点が多い。集団発生においては「スーパー・スプレッディング事例」と呼ばれる、ひとりの有症状患者多数への感染伝播関与した事例注目されているが、そのメカニズム解明されていない

わが国では、集団発生間中報告のあった可能性16例と疑い52例すべてが、他の診断がつき取り下げられたか、あるいはSARS対策専門委員会でSARS可能性否定されている3)

病原体
 コロナウイルス科ヒトコロナウイルスは一本鎖RNAウイルスで、軽症のかぜ様症状の約30%の原因となっていると考えられていたが、重症化の報告はほとんどなかった。SARSは、この科に属す新型SARSコロナウイルス(SARS-CoV)(図)により引き起こされる、全身性の感染症である4)

このウイルス種は、杓子状の突起表面有するエンベロープ持ちウイルス核酸そのもの感染性有ることが知られ、29,00031,000ヌクレオチド塩基を持つとされている5)ブタマウスニワトリ七面鳥などに呼吸器系消化管肝臓神経系などの病気をおこす動物コロナウイルスのあることも知られているが、SARS-CoVは、これらとは遺伝子的にも大きく異なる。一般的にコロナウイルス変異しやすいことも知られており、ワクチン治療薬開発上の今後問題点とされている。

感染経路は、飛沫および接触(糞口)感染主体とされるが、空気感染可能性を含め依然議論の余地がある。最も一般的には、感染性のある飛沫への曝露を伴う密接なヒトヒト接触伝播していると考えられ、医療従事者介護者などの場合は、感染性のある血液始めとした体液への直接的接触考えられる1)ヒト感染源となるのは有症者だけで、現在までのところ発症前の患者感染源となったという報告確認されていない動物媒介ハクビシンタヌキネズミ他)、食品媒介示唆され、消化器症状を伴う例も多く見られることから、糞口感染主体ではないかとの議論もある6)野生動物感染伝播に果たす役割については、依然結論は出ていない

臨床症状徴候
潜伏期は2~10日平均5日であるが、より長い潜伏期報告もまれにはある2)SARSの自然経過としては、発病第1週に発熱悪寒戦慄筋肉痛など、突然のインフルエンザ様の前駆症状発症する。疾患特異的症状症状群は確認されていない発熱歴が最も頻繁に報告されるが、初期検温ではみられないこともありうる発病第2週には非定型肺炎進行し、咳嗽初期には乾性)、呼吸困難みられる下痢発病第1週にもみられるが、一般的には第2週目により多く報告されている。最大70%の患者が、血液粘液含まない大量様性下痢発症する6)発症者の約80%はその後軽快するが、なかには急速に呼吸促迫酸素飽和度低下進行し、ARDS急性呼吸窮迫症候群)へ進行死亡する例もある。約20%が集中治療を必要とする。感染伝播は主に発症10日目前後をピークとし、発症第2週の間に起こる6, 7)

SARS特異的血液学的、生化学パラメーターはないが、病状とともに進行するリンパ球減少血小板減少APTT延長LDH上昇血清電解質異常などが複数研究により報告されている。ALTASTCPKの上昇の報告はあまり多くない7)

症候場合もほとんどの患者で、最も早期で第3~4病日に胸部レントゲン、あるいはCT上の変化みられる典型的所見では、細変化所見や斑状影が片側の末梢野に始まり陰影の増多またはすりガラス陰影進行する。移行性の陰影もある。さらに進行した病期では、時に自然気胸、気縦隔胸膜下線維症や嚢胞変化などを含む所見みられることがある8)

病理組織像は間質浮腫線維化、細への間質液浸潤、下肺野の無気肺などが主体ARDS所見を示す9)

成人例では胸部所見症状から、インフルエンザマイコプラズマレジオネラなどをはじめとした肺炎鑑別対象となる。また、既知コロナウイルス活動期季節的にこれらの患者増加する時期と重なることから、診断時には十分な注意が必要である。小児例ではこれ以外にも、RSウイルス感染なども鑑別対象となる。

SARS致死率感染者の年齢基礎疾患感染経路曝露したウイルスの量、国によって大きく異なる。全体としてはおよそ9.6%(2003年9月)と推計されているが、24未満では1%未満2544歳で6%、4564歳15%、65歳以上で50%以上となっている。男性であること、基礎疾患存在高致死率のリスク因子とされている10SARS可能性があると判断された人のうち、1020%が呼吸不全などで重症化しているが、8090%の人は発症後6~7日軽快している。1カ月上人呼吸治療続けても死亡する例がある。

無熱発症や、細菌性の敗血症または肺炎併発のような非定型的発症仕方が、高齢者における問題点として特に取り上げられている。一般にこの年齢層は、免疫力低下や基 礎疾患伴っていることが多く、他の年齢層より頻繁に医療施設利用するなど、院内感染伝播事例発生につながっている。また、小児におけるSARS報告頻度は低く、12歳未満では咳嗽鼻汁のみなど、より軽症なことが多い。妊娠中のSARS感染は、妊娠初期では流産の、妊娠後期では母体死亡増加につながる例のあることが報告されている。

病原診断
SARS-CoV検査法としては、ウイルス分離RT-PCR法LAMP法血清抗体測定実施可能であるが、病原体診断によるSARS早期診断現段階では困難である。病原体検査陰性そのまま感染否定するものではなく診断臨床所見加え感染曝露歴の有無、他疾患除外により行われなければならない臨床検体としては、糞便喀痰鼻咽腔ぬぐい液、血清などを用いるが、検体採取時期により検出率影響が出る。また、検査法には下記のような特徴があり11、安全上の問題から、P3施設以外でのSARS-CoVの取り扱いは行わないこととなっている。

  1. ウイルス分離検体からウイルスそのもの分離検出するため、確実な診断が可能であるが、感度が低く、時間要する
  2. RT-PCR法:SARS-CoVのRNA検出する迅速な検査法で、特異度も高いとされるが、感度が十分と言えず、陰性結果がただちにSARS否定にはならない病期によりウイルス排泄量が異なるため検出感度影響され、発症10日前後が最も高い。
  3. 血清抗体価測定ELISAIFANT3種類があり、いずれも急性期回復期ペア血清用いて検査を行う。現在使用可能な方法では、第20病日で約60%、第30病日で95%程度陽性率であるため、回復期血清採取発病3週目以降推奨される。


治療予防
有効な根治療法はまだ確立されていない。病初期には鑑別診断を急ぐとともに症状緩和と胸レントゲン所見改善目的として、一般細菌性肺炎対象に、広域スペクトル抗菌薬療法を行う。肺病変が進行する場合は、酸素投与人工呼吸器などによる患者管理が必要となる。海外では抗ウイルス剤であるリバビリン静脈内注射ステロイド剤併用療法インターフェロン療法などに効果期待できるとの報告もあるが、治療効果確認されていない1)

患者早期検知即時隔離と、接触者の自宅隔離検疫)以外には、特に有効な予防措置はない。一般的呼吸器感染症予防策として手洗い、うがい、マスク着用体力免疫力増強をはかる、人混みへの外出控えるなどがあげられる1,7)

感染症法における取り扱い
重症急性呼吸器症候群は一類感染症定められており、診断した医師直ち最寄り保健 所に届け出る報告のための基準以下の通りになっている
確定例の判断基準
診断した医師判断により、症状所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の方法によって 病原体診断血清学診断がなされたもの。
材料鼻咽頭ぬぐい液、喀痰、尿、便、血清など
 ・病原体検出
  例 ウイルス分離など
 ・病原体遺伝子検出
  例 PCR法LAMP法など
 ・血清抗体検出
  例 酵素免疫測定法ELISA)、免疫蛍光法IFA)、中和試験など
注)これらの検査所見(特にPCR法LAMP法ウイルス分離)で陰性になった場合でもSARS否定することはできない。この場合には、医師総合判断により、疑似症例として取り扱うこととする

疑似症の判断基準
臨床所見渡航歴などにより判断する。
以下の1)又は2)に該当し、かつ3)の条件を満たすものとする

1)平成14年11月1日以降に、38度以上の急な発熱及び咳、呼吸困難などの呼吸器症状示し受診した者のうち、次のいずれか1つ上の条件を満たす
(一)発症10日以内に、SARSが疑われる患者看護若しくは介護していた者、同居していた者又は気道分泌物若しくは体液直接触れた者
(二)発症10日以内に、SARS発生報告されている地域(WHOが公表したSARS伝播確認地域)へ旅行した者
(三)発症10日以内に、SARS発生報告されている地域(WHOが公表したSARS伝播確認地域)に居住していた者

2)平成14年11月1日以降死亡し、病理解剖が行われていない者のうち、次のいずれか1つ上の条件を満たす
(一)発症10日以内に、SARSが疑われる患者看護若しくは介護していた者、同居していた者又は気道分泌物若しくは体液直接触れた者
(二)発症10日以内に、SARS発生報告されている地域(WHOが公表したSARS伝播確認地域)へ旅行した者
(三)発症10日以内に、SARS発生報告されている地域(WHOが公表したSARS伝播確認地域)に居住していた者

3)次のいずれか条件を満たす
(一)胸部レントゲン写真肺炎、または急性呼吸窮迫症候群所見を示す者
(二)病理解剖所見呼吸窮迫症候群病理所見として矛盾せず、はっきりとした原因がないもの
 注)他の診断によって症状説明ができる場合除外すること。

備考
SARS伝播確認地域指定されていない期間においては報告基準の「確定例の判断基準」を満たすもののみとする。


文献
1)CSR, WHO: Severe acute respiratory syndromeSARS): Status of the outbreak and lessons for the immediate future. WHO, Geneva, 2003(May) (http://www.who.int/csr/media/sars_wha.pdf)
2)Chinese CDC, The People's Republic of China: Overview of epidemics and responses to the severe acute respiratory syndromeSARS)in the People's Republic of China. Chinese CDC, The People's Republic of China. 2003June
3)国立感染症研究所感染症情報センターSARS対策チーム本邦におけるSARS:重症急性呼吸器症候群サーベイランスへの報告症例. 病原微生物検出情報2003; 24(7): 156-159
4)Drosten C, et al: Identification of a novel coronavirus in patients with severe acute respiratory syndrome. N Engl J Med 2003; 348: 1967-1976.
5)Marco AM, et al: The genome sequence of the SARS-associated coronavirus. Science 2003;300: 1399-1404
6)Donnelly CA, et al: Epidemiological determinants of spread of causal agent of severe acute respiratory syndrome in Hong Kong. Lancet. 2003; 361: 1761-1766.
7)CSR, WHO: Alert, verification and public health management of SARS in the post-outbreak period. 14 August 2003http://www.who.int/csr/sars/postoutbreak/en/)
8)Wong KT, et al: Severe acute respiratory syndrome: radiographic appearances and pattern of progression in 138 patients. Radiology 2003; 228: 401-406.
9)Nicholls JM, et al: Lung pathology of fatal severe acute respiratory syndrome. Lancet 2003;361: 1773-1778.
10CSR, WHO: Consensus document on the epidemiology of severe acute respiratory syndromeSARS). WHO, Geneva, 2003http://www.who.int/csr/sars/en/WHOconsensus.pdf)
11CSR, WHO: Sampling for severe acute respiratory syndromeSARS)diagnostic tests. 29 April 2003http://www.who.int/csr/sars/sampling/en/)


重症急性呼吸器症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/12/27 17:50 UTC 版)

重症急性呼吸器症候群(じゅうしょうきゅうせいこきゅうきしょうこうぐん、英語: Severe Acute Respiratory Syndrome; SARS(サーズ))は、SARSコロナウイルスにより引き起こされる感染症新型肺炎(非典型肺炎、沙士、非典、中国肺炎、Atypical Pneumonia)とも呼ばれた。




  1. ^ 重症急性呼吸器症候群(SARS)関連情報 - 厚生労働省
  2. ^ Laboratory confirmation of a SARS case in southern China - update 2 - WHO
  3. ^ 感染症のページ(青森県)
  4. ^ SARSコロナウイルス配列決定 Part.2”. SARSアップデート情報. 日本旅行業協会 (2003年4月17日). 2009年5月1日閲覧。
  5. ^ SARSコロナウイルス配列決定”. SARSアップデート情報. 日本旅行業協会 (2003年4月15日). 2009年5月1日閲覧。
  6. ^ 「SARSウイルス、24時間後も感染力保持 WHOの専門家」『朝日新聞』2003年5月4日[要検証 ]
  7. ^ ・アナグマ等も保菌者として疑われたことがある(SARS タヌキやアナグマからも - ウェイバックマシン(2003年8月15日アーカイブ分) - スポーツニッポン(2003年5月25日))。
  8. ^ Seto WH, et al. Effectiveness of precautions against droplets and contact in prevention of nosocomial transmission of severe acute respiratory syndrome (SARS). Lancet. 2003; 361(9368):1519-20.
  9. ^ “SARS(重症急性呼吸器症候群)患者対応救急車を京都府に寄贈” (プレスリリース), 日産自動車, (2003年7月11日), http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2003/_STORY/030711-01.html 2009年5月1日閲覧。 
  10. ^ SARS治療用の免疫物質の開発に成功 深セン” (日本語). 人民網日文版. 人民日報社 (2003年7月30日). 2003年10月5日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2003年7月30日閲覧。
  11. ^ SARS騒動でアジアの航空・観光業に莫大な被害(WIRED.jp、2003年4月16日付)


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