レプトスピラ症とは? わかりやすく解説

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レプトスピラ症

ワイル病、秋やみなどに代表されるレプトスピラ症(leptospirosis)は、病原性レプトスピラ感染起因する人獣共通の細菌スピロヘータ感染症である。病原性レプトスピラ保菌動物ドブネズミなど)の腎臓保菌され、尿中排出されるヒトは、保菌動物の尿で汚染され土壌から経皮的あるいは経口的に感染する1999 年4 月施行され感染症法では、レプトスピラ症は届け出疾患含まれていない(註:2003年11月施行感染症法一部改正により、4類感染症となった)。

疫 学
本邦では、1970 年代前半までは年間50 名以上の死亡例報告されていたが、近年では衛生環境の向上などにより患者数死亡者数)は著しく減少したしかしながら、現在でも散発的な発生各地認められている。特に沖縄県では散発、集発事例多く報告されている 1) 。1999 年夏季には、八重山地域においてレプトスピラ症の集団発生起こった15 例の確定診断なされたが、そのうち半数近く患者は、観光ガイドやカヤックインストラクターなど河川でのレジャー産業従事する人たちであった近年では、このように水辺レジャー介した感染増加しており、注目されている
一方国外でのレプトスピラ症の流行全世界的に起こっており、最近報告されたレプトスピラ症の流行事例だけでも、ブラジルニカラグアなどの中南米フィリピンタイなどの東南アジアなど、熱帯亜熱帯国々での大流行あげられる(図1)。特にタイなどでは毎年数千規模大流行続いており、早急な対策求められている。
近年海外渡航者は年々増加しており、これに伴い最近これら流行地域からのレプトスピラ症の輸入感染例報告されるようになった 2) 。また、海外からの家畜ペットなどの動物輸入を介してレプトスピラ持ち込まれることも予想され輸入感染症としてのレプトスピラ症にも注目していく必要がある

レプトスピラ症
レプトスピラ症

1. 世界でのレプトスピラ症の流行最近10 年間
レプトスピラ感染症パンフレット国立感染症研究所細菌部)より引用改変

図2. 病原性レプトスピラLeptospira interrogans )の電子顕微鏡

病原体
レプトスピラLeptospira )は、スピロヘータレプトスピラ科に属すグラム陰性細菌で、この科には他にレプトネマ(Leptonema )、ツルネリア(Truneria )が含まれる 3) 。レプトスピラには病原性非病原性2 種類があり、顕微鏡凝集試験MAT)に基づいて現在250上の血清型分類されている。
レプトスピラ通常長さ6~20μm直径0.1μm のらせん状の細菌で、両端あるいはその一端が、フック状に曲がっているのが他のスピロヘータにはない特徴である(図2)。レプトスピラは、微好気もしくは好気的環境生育し中性あるいは弱アルカリ性淡水中、湿った土壌中で数カ月生存できるとされる
病原性レプトスピラ保菌動物腎臓保菌され、尿中排菌される。保菌動物として、げっ歯類をはじめ多く野生動物家畜ウシウマブタなど)、ペットイヌネコなど)が挙げられている。ヒトは、この保菌動物の尿で汚染され土壌、あるいは尿との直接的な接触によって経皮的に感染するまた、汚染され食物飲食による経口感染報告もある。

臨床症状

レプトスピラ症は急性熱性疾患であり、感冒症状のみで軽快する軽症型から、黄疸出血腎障害を伴う重症型(ワイル病)まで多彩な症状を示す(表1)。5 ~14 日間潜伏期経て発熱悪寒頭痛筋痛腹痛結膜充血などが生じ、第4 ~6 病日に黄疸出現したり、出血傾向増強する。レプトスピラ症の臨床診断は見逃がしがおこりやすいが、臨床症状とともに保菌動物の尿に汚染されとの接触機会流行地域への旅行歴などの疫学的背景手がかりとなる。

レプトスピラ症

1. レプトスピラ症にみられる臨床所見

病原診断
1. 病原体分離
分離培養には抗菌薬投与以前発熱期の全血用いる。採血後、無菌的かつ速やかにレプトスピラ培養培地加え(コルトフ培地、EMJH 培地など3~5ml に、全血1~2 滴を接種)、30 数日1カ月静置培養する。レプトスピラは、暗視野顕微鏡下でひも状螺旋型の回転運動をする菌体として観察される
2. 血清診断
顕微鏡凝集試験法MAT)による、ペア血清用いたレプトスピラ血清型特異的な抗体検出確定診断には重要である。ペア血清で4 倍以上の抗体価上昇がみられた場合陽性とする。しかしながら病原性レプトスピラには230上もの血清型存在し地域によってその流行血清型異なる。そこでレプトスピラ感染スクリーニング法として、マイクロカプセル凝集法MCAT)、dipstick 法、ELISA 法などがある。
3. レプトスピラ遺伝子PCR による検出
全血からのレプトスピラ16S rRNA 遺伝子鞭毛構成成分一つであるflaB 遺伝子などのPCR による検出系がある 4) 。

治療・予防
軽~中等度のレプトスピラ症の場合には、ドキシサイクリン服用勧められている。重度症状場合一般にペニシリンによる治療が行われる 5) 。他のスピロヘータ感染同様に、レプトスピラ症の治療ペニシリン用いた場合はJarisch‐Herxheimer 反応抗菌薬投与後に起こる、破壊され菌体成分によるとみられる発熱低血圧主症状とするショック)がみられることがあるので、静注投与受けた患者観察が必要である。
レプトスピラ症の予防として、現在日本では、血清型copenhageni,australis, autumnalis, hebdomadis の4血清型の全菌体ワクチン製造されている。しかし、レプトスピラ対す免疫血清型特異的であるとされており、ワクチン含まれていない血清型感染対す予防効果不明である。また薬物予防として、ドキシサイクリン効果報告されている。
東南アジアでは、レプトスピラ症の流行多雨期から収穫期(7~10月頃)に集中することが疫学的に確認されている。レプトスピラ症の流行地域では不用意に入らないこと、特に洪水のあとには絶対に入らないことが予防には重要である。

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
レプトスピラ症は4類感染症定められており、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りとなっている。
○  診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断もしくは血清学診断なされたもの。
 ・ 病原体検出
  例、 分離培養(コルトフ培地、EMJH培地など3~5mlに、全血1~2滴を接種し30度で数日1カ月静置培養する。)
 ・ 病原体遺伝子検出
  例、 PCR法16SrRNA遺伝子、flaB遺伝子など)
 ・ 血清抗体検出
  例、 顕微鏡凝集試験法MAT)によって、急性期回復期ペア血清で4倍以上の抗体上昇見られ場合あるいは特異的IgM抗体陽性場合

文献
1 )中村正治:化学療法領域17:2154, 2001.
2 )坂本光男他:感染症学雑誌75:1057, 2001.
3 )Faine S et al.: "Leptospira and Leptospirosis" 2nd ed.MediSci, Melbourne,1999.
4 )Kawabata H et al.:Microbiol.Immunol. 45: 491496, 2001.
5 )Plank R et al.:Microbes Infect.2 :1265, 2000.

国立感染症研究所細菌第一部 小泉信夫)


レプトスピラ症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/03 23:22 UTC 版)

レプトスピラ症
病原性レプトスピラの電子顕微鏡写真
概要
診療科 感染症内科学
分類および外部参照情報
ICD-10 A27
OMIM 607948
DiseasesDB 7403
MedlinePlus 001376
eMedicine med/1283 emerg/856 ped/1298
Patient UK レプトスピラ症

レプトスピラ症(Leptospirosis)は、病原性レプトスピラ科スピロヘータの感染による人獣共通感染症

古より秋疫(あきやみ)、用水病、七日熱(なぬかやみ)などの名前で呼ばれたが、大まかには黄疸出血性レプトスピラ(ワイル病)、秋季レプトスピラ、イヌ型レプトスピラなどに分けられる。感染症法の四類感染症であり[1]家畜伝染病予防法の届出伝染病にも指定されている。と畜場法においては全頭廃棄の対象となる。

ワイル病の名は、1886年にドイツの医学者アドルフ・ヴァイル英語版(Adolf Weil)により初めて報告されたことによる。

原因

スピロヘータ門スピロヘータ綱レプトスピラ目レプトスピラ科に属するグラム陰性菌レプトスピラLeptospira )、レプトネマ(Leptonema )、ツルネリア(Truneria )の病原株が原因となる。好気的環境を好み生育し、中性から弱アルカリ性の淡水中、湿った土壌中で数カ月は生存するとされている。ネズミなどの野生動物を自然宿主として、ヒトだけでなくイヌウシブタなどほとんどの哺乳類に感染する。腎臓尿細管などで増殖し、排泄物を経由して汚染された水や土壌から経口・経皮的に感染する[1]。ヒトからヒトへの感染は起こらない。

2022年琉球大学の研究チームは西表島の河川付近の土壌を分析し、宿主動物がイノシシおよびクマネズミ類であることを明らかにしている[2]

疫学

中南米東南アジアなどの熱帯亜熱帯地域での流行があり、東南アジアの流行は7 - 10月に集中している。特に被害が深刻なのはタイであり、年間数千人規模の流行がみられる。日本では1970年代前半までは年間50名以上の死亡が報告されていたが、近年では患者数、死亡者数とも激減し、各地で散発的に認められる程度である[1]。集団感染の例としては、1999年に沖縄県八重山諸島の例が確認されている[1]下水道工事関係者や畜産関係者などの患者が多く、職業病の一つである。近年では水辺のレジャー産業に関わる患者が増加している[1]。また、海外渡航者の増加に伴い、流行地からの輸入感染例が報告されているほか、海外からの家畜や伴侶動物などの輸入を介して国内にレプトスピラが持ち込まれる可能性が指摘されている[1]

海外ではトライアスロンなどのウォータースポーツによる集団発生も報告されている。2014年には沖縄県の北部演習場で米兵90人が感染[3]、2016年9月28日には8月6~7日に同県国頭村の奥間川で遊んだ小中学生10人と30代女性の計11人が、8~12日後に発熱や筋肉痛、結膜充血などを発症したという集団発生のケースが同県健康長寿課から発表されている[4]。2005年4月に輸入アメリカモモンガ由来の感染により、静岡市内の動物取り扱い業者の従業員2名が発病した。輸入した108頭は、炭酸ガスで安楽殺後、焼却された[5]

災害に伴う発生例

症状

  • ヒト
潜伏期間は3日から14日程度で、悪寒、発熱、頭痛、全身の倦怠感、眼球結膜の充血、筋肉痛、腰痛など急性熱性疾患の症状を示すとされる。ツツガムシ病日本紅斑熱と似た症状を呈する[7]。軽症型の場合は風邪と似た症状でやがて回復するが、ワイル病の別名でも呼ばれる重症型では、5〜8日後から黄疸、出血、肝臓・腎臓障害などの症状が見られ、エボラ出血熱と同レベルの全身出血を伴ったり、播種性血管内凝固症候群を引き起こす場合もある。重症型の死亡率は5〜50%とされる。しかし、初期の把握痛や結膜充血及び進行して発現するとされる黄疸、点状出血、肝脾腫など特徴的な症状を示さない場合もある。
  • イヌ
急性の場合、出血、発熱、嘔吐、血便、口腔粘膜の潰瘍、黄疸、腎炎、出血傾向などの症状を示し、2〜4日で死亡する。
  • ウシ・ウマ・ブタ・ヒツジ・ヤギ
発熱、溶血性貧血、黄疸、流産・死産、生殖障害、間欠性眼炎、虹彩毛様体炎など、種によって様々な症状を示す。

キツネスカンクオポッサムのほか、家鼠をはじめとする各種囓歯類では不顕性感染(症状が表れない)で保有体となって感染源になる。ただしハムスターは例外的に激しい症状を示して1 - 2週間で死亡する。また、ブタやウシも感染源となっている可能性が示唆されている。

診断

  1. 病原体の分離 - コルトフ培地というレプトスピラ菌専用の特殊な検査培地による病原体の培養によって行う[1]
  2. 血清診断法 - 顕微鏡下凝集試験法(MAT)による抗体の検出[1]
  3. レプトスピラ遺伝子のPCR法による検出[1]

治療

主に抗生物質が使用される[1]。軽症型にはβラクタム系やアミノグリコシド系、テトラサイクリン系、重症型ではストレプトマイシンペニシリン系の抗生剤が使用される事が多い。ただし投与後に、体内の細菌が一斉に崩壊して毒素が短時間で血液中に放出され、発熱・低血圧などのショック症状(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応 Jarisch Herxheimer)を起こす場合がある。

予防

  • ワイル病秋疫混合ワクチン
血清型が合致する菌に対しては6年程度免疫が有効とされるが、初回は一週間間隔で2回接種し、1年後にもう1回接種する必要がある。なお、確認されている血清型は250以上あるが、現在のワクチンではその中の5つの型にしか対応していない。
  • 50℃10分の熱で死滅するほか、乾燥やpH6.8以下の酸に弱い為、次亜塩素酸ナトリウムヨードチンキ逆性石鹸で消毒出来る。一方で低温には強い。
  • 軽症型での治療にも使われるドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系抗生剤は予防に効果があるが、長期間の服用は奨められないとされる。
  • 流行地域では不用意に水に入らないこと[1]。特に洪水の後は感染の危険性が高まるため、絶対に水に入らないこと[1]
  • イヌの輸入の際はレプトスピラに感染していないことを証明する必要がある。

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l レプトスピラ症とは”. www.niid.go.jp. 国立感染症研究所. 2023年9月13日閲覧。
  2. ^ 世界遺産・西表島における「レプトスピラ症」の病原体を 土壌培養と環境DNAから総合分析”. 琉球大学 (2022年4月1日). 2023年9月17日閲覧。
  3. ^ 米兵90人レプトスピラ症の疑い 北部訓練場一部使用中止 (2014年11月9日 沖縄タイムス)
  4. ^ レプトスピラ症が沖縄で過去最多 川遊びの児童ら11人集団感染 (2016年9月28日 沖縄タイムス)
  5. ^ 静岡市保健所保健予防課 大輪達仁 長坂好洋 厚生労働省健康局結核感染症課 三木 朗. “輸入動物(アメリカモモンガ)に由来するレプトスピラ症感染事例-静岡市(概要)”. 2019年9月17日閲覧。
  6. ^ 台風16号、台風17号による死者(2009年10月19日 AFP News)
  7. ^ 日本紅斑熱が疑われたレプトスピラ症の1例―宮崎県 国立感染症研究所

関連項目

外部リンク


「レプトスピラ症」の例文・使い方・用例・文例

  • 人のレプトスピラ症の重症なもの
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