アライグマ回虫による幼虫移行症とは?

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アライグマ回虫による幼虫移行症

北米原産アライグマに普通に見られるアライグマ回虫(Baylisascaris procyoni )は基本的にアライグマ以外の動物成虫になることはないが、ヒトがその虫卵経口摂取すると幼虫移行症を引き起こし致死的な中枢神経障害原因となる。わが国にも北米から移入されたアライグマ多数生息するため、それらからヒトへの感染を防ぐ注意が必要となっている。

疫 学

米国においては1981 年の初発以来アライグマ回虫感染原因とする重症脳障害患者少なくとも12確認され、そのうち10 例は6 歳以下の小児で、3 名が死亡している。わが国では、人への感染事例は、現在まで報告されていないしかしながら動物園および観光施設で飼育されているアライグマには本寄生が見つかっており、最近東日本観光施設ウサギ群にアライグマ回虫による脳幼虫移行症発生していたことが明らかになった。わが国では1977 年のアライグマ主人公としたテレビアニメーション放映によるブーム以来、多い年には年間1,500 頭を数えアライグマ輸入されてきた。

アライグマ回虫による幼虫移行症

その結果、諸施設や一家庭で飼育されたアライグマは現在までに総計2頭を越えると推計され、その一部が飼育しきれずに逃亡遺棄されたため、野外定着繁殖している現状がある。これらの「野生アライグマ」は、全国47 都道府県のうち32 都道府県確認されている(図1)。我々の調査では現在のところ(2002 年10 月現在)、これらの「野生アライグマ」からはアライグマ回虫寄生例は確認されていない


病原体
アライグマ回虫成虫円筒形で、長さが雄で9 ~11cm 、雌で20 ~22cm あり、アライグマ小腸寄生する。虫卵糞便通じて外界放出されるが、115,000179,000 個/雌/日という膨大な産卵量がある。これらの虫卵適当な温度条件のもとで1114 日経過すると卵内に感染幼虫育ち幼虫包蔵卵となり、これが病原体となる。本アライグマ体内寄生成立する経路には二つある(図2)。第一幼虫包蔵卵を直接経口摂取することで成虫にまで発育する経路で、第二体内組織アライグマ回虫幼虫を宿しているネズミなどの小動物捕食すること、つまりある程度発育した幼虫摂取することで感染成立し、成虫にまで発育する経路である。ヒトおよびネズミなどの小動物では幼虫包蔵卵を経口摂取したとき、それらは成虫にまで発育できず幼虫のまま体内各所移動する。そして、固有宿主アライグマでは認められない激し病気引き起こすことになるが、これをアライグマ回虫による幼虫移行症と呼ぶ。

アライグマ回虫による幼虫移行症
アライグマ回虫による幼虫移行症

図2.アライグマ回虫(Baylisascaris procyonis )の生活史

臨床症状

アライグマ回虫による幼虫移行症の病害程度は、摂取した虫卵の数と幼虫移行部位依存する。
1 )神経幼虫移行症好酸球髄膜脳炎として発症する。一命取りとめた症例でも、発育障害神経系後遺症認められる
2 )眼幼虫移行症成人中心に一側性の網膜炎として発症する。視力障害残り失明することもある。アライグマ回虫による幼虫移行症は、イヌ回虫ネコ回虫起因するヒト幼虫移行症較べ重篤場合が多い。これは、体内移行中の幼虫がイヌ・ネコ回虫では0.5mm 以下であるのに対してアライグマ回虫では2.0mm 近くにまで急速に発育して体内移行し、特に中枢神経系での障害激しいためである。我々はマウス幼虫包蔵卵を実験的経口投与し、その症状観察した。

アライグマ回虫による幼虫移行症
アライグマ回虫による幼虫移行症

図4. 脳から回収された幼虫

図5. 脳組織内幼虫

50 個の虫卵投与した結果感染7日目に分泌物滲出して目を開けられなくなる「閉眼」、一定方向ぐるぐると輪を描くように回り続ける「旋回運動」、終始首を傾けたまま運動する「斜頚」、体を転げ回らせる「横転(さらに痙攣して失禁)」などの特徴的神経症状を認めた(図3)。感染10 日から死亡する個体もあり、解剖して調べると脳から体が回収された。体は体長が約1.2mm にも達し感染幼虫体長約0.27mm )の4 倍以上に発育していた(図4 )。大脳病理組織標本には、皮質移行中の体の断面認められた(図5)。

病原診断

アライグマ回虫卵で汚染された環境内で突然の好酸球髄膜脳炎発生した場合には、本症を疑う必要がある脳脊髄液好酸球増多、末梢血好酸球増多、MRI での深部白質異常、および脳脊髄液血清での特異抗体検出により診断が行われる。眼幼虫移行症では、検眼鏡により体が検出されて診断されたヒト症例報告されている。

治療予防
幼虫による中枢神経(系)への障害に関しては、抗線虫抗炎症剤による治療効果期待できない。しかし、感染後1 ~3 日時期では抗線虫アルベンダゾール20 ~50mg/kg/日、10 日間)によって中枢神経(系)へ侵入する以前駆虫できる可能性がある。アライグマ回虫卵を飲み込んで感染可能性がある場合には、直ちに抗線虫経口投与推奨されている。
アライグマの糞に含まれている可能性があるアライグマ回虫卵が唯一の感染源であるので、アライグマの糞で汚染された土壌その他を口に入れるのを避けることが重要である。わが国でのアライグマは、(1)動物園その他で展示用に飼育されているもの、(2)施設家庭でペットとして飼育されているか、動物業者元にいるもの、(3)「野生化」して野外で生活しているもの、などのいずれかである。このうち(1)と(2)の飼育群に関して糞便検査行いアライグマ回虫寄生認められた個体について抗線虫による駆虫確実に行う。また、寄生個体が1 頭で見つかったアライグマ飼育場や展示場においては虫卵不活化処理を完全に行うことが必要である。虫卵死滅させるには薬剤は殆ど効果がなく、煮沸焼却などの高温での処置のみが有効である。また、(3)の「野生化アライグマに関して直接接触避けアライグマが糞をする場所には近づかないなどの注意が必要である。

国立感染症研究所寄生動物部 川中正憲 杉山広 森嶋康之)

  




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