Q熱とは? わかりやすく解説

キュー‐ねつ【Q熱】

読み方:きゅーねつ

コクシエラ属リケッチア一種によって起こる、人畜共通の熱性感染症人間にはダニ媒介によって感染し発熱頭痛・せき・胸痛などの症状がある。感染症予防法4類感染症の一。オーストラリア発生し1937年初め報告された。

[補説] Qは初め病原体不明熱病だったためquery疑問疑惑)から名付けられた。


Q熱

Q 熱は重要な人獣共通感染症一つで、1935年オーストラリア屠畜場従業員の間で流行した原因不明熱性疾患として発見され、のちにリケッチア一種Coxiella burnetii による感染症であることが明らかにされた。Q熱という病名は、「Query fever不明熱」に由来している。

疫 学
オーストラリア発見され以来世界中でQ 熱の患者報告され広く認識されるようになった。本感染動物の尿、糞、乳汁などに排泄され環境汚染するヒトは主にこの汚染され環境中粉塵エアロゾール吸入し感染するウシヒツジの未殺菌乳製品生肉などを摂食感染することもあるが、稀である。
感染源はおもに家畜愛玩動物であるが、自然界では多く動物ダニ保菌しており、感染源となりうる。感染動物症状がない(不顕性感染)ことが多いが、妊娠しているウシヒツジ感染する流産死産をおこすこともある。これは、本胎盤爆発的に増殖するためである。このため大量に含む胎盤羊水原因となったヒト集団感染数多く報告されている。また、ネコ出産流産時のヒト感染も多い。一方でヒトからヒトへの感染はほとんどおこらない
わが国でも、1988 年カナダヒツジの胎仔を扱う研究従事していた医学留学生帰国後に発症し最初のQ 熱の症例として報告された。これを契機国内での調査・研究進みわが国にもQ 熱が存在することが明らかとなり、1999 年4月からは感染症法による届出始まった1999年には12人、2000年には23人、2001 年には40人の患者報告され増加傾向にある。これらの発生をみると、都市部での散発例が多く集団感染極めて少ないという特徴があった。感染源としては、患者飼っている愛玩動物重要視されているが、特定できない症例が多い。また、我々は最近オーストラリア農場視察行った畜産関係者3 人が同時に感染した輸入症例経験している。

病原体

Coxiella burnetii (コクシエラバーネティー)はリケッチア科コクシエラ属の小桿菌で、多型性を示す(写真1)。他のリケッチア同様に細胞内でのみ増殖できる偏性細胞内寄生細菌で、人工培地では増殖できないその大きさ0.2~0.4 ×1.0 μm で、球菌の1/2~1/4 である。増殖時の形態には大型菌体large cell variant, LCV)と小型菌体small cell variant, SCV)とがある。

Q熱

ともに感染性があり、LCV浸透圧対し抵抗性が低いが、SCV芽胞構造示し、熱、乾燥消毒強いた環境中安定である。そのため、他のリケッチアでは伝播ダニなどの媒介ベクター)を必要とするが、Q 熱では必要としないまた、腸内細菌似た相変異をおこし、I相およびIIよばれている。I 相野外病原菌体表面リポ多糖LPS)を保有しIIは、I相発育鶏卵培養細胞用いて長期継代弱毒化したLPS保有しない。このI相およびII血清診断には重要である(後述)。

臨床症状
Q 熱の病態大まかに急性慢性の2 つ分けられる急性型潜伏期一般的には2~3週間で、感染量が多いと短くなる症状発熱頭痛筋肉痛全身倦怠感呼吸器症状などで、インフルエンザ様である。しかし、主症状肺炎肝炎、あるいはその他の症状であったりと、その臨床像多彩である。他のリケッチア症と異なり皮疹みられることは稀である。検査所見では、CRP、肝酵素GOTGPTの上昇、血小板減少貧血などがみられるまた、急性型の2~10%心内膜炎主徴とする慢性型移行するといわれており、適切な治療をしないと致死率高くなる海外では急性Q 熱患者回復後しばらくして倦怠感不眠関節痛などを訴え数ヶ月十数年もの間持続し慢性疲労症候群診断される症例報告されている。
Q熱に特徴的な症状所見がないため、臨床的に他の熱性呼吸器疾患細菌性心内膜炎鑑別することは困難と思われる。したがって上記のような症状があり、動物との接触歴や海外流行地)への渡航歴があり、起因菌やウイルス証明できない場合には、本症を疑ってみる必要がある

病原診断
血清診断は主に間接蛍光抗体法などで行われる急性型では、まずII対す抗体上昇しその後I相対す抗体上昇する一般に、I相よりII対す抗体価高くなる急性型確定診断には、IIあるいは双方用いて急性期回復期ペア血清での抗体価の上昇を証明することによって行われる抗体価最初感染から数ヶ月数年持続する陽性判定は、ペア血清で4 倍以上の抗体価の上昇があったものとする単独血清での判定難しいことが多い。一方慢性型確定診断では、I相およびII対する高い抗体価がみられ、一般にI 相抗体価II抗体価より高いことから判定されるまた、慢性疲労症候群患者では全般的に抗体価が低いといわれている。
また、急性期血液からPCR法により遺伝子検出を行うことも可能である。外膜蛋白質superoxide dismutase 遺伝子などを標的としたPCR法利用されている。我々は、主に全血のバフィーコート分画から検出行っており、急性期に血清中からの検出も可能である。


治療・予防
治療にはテトラサイクリン系抗菌薬第一選択薬であり、クロラムフェニコールなども有効である。急性型場合には、抗菌薬による治療発症から3日以内に行うと一般的に効果が最も高いが、2~3週間続け必要がある。仮に再燃したら、すぐに投薬再開することが重要である。また、慢性型場合予後悪く数年にわたる投薬が行われても十分に効果得られないこともある。急性型発症の際に適切な治療行い慢性型移行させないことが重要である。
海外では家畜出産シーズン感染発生することが多く出産時動物愛玩動物含め)、特に死・流産などをおこした動物取り扱いには要注意である。流産胎盤などは焼却し汚染され環境クレゾール石けん液、5%過酸化水素水消毒するまた、オーストラリアでは屠畜場従業員などハイリスク群にはワクチン使用されているが、わが国では使用できない

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
Q 熱は4類感染症定められており、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る
報告のための基準以下の通りである。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断血清学診断なされたもの。
病原体検出
例、血液などからの病原体分離など
病原体遺伝子検出
例、PCR 法など
病原体対す抗体検出
例、間接蛍光抗体法(IF)法で抗体が4倍以上の上昇など


国立感染症研究所ウイルス第一部 小川基彦)


Q熱[Q fever]

 この病原体リケッチアは、生きた細胞の中でのみ二分裂で増殖し、約0.2~0.4 X 0.4~1.0μm桿菌状のリケッチアである。この多く動物不顕性感染しており、ウシヤギヒツジなどの家畜ネコなどの愛玩動物ヒトへの感染になっている妊娠動物胎盤急激に増殖する性質があるので、分娩時に羊水胎盤により周辺汚染されヒト汚染され塵埃吸入して感染を受けることが多い。

Q熱

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/09 13:57 UTC 版)

Q熱(きゅーねつ、Q fever)とは、人獣共通感染症の1つ。ニュージーランドを除く全世界で発生が見られる。Q熱という病名は、英語の「不明 (Query) 熱」に由来している。1935年にオーストラリアの屠畜場の従業員間で原因不明の熱性疾患が流行したのが、最初の報告である。日本においても年間30例程度のヒトの症例報告がある。獣医学領域ではコクシエラ症とも呼ばれる。

病原体

Coxiella burnetii

偏性細胞内寄生体であるレジオネラ目コクシエラ科コクシエラ属コクシエラ菌 (Coxiella burnetii) によって発症する。感染力がたいへん強く、たった1個吸い込んだだけでも感染・発病を起こす可能性がある。自然界においてはウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコなどの動物体内に存在する。65℃、30分では完全に不活化されるが、62℃、30分及び63℃、30分では一部が病原性を失わない。また、乾燥に強いため、塵埃と共に空気中に存在する可能性が高い。実験室内感染しやすく、危険度クラス3に指定されている。

感染

ヒトには、コクシエラ菌に感染している家畜ペットの糞便、乳、卵などを通じて感染するが、稀に保菌ダニの糞塵吸入や咬傷などからも感染する。ただし、鳥類は不顕性感染。日本国外では食肉解体処理場、羊毛処理場、乳肉加工場などでの爆発的集団発生(パンデミック)が記録されている。病原体の宿主からの完全な消失は容易ではなく、症状回復後も長期間網内系細胞に生残する。

症状

感染者の50%は不顕性感染に留まり、残りの50%で急性のQ熱を発病する。2 - 4週の潜伏期の後、高熱(37℃-40℃)、頭痛、悪寒、筋肉痛、咽頭痛、全身の倦怠感などのインフルエンザ様症状が出現し、そのうちの20%が肺炎肝炎の症状を呈する。これらの症状は1 - 2週間で改善し、予後は良好である。急性のQ熱の死亡率は1 - 2%で、回復した場合は終生にわたる免疫を獲得する。また、回復した後に慢性疲労症候群に類似した症状を呈することがある。子供がこの病気を発症した場合は引きこもりと勘違いされる事が多く、発見が遅れる事もある。

慢性のQ熱は、6か月以上にわたる感染がみられるもので、急性のQ熱に比べて症状が重い。急性Q熱から慢性Q熱に移行する頻度は5%程度とされている。慢性のQ熱では、慢性肝炎、骨髄炎、心内膜炎をおこすことが多く、予後は不良である。慢性のQ熱になりやすいのは、心臓弁膜症のある人、臓器移植を受けている人、や慢性腎臓病に罹っている人などである。

オーストラリアのMarmionらの報告によれば、慢性期に移行すると慢性疲労症候群様の症状が現れる、post Q fever fatigue syndrome(QFS)と呼ばれる症状が現れる。

QFSは、慢性疲労、微熱(平熱 - 37℃前半)、頭痛、関節痛、筋肉痛、寝汗、アルコール不耐症、睡眠障害、集中力と精神力の欠如、理性を失った怒りなどの精神的症状があらわれ、数か月から数年間継続する状態になる。QFSの症状は、他覚所見ではリンパ節腫脹も認められず、炎症所見が認められないか軽微であるため、一般的な感染症と認識されず原因不明とされることがある。

抑うつ症状を呈する症例が多数報告されているが、Q熱との因果関係は科学的に証明されてはいない。しかしながら、希死念慮から遺書を作成したり、検査によりQ熱陽性との結果が出た後に自殺した症例も報告されており、今後の検討課題ともなっている。

診断

A:非感染者
B:感染者のX線写真

原因不明の発熱、肺炎、肝炎はQ熱を疑う所見である。確定診断は病原体の分離および検出または血清学的診断(間接蛍光抗体法(IF)、酵素抗体法(ELISA)など)による。病原体分離は治療前血液をマウス,ラット、モルモット、発育鶏卵あるいはBGM細胞に接種して行う。

通常の急性Q熱では、IgM抗体の上昇に引き続いてIgG抗体の上昇を認めるが、QFSの場合、抗体反応に一定の経過を示さないことが多い。日本におけるIFAの陽性抗体価は、抗体価が4倍以上の上昇とされており、集団感染を基準とするQ熱先進国各国と同基準である。これらの検査に熟練を要するために検査機関が少なく、Q熱・QFS検出の障壁となっており、相当数の患者が潜在することを示唆することができる。2014年現在日本における法定伝染病に定められている(診断に至ると届け出の義務が生じる)にもかかわらず、診断に必要な検査は保険収載されておらず、1万円以上の自己負担が必要となる。

治療・予防

急性Q熱の治療においてはテトラサイクリン系抗菌薬が第一選択薬であるがニューキノロン系を使用することもあり、大抵は投与後2 - 3日以内に解熱するが、長期化した場合はリファンピシンなどと併用される。β-ラクタム系抗菌薬やアミノグリコシドは無効である。Q熱の再燃や慢性化を予防するため、症状が改善したのちも3 - 4週間ほど継続投与することが望ましい。動物の治療にもテトラサイクリン系の抗生物質が使用される。治癒した場合、免疫を獲得する。

オーストラリアでは、ヒト用のQ熱のワクチンが開発され、獣医師などの職業的にQ熱に感染するリスクが高いと考えられる人々に使用され、予防に成果をあげている。以前にQ熱に感染したことがある人では、ワクチンの注射部位に激しい局所反応を起こすことがあるため、接種の前に皮膚テストが行われる。

Q熱は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)における4類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要がある。

Coxiella burnetiiの小型細胞は、乾燥、消毒薬などに抵抗力が著しく強く、熱による殺菌については、手指、住環境内での殺菌が困難である。家庭で飼育する愛玩動物からの感染を防ぐためには、飼育に至る以前にその動物の検査が必要である。

患者が抱える困難

Q熱の診断にはQ熱を限定しての検査を行わなければならず、一般の検査、診察ではQ熱の検出ができない。急性期には、不明熱として処理されることが多い。人獣共通感染症は医療現場ではマイナーであり、医師の選択肢としても希薄である。QFSに至っている場合、感染、発症から期間があるため、患者本人も動物との接触が原因とは考えにくい。そのため、うつ病など他の疾患に誤診されやすい。Q熱患者がQ熱の診断、治療を受けるためには、患者本人または家族がQ熱に対しての知識を持ち、担当医師の診断、指導などを否定しなければならない。

Q熱の検査や治療を行っている医療機関は、日本全国においても東京都内と大阪府内に4施設のみであり、居住地によっては、検査や治療を受けるために体調が悪い状態で遠方まで移動しなければならない。そのうえ、Q熱の検査は健康保険対象外となっており、相当の経済的負担を強いられる。

食品の衛生管理

Coxiella burnetiiを不活化するため、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)において「生乳または生山羊乳を使用して食品を製造する場合は、その食品の製造工程中において、生乳または生山羊乳を保持式により63度で30分間加熱殺菌するか、またはこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌しなければならない」とされている。

その他

オウム真理教の元幹部・遠藤誠一が、教団内で呼吸困難を訴える信者が多数発生した際、Q熱と誤診したこともあった。林郁夫が再検査して誤診と判明したが、麻原彰晃米軍による生物兵器攻撃を受け、Q熱に罹患したと主張していた。

関連法規

出典及び脚注

外部リンク


Q熱

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/30 18:42 UTC 版)

マダニ」の記事における「Q熱」の解説

治療が遅れると死に至るうえ、一度でも重症化すると治って予後良くない。山などに行った後、皮膚などに違和感覚えたり風邪のような症状覚えたりしたら、この病気を疑うべきである。日本紅斑熱場合同じくキャンプハイキングなどに行った後に何らかの症状出た場合医師伝えることが推奨される

※この「Q熱」の解説は、「マダニ」の解説の一部です。
「Q熱」を含む「マダニ」の記事については、「マダニ」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「Q熱」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ

「Q 熱」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。



固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「Q熱」の関連用語

Q熱のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



Q熱のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
国立感染症研究所 感染症情報センター国立感染症研究所 感染症情報センター
Copyright ©2025 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.
微生物管理機構微生物管理機構
Microbes Control Organization Ver 1.0 (C)1999-2025 Fumiaki Taguchi
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのQ熱 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaのマダニ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS