尖形コンジロームとは? わかりやすく解説

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尖形コンジローム

尖形コンジローム(Condyloma acuminatum)は、ヒトパピローマウイルス6、11型などが原因となるウイルス性性感染症で、生殖器その周辺発症する淡紅色ないし褐色病変特徴的な形 態示し視診による診断が可能である。自然治癒が多い良性病変であるが、パピローマウイルスの型によっては悪性化にも注意しながら経過観察することが必要となる。

疫 学
性交またはその類似行為によって感染する疾患で、世界中分布している。患者大部分は性活動活発な年代みられるが、稀に両親医療従事者の手を介して幼児感染し発症することがあるまた、分娩時の垂直感染により、乳児喉頭乳頭腫発症する可能性示唆されている。我が国では年間10 万人あたり30 人程度発症がみられているが、1999 年4 月以降、他 の性感染症と同様増加傾向示している。また、徐々に女性占め割合高くなってきている(IDWR 、発生動向総覧2002 年4 月コメント参照)。

尖形コンジローム
尖形コンジローム

病原体
ヒトパピローマウイルス(図1)は小型DNA ウイルスで、約8,000 塩基対の2 本鎖環DNA正二十面体キャプシド包まれ構造をしている。エンヴェロープはない。ウイルス増殖できる培養細胞系がないため、患者から分離されウイルスは、ゲノムDNA塩基配列相同性基づいて90上の型に分類されている。型によって感染部位病理像異なる。皮膚感染する型では、1、24 型などが良性の疣、5、8、47 型などが皮膚癌原因となり、粘膜感染する型には、尖形コンジロームを引き起こす6 、11 型低リスク型)や子宮頚癌原因となる161831 型など(高リスク型)がある。尖形コンジロームから1 、2 型や1618 型が分離されることもあるので、感染しているウイルスの型を知ることが、予後推定に重要となる。
ウイルス表皮基底層細胞感染する感染細胞では、ウイルスの構造蛋白質であるE6 およびE7 蛋白質細胞p53pRb 蛋白質の機能阻害し細胞DNA 合成系を活性化してウイルスDNA の複製利用するDNA 合成を行う細胞分裂増殖し一方でp53介したアポトーシス阻害されるため感染細胞異常な増殖起こり病変形成される考えられている。

臨床症状
一般に自覚症状乏しいが、外陰部腫瘤触知違和感帯下増量掻痒感疼痛初発症状となることが多い。表面刺々しく角化した隆起性病変が特徴(図2)で、淡紅色褐色乳頭状鶏冠状、あるいはカリフラワー状表現される好発部位は、男性では陰茎亀頭部冠状溝、包皮内外板、陰嚢で、女性では膣、膣前庭大小陰唇子宮口、また男女とも、肛門及び周辺部尿道口である。子宮頸部、膣に発症した場合は、外陰病変同様の疣状を呈することもあるが、flat condyloma呼ばれる扁平な病変形成することが多い。2030%は3 カ月以内に自然消退する。

診 断
典型的な尖形コンジロームは乳頭状鶏冠状の特徴的な形態を持つため、視診で十分診断がつくことが多い。病巣範囲確定するには、子宮頸部や膣、外陰部酢酸溶液処理した後、コルポスコピー観察する形態的類似した悪性病変もあるため、確定診断組織学的に行う。
組織学的特徴軽度の過角化舌状表皮肥厚上皮細胞乳頭状増殖で、表皮突起部位顆粒層濃縮した細胞質空胞化した像(koilocytosis)がみられるヒトパピローマウイルスDNA容易に検出できる病変部のホルマリン固定検体生検試料膣の擦過細胞から抽出したDNA鋳型に、PCR によってウイルスDNA一部増幅し、そのDNA断片中に分布する複数制限酵素切断点調べることで、HPV DNA有無及び型を判定できる臨床試験会社請け負っており、1~3週間成績得られる多くは6、11型感染よるもので、悪性化することはないが、高リスク型が検出され場合経過観察注意要する

治療・予防
外科的治療には、切除CO2 レーザー蒸散法、電気メスによる焼却法や液体窒素による凍結法がある。CO2 レーザー蒸散法は、治療による周辺組織損傷少ないこと、高い治療効果速やかに得られることから最も優れている薬物療法としては5-フルオロウラシル軟膏ブレオマイシン軟膏などを塗布する方法がある。外国では1025%ポドフィリンアルコール溶液塗布が行われているが、我が国では市販されていない細胞診陰性になった場合治癒とする。通常ヒトパピローマウイルス感染から尖形コンジロームの発症には数週間から3カ月程度かかるといわれているので、治療終了後も最低3 カ月厳重な経過観察をして、再発早期発見努めることが必要である。本人治癒しても、パートナーHPV保持しているかぎり再感染可能性があるので、パートナーも必ず専門医受診し症状があれば治療をすることが重要である。また、垂直感染予防するために、妊婦発症した場合には分娩までに治療終了するべきである。
 ヒトパピローマウイルス皮膚粘膜微小な傷から侵入感染する。従って、感染予防にはコンドーム使用効果的であるが、外陰部アトピー性皮膚炎接触性皮膚炎などがある場合 は特に感染しやすいので注意要する
ウシパピローマウイルス感染ワクチン予防できることから、ヒトパピローマウイルス対す感染予防ワクチンは、高リスク型の中で最も高頻度検出される16 型を中心に開発進められており、米国第1 相試験が行われている。ワクチンによって感染防御抗体ヒト誘導できることが明らかになる同時に感染中和抗体が高い型特異性を示すことがわかり、多数の型の感染予防するワクチンの開発課題となっている。

感染症法における取り扱い
尖圭コンジローマは5類感染症定点把握疾患定められており、全国900カ所の性感染症定点より毎月報告なされている。報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下の基準
満たすもの
男女ともに、性器及びその周辺淡紅色または褐色調の乳頭状、または鶏冠状の特徴的病変認めるもの。

国立感染症研究所遺伝子解析室 神田忠仁)


尖圭コンジローマ

(尖形コンジローム から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/27 21:33 UTC 版)

尖圭コンジローマ(せんけいコンジローマ、ラテン語: condylomata acuminata)または尖圭コンジロームとは、ヒトパピローマウイルス (HPV) の感染によって、口・生殖器・肛門に発症する性感染症である。ウイルスのうち主にHPV6型とHPV11型(発がん性が低い種類)が原因となる。俗に言うイボを形成し、形状としては、トサカ状、カリフラワー状に成長する。英語でGenital Wart(仮訳・性器いぼ)という。

視認により診断されたり、検査で採取して鑑別される。治療は、軟膏や、液体窒素による繰り返しの凍結、外科的切除が用いられる。大きなものにはレーザーなどが用いられることもある。目に見えるイボを取り除いても、ウイルスが周辺部に残っていて、また新たなイボ形成する再発をしやすい[1]。予後に良くなることはあっても、体内のウイルスを完全に排除することは出来ないために完治は存在せず、体調が悪くなると再発する病である。そのため、HPVワクチンには2価「サーバリックス」(GSK)、「4価ガーダシル」(MSD)、9価「シルガード9」(MSD)があるが、感染前に4価か9価を接種しておけば男女とも子宮頸がんと共に予防可能であるため、男性もHPVワクチンを打つべき理由の一つとなっている[1][2][3]

病因

ヒトパピローマウイルス (HPV) には、180種類以上のウイルス型があり、尖圭コンジローマの主な原因は、90%の人で粘膜型で発がん性低リスク(良性[4])のHPV6型と11型が原因となる[5]。発がん性高リスク(悪性)の16型や18型が同時感染していることもある[5]。分娩時の母子感染では、乳児が若年性再発性呼吸器乳頭腫症を発症する[5]。しかしこれを抑制するかは不明なため、その目的で帝王切開をすべきではない[4]

主に性行為によって感染するため性感染症である[6]。まれに育児などによって感染する[7]。肛門への感染は肛門を使った性交(受け側)が主な原因となるが、必ずしもその限りではない[4]

手足に感染しやすいHPVは2型、27型、57型で、タイプが異なる[5]

臨床像

性器を含んだ画像があります。
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肛門周辺に発生した尖圭コンジローマ。
性器を含んだ画像があります。
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男性器に発生した尖圭コンジローマ。

発生部位は主に、陰茎亀頭陰嚢肛門小陰唇大陰唇内・会陰部・大腿。まれに・口腔内に、乳頭状・鶏冠状の疣贅(ゆうぜい)。

平均2.8か月の3週間から8か月ほどの潜伏期間を経て、陰部にイボを形成してくる[5]。その形はトサカ状、カリフラワー状で巨大化してくるもので、褐色である[5]。未治療でも40-60%は1年ほどで自然治癒することもある[6]。またはそのままか、あるいは増加する[4]。潜伏期間のため感染源を特定できないこともしばしばある。

一般に痛み痒みのような自覚症状はないが一部ではこれがみられる[5]。短期間で次々と新しいイボを形成し増殖していく。また治療しても他の部位への接触転移が多く再発を繰り返すことが多い。

まれにサウナや公衆浴場などからも感染することもある。感染しても無症状のまま、約1年ほどで自己の免疫力によって自然治癒する場合がある。すなわち必ずしもイボとして出現しない場合もあり、それがまた感染を容易に拡散させる原因でもある。

鑑別

よく亀頭周辺にイボができ尖圭コンジローマかと悩む男性があるが、多くはフォアダイス真珠様陰茎小丘疹と呼ばれる問題のない生理現象である。

男性では、真珠様陰茎小丘疹は1mm程度で[8]、陰茎の環状溝に沿って大きさの揃ったブツブツが並んでいる状態であり、無害な生理現象で、成人男性の20%に見られる。フォアダイスは、大体1mm未満で大きさの比較的一定のイボが竿から亀頭のくびれまでに発症するもので、脂腺の独立したものである。成人男性の65%に見られ、ウイルスとは全く関係のない生理現象である。

腟前庭乳頭腫症英語版は3-5mm程度で[8]、女性器の膣入り口やその周辺(膣前庭部)のひだ状、あるいは、乳頭状のできもの。尖圭コンジローマと誤診されることがある。これは「妖精のひだ」ともよばれる正常変化である。小陰唇の内側などに左右対称に発生することや、乳頭が規則的で、内部に血管がみえないなどが鑑別点となる。

性交経験がない場合、特にこうした生理現象が疑われる。

検査

検査は男性と女性では方法が異なる。一般に尖圭コンジローマは表皮粘膜上皮に感染するため、体内組織に移行することはなく、血液検査等はない。

しかし、手術などを要する場合、健康状態の確認のために採血をする場合がある。

女性

最も確実な方法は組織を採取して行う病理診断である。局所麻酔をして組織を採取する。上記、前庭部乳頭と鑑別できる。尖圭コンジローマはlow riskグループのHPV感染によるため、子宮頚がんの原因であるhigh risk HPVを検出する検査(ハイブリッドキャプチャー法やクリニチップ法)では検出できない。HPV6, 11型を検出する必要があり、一般の婦人科では検査できない。しかし、外陰部に尖圭コンジローマのある女性では、高率に子宮頚部にもHPV感染がある (ハイリスクHPV) とされている。

男性

検査については、男性の場合も女性と同じ。男性の場合はHPV感染による陰茎の癌は非常にまれである。

治療

外用薬、凍結療法、レーザー単独での治癒率は60-90%で、つまり再発も少なくない[8]

アメリカ疾病予防管理センター (CDC) の2015年のガイドラインでは、どの治療法が優れているかを示す証拠はないため、好み、費用またはそのイボに合った治療法が選択肢となる[4]。局所薬は患者が自己処置できるためプライバシーを理由に一部の人々に好まれる[4]。その際は、治療が効果的か、また副作用に対処するために医師の指示が必要となる[4]

CDCが推奨する治療法

イミキモド(商品名ベルセナクリーム、日本では2007年に承認)は、免疫を活性化して治療する薬であり、サイトカインの産生促進によるウイルス増殖抑制作用と細胞性免疫応答の賦活化によるウイルス感染細胞障害作用を示す。自己処置で隔日で塗り、他の治療より跡が残りにくいが、長い期間を要する[8]。ほかにポドフィリン(ポドフィロトキシン)があり自己処置が可能な昔からある治療法(日本では一般的ではない)[6]。ポドフィロトキシンでは1日2、3回塗布し、広い面積では使えず、中等度まで痛む場合があり、また毒性が強い[4]

シネカテキンスは、アメリカで治療のために承認されている緑茶抽出成分で、1日3回使用する[4]。これらは第一選択となるが、部位によって(尿道や膣や肛門内[4])、また妊婦には使えないため妊娠検査が必要となる[6]。イモキミドの妊婦の使用は動物試験からは低リスクで、ポドフィロトキシンでは禁忌である[4]。しかし、これら3種の豊富なデータが揃うまで、妊婦の使用は避けるべきである[4]

トリクロロ酢酸では病院での週1の処置で中和が必要となる[8]

外科治療に凍結療法があり、液体窒素を含んだ綿棒をイボに押し付ける治療で大きなイボに適さない[8]

ほかの外科治療はレーザー、電気焼却(電気メス)などで、レーザーでは跡も残りにくいとされる[8]。外科的に方法では痕が残る場合もある。トリクロロ酢酸や凍結では痛みを伴う[6]。凍結療法はイミキモドなどが使えない場合の第一選択肢となる。尿道周囲などレーザーが使えないケースがある[6]。レーザー、切除のような手術的な治療では、1度で排除できることがある[4]

薏苡仁(ハトムギの生薬)の服用は、小規模研究だが難治性の尖圭コンジローマで36.4%に有効とされた[9]

5-FU軟膏(抗がん剤軟膏)、ブレオマイシン軟膏(同)には神経毒性もあり、治療のための証拠もない[7]。家庭用の酢(酢酸)は推奨できない[6]

予後

再発は25%前後と一般的なので、最低3か月は治療判定を待つ必要がある[7]。3か月以内に再発しやすい[4]完治するまで長期となる場合がある。次々と再発する場合には我慢と忍耐力が必要となる。

外科切除の場合は、やや大きめに切除する必要がある。なお、AIDS患者など免疫が抑制されている患者や免疫抑制剤を内服している患者では難治性であり、再発を繰り返す。

予防

一般にコンドームの使用による予防が重要となる[7]。しかしコンドームが被っていない部分への感染リスクはまだある[4]。完治するまで性行為は避けるべきである[4]

ワクチン

メルクより尖圭コンジローマと子宮頸癌の原因ウイルスであるHPV6、11、16、18型のワクチン、商品名ガーダシルが2011年8月、日本でも承認され、ワクチン接種が可能となった。13歳(中学1年生)から17歳(高校2年生)の女子を助成対象に、無料接種が可能となっている。

2009年10月、日本で認可されたグラクソ・スミスクラインのHPV感染予防ワクチン『サーバリックス』の感染予防対象は16、18型であり、コンジローマの主となる6、11型ではない(アメリカ合衆国では、サーバリックスが発売中止となっている)。

HPVに感染していない女性を対象にした大規模臨床試験では、80%近い予防効果があったと報告されている。すでに感染したHPVを排除する効果はない[4]。日本での1,600人を対象とした臨床検査では、ワクチンによって尖圭コンジローマが100%抑制されたと報告された[10]。日本は厚生労働省が承認していないが、尖圭コンジローマの抑制のため、45歳までの男性へHPVワクチン投与も、世界的に推奨されている。

出典

  1. ^ a b https://www.mochida.co.jp/ibonnu/04/05.html
  2. ^ ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がんなど) - Know VPD!”. www.know-vpd.jp. 2021年10月6日閲覧。
  3. ^ HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)男性への接種について | みうら泌尿器科クリニック”. muc-kobe.jp. 2022年3月12日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Anogenital Warts / 2015 STD Treatment Guidelines”. アメリカ疾病予防管理センター (2015年6月4日). 2018年11月10日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g 性感染症 診断・治療ガイドライン 2016, p. 69.
  6. ^ a b c d e f g Lopaschuk CC (July 2013). “New approach to managing genital warts”. Can Fam Physician 59 (7): 731-6. PMC 3710035. PMID 23851535. http://www.cfp.ca/content/59/7/731.long. 
  7. ^ a b c d 性感染症 診断・治療ガイドライン 2016, p. 71.
  8. ^ a b c d e f g 性感染症 診断・治療ガイドライン 2016, p. 70.
  9. ^ 谷口彰治、幸野健、細見尚子、東奈津子、山本直樹「ヨクイニンによる難治性尖圭コンジロームの治療」『西日本皮膚科』第62巻第3号、2000年、389-391頁、doi:10.2336/nishinihonhifu.62.389NAID 130004474602 
  10. ^ ガーダシル添付文書

参考文献

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