性器ヘルペスウイルス感染症とは? わかりやすく解説

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性器ヘルペスウイルス感染症

性器ヘルペスウイルス感染症(genital herpes simplex virus infection 、以下性ヘルペス)は、単純 ヘルペスウイルスHSV)の感染によって性器その周辺水疱潰瘍等の病変形成される疾 患である。感染症法下では4類感染症定点把握疾患分類されている。感染HSV感染してい る相手との性交によって起こり相手性器明らかな病変がある場合のみならず無症状でも性器の粘膜分泌液中にウイルス存在する場合には感染する。また相手唾液中にHSV排出 されている場合には、口唇性交によっても感染する。抗ヘルペスウイルス剤を服用すれば病変はいったんは治癒するが、HSV一度感染する神経節潜伏し時に再活性化し、患者その後長 年わたって再発経験する

疫 学
HSV古くからヒト蔓延しているウイルスで、感染様式大きく2分される 1) 。1)幼少期周囲HSV 感染者から唾液等を通じて感染し口内口唇その他上半身水疱潰瘍生じる。2) 一方思春期以降性行為によって性器感染し病変形成する。1)の様式感染する者は多く生活環境によっても異なるが、集団感染率通常成人達するまでに5080%に達する。2)の場合性感染症STDsexually transmitted diseaseとしての病態性器ヘルペスである。HSV には2 種類の型があり、口、手指の上半身感染するのは主に1 型HSV‐1)、性器等の下半身感染するのは主に2型HSV‐2)であるが、この棲み分け厳密なものではなく性器ヘルペス病変からも、口唇性交等によって感染したHSV‐1が多数分離される
無症候性感染者の多い性器ヘルペスの侵淫度を調べ手段としては、HSV対す抗体検出する血清疫学有用であるが、HSV‐1 抗体幼少時感染よるもの区別できないため、性器ヘルペス指標には用いられないHSV‐2固有の蛋白gG‐2)を抗原とした型特異抗体測定法用いてHSV‐2抗体検出され場合のみ、性器ヘルペス2型)と推定できるわが国様々な集団について抗HSV‐2抗体保有率を調べると、その程度明らかに性行動活発さ比例しており、一般妊婦等では10%前後であるが、コマーシャルセックスワーカーにおいては80%にも達している 2) 。米国では、1990年代前半調査で 3) 、12歳上の国民の21.9%が抗HSV‐2抗体保有しており、70年代調査比べる30%も増え、特に1219歳若年齢層では5倍に急増している。
性器ヘルペス問題は、1)繰り返し再発する、すなわち根治が困難であるため、患者にとって精神的苦痛大きい、2)感染して発症せず、無症状ウイルス排出している場合多く7080%)、本人疾患気づかないまま次の相手移してしまう、すなわち予防が困難である、の2点集約される。また、妊婦性器ヘルペス罹患し出産時ウイルス排出していた場合には、新生児HSV感染し重篤新生児ヘルペス発症する危険性が高い 4) 。さらに、性器潰瘍性病変有すると、エイズ原因となるヒト免疫不全ウイルス移したり、移されたりする可能性が高まることが知られており、エイズコントロールの上でも重要な問題となっている 5) 。しかし、現状では性器ヘルペス撲滅あるいは制圧は非常に難しく、性の自由化が進む中で、先進国開発途上国問わず世界的に増加一途たどっている 3) 。


病原体

単純ヘルペスウイルス1 型および2 型Herpes simplex virusHSVtype 1 and type 2である。ヘルペスウイルス科、アルファヘルペス亜科属すHSV外径120~130nm の球状ウイルスで、外側から順にエンベロープ、テグメント、カプシドコア基本構造をもつ 1) (写真)。約15塩基対二本鎖線DNA有し、約80蛋白コードしている。

性器ヘルペスウイルス感染症

生物化学物理学性状違いからHSV‐1 とHSV‐2の2型分けられるが、いずれも局所粘膜から感染すると、増殖して局所病変形成する同時に知覚神経を上行して、口腔周辺感染では三叉神経節性器周辺感染では仙髄神経節へ入って潜伏状態に入るのが特徴である。宿主免疫低下する等の何らかの刺激があると、再活性化して神経下行し、前とほぼ同じ場所にふたたび病変形成するが、その間メカニズム明らかになっていない

臨床症状

外部から入ったHSV初感染によって起こる初発急性型)と、潜伏感染していたHSV再活性化によって起こる再発再発型:過去性器ヘルペス病変経験している場合)、および非初感染初発誘発型:過去感染していたが無症状で、免疫低下契機としてウイルス活性化し初め病変経験する場合)の3 種類の臨床型に分けられる 6) 。急性型症状はもっとも重い。感染機会があってから2~21 日後に外陰部不快感掻痒感等の前駆症状ののち、発熱全身倦怠感所属リンパ節腫脹、強い疼痛等を伴って多発性の浅い潰瘍小水疱急激に出現する病変部位男性では包皮冠状溝、亀頭女性では外陰部子宮頚部である。髄膜炎合併することもある。無治療では、治癒までに2~4 週間近く要する女性では排尿困難や歩行困難のため、入院加療余儀なくされることもある。
再発型は、心身疲労月経性交その他の刺激誘因となって起こるが、急性型比べて病変小さく数も少ない等症状軽く1週間以内治癒することが多い。再発回数は月2~3回から年1~2 回と様々である。HSV‐2 による場合の方がより再発しやすい。年を重ねるにつれ、再発回数減少してくるのが一般的である。誘発型では、免疫低下程度によってはかなり高度の症状呈する

病原診断

診断にはウイルス分離がもっとも確実であるが、病変部からのウイルス抗原直接証明簡便で、迅速に結果得られる直接検出する場合は、水疱潰瘍病変からウイルス感染細胞綿棒採取しスライドグラス塗抹する。HSV‐1、HSV‐2各々の型特異蛋白標的としたモノクローナル抗体用いて蛍光抗体法により同定を行う 7) 。
通常用いられる補体結合中和等の血清診断法では、幼少時HSV‐1に感染している人においてHSV‐1 による抗体交差反応除外できないため、性器ヘルペス診断するのは難しい。HSV に対して初感染場合のみ、急性期回復期ペア血清有意抗体上昇によって診断することが可能である。また、HSV2 型特異抗体検出される場合も、2型性器ヘルペス罹患していると推定できるHSV同一個体において幼少期HSV‐1感染青年期以降性器へのHSV‐1、HSV‐2感染再発による病変形成といった様々な病態取り得るので、血清抗体から病態鑑別するのは困難である 8) 。


治療・予防
性器ヘルペス治療にはアシクロビル商品名ゾビラックス)を用いる 9) 。急性型症状が強い場合には、経口または静注による全身療法を行う。経口剤としては、アシクロビル200mg の錠剤1日5錠、5日投与する副作用がほとんどなく、また耐性ウイルスも、免疫不全者でない限りわが国では見つかっていない。再発のような軽い症状に対して軟膏タイプでもよい。
性器ヘルペス予防は、HSV排出している相手との直接性的接触避ける以外に方法はないが、性器口腔はっきりした病変があればまだしも無症状ウイルス排出している場合も多いので、なかなか困難である。パートナーHSV保有していないことが確実な場合以外、予防のためにはコンドーム使用すべきである。ただし、病変広範囲にわたる場合にはコンドーム用いて防ぎきれるものではない。ワクチンはまだ開発されていない

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
性器ヘルペスウイルス感染症は5類感染症定点把握疾患定められており、全国900カ所の性感染症定点より毎月報告なされている。報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下の基準満たすもの。
男女ともに、性器殿部ヘルペス特有な有痛性の一から多数小さ水疱性あるいは浅い潰瘍性病変認めるもの。
なお、血清抗体のみ陽性のものは除外する

文献
1)ヘルペスウイルス科.医学ウイルス学White DO,Fenner FJ 編、第4 版,北村敬訳)近代出版.1996 p.283‐309
2)わが国における単純ヘルペスウイルス2 型特異抗体保有状況.橋戸円他.医学のあゆみ1990 152:66970
3)AgeSpecific Prevalence of Infection with Herpes Simplex Virus Types 2 and 1:A Global Review.Smith JS,et al.JID 2002 186 suppl 1:S3‐S28
4)新生児ヘルペス.森島恒雄.ヘルペスウイルス感染症新村眞人・山西弘一編)中外医薬1996 p.144‐151
5)Herpes simplex virus type 2 and other genital ulcerative infections as a risk factor for HIV‐1 acquisition.Keet IP et al.Genitourin Med 1990 66:330‐3
6)性器ヘルペスウイルス感染症―男性. 廣瀬崇輿, 同―女性川名尚, 感染症の診断治療ガイドライン日医会誌1999 122:232235
7)蛍光標識モノクローナル抗体(MicroTrak Herpes )による単純ヘルペスウイルス感染症の診断. 川名尚他.感染症会誌1987 61:1030‐7
8)ヘルペスウイルス血清診断. 橋戸円. ヘルペスウイルス感染症新村眞人・山西弘一編).中外医薬社.1996 p.68‐75
9)Progress in Meeting Today's Demands in Genital Herpes:An Overview of Current Management. Patel R. JID 2002 186 suppl 1:S47‐S56

国立感染症研究所感染症情報センター 橋戸 円)

  


性器ヘルペス

(性器ヘルペスウイルス感染症 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/27 21:33 UTC 版)

性器ヘルペス
概要
診療科 感染症内科学
分類および外部参照情報
ICD-10 A60, B00, G05.1, P35.2
ICD-9-CM 054.0, 054.1, 054.2, 054.3, 771.2
DiseasesDB 5841 33021
eMedicine med/1006
MeSH D006561

性器ヘルペス (せいきヘルペス) は、単純ヘルペスウイルス(HSV: herpes simplex virus)によって発症する神経性性感染症である。性器ヘルペス症陰部ヘルペスなどとも呼ばれる[1][2]

陰部に水疱ができ痛みや痒みを生じ、宿主の不調の度に再発を繰り返す[3]。2020年時点で抗ウイルス剤による抑制が最善の手であり、体内から完全なウイルスの駆除はできない。初回発病から1-2週間に最も重い症状が出て、全身倦怠感やリンパ節の腫れが起きる。性器に触れた手で目を触ることで角膜炎を起こすこともある[3]

性器を含んだ画像があります。
表示する場合は右側の「表示」をクリック。
女性の性器ヘルペス。
性器を含んだ画像があります。
表示する場合は右側の「表示」をクリック。
男性の性器ヘルペス。

病因

ヘルペスウイルス科アルファヘルペスウイルス亜科に属するDNAウイルスの単純ヘルペスウイルスが原因となる。

単純ヘルペスウイルスには1型 (HSV-1) と2型 (HSV-2) があり、口唇ヘルペスは1型で性器ヘルペスは2型に分類されるがオーラルセックスの一般化により必ずしも分類はされない。単純ヘルペスウイルスの形状は、電子顕微鏡で観察すると目玉焼きのような形態をしている。

症状

感染をすると、潜伏期 (2日-10日間) を経て、水泡を形成する[1]

初回の感染時では、水疱は数日でつぶれ、男性では潰瘍状になり病変から1週間後が症状のピークとなる[1]。女性では痛みが強く、2-3週間で症状は自然治癒する[1]。男性では、亀頭、陰茎、男性の同性愛では肛門周囲や直腸に、女性では陰唇や、膣前庭、会陰で、子宮や膀胱に達することもある[1]。女性の初感染では38度以上の高熱が出ることがある[1]

感染したウイルスの排除はできないため再発しやすく、再発時はより症状が軽く、病変も少なく、1週間以内で治癒し短い傾向がある[1]。高齢や免疫不全ではその限りではない[1]

また、患部近くの神経麻痺を起こす可能性があり、排尿障害や排便障害などの機能障害を来たすことがある。

初感染者の相手 (セックスパートナー) の70%が無症状という報告があるので無症候性 (症状が出ない) 性器ヘルペス患者が多い[1]。固定したカップルでの1年間の感染率は10%[1]。男女比の感染者割合は女性感染者の割合が多い傾向にある。

予防

性器ヘルペスではコンドームの使用。HSV-2の感染は、抗ウイルスの使用によって感染率が低下する[4]。なお、例えば錠剤型抗ウイルス薬バラシクロビルの添付文書では、「使用上の注意」に薬使用中でも感染リスクはあるため、コンドームなどの使用が推奨されると記されている。

診断

性器周辺に特有の水泡と発疹や浅い潰瘍による痛みや痒みの違和感があり診断は容易である。水泡内のウイルス細胞検査がある。不顕性感染の場合は単純ヘルペス抗体血液検査で判断する。

治療

女性では、初回の2-3週間の症状は抗ウイルス薬によって1-2週間となる[1]

初発ではアシクロビルバラシクロビルファムシクロビルの5-10日の内服薬や、重症ではその注射薬[1]。再発では、1日以内の服用の開始で効果があるため、前駆症状の違和感のうちに内服できるようにするとよく、また軽症ではアシクロビルの軟膏となる[1]

2004年の唇8名、性器8名での小規模な比較試験では、同じ人で再発ごとに蜂蜜(1日4回塗布)とアシクロビル(1日6回塗布)を比較し、蜂蜜の方が平均治癒期間、例えば性器ヘルペスの治療期間の指標ではアシクロビルで6.28±1.38日、蜂蜜で3.71±1.89日など、発疹の予防、副作用の点で成績が良かった[5]

再発抑制療法

抗ウイルス薬を1年間、毎日定期内服することで再発を抑制する[1]。ウイルスの排除は2018年時点ではできない[1]

再発予防やセックスパートナーへの感染リスクを有効に抑えられる事が研究で確認されている。また単純ヘルペスワクチン及び分娩時に性器ヘルペス感染者の発症母体から新生児の感染を阻止する為の局所感染予防薬や完治薬が研究開発中である。日本国内での研究では、東京大学大阪大学で単純ヘルペス感染の仕組みが解明されており、完治薬開発に向けての新しい治療法や感染予防法の研究開発に生かされている。最近の研究成果では、東京大学で薬剤ML-7により、単純ヘルペス感染予防のマウスによる動物実験に成功している。

抗ウイルス薬の長期的な使用は、薬剤耐性ウイルスが出現する可能性がある[6]

予後

単純ヘルペスウイルスの特徴として、所属神経節に潜伏感染して風邪や疲労等の免疫力低下により発症を繰り返す。現時点の治療では単純ヘルペスウイルスの再発治療や再発予防治療が主体である。性器ヘルペスウイルスの場合は、骨盤内仙髄神経節に潜む。特に女性の場合には、月経が来る度に性器ヘルペスが発症し肉体的、精神的に追い込まれる患者もいる。患者も医師も根気強い治療が必要である。

疫学

14-49歳のアメリカ人の約16%が、性器ヘルペスに感染している[7]。8割が感染に気付いていない[8]

HSV-2の感染率はアフリカで50%を超えており、欧米諸国では20-30%、スペインやフィリピンでは10%前後となる。アフリカでのHSV-2の感染リスクは4人以上の性的パートナーの場合に60%を超えるが、米国では10-49人のパートナーでも約35%、2-4人では約18%となる[4]

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 性感染症 診断・治療ガイドライン 2016, 性器ヘルペス(pp.64-68).
  2. ^ 「学術月報 -第 50 巻第 7~10 号」 - 769 ページ
  3. ^ a b 性器ヘルペスの症状と特徴 ウイルス感染症としての対策 | Dr.Sawamura's性病事典 | 新宿さくらクリニック”. www.urodoc.jp. 2020年10月1日閲覧。
  4. ^ a b Anna Wald, Lawrence Corey (2007). “Chapter 36Persistence in the population: epidemiology, transmission”. Human Herpesviruses: Biology, Therapy, and Immunoprophylaxis. Cambridge University Press. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK47447/ 
  5. ^ Al-Waili NS (August 2004). “Topical honey application vs. acyclovir for the treatment of recurrent herpes simplex lesions”. Med. Sci. Monit. 10 (8): MT94–8. PMID 15278008. https://www.medscimonit.com/download/index/idArt/11736. 
  6. ^ Piret J, Boivin G (December 2016). “Antiviral resistance in herpes simplex virus and varicella-zoster virus infections: diagnosis and management”. Curr. Opin. Infect. Dis. (6): 654–662. doi:10.1097/QCO.0000000000000288. PMID 27306564. 
  7. ^ Allen, JoAnne (2010年3月9日). “U.S. herpes rates remain high - CDC”. Reuters. https://www.reuters.com/article/2010/03/09/ps-herpes-usa-idUSN0923528620100309 2013年5月3日閲覧。  {{cite news}}: 不明な引数|name-list-format=は無視されます。(もしかして:|name-list-style=) (説明)
  8. ^ Genital Herpes - CDC Fact Sheet”. 2013年6月3日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク




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