潜伏感染
潜伏感染
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「エプスタイン・バール・ウイルス」の記事における「潜伏感染」の解説
前述の溶解感染とは異なり、潜伏感染(latent infection, latency)は感染力のあるウイルス粒子(ビリオン)の産生が行われない。潜伏期においては、EBVはごく限られた遺伝子群(latent genes;潜伏感染遺伝子)のみを発現し、ウイルスゲノムは細胞核内で宿主染色体に付着してエピソームとして存在する。宿主の細胞分裂サイクルに同調してS期に一回複製し、娘染色体に付着して分配されることで宿主が複製、分裂してもウイルスが希釈、減少することなく維持される。 EBV潜伏感染は潜伏感染遺伝子の発現パターンによってI型・II型・III型の3つに分類されており、限られた種類の異なるウイルスタンパク質・ウイルスRNAの産生が行われる。 潜伏感染遺伝子EBNA-1EBNA-2EBNA-3AEBNA-3BEBNA-3CEBNA-LPLMP-1LMP-2ALMP-2BEBER産生物 蛋白 蛋白 蛋白 蛋白 蛋白 蛋白 蛋白 蛋白 蛋白 ノンコーディングRNA I型 + – – – – – – – – + II型 + – – – – + + + + + III型 + + + + + + + + + + EBVはB細胞と上皮系細胞で潜伏的に持続感染できるが、その時の潜伏感染遺伝子の発現パターンは潜伏感染している細胞がB細胞か上皮系細胞かによって異なる。なお、メモリーB細胞でのEBV感染様式として、EBER以外ウイルス遺伝子の発現がほとんど確認できない0型という潜伏様式の存在も確認されている。 B細胞においてはI型・II型・III型全ての潜伏感染遺伝子発現パターンが可能である。EBVの潜伏感染は通常III型・II型・I型の順に進む。それぞれの発現パターンはB細胞の振る舞いに特異な影響を与える。休眠中のナイーブB細胞に感染する際には、EBVはIII型の潜伏感染から行う。III型の潜伏感染において産生されるタンパク質とRNAによってその休眠中のナイーブB細胞は形質転換により増殖性芽球(ないしはB細胞の活性化として知られる)になる。その後、EBVはその潜伏感染遺伝子の発現を制限し、II型の潜伏感染へと突入する。II型の潜伏感染で発現されたタンパク質とRNAはB細胞をメモリーB細胞へと分化させる。最終的にはEBVはさらにその潜伏感染遺伝子の発現を制限し、I型の潜伏感染へと移行する。I型の潜伏感染において産生されるEBNA-1はEBVゲノムを宿主染色体につなぎ止めるアンカーとして働き、メモリーB細胞が分裂する際に複製されることを可能としている。 上皮系細胞においては、II型の潜伏感染のみが可能である[要出典]。 初感染時には、EBVは口腔咽頭の上皮系細胞にて自身の複製を行い、そしてB細胞にてIII型・II型・I型の潜伏感染を成立させる。B細胞における潜伏感染はEBVの持続感染には欠かせず、その後に上皮系細胞での複製・唾液への感染力のあるウイルス粒子の排出が行われる。EBVのB細胞におけるIII型・II型、口腔内上皮系細胞におけるII型、ないしはT細胞・NK細胞におけるII型の潜伏感染は悪性腫瘍になることもあり、これらは一様のEBVゲノムの存在と遺伝子発現によって特徴付けられる。 EBV陽性がん細胞においてもウイルスは基本的には潜伏状態にあり、LMP-1などのがん遺伝子を発現して腫瘍性増殖をサポートする。一方でEBVの再活性化や溶解感染も、がんの発生維持進展に一定の貢献をしていると考えられる。 I型潜伏感染はバーキットリンパ腫、胃癌などに見られる様式で、EBNA-1・EBERを発現している。II型感染はホジキンリンパ腫、NK/Tリンパ腫、上咽頭癌、乳癌などに見られ、I型で発現している遺伝子に加えてLMP-1・LMP-2A,Bを発現する。III型は日和見リンパ腫や、培養細胞レベルでEBVをBリンパ球に感染、不死化させた場合(リンパ芽球様細胞, LCLs, lymphoblastoid cell linesと呼ばれる)に見られ、II型に加えてEBNA-2・EBNA-3A,B,C・EBNA-LPなどを発現する。 以下、代表的な潜伏感染遺伝子について簡単に説明する。LMP-1はEBVのコードする最も主要ながん遺伝子である。細胞膜上に存在し、CD40のシグナルを模倣して恒常的にNF-kB・MAPK・STAT・Aktなどを活性化することでB細胞増殖を亢進する。LMP-2AはB細胞受容体を模倣して、AKTやカルシウムシグナルを活性化する。EBERはタンパクをコードしていない低分子量RNAで、RNApol IIIによって極めて多量に転写されるため、in situ ハイブリダイゼーションなどによるウイルス検出のマーカーとしてよく利用される。EBNA-2はIII型の潜伏感染においてLMP-1などの転写を増強することで不死化に関与する。EBNA-2自身はDNAに結合できないため転写因子としては働けないが、RBP-JκやPU.1など宿主の転写因子と結合することで転写補助因子として機能する。
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