溶解感染
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 02:05 UTC 版)
「エプスタイン・バール・ウイルス」の記事における「溶解感染」の解説
溶解感染(lytic infection)、またの名をウイルス産生感染(productive infection)とは、感染力のあるウイルス粒子(ビリオン)の産生が行われることである。EBVは細胞に感染すると、多くは後述の潜伏感染を成立させて持続的に維持されるが、ごく一部が再活性化し、溶解感染を引き起こして子孫ウイルスを産生する。EBVはB細胞ないしは上皮系細胞にて溶解感染を行うことができる。B細胞においては、EBVの溶解感染は通常EBVの潜伏感染からの再活性化の後のみに行われる。上皮系細胞においてはしばしば、EBVの侵入とともに溶解感染が直ちに行われる。 潜伏状態のEBVゲノムは円環状であり、溶解感染を引き起こす再活性化の過程においてそのゲノムは直線状にされなければならない。溶解感染におけるウイルス粒子複製においてウイルスのDNAポリメラーゼがウイルスゲノムの複製を担う。潜伏感染においてはウイルスゲノムの複製を宿主のDNAポリメラーゼが担うのとは対照的である。 溶解感染遺伝子産物は連続した三段階のカスケードにおいて産生される。一般にヘルペスウイルス溶解感染の遺伝子は、厳密に制御されたカスケード様の発現パターンを示す。その三段階は前初期(immediate-early;IE)、初期(early;E)、後期(late;L)と区別されている。最も始めに前初期(IE)遺伝子が発現する。前初期遺伝子には転写活性化因子など遺伝子発現に関わる遺伝子が含まれており、これによって初期(E)、および後期(L)遺伝子の発現が誘導される。初期遺伝子にはウイルスDNA複製に関係する酵素などが含まれており、後期遺伝子には糖タンパクなどウイルス粒子構成タンパクが含まれる。発現した材料でウイルス粒子を再構成し、複製したウイルスDNAをパッケージングした上、成熟して細胞の外に放出する。 前初期遺伝子産物としてはBZLF-1(別名Zta, EB-1, ZEBRA)・BRLF-1(別名Rta)があり、初期遺伝子の転写活性化因子として働き、潜伏状態にあったウイルスを溶解感染に誘導する上で非常に重要な働きをする。 初期遺伝子産物はより多くの機能を持ち、ウイルス粒子の複製・代謝・宿主の抗原処理の阻害などを行う。初期遺伝子として、BALF-5と呼ばれるウイルスDNAポリメラーゼ、BMRF-1(early antigen diffuse;EA-Dとしても知られる)と呼ばれるDNAポリメラーゼプロセッシビティファクターなどのDNA合成関連遺伝子群のほか、Bcl-2のホモログであるBHRF-1(vBcl-2)なども発現する。BNLF-2も初期遺伝子に含まれる。 後期遺伝子産物は主にEBVの構成因子であり、例えばEBVウイルスカプシド抗原(Epstein-Barr virus viral capsid antigen;EBV-VCA)といったウイルスのヌクレオカプシドの構成因子、糖タンパクなどである。他の後期遺伝子産物、例えばBCRF-1は、EBVの宿主の免疫機構からの隠避を補助する。 ある研究では、緑茶のポリフェノールの一種であるEGCG(Epigallocatechin gallate)によって、ウイルスDNA・溶解感染遺伝子転写・EBVの溶解感染遺伝子のZta・Rta、Rtaによって誘導される初期抗原複合体EA-D等の遺伝子転写産物の時間当たりの量が、用量依存的に阻害されていくことが示されている(しかしながら、EBVの感染ステージにおいて高く定常的に発現される遺伝子のEBNA-1の発現には影響がなかった)。そのシグナル経路の特異的な阻害因子によって、Ras/MEK/MAPK経路がBZLF-1を通して、PI3-K経路がBRLF-1を通してEBVの溶解感染に寄与していることが支持された。後者の場合において、EGCGはEBVの溶解感染を誘導するBRLF-1アデノウイルスベクターの能力を完全に阻止したのである。さらに、腫瘍プロモーター12-O-テトラデカノイルホルボール13-アセタート・酪酸ナトリウムを用いて潜伏感染状態にあるEBV感染B細胞の免疫による破壊をどのように誘導するかを決定づけるために、EBVの遺伝子の発現・不発現が今現在も研究されている。
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