慢性活動性EBウィルス感染症
別名:慢性活動性EBウイルス感染症
EBウィルス(エプスタインバールウイルス)への感染によって発症する場合がある希少疾患、および難治性疾患。
EBウィルスはヘルペスウィルスの一種で、「EBウィルス感染症」と呼ばれる感染症の原因となる。EBウィルス感染症は世界中の多くの人が罹患する感染症で、大半の場合は軽微な症状を呈する程度で回復する。EBウィルスによって「伝染性単核球症」を発症する場合もあるが、数日から数週間程度で回復する。
慢性活動性EBウイルス感染症は、EBウィルスが体内で増殖し、通常のEBウィルス感染症の数百倍から1000倍程度に増えるという。肝臓や脾臓などに合併症を発症し、数ヵ月におよぶ高熱、発疹、脳炎などを併発する。
関連サイト:
厚生労働科学研究 難治性疾患克服研究事業 「慢性活動性EBウイルス感染症の診断法及び治療法確立に関する研究」 ホームページ - 独立行政法人国立成育医療研究センター研究所 母児感染研究部
慢性活動性EBウイルス感染症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/06 08:06 UTC 版)
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慢性活動性EBウイルス感染症(まんせいかつどうせいイービーウイルスかんせんしょう、Chronic Active Epstein-Barr Virus infection、CAEBV)とは、ヘルペスウイルス科に属するEBウイルス(Epstein-Barr virus) に感染したTリンパ球やNKリンパ球が増殖することで、免疫系の制御が不十分となり発症する高サイトカイン血症である[1]。希ではあるが顕在化すると重篤な症状を起こす。
概説
CAEBVがひとつの疾患単位として認知されたのは1987年頃であり[2]、本質的には白血球増殖性疾患である[3]。CAEBVは、血球貪食症候群を併発したり、最終的に多臓器不全や悪性リンパ腫などを発症することで高い致死率を示す疾患である。症例は日本をはじめとする東アジア地域に集中しており、欧米諸国では症例がないことから研究が進んでいない[4]。一方、日本での発症は年間数百名と推測されている[1]。
全身症状を呈して疾患領域や診療科をひとつに特定できないため、確定診断の遅れになっていたが、EBウイルス感染症研究会ら[5]の長年の研究活動を基礎として、2009年に発足した研究班[6]が学際的にまとめ、その成果は2016年に「慢性活動性EBウイルス感染症とその類縁疾患の診療ガイドライン 2016」[7]として発表された。
難治性疾患克服研究事業の対象にされた[8]が、指定難病ではないことから医療費は助成されないうえ、発見・確定診断が遅れる傾向にある[9]。しかし、薬剤や造血幹細胞移植技術の進歩により、治療成績は向上している。
以上の経緯から、かつて日本ではあまり知られていなかったが、声優の松来未祐が罹患したことをきっかけに、広く知られるようになった。松来は病名を一切公表せず闘病を経て2015年10月27日に逝去しており、12月15日には両親と所属事務所の81プロデュースがブログで病名と闘病の経緯を公表し、最終的な死因が悪性リンパ腫だったことも併せて報告した[10]。
臨床像
慢性または反復性の伝染性単核球症様の症状が長期間継続し、抗EBウイルス抗体の異常なパターンを特徴とする疾患であり、発熱、肝脾腫、リンパ節腫脹も特徴に挙げられる[7]。
EBウイルスは大多数の人が感染を経験しているものの、通常は特に問題にはならずに済んでいる。EBウイルスはヒトの唾液の飛沫などを介し、幼少期から思春期にかけて自然に感染が起き、ヒトリンパ球内で増殖するが、体内の免疫機構により処理され、多くの場合 抗体が産生されて制御される。風邪症状や扁桃炎などの経過で数日で治癒し、不顕性感染で終わることが多い。一部の人では初感染時にその免疫反応が強く現れることにより、伝染性単核球症を発病するが、それでも数週の経過で自然治癒するため、問題とはならない。日本人の90%以上がEBウイルスに対する抗体を有しており、検査によって過去に感染をしていたと(つまり既感染パターンと)証明される。
非常に希なケースとして、EBウイルスの初感染時(あるいは既感染のヒトにおいても)、免疫制御されていたウイルスが何らかのきっかけから体内で再活性化することで、持続的にリンパ球内に感染を生じて体内での免疫制御が不能となってしまうことがある。それにより、慢性的にウイルスが増殖活動し、重症化するということが起こる。これがCAEBVである。
この場合、EBウイルスの標的リンパ球はTリンパ球やNKリンパ球であるとされており、この点がBリンパ球を標的としたEBウイルス感染である伝染性単核球症と異なる。これに関しては、EBウイルスは初感染時あるいは再活性化時にはBリンパ球を標的とするが、その際に一部のウイルスがTリンパ球やNKリンパ球にも感染しているものと想定されており、これがCAEBV発病に関与しているとされるが、なぜ発病する人としない人がいるのか、そのメカニズムについてはまだ不明の点が多い。
発病と蚊アレルギーとの関連が指摘されている[11][12]。NKリンパ球がEBウイルスに感染している人は、蚊にさされた後の皮膚が強くただれたり、潰瘍をきたしたりする(蚊アレルギー)ことが知られ、このような人では将来的に高確率で16歳前後にCAEBVやEBウイルス関連性悪性リンパ腫を発病するとされる[12]。
上述のごとく小児期のEBウイルス感染がそのままCAEBV発病につながることが多いため、日本では小児科領域での研究・治療が進んでいる。しかし、生活習慣・環境の変化などから成人期での発病症例が徐々に増えていることは憂慮すべき事態であり、今後は内科領域での研究の進展が待たれる(成人症例は少なく症例蓄積ができないことに加え、高熱やリンパ節腫脹などの典型的症状をきたす症例以外にも、肝炎症状や横断性脊髄炎などの神経障害が前面に出る症例など多彩であることから、多くの症例が原因不明で診断がつかないまま各診療科に回されている可能性がある)。
症状
初感染では一過性のリンパ増殖性疾患が伝染性単核球症 (IM:infectious mononucleosis)症状として、発熱、急性咽頭炎、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫(肝臓や脾臓の肥大)を呈し1〜3ヶ月で治癒する[2]。特徴的な症候は、脾機能亢進症、発疹、ぶどう膜炎、口腔内潰瘍、唾液腺炎、心筋炎、冠動脈瘤など。蚊刺過敏症や種痘様水疱症などの皮膚症状を伴うこともある[13]。3週以上にわたる38.3℃を超える原因不明の高熱、血球減少による貧血・出血症状、肝脾腫などがある。多くの場合は重篤な症状を呈するため、何らかの形で医療機関を受診し、血球分布の異常や肝障害の存在で発見される。
感染リンパ球の髄液中への浸潤から神経障害を経て髄膜炎、脳炎、横断性脊髄炎を呈し、意識障害、痙攣、歩行障害などを呈する症例が報告されている。一方、激烈な症状をきたさず、慢性的な倦怠感などで現れることもあり、慢性疲労症候群と呼ばれている疾患概念の中にCAEBVの一部が含まれていることも、明らかとなっている。
診断基準
CAEBVの2015年厚生労働省研究班による診断基準[7]は、以下の4項目をすべて満たすこととされている:
検査
検査としては血液中のEBウイルスのDNA定量(リアルタイムPCR法)が行われ、EBウイルスの増加がチェックされる[7]。
EBウイルス抗体検査は、EBVCA IgGの異常高値やEBNA陰性などの所見が得られることがあって診断の参考となるが、特異性は低い。末梢血や骨髄液中のリンパ球の増加、血球貪食症候群を呈している症例では、血球減少と骨髄中への(単球ではなく)の増生、可溶性IL-2レセプター高値、血清フェリチン高値などが見られる。
- 肝障害症例 - 肝生検で肝実質へのリンパ球の集積がみられる。これらのリンパ球はEBER-1などの免疫染色でEBウイルス陽性を示す。
- 神経障害症例 - 脊髄MRI検査で横断性脊髄炎の所見が見られることがある。
上のような検査は自費診療のため高額で、患者にとって大きな負担になっている。それだけでなく、検査料が高いため検査せずに他の疾患と考えられたまま治療が続くうちに、症状が悪化しがちである。その意味で、早期発見を妨げている。一部の患者会では署名を集め、厚生労働省に対して疾患知識の周知の要望と合わせて難病指定等による患者負担の軽減の要望を行っている[14]。
治療
- 骨髄移植
- 造血幹細胞移植が有効で、臍帯血移植も行われる。
- 化学療法
- 小児領域においては血球貪食症候群を併発した症例で抗腫瘍薬エトポシドと免疫抑制剤(シクロスポリン)の併用療法が行われ、一定の効果を挙げている。それ以外には悪性リンパ腫に準じた抗腫瘍薬による化学療法などが行われている。成人でも小児領域に準じて同様の治療が行われているが、これらのいずれもが根治的な治療とはいえず、化学療法だけでは再燃や難治化の局面を迎えて最終的に死の転帰をたどるケースが少なくない。
近年医療成績が向上した。造血幹細胞移植59例中、観察期間(の中央値)3年で66%が生存していたという2012年の報告がある[15]。また、「骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植(RIST)」の場合に3年無病生存率が95.0±4.9%だったという2011年の報告がある[16]。大阪府立母子医療センターは2016年現在で造血幹細胞移植後4年生存者が91〜93%という成績を公表している[17]。同センターは治療について以下引用のように説明している。
まず免疫化学療法で病気の鎮静化を図り急変のリスクを回避します。次に感染細胞の減少を期待して多剤併用化学療法を行います。最後の造血幹細胞移植は、大量の抗癌剤(前処置)で感染細胞を含む自己の血液細胞を破壊するとともに、健常なドナーからいただいた造血幹細胞を投与し、健全な造血を回復させる治療法です。 従来はリスクの高い治療法で、感染症、前処置の抗癌剤に起因する合併症、ドナー免疫細胞による臓器障害(GVHD)などの複合要因でときに死に至るほか、移植後には成長ホルモンや性ホルモンの分泌不全、不妊など、犠牲も多い治療法でした。2000年代に入ると薬剤の進歩により、前処置の強度を減じても移植治療が成功するばかりか、移植中のQOL(生活の質)も改善し、移植後のホルモンや生殖能の保持もある程度期待できるようになってきました。
当科では病気が進行する前に治療を開始し、治療をやり遂げる方針をとっています。移植の前処置は強度を減じた方法で行っています。そして症状が安定した状態で移植できれば、骨髄移植でも、近年に広まった臍帯血移植でも成功率に優劣はなく、約90%の人が元気にされています — 大阪府立母子医療センター、慢性活動性EBウイルス感染症の治療
[リンク切れ]
脚注
- ^ a b 研究奨励分野 研究班名簿・疾患概要(21年度) 102 慢性活動性EBウイルス感染症 概要 - 難病情報センター
- ^ a b 河敬世、「いわゆる慢性活動性EBウイルス感染症の診断と治療」『ウイルス』 2002年 52巻 2号 p.257-260,doi:10.2222/jsv.52.257, 日本ウイルス学会
- ^ 金兼弘和ほか、慢性活動性EBウイルス感染症 モダンメディア 2010年5月号(第56巻5号) (PDF)
- ^ “研究内容”. 東京医科歯科大学血液内科. 2016年7月9日閲覧。
- ^ EBウイルス感染症研究会
- ^ 研究奨励分野 研究班名簿・疾患概要(21年度) 102 慢性活動性EBウイルス感染症 名簿 - 難病情報センター
- ^ a b c d e 慢性活動性EBウイルス感染症とその類縁疾患の診療ガイドライン2016 (PDF)
- ^ 難治性疾患研究班情報(研究奨励分野)》 慢性活動性EBウイルス感染症(平成22年度)
- ^ “平成28年度 難治性疾患政策研究事業 研究課題一覧表”. 難病情報センター. 2016年7月9日閲覧。
- ^ 81プロデュース スタッフ一同 (2015年12月15日). “松来未祐を応援してくださった皆様へ”. 松来未祐日記. 2015年12月15日閲覧。
- ^ 岩月啓氏、「EBウイルス関連皮膚T/NKリンパ球増殖症 -種痘様水疱症と蚊刺過敏症-」『日本小児血液・がん学会雑誌』 2015年 52巻 3号 p.317-325、doi:10.11412/jspho.52.317, 日本小児血液・がん学会
- ^ a b 戸倉新樹、「EBウイルスとリンパ増殖症『日本皮膚科学会雑誌』 2006年 116巻 6号 p.909-915, doi:10.14924/dermatol.116.909, 日本皮膚科学会
- ^ 今日の小児治療指針 第15版 20120215 発行
- ^ CAEBV患者会SHAKE
- ^ "EBV-associated T/NK-cell lymphoproliferative diseases in nonimmunocompromised hosts: prospective analysis of 108 cases." PMID 22096243, doi:10.1182/blood-2011-10-381921
- ^ "Excellent outcome of allogeneic hematopoietic SCT with reduced-intensity conditioning for the treatment of chronic active EBV infection.", PMID 20498651, doi:10.1038/bmt.2010.122
- ^ 慢性活動性EBウイルス感染症の治療 大阪府立母子保健総合医療センター[リンク切れ]
出典
- 慢性活動性EBウイルス感染症とその類縁疾患の診療ガイドライン2016 (PDF)
- 脇口宏、「慢性活動性EBウイルス感染症と近縁疾患」『日本臨床免疫学会会誌』 2003年 26巻 5号 p.283-292, doi:10.2177/jsci.26.283, 日本臨床免疫学会
関連書籍
- 木村 宏ら『慢性活動性EBウイルス感染症とその類縁疾患の診療ガイドライン2016』診断と治療社、2016年11月15日。ISBN 9784787822826。(日本小児感染症学会 監修)
の 同、公開PDFファイル - Minds
(※ 本書はCAEBVのほかに、以下の関連疾患の情報も包括している:EBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症(EBV-HLH)、種痘様水泡症、蚊刺過敏症)
外部リンク
慢性活動性EBウイルス感染症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 02:05 UTC 版)
「エプスタイン・バール・ウイルス」の記事における「慢性活動性EBウイルス感染症」の解説
慢性活動性EBウイルス感染症(chronic active EBV infection;CAEBV)は、EBVが感染しているNK細胞もしくはT細胞の増殖性疾患である。抗ウイルスカプシド抗原(anti-viral capsid antigens;VCA)-IgG・抗初期抗原(anti-early antigens;EA)-IgGといった溶解感染関連遺伝子に対する抗体価が高いケースが多いために“慢性活動性“という名称をつけられているが、増殖しているT/NK細胞においてEBVは、他のEBV陽性がん同様、溶解感染ではなく潜伏状態にある。 伝染性単核球症においてはEBVはB細胞を感染ターゲットとしているのに対し、CAEBVにおいてはNK細胞やT細胞がEBVの感染ターゲットとしている点が異なる。CAEBV患者の組織においては、EBER-1の in situ ハイブリダイゼーションによって多くのEBV感染に感染したリンパ球を認めることができ、患者の末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cells ; PBMC)でEBVゲノムが高値となることが多い。 伝染性単核症様の症状が長期継続するほか、蚊刺過敏症、種痘様水疱症(英語版)、赤血球貪食症候群などが随伴する場合がある。まれな疾患ではあるが、日本を含む東アジアでは比較的発症率が高い。少なくとも一部のケースにおいては、慢性活動性EBウイルス感染症から悪性転化してT/NKリンパ腫を生じる。また、主たるEBV感染細胞がT細胞かNK細胞かによって予後が異なる。EBV感染細胞の主体が CD3+細胞の場合はT細胞型とし、さらにCD4+細胞とCD8+細胞に分類される。EBVによる赤血球貪食症候群の場合にはEBVの感染しているリンパ球はCD8+細胞であることがほとんどであり、CAEBVでは主にCD4+細胞に感染していることが多い。特に活性化したT細胞により多くのEBV感染細胞が認められる。CD3-かつCD16+またはCD56+細胞にEBVが感染している場合にはNK細胞型と分類される。 T細胞型CAEBVは、高熱とVCA-IgG・EA-IgGの抗体価が高いことが特徴である。これは、EBVに感染したT細胞が活性化し、インターフェロンγ・IL-6・TNF-αなどの炎症性サイトカインを放出した結果、重症な炎症と発熱が引き起こされると考えられている。 一方NK細胞型CAEBVは・HMB・大顆粒リンパ球増加症・IgE抗体価が高いことが特徴である。 EBVはB細胞においてCD40L発現を誘発し、CD40とCD40Lの共発現を引き起こす。この2分子間の相互作用は、共刺激(co-stimulation)による細胞生存シグナルを出すことでB細胞形質転換において大きな役割を担う。また、今までEBV感染による CD40とCD40L共発現はB細胞についてのみ言われてきたが、EBVに関連したT/NK細胞の増殖においても、CD40-CD40LシグナルがT細胞やNK細胞の不死化を促進しているのではないかと考えられている。
※この「慢性活動性EBウイルス感染症」の解説は、「エプスタイン・バール・ウイルス」の解説の一部です。
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