腎症候性出血熱とは? わかりやすく解説

じんしょうこうせい‐しゅっけつねつ〔ジンシヤウコウセイ‐〕【腎症候性出血熱】

読み方:じんしょうこうせいしゅっけつねつ

ハンタウイルス一種感染して起こる病気野ネズミにつくダニ媒介される5日ほど続く高熱皮膚の発赤出血斑、たんぱく尿乏尿などの症状呈するHFRShemorrhagic fever with renal syndrome)。


腎症候性出血熱


ネズミ介するハンタウイルスHantavirus )の感染による出血性腎疾患で、スカンジナビア型の良性腎症(流行性腎症:nephropathia epidemica:NE良性流行性腎症benign epidemic nephropathy: BEN)、および重症型の多いアジア型の腎症(流行性出血熱epidemic hemorrhagic feverEHF韓国出血熱Korean hemorrhagic fever:KHF、出血性腎症腎炎:hemorrhagic nephroso-nephritis:HNN)などの総称である。旧日本陸軍関東軍)が旧満州(現中国東北地方)において致死率15%の奇病流行遭遇したものは、濾過性病原体による流行性出血熱であるとされ、後に韓国出血熱同一のものであることが判明した
なお1993年米国においてニューメキシコ州最初として突如現れ致死率65%に達す急性肺疾患は、Hantavirus 属に分類される新種ウイルスであることが判明し疾患名はハンタウイルス肺症候群hantavirus pulmonary syndromeHPS)、病原ウイルスSin Nombre virus名なしウイルス)と命名された。

疫 学

流行状況
かつてハンタウイルス感染症は、中国・韓国中心としたアジア地域農民兵士などの間で主に流行するものと考えられていたが、軽症型を含めると北欧含めたアジア・ユーラシア大陸広く分布していることがわかった。本症が世界的に注目されたのは、1950年代朝鮮戦争の際に、朝鮮半島駐留した国連軍兵士2,000人あまりの間で不明熱患者発生し症状剖検所見から旧満州旧日本軍の間で流行したEHF同一疾患であることが判明したことによる

当時本症はKHFと名付けられた。現在でもHFRSは、中国では毎年10万規模韓国では数百人、欧州全域では数千程度患者発生があるものと考えられており、全世界における本症による年間入院患者数は6~15万人ほどであろう推測されている。
血清学陽性含めると、ハンタウイルス感染ユーラシア東南アジア・アフリカなどに広く分布しており、新ウイルスであるSin Nombre virus含めるとアメリカ大陸一帯広く存在する(図)。


日本におけるHFRS
かつての旧満州での流行性出血熱日本人での感染例ではあったが、日本本土疾患持ち込まれてはいない。1960年頃から約10年間にわたり大阪梅田地区流行し2人死亡119人の患者発生があったいわゆる梅田奇病」は、ハンタウイルス感染よるものであることがわかった
1970~80年代医学生物などの生物系研究室で、実験目的購入したラットウイルス汚染されていたことにより、22機関126名のハンタウイルス感染患者発生し1981年にはラット飼育者が死亡した。現在では、施設改善と飼育販売業者によるウイルスの事前チェック感染排除策により、感染者出ていない。

病原体
Hantavirus 属はブニヤウイルス(Bunyaviridae )に分類される最初に分離されたのは韓国Lee HWによる)で、保有患者出身地流れる川(漢難河:Hanta River)から命名された。Hantavirus血清学的には以下の6種類分類され疾患分布それぞれ以下のようになっている
 1)Hantaan virus疾患HFRS分布中国韓国極東ロシア
 2)Dobrava virus疾患HFRS分布東欧
 3)Seoul virus疾患HFRS分布中国韓国日本米国欧州
 4)Puumala virus疾患HFRS [NE]、分布欧州
 5)Prospect Hil(l ヒトでの疾病なし、分布米国東部
 6)Sin Nombre virus疾患HPS分布米大陸
感染源ウイルス保有する野ネズミで、ネズミ尿中にはウイルス大量に排泄されるウイルス保有ネズミ咬まれる傷口からウイルス保有ネズミ体液排泄物などが侵入することなどにより感染するウイルス保有ネズミし尿がほこり、土壌などへ大量に混入し空気感染により感染を受けることもある。潜伏期1020日であり、ヒトからヒトへの感染例はない。

臨床症状徴候
軽症から重症まで様々な段階があるが、重篤症状としての腎不全存在注意する必要がある軽症型では上気道炎症状微熱軽度蛋白尿血尿見られる程度で終わることが多いが、重症型では、有熱期、低血圧ショック期(4~10日)、乏尿期(8~13日)、利尿期(1028日)、回復期分けられるHFRS患者の約1/3は出血傾向を伴う。重症型の致死率は3~15%である。
Hantavirus主な標的臓器毛細血管内皮細胞であるが、HFRSでは腎血管内皮HPSでは肺血管内皮主な病変部位であり、その理由については目下不明である。

病原診断
ELISAIFA、IAHAなどにより、血清中の抗体測定が行われる。PCRによる遺伝子診断ウイルス分離なども可能であるが、特殊検査であり、一部大学研究機関一部地方衛生研究所、および国立感染症研究所などで検査診断が行われる。

治療・予防
 対症療法治療の中心となる低血圧ショック、および重篤症状としての急性腎不全存在注意する必要があり、人工透析などを要する場合もあることを念頭におくべきである。野ネズミとの接触避けることが最大防御である。積極的な予防方法として、韓国および中国では不活化ワクチン開発されているが、いずれも国内一部使用されているにすぎない

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
腎症候性出血熱は4類感染症定められており、診断した医師直ち最寄保健所届け出る報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断血清学診断なされたもの
病原体検出
 例:急性期血液、尿からのウイルスの分離など
病原体遺伝子検出
 例:PCR法など
病原体対す抗体検出
 例:血清抗体検出ELISA免疫蛍光法)など





腎症候性出血熱

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/26 15:47 UTC 版)

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ハンタウイルス(ハンタウイルス肺症候群の原因ウイルス)の電子顕微鏡像

腎症候性出血熱(じんしょうこうせいしゅっけつねつ、英:hemorrhagic fever with renal syndrome, HFRS)とは、ハンタウイルス属のウイルス感染を原因とする人獣共通感染症。ハンタウイルス属はブニヤウイルス科に属するRNAウイルスの一属。自然宿主齧歯類であり、齧歯類では不顕性感染を示す。ヒトへの感染は感染動物の排泄物の飛沫を吸引することにより、あるいは咬傷を受けることにより成立する。ヒトでの症状は発熱、頭痛、腎不全、皮下および臓器における出血。治療は対症療法による。

原因ウイルス

腎症候性出血熱の原因ウイルスは、ブニヤウイルスハンタウイルス属に属すハンターンウイルス(HTNV、宿主はApodemus agrarius)、ソウルウイルス(SEOV、宿主はRattus norvegicus)、ドブラバウイルス、タイランドウイルス、プーマラウイルス、アムールウイルス(AMRV)、Soochongウイルス、などがあげられる。プーマラウイルスは病原性が低く、それによって引き起こされる病名は流行性腎症と呼ばれている。

歴史と現状

1931年に中国北東部で最初に記録され、1955年以降多くの地区で感染している。中国では31の1級行政区中28の地域で土着感染しており、世界中のHFRS患者の90%を占めている。中国では、1950年から1997年の間に、患者120万人と死者44,300人が発生した。

中国本土の各県でのHFRS上位6省は、黒龍江省、山東省、浙江省、湖南省、河北省および湖北省で、患者の約70%は上記の6省から報告された。新疆ウイグル自治区、チベット自治区および青海省のみが、一度もHFRS患者を報告していない[1]

研究

関連項目

参考文献

脚注

  1. ^ ProMED情報詳細 20071005-7005 タイトル 景観要素とHantaanウイルス関連の腎症候性出血熱 2007/09/30
  2. ^ 米国 胎児のじん臓、大量に買う 韓国から二万数千個 軍事研究などに使う『朝日新聞』1977年(昭和52年)3月9日、13版、23面



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