ズーノーシス
英語:Zoonosis
動物から人間に感染する病気。動物と人に共通する感染症の総称。医療分野は医学および獣医学にまたがる。
ズーノーシスの代表的な例として、狂犬病、ペスト、日本脳炎、鳥インフルエンザなどがある。感染経路は、野生動物に咬まれた傷からの感染、蚊やネズミなどの媒介による感染の他に、食肉や、ペットとの接触を通じての感染が考えられる。
近年では、ペットを経由したズーノーシスの危険性が高まっていると指摘されている。その背景として、ペットと飼い主との関係がより親密になりスキンシップの機会が増えていること、感染源が輸入動物として世界中どこへでも移動する環境になっていること、珍しいペットを欲しがる人が増え、野生動物のペット化などが進んでいること、といった理由がある。
ズーノーシスを抑えるためには、身の回りの環境を衛生的にすることはもちろん、ペットには予防注射をする、自分の使用している箸でペットに食べさせることはしない、濃厚な接触は控える、といったことを普段から心がける必要があるという。
関連サイト:
動物由来感染症とは? - 厚生労働省検疫所
じんじゅうきょうつう‐かんせんしょう〔ジンジウキヨウツウカンセンシヤウ〕【人獣共通感染症】
人獣共通感染症
ヒトと動物の両方に感染する病原体により、どちらにも病気を発症させる感染症のこと。動物由来感染症や人畜共通感染症などとも呼ばれるが、人獣共通感染症の呼称が定着しつつある。
近年、世界各地で大流行している感染症の多くはZoonosisであり、人類を恐怖に陥れている。SARS(新型肺炎)、鳥インフルエンザ、ウエストナイル熱、エボラ出血熱などはその代表例。その病原体のほとんどは地球上の限られた地域で野生生物に寄生し、存続してきた微生物である。近年の森林伐採などによる病原巣宿主の生態と行動圏の撹乱、および畜産物、飼料、野生動物やペットの輸入と人間の国境を越えた大移動に伴って、感染症の侵入のリスクは増大している。自然界における病原微生物の生態、伝播経路と病原性の分子基盤の解明、診断・予防・治療法の研究開発などは喫緊の課題である。
これらの感染症はグローバルで国境がないので、それぞれの国での対策とともに、各国の協調的行動が重要である。WHOやOIE、FAOなどがその中心となっている。我が国においても、危機管理体制の整備ならびに感染症発生現場でその制圧対策を指揮できる人材を養成することが緊急の国家課題となっている。(玉城英彦)
参考URL:WHOの人獣共通感染症ホームページ http://www.who.int/zoonoses/en/
人獣共通感染症(人畜共通感染症、人畜共通伝染病、動物由来感染症)
人獣共通感染症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/10 16:10 UTC 版)

人獣共通感染症(じんじゅうきょうつうかんせんしょう)、またはズーノーシス(Zoonoses、単数形はZoonosis)は、ヒトとそれ以外の脊椎動物の両方に感染または寄生する病原体により生じる感染症のこと[1]。動物由来感染症(どつぶつゆらいかんせんしょう)とも呼ぶ(呼称についてを参照)。近年では新型コロナウイルス感染症が知られる。学術領域は獣医学、ウイルス学などである。
FAOによると、1940年以降新たに現れたヒトの感染症の約7割は動物由来だという[2][3]。 一方でヒトは動物から感染するより約2倍ヒトから動物に対してウイルスを感染させており、ヒトは大きな感染源となっている [4][5][6][7]。動物から人へだけではなく、人から動物への感染症もある[8]。
人獣共通感染症の問題点
特に以下の点が公衆衛生上大きな問題となる。
- 新興感染症としての人獣共通感染症
- 種々の動物がペットとして輸入され飼われる機会が増えたことなどにより、従来は稀であったり知られていなかった病原体がヒト社会に突如として出現する。このように新興感染症として現れた場合、未だヒトが免疫を獲得していないために大流行を引き起こす危険性が高く、診断や治療の方法も確立していないために制圧が困難である。2003年に出現した重症急性呼吸器症候群(SARS)にこの問題点が顕著に見られた。
- 予防の難しさ
- 1980年に撲滅宣言が出された唯一の感染症である天然痘では、その原因となる痘瘡ウイルスがヒトにのみ感染するものであり、かつ終生免疫が成立するワクチンの開発に成功したことが、その功績につながった。すなわち世界中の人すべてにワクチンを接種すれば、それ以上天然痘は伝染しえない。
- これに対して人獣共通感染症である狂犬病ウイルスは撲滅して予防することが極めて困難だと言われている。狂犬病ウイルスは全ての哺乳類に感染するため、それら全てにワクチンを接種することは極めて困難である。またネズミなどの小動物はきわめて小さな門戸から侵入して感染源となることがあり、予期せぬ接触によって感染する危険性がある。
呼称について
人獣共通感染症以外の呼称としては動物由来感染症などがある[9]。
以前は人畜共通感染症または人畜共通伝染病という呼称が一般的であったが、「畜」という語が家畜のみを想起するのに対して、近年[いつ?]は愛玩動物(ペット)や野生生物からの感染が重大な問題になっているという指摘がある。これらを考慮して、人獣共通感染症という言葉を用いようとする動きがあり、この呼称が定着しつつある。ただし、「獣」とは本来なら哺乳類など体毛で被われた動物を指す言葉であり、オウム病や鳥インフルエンザなど鳥類由来の感染症や、爬虫類由来のサルモネラ感染症、昆虫類や魚類由来の寄生虫疾患等も包含する語としては必ずしも「畜」より適切とは言い難い。
いずれにしても、どの語を用いるべきかについては未だ議論の分かれるところであり、統一されるにまでは至っていない。
なお、厚生労働省はヒトへの感染経路を重視する観点から動物由来感染症という呼称を使っている[9]。 これに対して獣医学の立場からは、「動物は汚いもの」という意識を必要以上に広く植え付けるだけでなく、ヒトから動物への感染(ヒト由来感染症)による動物への被害という問題もあるため不適切ではないかということも指摘されている。特にヒト由来の抗生物質耐性菌による動物への被害を問題視する意見もある。
感染しやすい人
獣医師は常に人獣共通感染症にさらされており、咬傷や切り傷などに対する慣れによる危険性の欠如から継続的な危険への教育を行うべきだという指摘も行われている[10]。
感染症によって異なるが、動物と接触しやすい職業や、それらを素材として扱う食肉工場や羊毛工場の従業員などに見られる。
伝播様式による分類
- ダイレクトズーノーシス(direct zoonosis)
- サイクロズーノーシス(cyclo-zoonosis)
- メタズーノーシス(meta-zoonosis)
- サプロズーノーシス(sapro-zoonosis)
- 混合型
- 上記4型が組み合わされたもの。
- 肝蛭症、ダニ麻痺症など
- 上記4型が組み合わされたもの。
主な人獣共通感染症
- 細菌性人獣共通感染症
- ウイルス性人獣共通感染症
- リケッチア・コクシエラ・バルトネラ性人獣共通感染症
- クラミジア性人獣共通感染症
- オウム病 ―等
- 原虫性人獣共通感染症
- 人獣共通寄生虫症
- 真菌性人獣共通感染症
- プリオン病
その他
- 利点
- 牛痘は牛を扱う人間に感染しやすく、感染した際には軽症で、天然痘に対する耐性を得ることが知られている。
出典
- ^ 山田 章雄「3. 人獣共通感染症」『ウイルス』第54巻、日本ウイルス学会、2004年、17-22頁、doi:10.2222/jsv.54.17。
- ^ FAO (16 December 2013). Surge in diseases of animal origin necessitates new approach to health (Report).
- ^ (英語) World Livestock 2013 Changing disease landscapes. FAO. (2013). ISBN 978-92-5-107927-0
- ^ Cedric C. S. Tan、Lucy van Dorp、Francois Balloux「The evolutionary drivers and correlates of viral host jumps」『nature ecology & evolution』、Nature Portfolio、2024年、doi:10.1038/s41559-024-02353-4。
- ^ Humans pass more viruses to other animals than we catch from them (Report). UCL. 25 March 2024.
- ^ One Animal Spreads More Viruses Than Any Other And It's Not What You'd Think (Report). Nature Ecology & Evolution. 4 April 2024.
- ^ “ウイルスは「動物からヒト」よりも「ヒトから動物」に感染する方がはるかに多いという研究結果”. Gigazine (2024年5月5日). 2024年5月7日閲覧。
- ^ “First case of 'reverse zoonosis' in UK as human flu found in factory farm animal”. 2025年4月11日閲覧。
- ^ a b 動物由来感染症ハンドブック (PDF) 厚生労働省
- ^ “Mink found to have coronavirus on two Dutch farms – ministry” (英語). Reuters. (2020年4月26日). オリジナルの2020年4月27日時点におけるアーカイブ。 2020年4月27日閲覧。
- 参考文献
- 木村 哲、喜田宏 編『人獣共通感染症』医薬ジャーナル社、ISBN 978-4753220946
- 高島郁夫、熊谷進 編『獣医公衆衛生学 第3版』文永堂出版、2004年、69-159頁、ISBN 978-4830031984
- 藤田紘一郎『イヌからネコから伝染るんです』講談社、ISBN 978-4062758512
関連項目
- 感染経路
- 医師/歯科医師/薬剤師/獣医師
- 感染症専門医/インフェクションコントロールドクター/感染管理看護師/感染制御専門薬剤師/感染制御認定臨床微生物検査技師
- 国立感染症研究所/アメリカ疾病予防管理センター/世界保健機関/厚生労働省/農林水産省
- スピルオーバー感染
- 昆虫医科学、衛生昆虫学
- 野生動物の病気
外部リンク
- 人獣共通感染症 連続講座 - 日本獣医学会
- 動物由来感染症 - 厚生労働省
- 人と動物の共通感染症に関するガイドライン (PDF) - 環境省
人獣共通感染症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/10 03:11 UTC 版)
ヒトとヒト以外の動物の両方に感染を生じ、予防対策に両者への介入を要するもの。
※この「人獣共通感染症」の解説は、「感染症」の解説の一部です。
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人獣共通感染症と同じ種類の言葉
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