濃厚接触
濃厚接触とは、人と人、あるいは人と動物が比較的近い距離で一定の時間ふれ合うこと。
濃厚接触を満たすための距離や時間は、事象によって異なる。2020年春の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)における、国立感染症研究所の定義する濃厚接触は次の通りである。(2020年4月20日現在)
新型コロナウイルス感染症を疑う症状を呈した2日前から隔離開始までの間に、次のような範囲に該当する場合。なお、「新型コロナウイルス感染症を疑う症状」とは、発熱や咳、呼吸困難、全身倦怠感、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、頭痛、関節・筋肉痛、下痢、嘔気・嘔吐などを指す。
- 感染者と同居、あるいは長時間の接触(社内、航空機内等を含む)をした場合
- 適切な感染防護がないまま感染者を診察、看護、介護した場合
- 感染者の気道分泌液、体液などの汚染物質に直接触れた場合、あるいは触れた可能性の高い場合
- 手で触れることの出来る距離(目安として1メートル)で、必要な感染予防策なしで、感染者と15分以上の接触があった場合
関連サイト:新型コロナウイルス感染症対策本部
濃厚接触
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/03 07:13 UTC 版)
濃厚接触(のうこうせっしょく)とは、感染症に罹りうる状態にあるものと病原体を媒介するものとの接触のうち、感染が成立する可能性が特に高いものをいう。何が媒介になるかは感染症の種類によって異なるが、すでに感染しているヒトその他の動物のほか、病原体が付着したり混入したりした状態の物質などがありうる。感染症サーベイランスにおいて、既発見の感染者の接触歴を順次たどっていく接触者調査の方法(積極的疫学調査ともいう)をとる場合、濃厚接触が優先的に探索対象となる[注 1]。また、濃厚接触が疑われるケースについて、診断によって感染が確定する前に隔離などの措置を予防的にとることがある[注 2]。
どのような条件があると感染の可能性が高くなるかは、感染症の種類によって異なる。感染の可能性の違いは相対的なものであり、濃厚接触でなければ感染しないというわけではない。濃厚接触のないケースも、感染している可能性があると判断されれば、調査や隔離の対象となりうる。
日本での運用
結核
日本の感染症法は、結核を「二類感染症」に位置付けている。結核の患者が見つかった場合、同法の17条の規定「都道府県知事は、……当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者に対し当該感染症にかかっているかどうかに関する医師の健康診断を受け……るべきことを勧告することができる」[3] に基いて健康診断が実施される。その対象者のなかには、患者の感染性期間(結核を他人に感染させる可能性のある期間のこと)に、その患者と同じ空間にいた者(接触者)がふくまれる。接触者のうちで、接触が濃密、高頻度、または長期間であったものが「濃厚接触者」(close contact) であり、同居家族、仕事等で毎日のように部屋を共有していた者、同じ車に週に数回以上同乗していた者、換気の乏しい狭隘な空間を共有していた者、同じ集団生活施設に入所していた者、患者に対する不十分な感染防護下での検査等に従事した者などが該当する。濃厚接触者は一般に健康診断を受ける必要性が高いが、実際に健康診断を受けさせる勧告を行うかどうかは、接触状況以外の要素(もし感染していた場合の重症化のリスクなど)も総合して決定する。濃厚接触者でない者(通常接触者)も対象になりうる[4](p9)。
2009年新型インフルエンザ
日本における2009年新型インフルエンザ流行時には、地域で集団発生をみた場合に、感染症法第15条第1-3項に基づいて接触者調査がおこなわれた。厚生労働省作成のマニュアルは、つぎのどれかに該当する者を「濃厚接触者」とする[5]。
- 患者と同一住所に居住する者
- 個人防護具を適切に装着せずに患者の処置にかかわった医療関係者
- 感染防御なしに、患者との比較的長時間の直接の対面での接触があった者
2019年新型コロナウイルス感染症
2019年新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染対策の積極的疫学調査では、感染可能期間[注 3] にCOVID-19患者が接触した者のうち、次の範囲に該当する者が「濃厚接触者」(close contact) である[6]。
- 患者と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者
- 適切な感染防護なしに患者を診察、看護、介護していた者
- 患者の気道分泌液などの汚染物質に直接触れた可能性が高い者
- 近距離(目安として1メートル)で、必要な感染予防策なしで、患者と15分以上の接触があった者
受容
「濃厚接触」ということばは2019年以前には一般にはほとんど知られていなかったが、2020年のCOVID-19流行とともに頻繁に使われるようになった。「濃厚接触者」は2020年のユーキャン新語・流行語大賞30語にノミネートされている[8]。
身体的接触を想起させる表現のため、直接触れなければ近距離での会話をしても該当しないという誤解が生じがちだという指摘がある[9]。
脚注
注釈
- ^ その意味で「優先接触者」あるいは「最優先接触者」と呼ぶことがある[1](p132-133)
- ^ 1973年の東京逓信病院の天然痘事件では、患者と接触した医師や患者の血液を検査した技師等26人を濃厚接触者として、本人の同意の元、病院内あるいは自宅での健康観察などの措置が取られた[2]。
- ^ 国立感染症研究所が作成した「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」では、発熱及び咳・呼吸困難などの急性の呼吸器症状を含めたCOVID-19を疑う症状(発熱、咳、呼吸困難、全身倦怠感、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、頭痛、関節・筋肉痛、下痢、嘔気・嘔吐など)を呈した2日前から、退院又は宿泊療養・自宅療養の解除の基準を満たすまでの期間とされている[6]。ただしこの記述は2020年4月20日に追加されたものであり、それ以前は発病前日までの接触は対象外であった[7]。
出典
- ^ 安武繁『保健所研修ノート: 研修医・コメディカルスタッフのための』(第4版)医歯薬出版、2017年。ISBN 9784263731796。 NCID BB24752624。
- ^ 北雄一郎 (1973年4月17日). “第71回国会 参議院 逓信委員会 第7号 (発言103)”. 2025年6月27日閲覧。
- ^ 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号) - e-Gov法令検索
- ^ 阿彦忠之 編『感染症法に基づく結核の接触者健康診断の手引きとその解説』(PDF)(改訂第6版)結核予防会、2022年。 ISBN 9784874513217。 NCID BC18708046 。2025年6月27日閲覧。
- ^ 厚生労働省 (2009年7月22日). “新型インフルエンザ (A/H1N1) 積極的疫学調査実施要綱 (平成21年7月版)”. 2024年7月14日閲覧。
- ^ a b “新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領” (PDF). 国立感染症研究所. 2021年1月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年8月30日閲覧。
- ^ “積極的疫学調査実施要領における濃厚接触者の定義変更等に関するQ&A(2020年4月22日)”. 国立感染症研究所 (2020年4月27日). 2020年8月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年8月30日閲覧。
- ^ “2020新語・流行語大賞候補30語:「3密」「ソーシャルディスタンス」など新型コロナ関連が多数”. nippon.com (2020年11月5日). 2023年9月8日閲覧。
- ^ “第18回 ことばの時事問題(5):コロナ関連の新語・流行語 | 日本語・教育・語彙(松下 達彦) | 三省堂 ことばのコラム”. 三省堂WORD-WISE WEB -Dictionaries & Beyond- (2020年6月5日). 2023年9月8日閲覧。
関連項目
- 感染症法、保健所、感染症サーベイランス
- 感染経路、感染管理、コンタクト・トレーシング、接触通知
- 3つの密、社会距離拡大戦略(ソーシャル・ディスタンス)
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