ダニ媒介性脳炎とは? わかりやすく解説

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ダニ媒介性脳炎

ダニ媒介性脳炎は、マダニ科属す各種マダニによって媒介されるフラビウイルス感染症で、終末宿主であるヒト急性脳炎をおこす。ダニ媒介性脳炎ウイルス自然宿主げっ歯類ダニである。

病因疫学
ダニ媒介性脳炎は、日本脳炎と同じフラビウイルス属ウイルスによってひきおこされる感染症である。によって媒介される日本脳炎異なりマダニヨーロッパでIxodes ricinus)によって媒介されるダニ媒介性脳炎ウイルス群は14ウイルス種からなるが、このうち8 種類ヒト病気をおこす。

ヤマトマダニ(Ixodes ovatus )の写真

ダニ媒介性脳炎
ダニ媒介性脳炎

原図国立感染症研究所昆虫医科学部
マダニは、沢に沿った斜面森林笹原、あるいは牧草地などに生息し家の中や人の管理行き届いた場所には、ほとんど生息しない

世界におけるダニ脳炎患者数については、患者数集計整った1990年以降データでは、毎年6,000 人以発生し、多い年には10,000人前後発生している。主なものとしてロシア春夏脳炎ウイルス中部ヨーロッパ脳炎ウイルスがある。なお、ロシア春夏脳炎は、我が国でも1993年北海道酪農家主婦が本疾患罹患した報告があり、ロシア春夏脳炎ウイルス道南地域イヌ分布していることが判明した一方中部ヨーロッパ脳炎スウェーデンポーランドチェコスロバキアオーストリアハンガリーロシア西部などに分布している。ヒトへの感染は、ダニによる刺咬だけでなく、感染したヤギや羊の原乳飲んで感染する

臨床症状
中部ヨーロッパ脳炎
潜伏期間は、7 ~14 日であり、二相性病状呈する第一期は、インフルエンザ様発熱頭痛筋肉痛1 週間程度(短い場合もある)続く。この第一期は約半数認められない場合もある。解熱2 ~3 日間は症状消えその後第二期にはいり痙攣眩暈知覚異常などの中枢神経系症状呈する脳炎髄膜脳炎あるいは髄膜炎の形をとり、脊髄炎伴わない麻痺症状報告によってばらつきがあるが、3 ~23%に認められる死亡率は1 ~5%とされている。後遺症としては感覚障害主なものであるが、平衡感覚障害感音性難聴などもある。後遺症頻度3560%とされている。疾患重篤度は、ヨーロッパ東から西に移るにつれて減少する
ロシア春夏脳炎
潜伏期間は7~14 日であるが、中部ヨーロッパ脳炎のような相性病状は呈さない。潜伏期の後に頭痛発熱悪心・嘔吐見られ期に精神錯乱昏睡痙攣および麻痺などの脳炎症状出現することもある。中部ヨーロッパ脳炎比べて致死率30%と高い。

予 防
予防法としては不活化ワクチン接種がある。ヨーロッパでワクチンとして、Baxter-Immuno 社のFSME-IMMUN とChiron Behring 社のEncepur が使用可能であり、リスクのある者ヘの接種が行われているが、我が国では市販されてなく、関係者の間での認識乏しい。初回免疫として1 dose (0.5ml)を筋注する。初回免疫の後1~3カ月後に2回目免疫、さらに2回目免疫後9~12カ月後に3 回目免疫をする。2回目免疫までの間隔2週間短縮するともできるワクチン中部ヨーロッパ脳炎ロシア春夏脳炎双方に有効である。中部ヨーロッパ脳炎に関しては、予防接種受けておらず流行地の森林ダニ刺され場合ガンマグロブリン製剤オーストリア製)を投与する
流行のある地域森林地帯でダニ刺されなければリスクそれ程高くない森林地帯に入る場合は、ダニ刺されないようにすることが最大予防策である。長袖長ズボン着用し、靴は足を完全に覆うものがよく、サンダルのようなものは履かない。

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
急性脳炎ウエストナイル脳炎及び日本脳炎を除く)は5類感染症全数把握疾患定められており、診断した医師7日以内最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りとなっている。
○  意識障害伴って24時間以上入院した者、あるいは24時間未満死亡した者で、かつ、以下の1つまたはそれ以上症状有するもの
 ・ 38度以上の発熱
 ・ 何らかの中枢神経症状
 ・ 先行感染症状
○  熱性けいれん代謝疾患脳血管疾患脳腫瘍外傷など、明らかに感染性とは異なるものは除外する
○  可能な限り病原体診断行い明らかになったものは病原体名、検体種類及び検査方法記載する。なお、上記基準該当する脳症含める。

備考
・  他の届出基準該当する感染症インフルエンザ手足口病流行性耳下腺炎等)による急性の脳炎脳症についても、急性脳炎としての届出が必要となる。その際には、二重の届出となる(脳症発症したインフルエンザについて、定点医療機関においては、インフルエンザ及び急性脳炎届出が必要となり、定点医療機関以外では急性脳炎のみが届出対象となる等)。
・  ウエストナイル脳炎又は日本脳炎診断ついている場合には、急性脳炎としての届出必要ない。ただし、急性脳炎届出後に、ウエストナイル脳炎又は日本脳炎診断がついた場合には、ウエストナイル脳炎又は日本脳炎としての届出が必要となり、結果として二重の届出となる。


国立感染症研究所ウイルス第一部 高崎智彦


ダニ媒介脳炎

(ダニ媒介性脳炎 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/10 10:29 UTC 版)

ダニ媒介脳炎(ダニばいかいのうえん、tick-borne encephalitis、TBE)は中枢神経系におけるウイルス感染症である。ダニ媒介性脳炎とも呼ばれる。この疾患はほとんどの場合髄膜炎、脳炎、もしくは髄膜脳炎として表れる。また、ほとんどの場合は神経障害として認識されるが、軽い熱として起きることもある。長期、もしくは永続的な麻痺の頻度は感染患者の10-20%でみられる。新規患者数はほとんどの国で増加している[1]。原因ウイルスであるダニ媒介性脳炎ウイルス (tick-borne encephalitis virus; TBEV) は広い宿主域を持ち、反芻動物鳥類齧歯類肉食動物、人に感染する。この感染症は人獣共通感染症であり、反芻動物や犬が人への感染源となり得る[2]。また、自然宿主は齧歯類とマダニである[3]

病原体

TBEは、フラビウイルス科フラビウイルス属のTBEVによる。この病原体は、1937年に初めて分離された。以下の3つのサブタイプが知られる。

  • 中部ヨーロッパ脳炎ウイルス:スウェーデン、ポーランド、チェコ、スロバキア、オーストリア、ハンガリー、ロシア西部などに分布[3]
  • シベリアのサブタイプ:シベリア地域に存在。
  • 極東のサブタイプ:極東地域に存在。

シベリア型と極東型は、ロシア春夏脳炎ウイルスと呼ばれている[4]。これは日本にも北海道道南地域に分布している[3]。ロシア及びヨーロッパの報告では、年間5,000-7,000人に発生している[1][5]

症状

TBEVは脳、髄膜、あるいはそれら両方に感染しうる[6]

中部ヨーロッパ脳炎

潜伏期間は7-14日で、典型的には二相性の症状を示す。第一期はインフルエンザ様の症状がみられ、1週間程度で症状が消える。解熱後2,3日後に第二期にはいり、痙攣・眩暈・知覚症状などの中枢神経系症状を呈するようになる。麻痺が3-23%でみられ、死亡率は1-5%とされる。感覚症状などの後遺症は35-60%で発生する。重篤度は東ヨーロッパで重篤で、西ヨーロッパでは比較的軽度である[3]

ロシア春夏脳炎

潜伏期間は7-14日程度で中部ヨーロッパ脳炎と異なり二相性の症状はみられない。潜伏期の後に頭痛・発熱・悪心・嘔吐が見られ、症状が最大に現れると脳炎症状が見られることもある。中部ヨーロッパ脳炎より高い30%の致死率を持つ[3]。多くの例で麻痺が残り、北海道の道南地域で発生した例では高熱と神経症状を示した後、退院後も麻痺が後遺症として残った[4]

動物の症状

犬の場合、神経症状は単なる振せん(震え)から痙攣や死亡にまで及ぶ[2]

反芻動物の場合も神経症状が表れ、さらに食欲不振、元気消失、呼吸器症状などとして表れることもある[2]

感染経路

この感染症はIxodes scapularisIxodes ricinusIxodes persulcatusシュルツェマダニ)などのマダニによって噛まれることで媒介される他[7]、極めて稀ではあるが、感染した反芻動物の未加熱原乳を飲むことによっても感染することがある[3][8]。ヒトからヒトへは感染しないが、輸血や授乳によって極めて稀に感染が成立する[8]

診断

一般にダニ媒介性脳炎の診断はELISAなどの血清診断により行う。急性期の特異的IgMの検出や、回復期における抗体価の4倍以上の上昇を確認することで診断できる[4]。初期段階ではウイルス分離やRT-PCRによる遺伝学的診断も可能である。ただし、神経症状を呈するような段階においてはウイルスの分離やウイルスRNAの検出は困難であり、これらの結果からダニ媒介性脳炎の可能性を否定することはできない[8]

治療と予防

この感染症は発症した場合治療法はなく、特異的な薬物療法は存在しない。脳損傷の兆候がみられた場合は入院が必要であり、症状の重篤度に応じ支持療法を行う。ダニ媒介性脳炎に特異的な免疫グロブリン(抗体)が症状の緩和に有効であることが示されている[4]。他に、副腎皮質ホルモンのような抗炎症剤が検討されることもある。場合によっては気管挿菅と人工呼吸器が必要となる。

しかしながら、TBEはダニ媒介性脳炎ワクチンによる予防が可能である。また、マダニに噛まれることを予防することも、TBEの予防策に含まれる。ヨーロッパでのTBEワクチンは非常に効果的で、多くの流行地域で利用可能である[9]。TBEワクチンは日本未承認であったが、2024年3月26日にファイザー製のワクチンが国内における製造販売承認を取得した[10]。現在でもいくつかのトラベルクリニックで予防接種を受けることができる。

脚注

  1. ^ a b Suss J (June 2008). “Tick-borne encephalitis in Europe and beyond--the epidemiological situation as of 2007”. Euro Surveill. 13 (26). PMID 18761916. https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/ese.13.26.18916-en. 
  2. ^ a b c Tickborne Encephalitis Virus reviewed and published by WikiVet, accessed 12 October 2011.
  3. ^ a b c d e f ダニ媒介性脳炎とは 国立感染症研究所
  4. ^ a b c d ダニ媒介性脳炎の国内外での状況 人と動物の共通感染症研究会感染症トピック
  5. ^ Salisbury, Dr David; Noakes, Dr Karen (2006), Immunisation against infectious disease (Third ed.), TSO (The Stationery Office - UK Department Of Health), pp. 385–390, ISBN 978-0-11-322528-6, http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_079917 
  6. ^ Kaiser R (September 2008). “Tick-borne encephalitis”. Infect. Dis. Clin. North Am. 22 (3): 561–75, x. doi:10.1016/j.idc.2008.03.013. PMID 18755391. http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0891-5520(08)00027-5. 
  7. ^ Dumpis U, Crook D, Oksi J (April 1999). “Tick-borne encephalitis”. Clin. Infect. Dis. 28 (4): 882–90. doi:10.1086/515195. PMID 10825054. 
  8. ^ a b c CDC Yellow Book.
  9. ^ Demicheli V, Debalini MG, Rivetti A (2009). “Vaccines for preventing tick-borne encephalitis”. Cochrane Database Syst Rev (1): CD000977. doi:10.1002/14651858.CD000977.pub2. PMID 19160184. 
  10. ^ ダニ媒介性脳炎の発症を予防する国内初のワクチン 「タイコバック®水性懸濁筋注」成人と小児剤形の製造販売承認を取得”. ファイザー株式会社 (2024年3月26日). 2024年3月27日閲覧。

外部リンク


ダニ媒介性脳炎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/30 18:42 UTC 版)

マダニ」の記事における「ダニ媒介性脳炎」の解説

マダニ属のマダニ媒介するウイルス性感染症ヨーロッパ亜型シベリア亜型極東亜型の3亜型分類される脳炎による神経症状特徴的東ヨーロッパロシア流行がみられ、日本では北海道2019年までに5例の国内感染例報告されており、死亡例重篤後遺症認められている。

※この「ダニ媒介性脳炎」の解説は、「マダニ」の解説の一部です。
「ダニ媒介性脳炎」を含む「マダニ」の記事については、「マダニ」の概要を参照ください。

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